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王宮夜会7

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「レオ…聞いていたほど下手じゃないわ」

「集中してる。もう返事はしないぞ」

「ふふ…アムレの王太子をシーヴァ様が追い払ってくれたのね。今度、お礼を言わなくちゃ。あのね…庭園で来年の夜会のダンスを申し込まれたの。でもっ参加しなければ…怒った?話術を習いたいわ。来年の始まりの夜会をゾルダークでどうかしら。父様は賛成よ?」

「答えにくい、ことを、よく、今、話す」

音楽を聞き回りながらステップを踏み、クレアの言葉を理解しながらなんとか答える。

「忘れ、てるぞ、オリヴィア」

「え?オリヴィア?忘れてない…あ!来年だわっ」

クレアの顔は青ざめるがレオンは気にしていられない。

「怒る、ぞ」

「怒るわ…オリヴィア…私は参加よ」

「気に、するな」

「そう?レオがそう言うなら。ふふ…必死ね」

それからはクレアも口を閉ざしてダンスに集中する。もう少しで終わると思ったとき、レオンがクレアを持ち上げて位置を変えた。いきなりの行動にクレアは瞳を見開き驚いた直後、レオンの体が何かの衝撃を受けて揺れた。

「申し訳ありません!…あらゾルダーク小公爵様!」

甲高い声がクレアにも届いた。レオンは無視をしてその場から離れようとクレアの腰に手を回し導く。

「久しぶりですわ。学園であまり会えなくて寂しく思っておりましたの」

声が二人を追ってきてもレオンは答えずテオの待つ場所へ向かう。

「小公爵様、お話しできませんの?家族ですのに」

その言葉に振り向きそうになったクレアはぐっと堪えた。

「家族って、ゾルダーク公爵家に相手にされてないだろ?図々しいな」

どこから現れたのかガイルが令嬢に応える。

「それはっ、前公爵様の頃の話よ。辺境伯ごときが私に話しかけないでくださる?」

「伯爵家ごときが公爵家に話しかけるのはいいのか?矛盾してんな」

足止めをされた令嬢から離れていく。

「誰?」

クレアはレオンを見上げ、小さく問いかける。

「ブライ伯爵家の令嬢だ。ゾルダークにとって再従姉妹にあたる」

ブライ伯爵家はカイランの生母セシリスの家。世間的に見ると再従姉妹でも実際、カイラン以外は血の繋がりがない。

「ふうん。何がしたかったの?私にぶつかるつもりだったの?」

黒い瞳が小さな妹を見下ろし微笑んだ。

「ぶつかりたかったのか?閉じ込めておくと刺激を求めるか」

「そんなこと…言ってないわ。もしレオが私を動かさなかったらぶつかって転んで…修羅場?」

「ははっ修羅場なんてどこで覚えた?変な書物を読むな」

確かにクレアは多少の刺激が欲しかった。ゾルダークで守られ、優しい人らに囲まれ穏やかな日々に退屈を感じるときもある。

「私をいじめる?」

「いや、俺が目的だろう。学園でもゾルダークの家族だと言いふらして再従兄弟と婚姻はできるだなんだと。頭がおかしいんだろ…クレア、いじめるなんて、変な書物を読むな」

「夜会でわざと水をかけられたり、足を引っかけられたり、意地悪を言われるのよ」

「楽しそうに話すな」

微笑みながら話すクレアに少し呆れるレオンの後ろにガイルが戻った。

「あの女、しつこいっすねー。レオン様と話すきっかけを作るために踊りながら懸命に近づいてましたよ。笑える」

ガイルはこうしてレオンの盾になったり、面倒な相手を制したりと、品はないが役に立っている。

「テオ」

踊り場から戻った二人はテオの元へ近づく。

「足は踏まれなかったか?」

その言葉にレオンはテオを睨みつける。

「踏まないよう努力した。見てたろ?」

「ああ、変な女が近づく様子も見てた。制裁を与えていいだろ」

無視をすれば事足りる家柄だが、過去を知るレオンはセシリスの血を受け継ぐエリサ・ブライが面倒を起こすかもしれないと考える。学園で令嬢相手に嘯くのはどうでもいいが王宮の夜会で近づくとは、テオの言葉通り手を打っておいた方がいいかと思案する。
そこへ飲み物を手にカイランが戻った。

「レオン、ブライ伯爵令嬢といい仲なのか?」

「父上、気味の悪い冗談は笑えない」

「ブライ伯爵が嬉しそうに話しかけてきた。家族だと全面に出して、お前の婚約者にどうだと。すでに二人はそんな話をしているようだ…と。レオン、私はやめておけと言いたい」

「ぶ…くくっ…レオン様、その顔…」

苦虫を噛み潰したようなレオンの顔は珍しい。

「凄い顔だわ、レオン。駄目よ、平常心よ」

「ああ、吐きそうだ。父上、シャンパン?ください」

カイランの手からシャンパンを奪い、一気に呷ったレオンはガイルに器を渡す。

「父上、ブライは取引を止める。いいですか?」

カイランはブライ伯爵に聞いたことが、ほぼ嘘だとわかっていたが、セシリスの陰湿な性質を知っている以上、過去が甦り不安が募った。

「好きにしていい。ゾルダークには損がないからな。ところでレオン、ダンスが不得手だったとは見るまで信じてなかった」

「誰から聞いたのか…ガイルではないよな?」

「まさか!レオン様の弱点をこの忠実なる私がご家族に話すと?疑うなんて心外ですよ」

その言い方にガイルが犯人だと確信をしたレオンは睨み付ける。

「ハロルドを疑っていたがガイル…明日からギィの鍛練に参加しろ」

「違うんですっハロルドさんとの会話を聞かれたんすよ…クレア様に…」

「廊下で話すのが悪いのじゃない?私だけではなくてノアもボーマも聞いたわ」

和気あいあいと話すゾルダーク公爵家が珍しく、話しかけようとする者がいなくなった。常のカイランは唇を固く結び、長い会話を好まず相槌をする程度。社交を始めたレオンは他者と話すが壁があり、一線を越えようものなら表情を消す。それにクレアが加わるとこうも変わるかという程雰囲気は和んでいる。大切にされていると見る者には伝わる。


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