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日が傾き始めた時、ゾルダーク領の邸から馬車が出立した。先に走らせた騎士が道を整え、他の馬車も歩く人も下がらせた。速度を上げた馬車は揺れるが仕方がない。隣に座る空色を膝に乗せ衝撃が少しでも伝わらないように腕で囲う。対面に座る子もハロルドに肩を抱かれ固定されている。

「あの子達は大丈夫かしら…」

空色の声が馬車の音に紛れ聞こえた。

「クレアはソーマの膝に乗っているだろ、テオはノアの膝だ」

酔うかもしれんが仕方がない。この速度でも着くのは日が暮れてからだ。暗闇は速度を落とす。俺の言葉に空色の瞳が見つめ頷いている。

「辛くないか?すまんな、我慢を強いる」

酔っても止められん。

「この木目の馬車は新しく作らせたのよね。揺れが少ないと感じていたの。この速度でもハンクが包んでくれるから平気よ、ありがとう」

「吐いても構わん、明日は速度を落として走らせる。耐えてくれ」

空色は手を伸ばし俺の頬に触れる。

「平気と言ってるのに、ふふっ心配性ね。眠っていい?ハンクに抱かれて心地いいの」

「ああ、そうしろ」

空色は目蓋を落とした。広場で眠そうにしていた、いや、寝ていたのを起こした。薄い茶の頭に口を落とす。子は黒い瞳で俺を見ている。馬車の走行音が強く、話すことはできない。

『レオン』

声を上げず口を動かす。子は俺を見つめ頷いた。
揺れているがどこまで読めるか…

『王都に着いたらそのまま王宮に向かう』

子は顔をしかめ、指を一本立てた。ゆっくり同じ動きをして見せる。子は指を二本立ててから前を走る双子の馬車を指差した。

『共に連れていく』

子は頷き、ハロルドに耳打ちをして教えている。早馬には隣国の王と赴くとしか伝えていない。王宮はこの数の馬車に驚くだろうが、事態が事態だ。仕方がない。離れて襲われる可能性もある。王族並みの警護の中にいたほうが安全だ。子が口に指を指す。

『ギィはどうするの?』

ガブリエルは王宮には連れていけん。明日の朝、ベンジャミンの元へ走らせる。

『マルタンを呼びに行かせる』

その後は俺の命に従うだろう。馬車に慣れていない子は揺れが嫌になったらしい。ハロルドの膝に乗り上げ、空色のように縮こまり眠り始めた。

陽が暮れて暗闇の中をゾルダークの馬車は速度を落として進む。道には間隔を開けて松明が灯されていた。それは定宿まで続いている。木目の馬車は道を逸れて小さな邸へ向かう。

「ハンク」

腕の中の空色が動き目覚める。

「起きたか」

空色の瞳が俺を見つめ微笑み、視線を彷徨わせ子を見つける。

「レオン」

「母様」

寝惚けている。

「夜になった。もう着く」

「速いわね…」

腕に空色を囲う俺には小さな腹の音が聞こえた。空色は俯いて顔を隠している。

「早馬が報せてる、すぐに食事だ」

薄い茶の頭に口を落とす。小さな頭は頷いて、俺の胸に頭を擦り付ける。

先に着いていた騎士が門を開け、木目の馬車を通してから鍵をかけて閉ざす。空色を抱いたまま馬車を下りると先に着いたもう一台の馬車から泣きじゃくるクレアを抱いたソーマが下りたのが見えた。

「クレア様クレア様…もう外ですよ」

「ソーマ!止めてって言ったのに…」

腕の中の空色は抱いている俺の腕を叩く。そのままソーマに近づく。

「クレア」

「かーさま!」

クレアは空色に向けて両手を伸ばす。俺が頷くとソーマが空色にクレアを渡した。泣く子を連れて邸に入る。俺達の後ろには紺色が並んでついてくる。

「怖かったのね、音が大きかったわね。ソーマの膝にいたのでしょう?」

「手で耳を押さえても音がすごいのっ…ソーマに耳を押さえてって言ったのに…」

「そうね、ソーマの手は二つしかないのよ?二つともクレアが揺れないように抱きしめていたでしょう?その手を離してしまったらクレアは馬車の中で転がってしまうの。…母様もお父様の膝に乗って耐えたのよ。頑張ったわね、偉いわ」

「かーさまもこわかった?」

「ふふっお父様が守ってくれたもの怖くないわ。お腹は空いてる?」

「すいてる…かーさまのひざにいたい…」

クレアは俺を見上げて要求する。まだ流れる涙を空色の指が払っている。

「一度だけだ」

無理をさせたことは事実だ。幼子にあの速度は酷だった。

「食堂に並べろ、狭いが入るだろ」

ソーマは頷き、準備を始めるため動いた。




暗い庭を歩きながら燭台の蝋燭に火を灯していく。奥の燭台は使用人が光らせている。狭い食堂で俺達と子が三人、普段静かに食事を取る子らには珍しいらしく、隣の椅子が近く、音を立てても怒られず、食事中の会話を許せば泣いていた子も機嫌よく食べ始め笑い合っていた。それを眺める空色は幸せそうな微笑みを浮かべ、子らの話しかけに笑顔で答え、よく食べていた。

「あら…これ、随分前に買った燭台だわ…」

商人を呼ぶ度に増える燭台。お前はここを思い浮かべて買っているんだろうな。
手前の燭台には全て灯した。道具を赤毛の騎士に渡し手を振り下がらせ、後ろを歩いていた空色を抱き上げて、いつもの椅子へ向かう。夜も更けた。

「疲れてないか」

椅子に座りコートの中に空色を仕舞う。

「ええ」

空色は光り輝く庭園を見つめている。この旅を楽しみにしていたことを知っている。俺が外に出さないから王都の邸には飽きてるはずだ。花だけじゃなく沢山の物を見たいだろう。だが、お前は現状に満足していると言う。

「俺もこの庭が好きだ」

空色は俺を見上げて微笑む。お前に不満がないといい。

「明日は子も連れて王宮に向かう。邸に戻る暇はない。庭園に奴と子らと共に待っていろ。ゾルダークの騎士を入れる。お前達を守る。近衛さえ近寄らせない」

阿呆達は騒ぐだろうが、それほどの事態だ。真相を聞けば黙る。

「久しぶりだわ。茶会以来ね。待ってるわ」

先に戻したほうがいいか悩んだが、狙われているレグルス王を運んでいる。バルダンの刺客がシャルマイノスに入っているなら、アムレが好機を待っているなら…お前と少しも離れたくはない。恐怖の可能性は全て消しておく。締結は即済ます。

「急かした、すまんな」

「大変な事態なのは理解しているわ。ここにはまた来れる。そうでしょう?ハンク…とても楽しかった。ありがとう」

顔を下げて口を合わせる。

「ああ」

幸せそうなお前を見ると、心が満ちる。

「綺麗ね…」

視線を庭に戻した空色の言葉に頷く。この景色を纏ったお前が執務室の部屋にいる。俺が座ると目に入る位置に掛けられたお前は、いつも俺に微笑んでいる。

「ふふっ子供達の声が聞こえる。この光景を覚えていて欲しいわ」

上から子らの声が聞こえる。明日は早いからもう寝るだろう。

「明日は日の出と共に出立だ、また泣くぞ」

「クレア?ふふっあんなに泣いて。ソーマに困った顔をさせるのはクレアだけね」

「忘れたように笑ってお前の膝にいたがな」

「そうね、子を膝に乗せて食事なんてしたことがなかったわ。ハンクの真似をしてみたの。楽しかったわ」

空色は膝に乗った子に切り分けた肉を与え食べさせ、合間に自身の口に運んでいた。公爵夫人でそんなことをする女はいないだろうな。

「お前は変人だな」

空色は俺の言葉に見上げて笑っている。

「ふふっそう言ったわ。テレンスと同じ、変人なのよ。異常な執着心…」

空色はコートの中で動き俺と向かい合い、まだ柔らかい陰茎に触れる。見下ろすと空色の瞳は潤んで、赤い唇を開け、俺の理性を簡単に壊す。

「欲しいわ…ハンク…硬くして」

「…してみろ」

すでに滾り始めた陰茎はお前が触れていれば、望みのようになる。さすがに外では咥えさせられん。

「お前が触れれば硬くなる。知っているだろ」

空色はコートの中で腰紐を緩め、手を中に入れて陰茎に触れ細い指で握り刺激を送り始めた。

「もう硬くて熱いわ…いい?」

「駄目だ、部屋まで我慢しろ。お前の声は聞かせられん」

「耐えられないかしら」

「外を騎士が見回っている。風が運ぶ」

くぐもった声さえ聞かせられん。空色をコートに包んだまま立ち上がり邸の中へ入る。空色は歩く俺の体を手で撫でくすぐる。部屋に入りコートを床に落として、空色を立たせる。下がりかけたトラウザーズを前にした空色は俺の手を引いて寝台へ座らせる。硬く勃ち上がった陰茎を取り出し、床に膝をついて小さな口を開けて先端に吸い付いた。

「咥えろ」

赤い舌で唇を濡らした空色は大きく口を開け、舌で陰茎を濡らしていく。薄い茶の髪を後ろに撫でて小さな頭を掴む。狭い喉奥は俺に快感を送る。頭を振り赤い唇が陰茎を頬張る様を見ていると腰が震える。舌は陰茎を撫で擦り吸い付く度に卑猥な音が聞こえる。小さな手は陰嚢を包み揉んでいる。

「淫らな空色だな」

多分、公爵夫人はこんなことはしないぞ。閉ざされたお前には知る機会はないがな。俺の言葉に空色の瞳を潤ませて見上げる。頬張る頬を撫でる。

「外には出せん…」

頭を振り頬を窄める空色に俺の呟きは届いていない。部屋の中には淫らな音が響く。

「飲むのか?」

答えは知っているが聞いてみる。頭を押さえていた手を退かすと、咥えていた陰茎を放し立ち上がり自ら服の中に手を入れ下着を脱ぎ、寝台に座る俺に乗り上げて秘所にあて陰茎を呑み込ませていく。

「触れていないのに何故濡れている…好き者になったな…空色」

「っハンクのっせいよっ」

「ああ、そうだ」

全てを呑み込んだ細い体を抱きしめ、濡れた唇に食らいつく。寝台を揺らして中を擦ると、奥が刺激され悦び陰茎を締め付ける。すでに限界の陰茎を耐えることをせず快感に委ね、激しく空色の中を突き、舌を絡め合わせたまま奥へ注ぐ。締め付ける鼓動に子種を何度も奥へ注ぎ、空色を満たしていく。

「ハ…ンク…もっ…と」

合わせた口の合間から、足りないと言う。指は俺の服の釦を外しに動いている。空色の背を両手で触れ、服を掴み力を込めて左右に引き裂く。勢いが下まで続き、後ろは全て裂いた。袖から腕を抜き、現れた白い乳房を手で掴む。空色は自ら腰を動かし快楽を得て悶えている。それでも口を合わせたまま繋がり離れない。

「空色…言ってくれ」

「…愛して…る…ハンっク」

ああ、知ってる。俺もだ。お前が満足するまで注ごうな。


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