婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん

文字の大きさ
上 下
24 / 27

けだものの意味を知ったミシェル

しおりを挟む
 有言実行のフレデリクの素早い行動のおかげで、その二日後には二人の婚姻証明書が届き、正式にフレデリクとミシェルは夫夫として認められた。
 いずれ結婚式をするつもりではあるが、まずは家族だけで祝賀パーティを開いた。
 終始、難しい顔をしていたジルベールも
「お父様、婚姻を早めていただいてありがとうございます。それにこれからもお父様とお母様とずっと一緒に暮らせるのがとてもうれしい。これからは兄様を支えるために頑張りますのでご指導お願いします」
という、ミシェルに目を潤ませて頷いた。
 エリーナも満面の笑みを浮かべて二人を祝福した。
「まあ、フレデリクもミシェルも本当に素敵な笑顔ね。幸せになるのよ」
「「はい」」
 二人の返事がそろう。
「今日からしばらく離れで過ごしなさい。用意はさせてあるから」
 エリーナもこの家に嫁いできたときに一カ月ほど離れで新婚生活を送ったらしい。
「はい!」 
 二人は顔を見合わせて、二人だけの新婚生活を思い描いて微笑んだ。



「兄様、僕ドキドキして死んじゃいそう。今日から兄様と夫夫だなんて」
「はは、僕も緊張しているよ。でもまず、もう兄様はやめようか。名前で呼んでくれ」
「フ、フレデリク……ちょっと恥ずかしい」
「フレディでもいいよ」
「フレディ……。フレディ」
 ミシェルはその名を大切そうに繰り返す。
「必ずミシェルを幸せにする。不安があればなんでも相談してほしい。僕もそうする。二人で何でも話しあおう」
「うん」
 フレデリクはミシェルの頬を両手で包むと優しく口づけした。
 二人の初夜はつつがなく行われたが、空が明るくなり始めたころにようやくミシェルは解放された。

 ミシェルは以前父が言った、けだものの正体が分かった気がしたのだった。


 ともあれミシェルの心の傷はフレデリクの過剰すぎる愛で回復し、かさぶたに過ぎない過去の物となっていった。それもいずれ剥がれ落ちて綺麗に戻っていくだろう。
 そうして数年後、ジルベールの妹の子供——ミシェルのいとこが産んだ子供をラフォン家の跡取りとして養子に迎えた。
 ミシェルとフレデリクは言うまでもなく、ジルベールとエリーナも孫にメロメロとなりラフォン家は幸せに包まれた。
 
 ミシェルは庭で走りまわる息子を追いかけるフレデリクを見て胸がぎゅうっと切なくなるほどの幸せを感じていた。自分を幸せにしてくれたフレデリクと子供を何に代えても守りたい。

 あの時、流れる星に自分の幸せを願ってくれたフレデリクに感謝しかない。
 時々瞼に浮かぶあの町の流れる星。
 あの時は絶望しかなかったけれど、こんな幸せが待っているとは思いもしなかった。

 ミシェルはこちらに向かって手を振るフレデリクと息子のために、この幸せを守っていこうと心に誓ったのだった。



 終わり




 *このあと番外編3話で完結となります
  本日中に投稿予定です




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

お前が結婚した日、俺も結婚した。

jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。 新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。 年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。 *現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。 *初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...