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婚約
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無事、両親の代役を果たして屋敷に戻ったフレデリクは、両親にミシェルとの婚約を願い出た。
父ジルベールは少し驚いたような顔をしていたが、母エリーナは分かっていたというような笑顔を見せてくれた。
少々不機嫌そうな顔をしたジルベールはフレデリクの横でうつむいているミシェルに声をかけた。
「ミシェル、お前もフレデリクとの婚約を望むのかい?」
ジルベールがひどく傷つけられたミシェルのことを心配し、しばらく婚約者など決めず手元に置くつもりだったことをフレデリクは知っていた。
「……はい」
ちらっとフレデリクを見て顔を真っ赤にしてうつむくミシェルの姿にジルベールの額に青筋が浮かぶ。
「……ミシェル、あちらでは何もなかったか?」
「え? な、何も! そんなの全然! あ! 兄様が暴漢から守ってくれて怪我をしてしまって……」
顔を真っ赤にして慌てるミシェルにジルベールはますます青筋をくっきり浮かべた。
「今回はご苦労だったな。今日はもうゆっくり休みなさい。私はフレデリクから詳細を聞くからお前はもう部屋に戻りなさい」
「はい」
逃げるように部屋を出ていくミシェルを見送ると、ジルベールはフレデリクと向かい合った。
「フレデリク、お前死にたいようだな」
「父上、落ち着いてください」
「落ち着けるか! お前、あの可愛い無垢なミシェルに何をした!」
「求婚をしました、ミシェルはそれを受け入れてくれました。まだああして恥ずかしがっているだけです」
「……本当か? 本当に手を出していないだろうな。そんなふざけた真似をしていたらただでは済まさんぞ」
「大切なミシェルにそんな無体なことはしません」
フレデリクはきりっとした顔でうなづいた。
「まあ、仕方があるまい。ミシェルが笑顔を取り戻したのはフレデリクのおかげか。お前との婚約を許可する。近々正式に届け出る」
「はい! ありがとうございます!」
「私はミシェルのことが大事だ。だがな、フレデリク。お前のことも同じくらい大事なんだ。ミシェルのことを哀れに思い同情してくれているのではないのか?」
「はい。こちらに養子に迎えていただいたときからミシェルのことは想っておりました。ですがミシェルの婚約が調ったことで私が迎え入れられたのですから……顔に出すこともできませんでした」
「そうか……長い間すまなかった。私は信頼しているお前とミシェルとでこの家を継いでくれることがうれしい。よろしく頼む」
「はい、父上。本当にありがとうございました」
フレデリクの胸は温かいもので満たされた。
「婚姻まで手をだすなよ」
「……もちろんです」
「なんだ、その間は」
「失礼します」
「おい! フレデリク」
怒る父の声を背なかで聞きながら、フレデリクは心の中で感謝した。
「ミシェル、最近ここも物騒になってけだものが出没するから気を付けるようにな」
その次の日の朝食の席で、突然ジルベールはそんなことを言い出した。
思わずフレデリクは口に入れたばかりのスープを吹きだしそうになった。
「え? けだもの⁈ 街中でも狼とか出るの?」
「いや、まあ似たようなものだ。それよりたちは悪いかもしれぬ」
「あ、でも兄様強いから兄様と一緒にいれば大丈夫だね」
あの時のフレデリクの強さを知るミシェルは、信頼を寄せる目でフレデリクを見る。
「は?」
ジルベールからは冷たい声が出る。
「お任せください。必ずミシェルは守りますので」
嬉しそうに請け負うフレデリクにますますジルベールの機嫌が悪くなる。
「お前が一番危ないんだろう!」
「まあまあ、あなた。食事の席で声を荒げないでください。フレデリク、あなたを信じているわ。ミシェルをよろしくね」
ジルベールの怒りよりもエリーナから寄せられる信頼の方が堪える。
にっこり笑うエリーナにフレデリクは苦笑しつつ、確かに約束をしたのだった。
父ジルベールは少し驚いたような顔をしていたが、母エリーナは分かっていたというような笑顔を見せてくれた。
少々不機嫌そうな顔をしたジルベールはフレデリクの横でうつむいているミシェルに声をかけた。
「ミシェル、お前もフレデリクとの婚約を望むのかい?」
ジルベールがひどく傷つけられたミシェルのことを心配し、しばらく婚約者など決めず手元に置くつもりだったことをフレデリクは知っていた。
「……はい」
ちらっとフレデリクを見て顔を真っ赤にしてうつむくミシェルの姿にジルベールの額に青筋が浮かぶ。
「……ミシェル、あちらでは何もなかったか?」
「え? な、何も! そんなの全然! あ! 兄様が暴漢から守ってくれて怪我をしてしまって……」
顔を真っ赤にして慌てるミシェルにジルベールはますます青筋をくっきり浮かべた。
「今回はご苦労だったな。今日はもうゆっくり休みなさい。私はフレデリクから詳細を聞くからお前はもう部屋に戻りなさい」
「はい」
逃げるように部屋を出ていくミシェルを見送ると、ジルベールはフレデリクと向かい合った。
「フレデリク、お前死にたいようだな」
「父上、落ち着いてください」
「落ち着けるか! お前、あの可愛い無垢なミシェルに何をした!」
「求婚をしました、ミシェルはそれを受け入れてくれました。まだああして恥ずかしがっているだけです」
「……本当か? 本当に手を出していないだろうな。そんなふざけた真似をしていたらただでは済まさんぞ」
「大切なミシェルにそんな無体なことはしません」
フレデリクはきりっとした顔でうなづいた。
「まあ、仕方があるまい。ミシェルが笑顔を取り戻したのはフレデリクのおかげか。お前との婚約を許可する。近々正式に届け出る」
「はい! ありがとうございます!」
「私はミシェルのことが大事だ。だがな、フレデリク。お前のことも同じくらい大事なんだ。ミシェルのことを哀れに思い同情してくれているのではないのか?」
「はい。こちらに養子に迎えていただいたときからミシェルのことは想っておりました。ですがミシェルの婚約が調ったことで私が迎え入れられたのですから……顔に出すこともできませんでした」
「そうか……長い間すまなかった。私は信頼しているお前とミシェルとでこの家を継いでくれることがうれしい。よろしく頼む」
「はい、父上。本当にありがとうございました」
フレデリクの胸は温かいもので満たされた。
「婚姻まで手をだすなよ」
「……もちろんです」
「なんだ、その間は」
「失礼します」
「おい! フレデリク」
怒る父の声を背なかで聞きながら、フレデリクは心の中で感謝した。
「ミシェル、最近ここも物騒になってけだものが出没するから気を付けるようにな」
その次の日の朝食の席で、突然ジルベールはそんなことを言い出した。
思わずフレデリクは口に入れたばかりのスープを吹きだしそうになった。
「え? けだもの⁈ 街中でも狼とか出るの?」
「いや、まあ似たようなものだ。それよりたちは悪いかもしれぬ」
「あ、でも兄様強いから兄様と一緒にいれば大丈夫だね」
あの時のフレデリクの強さを知るミシェルは、信頼を寄せる目でフレデリクを見る。
「は?」
ジルベールからは冷たい声が出る。
「お任せください。必ずミシェルは守りますので」
嬉しそうに請け負うフレデリクにますますジルベールの機嫌が悪くなる。
「お前が一番危ないんだろう!」
「まあまあ、あなた。食事の席で声を荒げないでください。フレデリク、あなたを信じているわ。ミシェルをよろしくね」
ジルベールの怒りよりもエリーナから寄せられる信頼の方が堪える。
にっこり笑うエリーナにフレデリクは苦笑しつつ、確かに約束をしたのだった。
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