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番外編 レオン

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 ミシェルから手紙が届いた。

 これまで手紙に対して返信が来ることはなかった。
 それでも自分の近況を伝えるのを口実に手紙を書いていたのは自分の存在まで忘れられたくはなかったからだ。そして今でもミシェルのことを思っているという事も端々に含ませている。もしかしたらまたミシェルがこちらを向いてくれるかもしれないという一縷の望みをかけて。

 ようやくミシェルから届いた手紙をはやる気持ちで開封した。

 手紙を読んで、足が震えその場にしゃがみこんだ。
 まさか義兄上(フレデリク)と婚約したなんて。
 その日はそのあと何をしたのか覚えていないほど、レオンは動揺したのだった。

 翌日の勤務でも注意不足で何度も小さいミスをしてしまった。
 それでも何とか勤務時間が終わったが、誰もいないあの家に帰るのは耐えられなかった。
 だから騎士団の休憩室でぼんやりと外の喧騒を聞きながら座っていた。
 頭の中に去来するのはミシェルの事ばかり。
 仕事で王都を回るたびに、ミシェルと暮らすならここがいいとか、結婚式を挙げるならあの教会がいいとか考えてきたことが頭をよぎる。
 どれほど時間がたったかわからない頃、一人の先輩騎士が入ってきた。

「ほら。これでも飲め」
 目の前に湯気の立つカップを置かれる。
 レオンははっとしたように姿勢を正し敬礼した。
「いい、遠慮するな。それよりお前が休憩室でものすごく暗いオーラを出しているから誰も気兼ねしてここに入れないんだぞ。もっとしゃっきりしろ」
「それは申し訳ありませんでした」
「あの子の事か?」
「……はい」
 その先輩騎士はローザを捕縛するときに来てくれて、レオンの事情もよく知る騎士だった。
「別の人と婚約をしたそうです」
「そうか。辛いな」
「はい」
「でもな。どれほど辛くともお前は騎士だ。私情を挟むと命にかかわる仕事だ。今日もミスをしたと聞いたが、取り返しのつかない事ならどうするんだ。お前は騎士なるためにすごく頑張ってきたのだろう」
 レオンは先輩騎士から自業自得だと責められるのだと思っていた。
 しかし、騎士としての在り方を説きながらも励ましてくれてるのだ。
「申し訳ありません。ミシェルも……元婚約者も俺の性格は騎士に適しているから、頑張ってほしいって言ってくれました」
「お前を信じてそう言ってくれる彼のためにも頑張らなきゃならんな」
「はい……そうですね。こんな情けない姿ミシェルに見せられない。先輩。ありがとうございます! 俺、ミシェルが俺のことを誇りに思ってもらえるような騎士を目指します」
「ああ、がんばれ」
 吹っ切れた様子のレオンはすっきりした顔でお茶を飲むと先輩騎士に頭を下げて出ていった。


「全く、あのローズという女。一体何人の人を不幸にしたんだ」
 出ていくレオンの後姿を見て先輩騎士はつぶやいた。
 あの女がいなければレオンは今でも婚約者と寄り添って幸せだったはず。
 ローズに殺されてしまった青年もその婚約者も。あの女の罪はそれだけではなく次々と出てきていた。その悪質さからローズは処刑と決まった。
 しかしローズが処刑されたからと言って、彼女に巻き込まれ悲しい目に遭った人々の人生は戻らないのだ。
 自分の息子でさえ不幸にしたあの女。
「償えない罪ってもんがあるんだよ」

 レオンを見送った後、先輩騎士はそうつぶやいたのだった。


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