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ローズサイド
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「おかえりなさい」
ローズが食事を作って待っているとレオンが仕事から戻ってきた。
しかし、レオンは返事をせずに自室に戻ってしまった。
「お父さん、最近どうしたの? 怒ってるの?」
息子のマリユスが悲しそうにレオンの部屋の方を見る。
「そうね、お仕事が大変なのよ。そっとしておいてあげましょう」
ローズはマリユスを慰めながら、口角を上げる。
レオンが婚約者と別れた。思ってもない僥倖だった。
いずれレオンの婚約者を追い詰めて別れさせようと思っていたが、勝手に別れてくれたのだ。
今は別れのショックと、原因となったローズへの八つ当たりでこんな態度をとっているけど、もともとは馬鹿が付くくらい優しくお人好しな男。
現に、出ていくよう言われてもとどまっているローズを力づくで追い出すこともできない。
このまま居座って、殊勝な態度でいれば子供にほだされてまたこれまで通り一緒に暮らしていけるはず。
そうローズは確信して、元夫に怯えながら、健気で尽くす女を演じ続けている。
暴力を振るう夫なんて本当はいやしないのにね。
そう言って泣けば手を差し伸べてくれる者のなんと多いことか。とローズは胸の内で嘲笑う。
レオンもそのうちまた酔わせて体で慰めてやればいい、婚約者と別れて傷ついている今ならあっという間に落とせるだろう。念のためまた薬でも手に入れておくのもいいわね。
数年前、貴族の坊ちゃんに取り入ることができたのにうっかりミスで台無しにしてしまった。せっかく薬で前後不覚にし、事後のように見せつけて別れるように仕向けたのに。
二人はしばらく距離を置いたものの別れる気配はなかったから、彼の婚約者に妊娠をにおわせて身を引かせようとした。
ただそのつもりだったのに、貴族として生まれて周りからポヤポヤと甘やかされてきた純粋そうな彼の婚約者に思わず苛立って突き飛ばしてしまった。自分はどれだけ苦労して生きてきたと思っているんだと自分のみじめな生活と比べて瞬間に怒りがわいたのだ。
まさか突き飛ばしたくらいで死ぬなんて思わなかった。
誰にも見られなかったはずだけど、あの貴族の坊ちゃんと死んだ婚約者の親が死因を調査するだろう。疑われることを恐れてすぐに離れ、流れ流れてこの土地にたどり着いた。
その間もいろんな男に取り入ってきたが、いい加減渡り歩くのにも疲れた、ここらでもう安住の地を定めたい。
そのためにはこのお人好しの男を手放すわけにはいかない。
父親が誰かわからないこの子のためにも。
ローズが食事を作って待っているとレオンが仕事から戻ってきた。
しかし、レオンは返事をせずに自室に戻ってしまった。
「お父さん、最近どうしたの? 怒ってるの?」
息子のマリユスが悲しそうにレオンの部屋の方を見る。
「そうね、お仕事が大変なのよ。そっとしておいてあげましょう」
ローズはマリユスを慰めながら、口角を上げる。
レオンが婚約者と別れた。思ってもない僥倖だった。
いずれレオンの婚約者を追い詰めて別れさせようと思っていたが、勝手に別れてくれたのだ。
今は別れのショックと、原因となったローズへの八つ当たりでこんな態度をとっているけど、もともとは馬鹿が付くくらい優しくお人好しな男。
現に、出ていくよう言われてもとどまっているローズを力づくで追い出すこともできない。
このまま居座って、殊勝な態度でいれば子供にほだされてまたこれまで通り一緒に暮らしていけるはず。
そうローズは確信して、元夫に怯えながら、健気で尽くす女を演じ続けている。
暴力を振るう夫なんて本当はいやしないのにね。
そう言って泣けば手を差し伸べてくれる者のなんと多いことか。とローズは胸の内で嘲笑う。
レオンもそのうちまた酔わせて体で慰めてやればいい、婚約者と別れて傷ついている今ならあっという間に落とせるだろう。念のためまた薬でも手に入れておくのもいいわね。
数年前、貴族の坊ちゃんに取り入ることができたのにうっかりミスで台無しにしてしまった。せっかく薬で前後不覚にし、事後のように見せつけて別れるように仕向けたのに。
二人はしばらく距離を置いたものの別れる気配はなかったから、彼の婚約者に妊娠をにおわせて身を引かせようとした。
ただそのつもりだったのに、貴族として生まれて周りからポヤポヤと甘やかされてきた純粋そうな彼の婚約者に思わず苛立って突き飛ばしてしまった。自分はどれだけ苦労して生きてきたと思っているんだと自分のみじめな生活と比べて瞬間に怒りがわいたのだ。
まさか突き飛ばしたくらいで死ぬなんて思わなかった。
誰にも見られなかったはずだけど、あの貴族の坊ちゃんと死んだ婚約者の親が死因を調査するだろう。疑われることを恐れてすぐに離れ、流れ流れてこの土地にたどり着いた。
その間もいろんな男に取り入ってきたが、いい加減渡り歩くのにも疲れた、ここらでもう安住の地を定めたい。
そのためにはこのお人好しの男を手放すわけにはいかない。
父親が誰かわからないこの子のためにも。
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