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俺の代わりにベンを殺すだ?机に置いた手の平を握り締める。奥歯が鳴らしている音が頭に響く。

「ベンは友だろ?このやろう」

「ベンジャミンか、なるほどな」

くっ…だから腹の探り合いなど好まんのだ!殴り合った方がわかり合える!

「お前は許さん、ベンジャミンは殺す」

ベンは巻き込めん。己の失態だ。ゾルダークがここまで怒るとは思わなかった。頭を下げれば許してもらえるのか。

「ゾルダーク、望みを言えよ」

大きな口に食物を放っては飲み込んでいく。噛んでいるか?黒い瞳はひたりと俺を見据え動かない。昔からあの黒い深淵が苦手だった。覗いてるこっちが覗かれている感覚になる。

「望みは手に入れている」

「何かあるだろ」

「それで許せと?」

黙って頷く。

「他国のお前に望むよりベンジャミンと話した方が有益だろ」

「ベンを怒るな!」

俺の友はベンだけなんだ!

「俺の首を切ればいいか?」

国王の首をやると言っているのに、微動だにしない。俺が自害すると言っているんだぞ!小さな娘は黙々と食事を続けている…ゾルダークを止めないのか。

「庭でやれよ」

「ゾルダーク!まだ死ねん」

やっと国も落ち着いたんだ。王妃が蟄居してから腐った貴族達を一掃して政治をしてやっと冒険に出たんじゃないか!

「お前は何を言ってる」

「許せ」

「許さん」

「すまん」

「王宮に忍びこむのにベンジャミンが手伝ったな」

「ベンを怒るな!」

「閣下」

小さな娘がゾルダークの手を叩く。

「こちら本物ですの?」

何故まだ偽者と疑われる!?解せん!もう俺にはこれしかない…

「ゾルダーク…チェスターをやるよ」

「いらん」

国だぞ!?国をいらんだと…他にやるものがない。こいつは金も女も何も効かん。俺は国王なのに無力だ。すまんベン…許してくれ。

「泣くな」

「ベンは許してくれ」

「ベンジャミンはしらを切る」

そうか、ベンは頭がいいから証拠など残さないな。

「俺の首をやる」

諦める。俺は王妃の生家に傀儡にされるような男なんだ。鍛えてばかりで腹芸もできん。所詮使えるのはこの肉体のみ。

「いらん」

「どうしたらいいんだ!」

「王宮に忍んだと言ったな」

「ああ、暇でな。お前は外に出ないし先に王宮でも探るかと許可証を使って入城してから何日か探検した」

なかなか見つからないもんだ。宝物庫は無理だったが王族の私的空間は入ったからな。満足だ。

「ドイルの執務室にも入ったぞ。探しても関与していた書類や物はなかった。ゾルダークの老人と交わした密約は見つけた。あとはハインス…」

「この邸の塀は高い。どうやった?」

それが知りたかったか。俺だから可能なんだがな。

「飛んで掴んで登る。俺なら容易い」

素早く登り気配を探って侵入したんだ。己だけで崖だって登れる。少年のゾルダークに負けてから死ぬほど鍛えたんだ。

「ガブリエル、国で何をしている」

「王だ、書類を確認して会議に会議で会議だ」

「弟の存在は国では知る者が多いか?」

「いや、逃げたあいつを俺が見つけて鍛えて顔に傷をつけて、時々交代してる」

なんだ?今度はそれを脅すのか!

「王は窮屈だ。王妃の不在で忙しい。休みも必要だ」

ゾルダークは真剣な顔で俺を睨み続けているが、なんだ?正直に話したぞ!

「お前に人を預ける、鍛えろ」

「なんだと?」




ガブリエルの頭は弱いが身体能力は群を抜いている。どうやったら王宮に数日も忍べる。こいつにゾルダークの者を鍛えさせれば面白いことになる。これの子の代には出来上がって機能しているはずだ。

「ベンジャミンには言ったのか」

「王宮で見た情報か?」

俺は頷く。

「まだだ、ベンは忙しくてな。それに危険だ」

だがベンジャミンなら誘導して聞き出すな。何故こいつはベンジャミンを疑わん。空色までこいつの頭を気にしていた。

「お前を許すか」

「本当か?」

「ベンジャミンと話すことを禁じる。手紙もな」

「そんな!手紙もか?ベンとは長年手紙のやり取りをしてるんだぞ」

長年か、学園時代からの付き合いだな。まだ小侯爵の頃か…どこで知り合った…ベンジャミンとガブリエルの仲が良いとは聞いていない。ドイルには教えなくていいな。

「手紙は俺が出す。確認してからベンジャミンに送る」

「恥ずかしいぞ」

「口外しない」

ベンジャミンと二人で会わせたら全て吐くな。こいつの頭の悪さに俺の中の恐怖も落ち着いてきた。

「ガブリエル、目を閉じて耳を塞げ」

銀色の瞳は閉ざされ、大きな手で自身の耳を覆ったガブリエルは微動だにしない。

「食べたか?」

「ええ」

「すまん、怖かったろ」

脚の間に座る空色を後ろから抱きしめる。少し膨れた腹を撫で温め、小さな頭に口を落とし頬をつける。
邸に着くまで俺は震えていた。お前の無事を確認するまで記憶が曖昧だ。ガブリエルは王というより武人だ。赤毛の騎士では盾にもならん。想像するだけでまた震えが起こる。

「ハンク」

空色の声に意識を戻し見つめると赤い口を開けて待っている。頭を掴み俺に引き寄せ口を合わせる。舌でも繋がり空色の体をきつく抱きしめる。

「流せ」

空色の唾液を流すよう舌を吸い求める。ここでは裸に剥けんからな。これで我慢する。片手で頭を掴み離れないよう空色にすがる。流される唾液を飲み込みながら空色の瞳と見つめ合う。

「やはり殺すか?」

お前を怖がらせた。使えると思ったが死んでもいい。お前が決めていい。

「怖かったわ。でもハンクが偽者に気づくと信じてた。前に王太子も見抜いたもの」

空色は俺の頬に手をあて見つめる。

「ゾルダークを強くするためでしょう?」

「ああ、お前の子を守らせる」

「増えるものね」

美しく笑う顔に見入る。お前の憂いはいらん。指で愛しい体をなぞり確かめる。舌を伸ばすと赤い口が咥えしごいてくれる。すでに陰茎は硬い。夜はお前を離さん。

「王宮に戻らねばならん」

「ええ、待ってる」

「ガブリエルはここの騎士団に置く」

空色は微笑み、皆が驚くと呟く。俺は空色の胸に顔を埋め鼓動を堪能する。王宮を出て一刻経つか、宴はまだ続いているだろう。馬で向かえば間に合う。もう少しこのままでいさせてくれ。


ガブリエルを連れて応接室から出る。

「何故あれに見つかった」

数日知られずに王宮に忍んだ奴だ、何があった。

「ああ、外壁をつたいながら息子の部屋を探したんだ。そうしたら赤子がいてな、お前の孫だと思って見に行ったが不可解でな」

「不可解?」

「孫にしてはお前に近い感覚がした」

こいつは謎だな。ある種の特技だ。野生が過ぎるぞ。

「乳母を気絶させても起きん、俺の殺気を当てても起きん。お前に似ている。観察してたら近づく娘に遅れをとった。真実は気になるがただの暇潰しだ。遊びだ」

こいつに王の素質はない。昔から頭のおかしい奴だった。チェスターは王妃が支配していたほうが上手く動いたかもしれんな。このまま弟に乗っ取られても平気な顔をしそうだ。

「俺は王宮に戻る。騎士団で体を鍛えていろ」

嬉しそうな顔をする。王より軍を率いた方が合いそうだが、ガブリエルは戦を好まんからな。つくづく不憫な奴だ。騎士の家門に生まれていたら重宝されたろうよ。

「お前は話しすぎるぞ、それでも王か」

「自国ではあまり話さんようにしてる。口が滑るからな」

「ベンジャミンに嵌められたとは思わんのか」

アンダルに恨みを持つのはベンジャミンだ。ドイルの前に疑うだろ。

「ベンは唯一の友だ。ベンなら許す」

阿呆が過ぎるな。ベンジャミンはよくこいつと付き合えたな。危険しかないぞ。

「で?ゾルダークは関わっていたのか」

「ゾルダークがチェスターとの貿易を欲すると思うか?阿呆」

その頭で考えてもわからんか。

「そうか。ゾルダーク、弟を苛めるなよ」

「ああ」

こんなことに付き合う弟だ、お前と同じでまともじゃないだろ。


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