上 下
8 / 27

遭遇

しおりを挟む
 フレデリクは少しでも元気つけようとミシェルを行きつけのカフェに連れてきた。
 ミシェルが大好きだったお茶とロールケーキを出してくれるお店。記憶がなくとも、好きなものに触れることで心が少しでも癒されてくれないか思う。

「お兄様、とっても美味しかったです」
「そうか、よかった。帰りにクッキーを沢山買ってシモン領へもっていこうか」
 そういって、少し多めに焼き菓子を買って店を出た。
 店を出てすぐにとミシェルを呼ぶ声がした。
「ミシェル!!」
 フレデリクは眉を顰め、声のする方を見た。
「ああ、会いたかった! 本当に済まない! 頼む! 話を……一度でいいから聞いてくれないか!」
 レオンが必死の形相で懇願した。
 ミシェルはきょとんとした顔でレオンを見返した。代わりにフレデリクがレオンをにらみつける。
「あなたとはもう無関係ですよ。さ、ミシェル行こう」
「え? でも……」
「いいんだよ」

 フレデリクがミシェルの肩を抱えるようにしてそのまま進もうとしたとき、レオンは叫んだ。
「ミシェル聞いてくれ。彼女たちは暴力を振るう男から逃げていたんだ。それをかくまっていただけなんだよ。誓ってそれ以上の関係ではないんだ、だから……」
 フレデリクは珍しくちっと舌打ちをすると
「都合のいいことを言うな。もうお前たちの婚約は解消されている、これ以上付きまとわれるのは迷惑だ」
とレオンの言葉を遮った。
「ミシェル、こんな男の言葉を聞く必要はない」
 そしてミシェルを促そうとしたがミシェルは足を止めてレオンを凝視した。
「……暴力を振るう男?」
「ああ、そうなんだ! その男が付きまとっていたから夫婦のふりをしてあきらめさせようとしただけだ。頼む、ミシェル!」
「行くぞ、ミシェル!」
 だがミシェルはかぶりを振った。
「お兄さま……少しこの方のお話をききたい」
「ミシェル!」
 レオンは救われたように顔を輝かせた。
 反対にフレデリクは顔をゆがめる。
「もう少し詳しく教えてください」

 フレデリクは必死であの親子を助けた時の事を説明した。
 家事をしてくれることに甘えていた部分もあるが、匿う礼に家事をしてもらう契約のようなものだったと弁明した。
 虫のいい言い分にフレデリクは険しい顔をしたままだったが、ミシェルの方はどんどん顔色が悪くなっていった。
「大丈夫か? ミシェル?」
「は、はい。あの……その女性って……美人でしたか? 顔の色とか何か特徴は……」
「本当にそんなつもりじゃないから。彼女が美しいとかそんなことはなくて……」
「いいから特徴を教えてください!」
 ミシェルは強い言葉でレオンに詰め寄った。
 しかし言葉とは裏腹にその手は震えていた。
「ああ……。年は二十七歳で髪の色は赤みがかったブラウンだ。右目の下にほくろがあったが……名はローズという」
「ミシェル、そんな女のことを聞く必要はないだろう」
 しかしミシェルは身を震わせると、立っていられなくてしゃがみこんでしまった。
「ミシェル⁈」
「う、ううっ」
 身を震わせて涙を流し、うまく呼吸ができない様子のミシェルを抱き上げるとフレデリクは抱き上げて馬車を呼んだ。
「ミシェル! 本当にすまなかった! また話を……」
「二度とミシェルの前に姿を現すな!」
 フレデリクは馬車の中へミシェルを運んだ。
「ミシェル……。僕が必ず幸せにするから。もうあんな男のことなど忘れてしまえ」

 過呼吸を起して意識を失ったミシェル——血のつながらない大切な弟をフレデリクは抱きしめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...