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しおりを挟む後ろから大きなカラダに包まれて、抱き締められている。目蓋に朝日を感じて目を覚ますと太い腕が巻き付き、私を閉じ込めていた。
昨夜は共に湯に浸かり、ハンクが私の髪を乾かして、寝台で抱き合いながら眠りについた。カイランに報せたからといっても、使用人に知られるわけにはいかないと思っていたけど、ハンクは心配するなと言ってくれた。使用人の目は気にならないけど、外に漏れるのはゾルダークとしてよくないのに。何か考えがあるのかもしれない。
「起きたか」
頷いて答える。巻き付く腕に触れ、もう少しこのままと捕まえておく。着る服はジュノが昨夜のうちに届けてくれた。
「テラスで食べるか」
私は捕まえていた腕を離し、体の向きを変えハンクを見つめる。髪には寝癖がつき穏やかな顔付きのハンクが愛おしく、伸び上がり口を合わせる。はい、と返事をして大きな胸に耳をつけ心音を聞く。
ハンクはベルを鳴らして、まだ時がかかると囁き、体を仰向けにして私を乗せる。
「変わりないか」
ハンクの胸の上で、はいと答え朝食の準備が終わるのを待つ。
「眠れたか」
ハンクの問いに顔を上げ見つめ合う。私はただ頷く。寝室の扉が叩かれソーマとジュノが手に盥を持ち入ってくる。固く絞られた布で顔を拭く。ここには鏡台がないから寝台に座ったまま、ジュノが持ち込んだ櫛で髪を梳かす。
「渡せ」
ハンクはジュノに命じて櫛を取り上げ、私の髪を自ら梳かすようだ。毛先から優しく梳かしてくれる、やり方を知っているようだわ。時をかけほつれをとり、ハンクの好きな髪にしている。本当に好きなのね。お互い夜着から着替え、ハンクにエスコートされテラスに出る。机の上には私用の朝食が小さく切り分けられて皿に載っている。ソーマが椅子を引き私を座らせる。朝の日差しが心地いい。
「寒くないか」
はい、と答える。それでもハンクはソーマに命じて肩と膝に布をかけさせる。食事をしながらハンクが私に話し出す。
「奴は黙認を選んだ」
「それでは女性を囲いますの?いい方を選んでくれると助かりますけど」
「女はいらないらしい」
なら娼館に行くのかしら。そちらの方が問題が起きなくて安心だけれど。彼の心はよく変わるからどうなるかはわからないわね。ハンクに任せておけば悪い方へはいかないわよね。
「俺は執務室で仕事をする。お前は好きなところに居ていい」
ふふ、と笑ってしまう。そんなことを言われたのは初めてだわ。
「では、閣下の執務室で刺繍をしますわ」
ああ、とハンクは表情も変えず答える。相変わらずよく食べる、私も食べられるだけ食べる。これから体に変化が訪れる。少し不安だけど、母親になるには必要なことだもの。
食事を終えてハンクの執務室に入ると、窓に近い場所に大きめの一人用のソファが置かれている。昨日まではなかったから私のために置いてくれたのだとわかる。脇にある机の上にはすでに刺しかけのハンカチが置いてあった。私がこの部屋で過ごすと決めつけていたのね。自室に戻ると言ったらどうしていたのかしら。私は柔らかいソファに座り、刺繍を始める。カイランに渡すものだが、もういらないと言われてもおかしくはない。昨日はかなり怒っていたもの。私のことなんて見たくもないでしょうね。渡さない方がいいのかしら。私は仕事をしているハンクを盗み見る。真剣な顔で書類を眺め、印を押したりサインをしたり、時々ソーマやハロルドへ指示を出す。ハンクは私を横目で見て、また仕事に集中している。邪魔ではないのかしら?気になるのならいないほうがいいかしらね。私も刺繍に戻り、出来上がりに近づくハンカチに集中する。
いつの間にか手元が暗くなりハンクが私の側に立っていると気づいた。見上げると私を見下ろすハンクと目が合う。
部屋にはソーマもハロルドもいなくなっていた。ハンクは私からハンカチを取り上げ、床に跪き私の太ももに頭を乗せる。下から私を見つめ腰に腕を巻き付ける。もうお昼かしら、日は真上にあるようだわ。私はハンクの髪を撫で指に絡める。ハンクは目を瞑りそのまま黙り込み動かなくなる。私は髪を撫で続け、ハンクの好きなようにさせておく。大きな体を屈ませて私にすがり付く様は可愛らしい。幸せを感じてくれているのなら嬉しいわ、私も同じ気持ちだから。撫でているとハンクが小さな声で話し出す。
「奴はお前を諦めないかもしれない。お前を奪われたら殺す」
物騒なことを言うのね。カイランが諦めなくても、私の寝室に来て触れようとしても私は泣いて嫌だと言うだけ。ハンクの名前を呼ぶわ。彼は多分触れられないと思う。ハンクの子でも強さは受け継いでない。彼は優しい人だもの。顔は似ているけど全く違うのに、不安になってるのね。
「彼は優しい人です。嫌がる私に何かするような人じゃないわ。可哀想だけどお義母様の様に私が泣けば止まります」
愛おしいわね。早くハンクの陰茎を中に欲しいわ、繋がりたい。
「カイランに閣下を愛しているか聞かれましたでしょう?閣下は愛はくだらないと仰った。私も同じ思いです。彼らを見ていて愛とは軽いものだと学びました。でも私は今、閣下を愛しく思っています。繋がりたいとも思っています。これは愛なのでしょうか?」
ハンクは私を下から見つめ答える。
「俺は愛など知らん。だがお前は愛おしい。お前が泣いても嫌がっても放さん、逃げようものなら足の腱を切る。怖いか?」
私は愛しい頬を撫で黒い瞳を見つめ、心のままに答える。
「閣下から逃げるつもりはないですわ。でも閣下が不安なら切っても構いません。ダンスは踊れなくても歩ければいいもの。走るときは閣下が抱き上げて走ってくれるでしょう?だから怖いなんて思いませんわ」
私は笑み濃い紺を撫でる。ここまで溺れてしまうとは、テレンスはこんな気持ちなのかしら。私も変人ね。
「キャスリン」
ハンクは口を開け体を伸ばす。私はそれを受け入れ舌を絡ませて唾液を流し込む。もっと流せというように下から吸ってくる。舌から伝わせ満足するまで飲ませる。ハンクはソファに座る私のスカートに入り込み、下着を脱がせ秘所に吸い付く。服を着たままで足を広げ、私には見えないところで快感が湧き上がる。執務室の向こうは廊下なのに、誰が通るかわからないのに、ハンクを止めることはできない。手で口を押さえ嬌声を耐える。
服の中に入り込み濡れ始めた秘所に吸い付く。舌を根元まで突っ込み、中を撫でる。もどかしい。この中に陰茎を入れると満たされ満足するのに、我慢を強いられている。トラウザーズを下げ陰茎を取り出ししごく。服の中は淫らな匂いと音が満ちて俺を滾らせる。陰茎を強く握り上下に動かし、秘所から湧き出る液を啜る。声を我慢しているだろうが止められん。舌を抜き、薄暗くてもわかるほど濡れ誘う秘所に見入る。欲しそうにひくついている、これは俺のものだ。誰にも触れさせん。突起を口に含み皮を剝いて舐めてやると暴れだす。片手で尻を抱き込み口に押し付け逃がさない。執拗に吸い付き舌の先で舐め回す。達しているんだろう、何度も足が跳ね震えている。陰茎も限界が近い。服から抜け出し立ち上がり、快感に震える口を開けさせ、陰茎の先を含ませ強くしごく。潤んだ空色の瞳がこちらを見上げる。小さな赤い唇が日の光でよく見える。赤黒い陰茎を口に含む様が淫靡で愛おしい。小さな口へ陰茎を押し込み中へ注ぐ。頭を押さえ逃がさない。流し込む度、喉が鳴り飲み込んでいく。満たされる。何も出なくなるまで含ませたまま、愛しい顔を撫でる。
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