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お帰り

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「ん……兄様?」
「よかった、気が付いたかい?」
 フレデリクはほっと息を吐いた。
「僕どうかしたの?」
 ミシェルはそういって身を起し、子供を抱いているレオンを見ると驚いたように目を見開いた後、涙を落とし始めた。
「兄様、なんでレオンがいるの? 僕、早くかえりたい!」
「ミシェル! 俺がわかるのか?!」
 レオンが驚いた顔でミシェルに近寄る。
 フレデリクもミシェルの両肩をつかむと
「戻ってきてくれたのか?!」
 と揺さぶった。
「に、兄様、痛い! な、なに?」
「ああ、すまない。少し落ち着いたら説明するよ。でもよかった……本当に良かった」
 フレデリクは感涙し、ミシェルを抱きしめた。

 反対に絶望した表情になったのはリシャールだった。
 亡くなった婚約者との奇跡の再会。もう少し傍にいられると思っていた。これからのことを話して、シモン領へ来てもらえるよう皆を説得しようと思っていた。
 それなのに、今度こそ永遠の別れとなってしまったのだ。
 本当にリシャールの事だけを想っていたリアンは、あの女が二度とリシャールに近づくことはないとわかった瞬間、今世に残していた未練を昇華させ安心して旅立ってしまった。
 男泣きに泣いたリシャールは、フレデリクとレオン、そしてミシェルにもの悲しい笑顔で挨拶をし、騎士団へ証言をしに行くと言って出ていった。

「あの方は誰? ひどく悲しそうだった、何があったの?」
「ああ、彼は大切な人を失ってね。それもゆっくり話すから聞いてほしい」
 フレデリクの言葉にミシェルは頷いた。
 戻ってきたミシェルの様子にレオンはほっとしたように話しかけた。
「ミシェル、よかった。聞いてくれ。これには事情があって君を裏切ったりなどしていない」
 その腕に子供を抱いていながら、ミシェルに弁解をするレオンの非情さにミシェルの心は再びひどく傷つけられた。ミシェルの記憶は、あの日レオンに裏切られた日から今につながっているのだ。
「兄様、早く帰りたい。僕もう……いやだ」
「……ああ、わかった」
 ミシェルがしがみつくミシェルをフレデリクは抱きかかえるようにして出ようとした。
「待って! 待って、ミシェル! 義兄上はもうわかってくれているじゃないですか! ここに泊ってください! ゆっくりと話をしたい、お願いします!」
「うるさい! うるさい、うるさい! 僕に話しかけるな!」
 いつも大人しく、人に悪態など付いたことがないミシェルが壊れそうな心を爆発させて怒鳴った。
 ミシェルが怒鳴った姿を初めて見たフレデリクとレオンは驚いて顔を見合わせる。
「子供の前で話せまい。それに戻ったばかりで事情も分からないミシェルには僕からゆっくり説明する。また連絡するから今日は引いてくれ」

 ミシェルの拒絶にショックを受けて立ち尽くすレオンの横を通ってフレデリクはミシェルを外に連れ出した。 
 
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