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騎士団対決の始まり

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乗せられたクレアの手をルーカスに渡す。頬を紅潮させたクレアはルーカスを見上げているんだろう。俺からはルーカスの幸せそうな碧眼しか見えない。寄り添う二人が広場に向かいルーカスは手を上げた。俺は口許を緩ませたまま感じる視線に振り向く。テオが腕を組んで座ったまま睨んでる。凄い怖い顔をして睨んでる。俺の言い間違いがわざとだと悟ったんだ。レオンに視線を移すと黒い瞳は何も答えてくれない。ただ小さく首を振った。

「さて!披露も済んだ!マルタン公爵!」

「はい、陛下。喜ばしい二つの未来に皆様拍手」

俺は大きく手を打ち鳴らす。

「お待たせしました。まずはゾルダーク対マルタン、その次はハインス対ゾルダーク、マルタン対ハインスの順で対決。四勝した騎士団の勝ち」

ベンジャミンが手を振ると整列していた騎士らは動き、各々与えられた場所へ向かった。ハインス騎士団の団長が審判として侍り対決を見守る。

「ゾルダーク騎士団一番手、マルタン騎士団一番手、闘場へ」

ハインス騎士団団長の声にゾルダークからはリード辺境伯の子息が入った。手に持った兜を頭から被り剣を抜いた。

「クレア、怖いか?」

隣に座るクレアに尋ねる。披露を終えたルーカスは自分の席に戻った。

「よくテオの鍛練を見学していましたから戦いは見慣れています。オリヴィア?大丈夫?顔が赤いわ」

「平気よ…クレア…んふ」

オリヴィア嬢は赤い顔だ。あ…クレアとルーカスの姿を見たから照れているのか。女の子は可愛いなぁ…金髪の女児…碧眼と黒の異色もいい…は!また妄想を…

「あ!ガイル…」

ガン!と大きな音と観客のどよめきに視線を闘場に向けるとゾルダークの騎士の腕から剣が跳ね上がる。剣の落ちる間にゾルダークの騎士がマルタンの騎士の胴に蹴りを打ち込んだ。よろめく騎士から離れ地面に落ちた剣を素早く拾った騎士は低い体勢のまま飛び込み、下から剣を振り上げ胴を叩く。その勢いに負けた騎士は体勢を崩し倒れた。すかさずゾルダークの騎士が馬乗りになり首に剣をあて、止まった。マルタンの騎士は一呼吸のあと手を振り降参の合図を送った。

「ゾルダークの勝利!」

立ち上がった二人は並び、兜を取り俺達のいる観覧席に向かって頭を下げた。隣のクレアは手を打ち鳴らし微笑んでいる。

「勝ったな」

「はい。ガイルはレオの前で負けられないと鍛練を頑張っていました」

レオンと年は同じだと聞いてる。お…リード辺境伯が立ち上がって何かを叫んでるな…

「ふふ、リード辺境伯様も喜んでいます」

「お、続いて二番手だ…クレア、テオはまだ怒っているか?」

クレアは首を傾げテオを見る。

「ふふ、いつもの顔です」

怒っているか…調子に乗っちゃったな。

「ルーカス…問題ないか?」

俺は体を隣に座るルーカスに傾け耳打ちする。レオンとテオと共に消えた理由がわからない。騎士が囲って何してたんだよ。それに…ハインス騎士団の団長が違う…あの男じゃなかったのに…

「心配いりません…父上、二番手が始まりましたよ」

ルーカスは微笑んだまま顎で会場を示した。俺はその後ろに座っているカルヴァ・レグルスも気になる。さっきから微動だにしない。声も上げない、連れてきた護衛とも話す様子はない。起きてる?と聞きたくなるくらい静かだ……シーヴァ・レグルスの要素が紅眼だけとは…産み母に似たのか…?サーシャは大きな瞳が可愛いが…もう一人の紅眼…レオンの婚約者の幼子は…王太子に似ていたら…レオン…一年で第二夫人を取るかもなぁ。

「マルタンの勝ちですね…父上?」

「へ?ああ…おお…凄いな…マルタンの鎧が」

へこんでる。それを耐えたのか。痛いだろうに…おお…ゾルダークの二番手はまだ若いじゃないか…まさか…見習いばかり出してないよな…?



二番手で出場した見習いはガイルより年は上だが、ゾルダーク領の邸から一年前に王都に来た子飼いの息子だ。怪力が自慢なだけある。粘れば勝てただろうが、怪我をせず無理は禁物と伝えていたからな。俺はこの対決を負けるつもりでいたが…カルヴァ・レグルス…うん…予定どおり二位でいこう。マルタン全勝にハインスは全敗。
随分睨んでくれる。見上げることが嫌なんだろうな。ケイトン侯爵はクレアとルーカスの婚約の話に顔を赤くさせ怒りをあらわしていた。ルーカスの面倒事は配下に貴族家出が多いことと、アーロン・ハインスの代でケイトン侯爵との仲が強かったことだ。逃した金髪碧眼をまだ悔やんでいるか。ルーカスの男色の可能性は消え、女嫌いに潔癖も消えたろう。狙っていた奴らが動き出すのは遅くない。群れないゾルダークと違い、ケイトン侯爵は群れを好む。ケイトンの血筋が王族と交ざる未来は彼を有頂天にしただろう。ジェイドの婚約者の娘の病死に随分疑いを持っていたと読んだ。セドリックも狙っているだろうな。金髪碧眼は呪いであり念願でもあるか…
三番手の騎士が戦い始めたとき、隣のベンジャミン様が俺に体を寄せた。

「レオン」

小さな声が耳に届く。視線を向けるとベンジャミン様の顔は会場を向いていた。

「対決の結果、決まってるんだろ?」

「ベンジャミン様…始まったばかりですよ?ハインスなど戦ってもいない」

「くく…実力なんて知ってるだろ?ハインス騎士団をかき回してきたのかい?団長が違うじゃないか…彼らの精神は揺らいでる…マルタンを勝たせるのかな?」

ベンジャミン様には少し驚く。

「レグルスの王太子がいるから勝ちに向かうかなぁと思ったけどさ、二番手の騎士が負けたろう?予定は変えないとみた…ふは」

これだから父上は厭っていたのか…いや…性格かな。俺は別に厭ってはいないけど。

「彼は無視します。ゾルダークが負けて苦言する器なら放っておきます」

「そっか…マルタンが褒美の酒を貰えるのか…騎士が喜ぶよ…気づいた?ケイトン…あの爺さん…頑固に当主を譲らず…多分…セドリック王子を婿に入れたいんだよ」

ベンジャミン様を見つめる。焦色の垂れ目は微笑んだまま動いていない。

「ベンジャミン様と同じ野望を持ちますか」

「ふはっ」

ベンジャミン様の肩が揺れる。

「えーなんで知ってるのさ。テレンスさえ知らないよ?僕の頭を覗けるの?怖いなぁ…オリヴィアがチェスターの王族と、エレノアがセドリックと…面白いだろ?」

王家嫌いはアンダルのせいで上がった噂だ。ベンジャミン様はそれを抑えることをしなかった。今でさえその噂を利用して王家と距離を置いているように見せてる。周りを油断させてセドリックを迎えれば…マルタンは強くなる。チェスターのギデオンが馬鹿をしなければ他国でも容易く動ける。

「ケイトンが邪魔をしますよ」

「うーん…ルーカスに望みが出たからクレアとの婚姻までに年頃の娘を近づかせるよ…意識がそっちに向いてる間に動こうかなぁ…マイラは僕の味方なんだよ。マイラの趣味を利用してるんだ。可愛い少女を愛でる趣味は使わなきゃね。何度も王宮へ連れていって…セドリックとエレノアは仲良しさ」

ベンジャミン様がエレノアをマイラ様に会うという体でセドリックに会わせているのは知っていた。だがまだ先の話。陛下は簡単には頷かないだろう。三公爵家に金髪碧眼が多くなる。それはそれで…強まる王権への反発を生むかもしれない。俺は侯爵家辺りがいいと思うけど…ケイトンはない。

「…先は長いですよ?」

「もちろんさ。エレノアの子までは見たいよ」

長生きをするつもりだな。


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