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ベンジャミン
しおりを挟むシャルマイノス王国王都にあるマルタン公爵邸にはベンジャミン・マルタン宛てとオリヴィア・マルタン宛てに手紙が届いた。可愛い孫宛ての手紙を手に執務机に腰掛けたベンジャミンは葛藤している。
ギデオン・チェスター…勝手に読んじゃあオリヴィアに怒られるよ…僕。この子がガブの様子なんて知るわけないし書くわけないのはわかっているけれども…だ!もしかしたらガブが暗号を織り込んで…ないかなぁ。レオンからは罹患したけど薬が間に合ったと手紙を貰ったし、無事なのはわかっているけどさ…元気な顔を見たいじゃないか。陽に透かして文字を拾えないか?駄目か。
「お祖父様!まさかギデオン様からの手紙を読もうとしてますの?」
「オリヴィア!扉を叩きなさい!テレンスー!躾がなってないぞ!」
扉の向こうに声を上げて抗議する。
「叩いたわ…二度も叩いたのに無視をしたのはお祖父様よ。透かそうとしたのは私宛ての手紙ではないわよね?」
ぐ…返事がなければ留守なんだよ…オリヴィア。
「あっ!僕のはこっちだった」
机に置かれたレオンからの手紙を手に取り振る。
「私の手紙を渡して」
「はいはい、どうぞ。リヴ」
オリヴィアは僕の渡した手紙を胸に当てため息を吐いた。
「愛称呼びはやめてくださる?ギデオン様と検討中なの。お祖父様と同じなのは嫌なの」
なんて酷いことを言うんだ。
「わかりました。僕の天使様」
あぁ…睨んでくるなぁ…これも嫌なんだなぁ。
「ほら読みなよ。伝染病が流行ってから来てなかっただろ?随分心配していたじゃないか」
このオリヴィアが泣いていたもんな。手紙のやり取りだけで会ったこともないのに…よく想えるよ。実は侍従が書いてました、なんてことにならないだろうねぇ。
「お祖父様も気になるのね?ここで読むわ、静かにしていて」
僕は手のひらで口を押さえて、うんうんと頷く。オリヴィアはソファに座りチェスター王国の紋章の封蝋を割り、紙を取り出す。紫の瞳が文字を追う様子を見守る。瞬きすると瞳から滴を垂らして手紙を胸に当てている。
「て…天使?オリヴィア?」
「大切な侍従が亡くなったのですって…前王陛下に仕えていたそうなの…次の夜会には必ず私に会いに来るって…会いたいって書いてくださってる」
何故一度も会っていないのにこんなに想える?不思議な子だなぁ…姿絵でしか互いに認識していないだろうに…
「そうかい…向こうは大変だったね」
大変だったろうさ…うーん、シャルマイノスとレグルスの薬ぃ?そんなのいつの間に作ってたんだろ…僕が知らないことなんて少ないよ?これに答えが書いてあるかな?
感傷に浸っているオリヴィアは放って、レオンの手紙を開く。
……わぁ…面白いこと考えるなぁって、おいおい…レオン、何を考えている?騎士団の対決なんて盛り上がるだけじゃないぞ。負けた騎士らが敵対心を生んじゃ……当主の僕が抑えればいいもんね、そう言ってるのかな?は!負ける前提で想像しちゃった…って……待て!
「オリヴィア!」
クレアがルーカスと婚約…騎士団の対決の場が二人の正式な披露だと!クレア…まだ早いだろうに…ついこの前にデビューをしたばか…オリヴィアはそれよりも早く交わしてるじゃないか、ベンジャミン。
「お祖父様!」
「わあっなんだい…大きな声を上げて。嫁に出せないよ?」
「お祖父様が私を呼んだのよ?頭は平気?弱ってきたのかしら」
なんて言い様だい。
「レオンからの密書、君が驚く内容だけど…密書だからねぇ…教えられないんだ!」
なんて眼差しをお祖父様に向けるんだ。呆れ顔のテレンスにそっくりだ…
「何が条件ですの?」
くく…僕をよく知るオリヴィアだ。
「ギデオン殿下からの手紙をちょいと見せて?」
可能性は低いが、ガブならなんかしてないかと一縷の望みを捨てられない!
「密書の内容を知ってもエレノアには話せない。あの子は秘密を持てない年だから。わかったかい?」
うーん…片眉を上げて…可愛いじゃないか。
「破かないで」
「承知しました」
ギデオンの手紙を受け取り、流し読む。ガブ…元気なんだな。わかったよ…会える日が楽しみだ。
「ありがとう」
手紙をオリヴィアに返す。
「私が話した通りでしょう?孫を疑うなんて…」
『ベン』それだけしか織り込んでないが、それでいいんだ。意味は理解できる。僕も会いたいよ、ガブ。
「な…泣くの?お祖父様…本当に心配するわよ?お父様を呼ぼうかしら」
「すん…聞いて驚きなさい、オリヴィア。クレアがルーカスと婚約だとさ。そしてゾルダークが開催する三公爵家の騎士団対決まで…楽しみだね」
懐からハンカチを出して目元を拭い鼻を啜る。ん?返事がない…
「オリヴィア?」
これでもかと紫が見開いて、可愛い唇が大きく開いてるねぇ。
「ククク…ルルル」
「そうだね、クレアとルーカス…なかなかお似合いだよ…陛下は泣いて喜ぶな…ふはっ」
「お父様ー!」
あ…淑女が走って…密書と言ったんだからテレンスで止めてほしいなぁ。エレノアは駄目だよ。だが、随分早く決めたな。クレアは学園には通わないからか…?アムレのアダム対策かな?ん?なんだろ…気のせいかな…気になるけど情報が少なすぎる。ルーカス…よく耐えたなぁ。僕なら噂をした奴には嫌がらせを嬉々としてやるのに。あんな醜聞を言いふらされても華麗に無視をしていたなぁ。侮っていたよルーカス。
「ベンジャミン様!」
扉が音をたてて開き、息を弾ませたテレンスが飛び込んできた。
「おやおや…まったく似たもの親子」
「クククレアが?ルルルーカス?もう!?」
「しぃー…テレンス。レオンから特別に報せが来たんだよ。まだ知る者は少ないよ?密書、読む?」
手紙を振るとテレンスが飛び付いてきた。
「破かないで」
テレンスの空色の瞳が忙しく動く。
「…騎士団?」
「うん。レオンは社交をするゾルダークだなぁ…ハンクなら面倒臭がってこんなことしないし思い付きもしないよね」
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