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リアン・テリエ
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ミシェルは夢を見ていた。
自分がミシェルという器に入る前の時の人生を。
自分には大好きな人がいた。彼は社交家で多くの人々と交流があった。
反して、どちらかと言えば大人しい方の自分は社交界で多くの人と話をする輝く彼にあこがれを抱いていた。
遠くから見るだけだったあこがれの人。そんな人があるパーティで話しかけてきた。
人込みから逃れてひっそりとした庭で一息ついていた時、『一緒にいい?』と隣に座ったのだ。
「ごめんね、ちょっと一息つきたいんだ。こうして二人でいたらさすがに突撃されないだろう?」
そういってにこりと笑いかけてくれた彼にその場で恋をしてしまった。
彼はそつなく社交界を渡っているように見えたが実際には、静かに過ごすほうが好きなのだという。それに自分に媚を売るものの多さに困っており、今日は耐えかねてここに逃げてきたのだという。
「君はよく一人でいるよね」
「知ってたんですか」
「うん。うらやましいと思ってみていた。ねえ、これからもこうしてパーティの時助けてくれないかな?」
「も、もちろんです」
そこから彼との付き合いが始まり、あれよあれよと婚約するまでなった。
幸せに暮らしていたが、ある日その婚約者となった彼が馬車で轢きそうになったという令嬢を連れてきた。
診察をすると馬車にひかれたわけではなく、疲労で倒れたらしい。話をよく聞くと暴力的な夫から食事もろくに与えてもらえず暴力を振るわれて逃げてきたという。
婚約者は気の毒に思い、身体が回復するまで養生させその後は教会に行くように言った。
しかしロザンナ・マネキンと名乗った女は以前に教会に逃げ込んで連れ戻されたことがあり、力のない教会では今度こそ殺されてしまうと身を震わせて涙を落した。
優しい婚約者は、どこか遠方に逃げる体力がつくまで匿ってあげることにした。
彼は同情心から親切にしていただけだが、ロザンナの方はどんどん婚約者に惹かれていくのが目に見えてわかった。
だから僕はロザンナにお願いをした。必要以上に近づかないように、そして元気になったのだから早く出て行くようにと。
ロザンナは涙を落としながら『そんなつもりはない、ただ感謝しているだけですから』と弁解したにもかかわらず、婚約者に意味もなく触れたり、甘えたりと距離を縮めていった。
挙句の果てに二人は不貞を働いた。彼の部屋を訪ねると二人で抱き合っていたのだ。
咎めるとロザンナは部屋を出ていき、婚約者は真っ青になって謝罪し、覚えていないと弁解をしたが許せなかった。
ショックと怒りでしばらく婚約者に会えなかったある日、用事で街に出た僕にロザンナが彼とのことで話があると話かけてきた。
あの時逃げたまま謝罪もしなかったロザンナはお腹をさすりながら『あんたじゃあの人の子供を産めないでしょ』と本性を見せ、僕にひどい言葉をぶつけてきた。
子供のことを言われ、一瞬動きを止めてしまった僕を『あんた邪魔なのよ』そう言って突き飛ばした。そのあとのことは……よくわからない。
そこからはずっと夢の中にいるような、まどろむようなはっきりとしない中、ただ婚約者のことだけを想っていた気がする。
そして、ある日はっきりと意識が戻ったと思ったら、見知らぬ街の窓から流れる星が見える宿にいたのだ。
目が覚めた時、涙があふれていた。
そして心配そうに見つめるフレデリクの姿が目に入った。
「大丈夫か?」
寝ながらも涙を落とすミシェルを痛ましそうにフレデリクは見つめていた。
「……お願いがあります。リシャール・シモンという方を調べていただけませんか?」
「リシャール・シモン? 誰だ? シモンってお前が行きたがっていたシモン領の?」
「……後できちんと説明します。だからお願いします」
「……わかった」
それから数日して、フレデリクは調査結果をミシェルに告げた。
「シモン家について調べてきた」
「ありがとうございます……それで……それでどうでしたか?」
聞きたそうな、しかし聞くのが怖そうな顔でミシェルはフレデリクを見た。
「リシャール・シモンは次期伯爵だったよ。数年前に婚約者を亡くされたらしい。それからは婚約者を決めず、仕事を頑張っておられるようだよ」
「そう……ですか。ありがとうございます」
ミシェルは両手で顔を覆って泣いた。
自分がいなくなったあと、ロザンナと結婚したわけではなかった。
あれから何があったのかは知らないけれど、少なくとも自分が死んだことを二人が喜び、結婚したわけではなかったことが分かっただけでも嬉しかった。
レオンの話を聞いたとき、もしかして相手はロザンナという女ではないかと思ったのだ。
そして風体とローズという似た名前を聞いて確信した。
「あんな遠い領地の貴族の事をなぜ知っていた? どうして調べて欲しかった?」
フレデリクの問いにミシェルは・・・いや、リアンは覚悟を決めた。
真実を話さなければならない。
「・・・僕はリアン・テリエと申します」
自分がミシェルという器に入る前の時の人生を。
自分には大好きな人がいた。彼は社交家で多くの人々と交流があった。
反して、どちらかと言えば大人しい方の自分は社交界で多くの人と話をする輝く彼にあこがれを抱いていた。
遠くから見るだけだったあこがれの人。そんな人があるパーティで話しかけてきた。
人込みから逃れてひっそりとした庭で一息ついていた時、『一緒にいい?』と隣に座ったのだ。
「ごめんね、ちょっと一息つきたいんだ。こうして二人でいたらさすがに突撃されないだろう?」
そういってにこりと笑いかけてくれた彼にその場で恋をしてしまった。
彼はそつなく社交界を渡っているように見えたが実際には、静かに過ごすほうが好きなのだという。それに自分に媚を売るものの多さに困っており、今日は耐えかねてここに逃げてきたのだという。
「君はよく一人でいるよね」
「知ってたんですか」
「うん。うらやましいと思ってみていた。ねえ、これからもこうしてパーティの時助けてくれないかな?」
「も、もちろんです」
そこから彼との付き合いが始まり、あれよあれよと婚約するまでなった。
幸せに暮らしていたが、ある日その婚約者となった彼が馬車で轢きそうになったという令嬢を連れてきた。
診察をすると馬車にひかれたわけではなく、疲労で倒れたらしい。話をよく聞くと暴力的な夫から食事もろくに与えてもらえず暴力を振るわれて逃げてきたという。
婚約者は気の毒に思い、身体が回復するまで養生させその後は教会に行くように言った。
しかしロザンナ・マネキンと名乗った女は以前に教会に逃げ込んで連れ戻されたことがあり、力のない教会では今度こそ殺されてしまうと身を震わせて涙を落した。
優しい婚約者は、どこか遠方に逃げる体力がつくまで匿ってあげることにした。
彼は同情心から親切にしていただけだが、ロザンナの方はどんどん婚約者に惹かれていくのが目に見えてわかった。
だから僕はロザンナにお願いをした。必要以上に近づかないように、そして元気になったのだから早く出て行くようにと。
ロザンナは涙を落としながら『そんなつもりはない、ただ感謝しているだけですから』と弁解したにもかかわらず、婚約者に意味もなく触れたり、甘えたりと距離を縮めていった。
挙句の果てに二人は不貞を働いた。彼の部屋を訪ねると二人で抱き合っていたのだ。
咎めるとロザンナは部屋を出ていき、婚約者は真っ青になって謝罪し、覚えていないと弁解をしたが許せなかった。
ショックと怒りでしばらく婚約者に会えなかったある日、用事で街に出た僕にロザンナが彼とのことで話があると話かけてきた。
あの時逃げたまま謝罪もしなかったロザンナはお腹をさすりながら『あんたじゃあの人の子供を産めないでしょ』と本性を見せ、僕にひどい言葉をぶつけてきた。
子供のことを言われ、一瞬動きを止めてしまった僕を『あんた邪魔なのよ』そう言って突き飛ばした。そのあとのことは……よくわからない。
そこからはずっと夢の中にいるような、まどろむようなはっきりとしない中、ただ婚約者のことだけを想っていた気がする。
そして、ある日はっきりと意識が戻ったと思ったら、見知らぬ街の窓から流れる星が見える宿にいたのだ。
目が覚めた時、涙があふれていた。
そして心配そうに見つめるフレデリクの姿が目に入った。
「大丈夫か?」
寝ながらも涙を落とすミシェルを痛ましそうにフレデリクは見つめていた。
「……お願いがあります。リシャール・シモンという方を調べていただけませんか?」
「リシャール・シモン? 誰だ? シモンってお前が行きたがっていたシモン領の?」
「……後できちんと説明します。だからお願いします」
「……わかった」
それから数日して、フレデリクは調査結果をミシェルに告げた。
「シモン家について調べてきた」
「ありがとうございます……それで……それでどうでしたか?」
聞きたそうな、しかし聞くのが怖そうな顔でミシェルはフレデリクを見た。
「リシャール・シモンは次期伯爵だったよ。数年前に婚約者を亡くされたらしい。それからは婚約者を決めず、仕事を頑張っておられるようだよ」
「そう……ですか。ありがとうございます」
ミシェルは両手で顔を覆って泣いた。
自分がいなくなったあと、ロザンナと結婚したわけではなかった。
あれから何があったのかは知らないけれど、少なくとも自分が死んだことを二人が喜び、結婚したわけではなかったことが分かっただけでも嬉しかった。
レオンの話を聞いたとき、もしかして相手はロザンナという女ではないかと思ったのだ。
そして風体とローズという似た名前を聞いて確信した。
「あんな遠い領地の貴族の事をなぜ知っていた? どうして調べて欲しかった?」
フレデリクの問いにミシェルは・・・いや、リアンは覚悟を決めた。
真実を話さなければならない。
「・・・僕はリアン・テリエと申します」
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