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記憶喪失
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馬車は何事もなく順調に進んだ。
道中、ミシェルは窓の外を眺めながら、時折自分の顔を何か確かめるように触っていた。
「どうした?」
「……いえ。すいません」
会話もうまくかみ合わないミシェルに胸を痛めながら、今後についてフレデリクは考え込んだのだった。
そしてようやく家に到着すると両親が走ってきた。
「ミシェル! 大丈夫だったか⁈ 怪我はないか⁈」
フレデリクが早馬を頼んで、両親に事の次第をすでに報告していたのだ。
「ああ、ミシェル! よく無事で帰ってきてくれた」
父親のジルベールがミシェルを抱きしめたが、ミシェルは体をこわばらせて立ちすくんでいた。
「ミシェル? もう大丈夫よ? お母様もお父様もいるわ」
そう母が語りかけてもミシェルはうつむいたまま何も言わなかった。
「父上、母上。ミシェルは疲れていると思います」
「そ、そうだな。すまなかった。話はゆっくりと後で聞こう。まずはゆっくり休みなさい」
そういったが、ミシェルは一歩も動かなかった。
少し不安げに両親を見た後、フレデリクを見た。
「あ、あの……僕は……」
「どうしたミシェル?」
「……僕はミシェルというのですか?」
そう言って三人を驚愕させた。
フレデリクと両親はひとまず落ち着かなくてはとメイドにお茶の用意をさせると人払いをした。
「ミシェル、何も覚えていないのか? 私たちのことも?」
「……はい。申し訳ありません」
ミシェルは消え入るような声でうつむいた。
「昨日のことも……レオンのこともわからないか?」
「はい」
「そうか……」
父のジルベールは悲しそうに小さく息を吐きながら自分たちが両親であること、フレデリクが兄であると説明し、不安だろうがゆっくりと休むように言った。
「ありがとうございます」
「何があったのかフレデリクから説明してくれ。私たちも詳しく聞きたい」
「ええ、解りました。ミシェルは大丈夫かい? もし途中でつらいと思えばやめるから教えてくれ」
「……はい」
フレデリクは両親とミシェルに起こったここ数日のことを説明した。両親は怒りに顔をゆがめていたが。ミシェルはただ困惑するような顔をするだけだった。
「ミシェル、大変だったわね。あとのことは私たちに任せて頂戴。あなたは長旅で疲れているでしょうから少し休んだほうがいいわ」
「……はい、お母様」
自分の部屋がどこかもわからないミシェルを連れて行った母のエリーナは、ミシェルが横になるのを見届けるとリビングに戻ってきた。
「ミシェルは大丈夫だったか?」
「部屋に入っても他人の部屋のように見渡して、ベッドに寝るのも躊躇していたわ」
エリーナは涙をこらえる。
念のため、メイドたちにはミシェルを見ておくよう指示をしていた。
「実はな、フレデリクから手紙をもらった後、レオンとモンテ家からも手紙が届いた」
難しい顔をしてシルベールは言った。
「お前から早便をもらったときは、あのレオンがまさかと思ったが、本人から弁解の手紙が届いたんだ」
「なんといってきたのですか」
「誤解を解きたいから会いたいと」
フレデリクはふんと鼻で笑った。
「レオンは女性と並び、抱いていた子供が父と呼んでいたのですよ。おまけにミシェルの事をその子供に友達だと紹介したのです。ミシェルは見ていてかわいそうなほど泣き続けて……。私がもっとしっかりしていればミシェルが宿を抜け出してこんな目に遭うこともなかったのに。申し訳ありませんでした」
「いや、お前はよくやってくれたよ。無事に帰ってこれたのはフレデリクのおかげだ。それにしてもあの若造……ミシェルを大切にすると思ったから目をかけてやったのに。あの若造とミシェルは二度と会わせん」
「当たり前です。どのような弁解があろうとも許されるはずがない。父上、必ずこの婚約は解消して下さい」
「もちろんだ。任せておけ。この縁がもとでこちらから融資をしているのだからな。グダグダいうようならそれを引き上げる」
ジルベールとフレデリクは記憶を失ってしまったミシェルの代わりに怒りを倍増させるのだった。
道中、ミシェルは窓の外を眺めながら、時折自分の顔を何か確かめるように触っていた。
「どうした?」
「……いえ。すいません」
会話もうまくかみ合わないミシェルに胸を痛めながら、今後についてフレデリクは考え込んだのだった。
そしてようやく家に到着すると両親が走ってきた。
「ミシェル! 大丈夫だったか⁈ 怪我はないか⁈」
フレデリクが早馬を頼んで、両親に事の次第をすでに報告していたのだ。
「ああ、ミシェル! よく無事で帰ってきてくれた」
父親のジルベールがミシェルを抱きしめたが、ミシェルは体をこわばらせて立ちすくんでいた。
「ミシェル? もう大丈夫よ? お母様もお父様もいるわ」
そう母が語りかけてもミシェルはうつむいたまま何も言わなかった。
「父上、母上。ミシェルは疲れていると思います」
「そ、そうだな。すまなかった。話はゆっくりと後で聞こう。まずはゆっくり休みなさい」
そういったが、ミシェルは一歩も動かなかった。
少し不安げに両親を見た後、フレデリクを見た。
「あ、あの……僕は……」
「どうしたミシェル?」
「……僕はミシェルというのですか?」
そう言って三人を驚愕させた。
フレデリクと両親はひとまず落ち着かなくてはとメイドにお茶の用意をさせると人払いをした。
「ミシェル、何も覚えていないのか? 私たちのことも?」
「……はい。申し訳ありません」
ミシェルは消え入るような声でうつむいた。
「昨日のことも……レオンのこともわからないか?」
「はい」
「そうか……」
父のジルベールは悲しそうに小さく息を吐きながら自分たちが両親であること、フレデリクが兄であると説明し、不安だろうがゆっくりと休むように言った。
「ありがとうございます」
「何があったのかフレデリクから説明してくれ。私たちも詳しく聞きたい」
「ええ、解りました。ミシェルは大丈夫かい? もし途中でつらいと思えばやめるから教えてくれ」
「……はい」
フレデリクは両親とミシェルに起こったここ数日のことを説明した。両親は怒りに顔をゆがめていたが。ミシェルはただ困惑するような顔をするだけだった。
「ミシェル、大変だったわね。あとのことは私たちに任せて頂戴。あなたは長旅で疲れているでしょうから少し休んだほうがいいわ」
「……はい、お母様」
自分の部屋がどこかもわからないミシェルを連れて行った母のエリーナは、ミシェルが横になるのを見届けるとリビングに戻ってきた。
「ミシェルは大丈夫だったか?」
「部屋に入っても他人の部屋のように見渡して、ベッドに寝るのも躊躇していたわ」
エリーナは涙をこらえる。
念のため、メイドたちにはミシェルを見ておくよう指示をしていた。
「実はな、フレデリクから手紙をもらった後、レオンとモンテ家からも手紙が届いた」
難しい顔をしてシルベールは言った。
「お前から早便をもらったときは、あのレオンがまさかと思ったが、本人から弁解の手紙が届いたんだ」
「なんといってきたのですか」
「誤解を解きたいから会いたいと」
フレデリクはふんと鼻で笑った。
「レオンは女性と並び、抱いていた子供が父と呼んでいたのですよ。おまけにミシェルの事をその子供に友達だと紹介したのです。ミシェルは見ていてかわいそうなほど泣き続けて……。私がもっとしっかりしていればミシェルが宿を抜け出してこんな目に遭うこともなかったのに。申し訳ありませんでした」
「いや、お前はよくやってくれたよ。無事に帰ってこれたのはフレデリクのおかげだ。それにしてもあの若造……ミシェルを大切にすると思ったから目をかけてやったのに。あの若造とミシェルは二度と会わせん」
「当たり前です。どのような弁解があろうとも許されるはずがない。父上、必ずこの婚約は解消して下さい」
「もちろんだ。任せておけ。この縁がもとでこちらから融資をしているのだからな。グダグダいうようならそれを引き上げる」
ジルベールとフレデリクは記憶を失ってしまったミシェルの代わりに怒りを倍増させるのだった。
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