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婚約者に会いに行く
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「兄様、レオンびっくりするかな!」
王都に仕事に行く兄についてミシェルも一緒にやってきた。
一目でもレオンに会いたい、レオンに突然会いに行って喜ばせたい。そうわくわくした思いを胸いっぱいに、ミシェルは聞いていたレオンの住所にやってきていた。
「留守かな?」
「今日はお休みだと思ってたんだけど……しばらく待って駄目なら残念だけどあきらめる」
連絡もせず勝手に来たほうが悪いのだから。
「僕の仕事を済ませてまた後でくればいいよ」
一旦戻ろうと方向を変えた時に、その先にレオンの姿を見つけた。
ミシェルは満面の笑顔を浮かべかけたが、すぐに固まってしまった。
レオンも、ミシェルに気が付き顔をこわばらせている。
「どういうことだ」
兄のフレデリクが低い声で怒ったようにつぶやく。
レオンは小さな子を腕に抱き、隣には肉感的な女性が一緒に歩いていた。
「ミシェル……なぜ?」
思わずつぶやいたレオンにミシェルは何も言葉を返せずにいると
「おとうさま、おともだち?」
腕に抱かれた子供が無邪気にレオンに聞いた。
「あ……ああ。友人とその兄上だ」
焦ったようなレオンはミシェルとフレデリクに
「す、すぐに戻るから待ってて欲しい。頼む!」
そう言って、子供と女性を連れて家の中に入っていった。
しかし、レオンが急いで再び外に飛び出てきた時、もうそこには誰もいなかった。
「大丈夫か?」
「……」
ミシェルはこれ以上泣けないくらいに泣いて、兄のフレデリクに慰められていた。
今日中に仕事を終えて領地に戻る予定であったが、ミシェルの状態がひどすぎてフレデリクは宿を取った。
泣き疲れて眠ってしまったミシェルをベッドに寝かせると、レオンの言ったことを思い出し怒りが湧いた。
不貞を見られたのにも関わらず弁解することなく、ミシェルの事を友人と紹介した。レオンの本命はあちらということだ。レオンが王都に来てからの年数と子供の年が合わないが、もしかしたら学生時代から関係があったのかもしれない。
なぜ、婚約解消を求めてくれなかった。そうしてくれればミシェルをこれほど苦しめることはなかったのに。フレデリクはレオンに怒りを覚え、唇をかんだ。
フレデリクは夜になっても眠り続けているミシェルを起こした。
「昼も食べていないだろ?スープだけでも飲んだ方がいい」
フレデリクは宿に頼んで温かいスープを用意してもらった。
しかしミシェルは首を横に振った。
「……」
「さっき下で聞いてきたんだけど、今日はたくさん星が流れる日なんだって。遠い国では流れる星に願いをかけるおまじないがあるそうだよ。見てみない?」
ほとんどミシェルは反応をしてくれないが、フレデリクは窓を開けた。
ミシェルを空が見えるように座らせて、フレデリクも並んで座った。
「僕はミシェルが幸せになるよう願うよ」
空に尾を引いて流れる星を見てミシェルは、ただ涙を流していた。そんなミシェルを見守るしかないフレデリクは自分のふがいなさを情けなく思った。
結局スープも口にせず、ベッドに丸まってしまったミシェルを心配してフレデリクも同じ部屋のソファーで休むことにした。取り返しがつかないことにならないように目を離すのが怖かったのだ。
しかし、フレデリクも領地からの移動と仕事の疲れのためにうっかりとほんの少し眠ってしまった。はっと気が付いた時、空が少し明るくなってきていた。
ミシェルの様子を見るため、ベッドに近寄るとそこにはだれも寝ていないかのようにぺったりと布団が平らになっていた。勢いよく布団をめくるがそこには誰もいなかった。
「ミシェル⁈」
フレデリクは宿屋の受付へと急いだ。
「どなたかお願いします! こんな時間に申し訳ありません!」
フレデリクが大声で呼ぶと眠そうな顔をした男が頭を撫でつけながら出てきた。
「どうされました?」
「申し訳ない、ちょっと緊急で! 弟が……弟が行方不明なんです!」
「え? 弟さんが?」
受付の男はパチリと目が覚めたようだった。
「誰か出ていったとかわかりませんか? 外に警備の方とかいらっしゃいますか?」
男は首を振りながら警備はいるが、夜通し監視しているわけではないという。そういいながら玄関に移動して鍵がかかっているのを確かめる。
「鍵がかかっているし、ここからは出ていないようですよ。裏口は従業員の区域を通らないといけないので無理ですし宿の中にいるかもしれませんね。トイレやほかのところ探しました?」
受付の男はフレデリクの連れが成人前後の男だと知っているため、それほど焦っていない。眠れずちょっとうろついているくらいだと思っていた。
「トイレは探しました。他の場所は見ていませんが……。私は弟が……弟が命を絶つのではと心配しています」
「はぁ⁈ どういうことですか?」
「つらいことがあって食事もとれず、口も利かなくなって……見張っていたのですがついうっかり眠ってしまって」
フレデリクは悔やんで両の手を握りこむ。
受付の男も、フレデリクに抱えられるようにして部屋に向かったミシェルの姿を見ていた。
「そ、そういう事なら。お客さんは館内をお探しください。私は他の従業員を起してきますので!」
男のおかげで数人の従業員が手分けして館内を探してくれたが、どこにもミシェルはいなかった。ただ一つ、一階の空き部屋の窓の鍵が開いていた。
この窓から出ていったのか、もしくはあと可能性とすればどこか他の部屋に行ったのか、連れ込まれたか……と受付がうっかりと口を滑らせたばかりにフレデリクは血相を変えて近場の客室へ突撃しそうになった。
「お。お客さん! さすがに勘弁してください!」
受付の男は悲鳴を上げると、フレデリクを止めた。
「心配なのはわかりますが、どうかあと少しお待ちください! 朝になればすべての部屋を確認いたしますから!」
「そんな悠長なことを言っている間にミシェルに何かあればどうするんですか!」
フレデリクが詰め寄るが、ぐっすり眠っているであろう何の関係もない客の部屋に突撃するわけにはいかないのだ。受付の男は何とかフレデリクを押しとどめ、客が出立次第すべての部屋を調べてくれた。
それでもミシェルの姿はどこにもなく、見送った中に怪しい客もいなかった。
王都に仕事に行く兄についてミシェルも一緒にやってきた。
一目でもレオンに会いたい、レオンに突然会いに行って喜ばせたい。そうわくわくした思いを胸いっぱいに、ミシェルは聞いていたレオンの住所にやってきていた。
「留守かな?」
「今日はお休みだと思ってたんだけど……しばらく待って駄目なら残念だけどあきらめる」
連絡もせず勝手に来たほうが悪いのだから。
「僕の仕事を済ませてまた後でくればいいよ」
一旦戻ろうと方向を変えた時に、その先にレオンの姿を見つけた。
ミシェルは満面の笑顔を浮かべかけたが、すぐに固まってしまった。
レオンも、ミシェルに気が付き顔をこわばらせている。
「どういうことだ」
兄のフレデリクが低い声で怒ったようにつぶやく。
レオンは小さな子を腕に抱き、隣には肉感的な女性が一緒に歩いていた。
「ミシェル……なぜ?」
思わずつぶやいたレオンにミシェルは何も言葉を返せずにいると
「おとうさま、おともだち?」
腕に抱かれた子供が無邪気にレオンに聞いた。
「あ……ああ。友人とその兄上だ」
焦ったようなレオンはミシェルとフレデリクに
「す、すぐに戻るから待ってて欲しい。頼む!」
そう言って、子供と女性を連れて家の中に入っていった。
しかし、レオンが急いで再び外に飛び出てきた時、もうそこには誰もいなかった。
「大丈夫か?」
「……」
ミシェルはこれ以上泣けないくらいに泣いて、兄のフレデリクに慰められていた。
今日中に仕事を終えて領地に戻る予定であったが、ミシェルの状態がひどすぎてフレデリクは宿を取った。
泣き疲れて眠ってしまったミシェルをベッドに寝かせると、レオンの言ったことを思い出し怒りが湧いた。
不貞を見られたのにも関わらず弁解することなく、ミシェルの事を友人と紹介した。レオンの本命はあちらということだ。レオンが王都に来てからの年数と子供の年が合わないが、もしかしたら学生時代から関係があったのかもしれない。
なぜ、婚約解消を求めてくれなかった。そうしてくれればミシェルをこれほど苦しめることはなかったのに。フレデリクはレオンに怒りを覚え、唇をかんだ。
フレデリクは夜になっても眠り続けているミシェルを起こした。
「昼も食べていないだろ?スープだけでも飲んだ方がいい」
フレデリクは宿に頼んで温かいスープを用意してもらった。
しかしミシェルは首を横に振った。
「……」
「さっき下で聞いてきたんだけど、今日はたくさん星が流れる日なんだって。遠い国では流れる星に願いをかけるおまじないがあるそうだよ。見てみない?」
ほとんどミシェルは反応をしてくれないが、フレデリクは窓を開けた。
ミシェルを空が見えるように座らせて、フレデリクも並んで座った。
「僕はミシェルが幸せになるよう願うよ」
空に尾を引いて流れる星を見てミシェルは、ただ涙を流していた。そんなミシェルを見守るしかないフレデリクは自分のふがいなさを情けなく思った。
結局スープも口にせず、ベッドに丸まってしまったミシェルを心配してフレデリクも同じ部屋のソファーで休むことにした。取り返しがつかないことにならないように目を離すのが怖かったのだ。
しかし、フレデリクも領地からの移動と仕事の疲れのためにうっかりとほんの少し眠ってしまった。はっと気が付いた時、空が少し明るくなってきていた。
ミシェルの様子を見るため、ベッドに近寄るとそこにはだれも寝ていないかのようにぺったりと布団が平らになっていた。勢いよく布団をめくるがそこには誰もいなかった。
「ミシェル⁈」
フレデリクは宿屋の受付へと急いだ。
「どなたかお願いします! こんな時間に申し訳ありません!」
フレデリクが大声で呼ぶと眠そうな顔をした男が頭を撫でつけながら出てきた。
「どうされました?」
「申し訳ない、ちょっと緊急で! 弟が……弟が行方不明なんです!」
「え? 弟さんが?」
受付の男はパチリと目が覚めたようだった。
「誰か出ていったとかわかりませんか? 外に警備の方とかいらっしゃいますか?」
男は首を振りながら警備はいるが、夜通し監視しているわけではないという。そういいながら玄関に移動して鍵がかかっているのを確かめる。
「鍵がかかっているし、ここからは出ていないようですよ。裏口は従業員の区域を通らないといけないので無理ですし宿の中にいるかもしれませんね。トイレやほかのところ探しました?」
受付の男はフレデリクの連れが成人前後の男だと知っているため、それほど焦っていない。眠れずちょっとうろついているくらいだと思っていた。
「トイレは探しました。他の場所は見ていませんが……。私は弟が……弟が命を絶つのではと心配しています」
「はぁ⁈ どういうことですか?」
「つらいことがあって食事もとれず、口も利かなくなって……見張っていたのですがついうっかり眠ってしまって」
フレデリクは悔やんで両の手を握りこむ。
受付の男も、フレデリクに抱えられるようにして部屋に向かったミシェルの姿を見ていた。
「そ、そういう事なら。お客さんは館内をお探しください。私は他の従業員を起してきますので!」
男のおかげで数人の従業員が手分けして館内を探してくれたが、どこにもミシェルはいなかった。ただ一つ、一階の空き部屋の窓の鍵が開いていた。
この窓から出ていったのか、もしくはあと可能性とすればどこか他の部屋に行ったのか、連れ込まれたか……と受付がうっかりと口を滑らせたばかりにフレデリクは血相を変えて近場の客室へ突撃しそうになった。
「お。お客さん! さすがに勘弁してください!」
受付の男は悲鳴を上げると、フレデリクを止めた。
「心配なのはわかりますが、どうかあと少しお待ちください! 朝になればすべての部屋を確認いたしますから!」
「そんな悠長なことを言っている間にミシェルに何かあればどうするんですか!」
フレデリクが詰め寄るが、ぐっすり眠っているであろう何の関係もない客の部屋に突撃するわけにはいかないのだ。受付の男は何とかフレデリクを押しとどめ、客が出立次第すべての部屋を調べてくれた。
それでもミシェルの姿はどこにもなく、見送った中に怪しい客もいなかった。
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