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日が暮れる一刻前に王都の邸に戻った。
日の出と共に出立し、王都に入るまで休憩を挟まず駆け続けた。

二日前の朝に訪れた王都の端にある宿屋で馬を止めたのが三刻近く経った時だった。ここで馬も人も休むため休憩をとった。
旦那様は食事が終わると騎士達と俺に、褒美を待てと告げられた。考えておけから変えられたようだ。皆どこまで望みは叶うのかと、旦那様のいないところで話していたのだ。

旦那様の感覚は俺達とは違う。俺は田舎の貧乏男爵家の三男、騎士達も平民や下位貴族の次男三男。家を一軒、と言っても頷かれそうで困っていた。ソーマさん辺りに相談するだろう。それで十分だ。

日中の王都の街道は馬車も走り、馬も駆ける。速度を落とし、それでも隙間を縫うように一列で邸へ向かった。
邸が視界に入ると旦那様は一人、馬の速度を上げ駆け出した。鬼気迫る旦那様に門番は恐怖しただろう。マントを頭から被る大柄な男が馬で入ろうとしているのだから。顔を晒せば直ぐに旦那様だとわかっただろうに、焦っていたのか腕を伸ばしゾルダーク当主の紋章を見せている。後に続く我らにも気づいた門番は直ぐ様、門を開ける。
馬を正面扉の前に乗り捨て、自ら扉を開けソーマさんを探していた。使用人に呼ばれたソーマさんを捕まえ、きっとキャスリン様の行方を聞いているのだろう。ソーマさんが止めるのも聞かず花園の方へ向かわれる。

「お疲れ様。予想より早かったな」

「ソーマさん、キャスリン様は無事ですか?」

「大人しく守られていたよ。接触したのはサムだけだ。キャスリン様は敵意を感じなかったと仰るからそうなんだろう」

やはり、接触してきたのか。サムさんならキャスリン様とよく話をしていたからな。大旦那様の命には疑問を持ったか。

「お前達もご苦労だったね。部屋に戻って二、三日休んでくれ。風呂にも入りなさい、汚れている」

旦那様は汚れている姿のままキャスリン様の元へ向かわれたじゃないか。

「ソーマさん、旦那様も汚れてますよ」

ソーマさんが顔をしかめる。

「ハロルド、お前も風呂に入って休憩してから、疲れているだろうが話を聞かせてくれ。旦那様には当分詳しいことは聞けないだろう」

俺が頷くとソーマさんは足早に花園へ向かう。よかった、キャスリン様は無事だった。興奮した旦那様が暴走しなければいいが。




ハロルドの言葉を聞き急いで花園へ向かう。ダントルが四阿の入り口に立っているのだからキャスリン様はいるのは確かだが、花が踏み潰されている。庭師が考えて作った近道など無関係かのごとく旦那様が通ったであろう道が作られている。
砂埃まみれのマントで抱きついていないといいが。近道を通り四阿へ近づく。四阿を覗くと、案の定、むつみ合っておられる。全く格子になっていなければ、まる見えだった。なんとも仲がよろしいことだ。
私が声をかければ、自身の姿に気づいたのだろう、大人しくマントを渡された。叩けば砂が舞うのではないか。当分二人は離れない、ならば、ジュノにキャスリン様の着替えを一式揃えてもらい、主の部屋に持ってくるようダントルに命じる。
キャスリン様は安堵の表情だ。だが三日以内に戻られるとは、ついていった者達はさぞ辛かったろう。ハロルドなど騎士より長く休ませねば体を壊してしまう。邸を見るとアンナリアが手を上げている。浴室の用意ができたのだろう。

「旦那様、そのままお部屋に」

どうせこのまま抱き上げて邸に向かうのだろうから、人払いは済ませてある。主はキャスリン様を抱き上げて邸へ向かわれる。




俺のいない間に何があったのかは後で聞く。今はただ腕の中にいればいい。驚いたろう、四日以内と言ったからな。空色を見開き呆けた顔も愛らしい。腕の中に囲い、邸に向かう。これが洗ってくれると言ってる。自室の前には赤毛の騎士とメイドがこれの服を持って立っている。ソーマが開けた扉から自室に入り、これの服はソーマに寝室に置いておくよう命じて、浴室へ向かう。

「洗ってくれるのか?」

ええ、と笑顔で答えている。額に口をつけ、浴室に下ろす。小さな手が釦を外していく。汗臭いだろうに嬉しそうに俺を裸にしていく。腰紐を外しトラウザーズを脱ぐと兆し出している陰茎が現れる。顔を赤くして見上げる空色は悦んでいるんだろうな。だが、風呂が先だ、昨日は夜営したんだ。腹の子によくないだろう。これは裸にしない方がいいが、濡れるな。背中に手を回し、絞めている紐をほどき妊婦服を脱がせる。シュミーズならば濡れても脱ぎやすい。空色を少し離し、足に巻いてある布を剥がす。血は固まり瘡蓋になっている。湯を桶で掬い何度か頭からかぶる。やはり砂交じりの湯が流れていく。あらかた流し浴槽に浸かる。縁に頭を置くと、小さな手で石鹸を泡立て頭に載せた。細い指が髪をすき、頭を揉んで洗っている。弱い力だな。懸命に指を動かしているがくすぐったい。頭を洗われている間に足を揉む。昨日は休めたが今日は酷使した。夕食は寝室でこれと共に食べるか。

「泡を流しますから目を閉じて動かないで」

盥に入っている綺麗な湯を桶で掬い頭にかけて泡を流していく。何度か繰り返し、頭の方から、おしまいと声が聞こえる。

「離れていろ」

浴槽に立ち上がり石鹸を体に擦り付け汚れを落とす。浴槽の湯は汚れで色を薄くつけている。盥を持ち上げ体にかけて泡を流す。浴槽を出ると布を広げ待っている、拭いてくれるらしい。小さいから頭には届かない。布を一枚とり自分で頭を拭く。懸命に腹や背中、足を拭くが陰茎は拭いてくれないようだ。腕も自分で拭いていると、陰茎を掴まれた。見下ろすとシュミーズ姿のまま膝を突き、潤んだ空色が俺を見上げている。小さな口を大きく開け陰茎を含み舌で舐めて濡らしている。両手で陰茎を掴みしごき始めた。硬く大きくなった陰茎に吸い付き、頭を振って赤い唇が陰茎をしごく。膝が痛んでしまうだろうが、止めたくはない。美しい唇が赤黒い陰茎を頬張る姿は滾るな。小さな頭に触れ撫でる。時折口から出して、舌で陰茎をなぞり、横から吸い付き裏まで丁寧に舐めている。

「開けろ」

ここに水差しはないが飲ませる。大きく開けた口に陰茎を入れていく。頭を押さえ腰を動かし喉の奥へ陰茎を押し込む。ああ、泣いているな、耐えろ。腰を動かし口の中を蹂躙する。

「全て飲めよ」

小さい手を上から掴み、入りきらない陰茎を激しくしごき、喉奥で絞められ耐えられず注ぐ。出る度に喉が鳴り子種を飲み込み陰茎を刺激する。苦しそうだな、だがもう少し待て。最後の一滴まで注ぎ、手を離しゆっくりと陰茎を抜いてやる。

「見せろ」

赤い唇を開き俺に見せている。奥に押し込んだんだ、飲み込むしかなかったろう。脇に両手を入れ持ち上げる。そのまま寝室へ向かい、ソファに座らせ水を器に注ぎ渡してやる。喉に張りつく子種は不味いだろうな。

「止まらなかった」

許せ、と呟きながら頭に口を落とし、濡れたシュミーズを脱がせ寝台に寝かせて掛け布で包む。ベルを鳴らし扉越しに夕食を寝室へ運ぶよう命じる。ソファに座り足に軟膏をつけて布を巻く。寝台に戻り掛け布を捲り後ろから抱き込み腹に手をあて撫でる。

「足はどうしたの?」

「暗闇の中は馬で駆けることができない。歩いたんだ」

足の豆が潰れるほど歩くことなど、これは生涯経験することはないだろう。
腕の中で体を回し向かい合う。空色が俺を見つめる。

「早く戻りたかった」

足の豆は怪我のうちに入らない。手が伸び髭に触れている、気に入ったのか。

「無事ならいいの」

口を合わせる。

「俺はお前を失えん、お前が消えたら俺はそこで終いだ。共にいるんだ、でなければ耐えられん。狂ったように見えるか」

細い指が鼻に頬に唇に触れていく。狂っているのか自分ではわからん。

「狂ってないわ。私もハンクと共に消えたい」

愛しい額に口を落とす。

「それは許せん。俺は確実に先に逝く、その後は俺から解放されろ」

空色が潤み首を横に振る。仕方ない、前にも言った。お前は若い。

「泣くな。最期はお前の顔を見ながら逝くと決めている。離れるなよ」

「ハンクが泣かせるのよ」

流れる涙に吸い付く。心臓が苦しくなるが、お前がもたらす喜びは全てに勝る。

「お前を泣かせるのは俺だけだ」

何者にも触れさせん。俺の全力でお前を守りきる。生き苦しくても耐えてくれ。
頭を掴み口を合わせ舌を絡めて唾液を啜る。また滾り出してしまうな。ソーマが扉を叩くまでは空色を見ていたい。


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