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真実
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ミシェルが突然、他人の名を名乗ったことに驚愕したフレデリクだったが、とりあえず最後まで話を聞いた。
信じがたいことだったが、その話には真実味があった。ミシェルが知らないはずのシモン領のこともよく知っていたのだ。
「……じゃあ、ミシェルはどこに?」
「すいません、わかりません。僕もどうしてこの体にいるのかわからないのです」
「……そうか」
「本当に……申し訳ありません!」
「……いや……君のせいではないだろうから」
フレデリクはひどいショックを受けたが、リアンを責めることはできなかった。。
だがもう二度とミシェルに会えないかもしれないという恐怖に囚われ、しばし何も考えることが出来なかった。
頭を抱えてじっと動かないフレデリクにリアンはおずおずと話しかけてきた
「あの……それでミシェルさんの婚約者の事ですが」
「レオンの事か?」
「はい。そのお相手は僕を殺めた女と同じじゃないかと思って」
「なんだって?!」
「その女も暴力的な夫から逃れるためと言って僕の婚約者に取り入り、僕を殺しました。偶然とは思えません……僕の婚約者もミシェルさんの婚約者も騙されていたのかもしれません。あの女は優しい人間に寄生して生きてるのではないでしょうか」
「なんてことだ……レオンは嵌められたのか。じゃあ誤解だというのも本当だというのか」
それが事実で誤解が解けたなら、ミシェルは……レオンのもとに戻ってしまうのかもしれない。
フレデリクは記憶が戻らなくともミシェルを一生かけて大切にしようと決意したというのに。
いや、それ以前に、ミシェルは今どうしているのか。戻ってきてくれるのか。ミシェルの身が心配でならなかった。
「すまない混乱してしまって……少し頭を冷やしてくる。」
フレデリクはミシェルの部屋を出て自室に向かった。
残されたリアンは静かに涙を落とし、頭を下げてそれを見送った。
翌日、心労でげっそりとした様子のフレデリクはミシェルの部屋を訪れた。
「ミシェル……と呼んでいいのだろうか。」
「はい」
「君には申し訳ないが、ミシェルとして生きていって欲しい。両親をこれ以上悲しませたくはないんだ。代わりに君の願いも叶えたいから何でも言って欲しい」
「……良いのですか?」
「正直分からない。でもミシェルが戻ってきた時の環境を整えておきたい。あの子があいつのもとに戻るかもしれないとしても、今、守れるのは僕しかいないから」
「……フレデリク様」
「……すまない。君には酷なことを言ってるのはわかってる。君も辛いのにな」
「いいえ……居場所を与えてくれて感謝します」
「君はその……婚約者の事はもういいのか? 彼のもとに戻りたいだろう」
「もう僕は死んだのですから。今更どうしようもありません。でも……彼も僕も騙されたとしたら悔しくてたまりません」
リアンは涙を落とした。
幸せな未来を簡単に壊したあの女が許せない。憎悪で顔が醜くゆがんでしまう。
「大丈夫か?」
フレデリクはリアンの肩を抱きしめる。
「ミシェルさんの身体を乗っ取っているのに許してくださるのですか?」
「そりゃ、僕だってたまらなく苦しい。でも君のせいじゃないから。こんなつらい目に合って……どうしてあげようもなくて済まない」
「いえ……いいえ。」
その言葉だけで十分だった。
リアンはフレデリクに包まれながら止まらない涙を落とすのだった。
フレデリクは、一通の手紙を書いた。
それがどう言う状況を引き起こすのかはわからない。だが、話を聞いた以上このまま放置しておくことは出来なかった。
信じがたいことだったが、その話には真実味があった。ミシェルが知らないはずのシモン領のこともよく知っていたのだ。
「……じゃあ、ミシェルはどこに?」
「すいません、わかりません。僕もどうしてこの体にいるのかわからないのです」
「……そうか」
「本当に……申し訳ありません!」
「……いや……君のせいではないだろうから」
フレデリクはひどいショックを受けたが、リアンを責めることはできなかった。。
だがもう二度とミシェルに会えないかもしれないという恐怖に囚われ、しばし何も考えることが出来なかった。
頭を抱えてじっと動かないフレデリクにリアンはおずおずと話しかけてきた
「あの……それでミシェルさんの婚約者の事ですが」
「レオンの事か?」
「はい。そのお相手は僕を殺めた女と同じじゃないかと思って」
「なんだって?!」
「その女も暴力的な夫から逃れるためと言って僕の婚約者に取り入り、僕を殺しました。偶然とは思えません……僕の婚約者もミシェルさんの婚約者も騙されていたのかもしれません。あの女は優しい人間に寄生して生きてるのではないでしょうか」
「なんてことだ……レオンは嵌められたのか。じゃあ誤解だというのも本当だというのか」
それが事実で誤解が解けたなら、ミシェルは……レオンのもとに戻ってしまうのかもしれない。
フレデリクは記憶が戻らなくともミシェルを一生かけて大切にしようと決意したというのに。
いや、それ以前に、ミシェルは今どうしているのか。戻ってきてくれるのか。ミシェルの身が心配でならなかった。
「すまない混乱してしまって……少し頭を冷やしてくる。」
フレデリクはミシェルの部屋を出て自室に向かった。
残されたリアンは静かに涙を落とし、頭を下げてそれを見送った。
翌日、心労でげっそりとした様子のフレデリクはミシェルの部屋を訪れた。
「ミシェル……と呼んでいいのだろうか。」
「はい」
「君には申し訳ないが、ミシェルとして生きていって欲しい。両親をこれ以上悲しませたくはないんだ。代わりに君の願いも叶えたいから何でも言って欲しい」
「……良いのですか?」
「正直分からない。でもミシェルが戻ってきた時の環境を整えておきたい。あの子があいつのもとに戻るかもしれないとしても、今、守れるのは僕しかいないから」
「……フレデリク様」
「……すまない。君には酷なことを言ってるのはわかってる。君も辛いのにな」
「いいえ……居場所を与えてくれて感謝します」
「君はその……婚約者の事はもういいのか? 彼のもとに戻りたいだろう」
「もう僕は死んだのですから。今更どうしようもありません。でも……彼も僕も騙されたとしたら悔しくてたまりません」
リアンは涙を落とした。
幸せな未来を簡単に壊したあの女が許せない。憎悪で顔が醜くゆがんでしまう。
「大丈夫か?」
フレデリクはリアンの肩を抱きしめる。
「ミシェルさんの身体を乗っ取っているのに許してくださるのですか?」
「そりゃ、僕だってたまらなく苦しい。でも君のせいじゃないから。こんなつらい目に合って……どうしてあげようもなくて済まない」
「いえ……いいえ。」
その言葉だけで十分だった。
リアンはフレデリクに包まれながら止まらない涙を落とすのだった。
フレデリクは、一通の手紙を書いた。
それがどう言う状況を引き起こすのかはわからない。だが、話を聞いた以上このまま放置しておくことは出来なかった。
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