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3話
しおりを挟む「ニクス、ニクス、」
男娼として生きるユキヒョウの少年は、上質なベッドで深く眠っていたところを名前を呼ばれながら優しく揺さぶられて目を覚ます。
知らない部屋と獅子の青年が目に飛び込んできて、一瞬考えて、昨晩を思い出した。そう、昨晩はこの筋骨隆々な獅子獣人の青年と、それはもう熱い夜を過ごしてそのまま彼のベッドで寝てしまったのだ。
「あ…おはようございます。」
身体は体液の跡でペタペタしている。
「おはよう。悪いな、後でゆっくり休んでいて良いから、とりあえず身体洗って朝飯食うぞ。」
ニクスは支えられながら起きて、彼に渡された簡素なローブを一枚羽織って彼についていく。大切な伴侶のように気遣ってくれるこの獅子獣人はこの国の次期国王。
その子種をたっぷり注がれた腹を撫でながら、逞しい二の腕を抱いて甘える。
彼の相手をすると主人に聞かされた時はさすがに肝を冷やした。しかし彼と夜を共にして、生まれて初めてこの体に生まれたことを嬉しく思ったのだった。
○○○
ユキヒョウ獣人のニクスは、元は田舎に住む普通の子供だった。どうやら由緒ある一族だったらしいが細かいことは忘れてしまった。
綺麗な薄灰色の毛が砂だらけになるまで友達と遊ぶような、ありふれた子供だった。
生活が変わったのは、ちょうど精通を迎えたくらいの頃だろうか。ある遊び仲間の一言だった。
……お前、雌みたいな匂いするな!
そのときに他意はなかっただろう。最初は、もう交際相手がいるのかとからかわられたが、嗅覚に優れた種族が異変に気づき始めたのだ。それは明らかに本人の匂いだと。そのことが親にまで知られると、その日から家に軟禁された。
両親が調べたところ、自分たちの一族にはごく稀に孕める雄が生まれることがあり、100年以上前に同じような体質の雄がいた際は神からの贈り物とされて一族の繁栄のために自由を奪われていたらしい。そして自分も同じ体質であると。
両親が自分を閉じ込めたのは、同年代の雌よりも強い匂いを放つ自分が厄介ごとに巻き込まれないようにするためと、念のため一族の古株に見つからないようにするためである。
周囲には重い病気になったと言いふらし、昼間ニクスは家に閉じこもり、窓には鎧窓がつけられた。そしてほとんど人通りがなくなった夜だけ家の庭に出て悲しげに少し離れた他の家の明かりや空を眺め、時折運動のためだと薪割りをさせられる。
弟が生まれたばかりだったこともあって両親はそっちにつきっきりになりニクスは孤独な日々を過ごす。外から以前遊んでいた友達の声が聞こえるたびに虚しくなる。
友達が見舞いと言って家に来ても、もちろん会うことはない。ニクスの身体の事実を知らなくとも、血縁者でない雄はその匂いで本能が理解してしまうからだ。
「にぃ、おそといきたい!」
「…ごめん、昼は外に行けないんだ。」
両親が仕事などでいない時は弟の面倒を任される。
「えぇ、でもにんぎょうはもうやだ、おそとがいい…」
孤独は紛れるが、また違う辛さがあった。家に閉じこもってしばらく経つと友人からの手紙の間隔が徐々に広がって、やがて届かなくなる。
家事だけが上達していく寂しい日々。時々熱くなって疼く身体にも悩まされる。思春期の雄らしく自慰しても、そこでは無い部分が疼くのだ。
自分は雄、自分は雄、そう言い聞かせるように夜な夜な力仕事をした。農具で武芸まがいなこともしたし、土嚢を背負って走りまわるようなこともした。
「くそっ…くそっ…!なんでこんなことに…」
鬱憤を晴らすように斧を振り下ろし薪を割る。引きこもって数年が経った。両親は弟を家に置いて行かなくなり、食事もニクスだけ自室で摂る。
「あいつが僕のことに気づかないようにするためだから…僕のためだから…」
弟が悪い影響を受けないように遠ざけているわけではないから。決して出来物扱いしているわけではないから。きっとそうだから、と必要以上に斧を振り被って叩きつける。
その手の斧を家族の寝室の窓に向かってぶん投げる、というイメージが頭の中に湧いて、荒くため息をつきながら散らばった薪を片付ける。
そして独り、部屋の布団にくるまった。尻尾が勝手に暴れている。よくあること。心情を表しているのだろうが、誘っているように見えるらしく、たまたま家族の前で荒々しく振っていると悪いものを見るような視線を送りながら弟が見ないように遠ざける。
実際、それは本当に身体が勝手に誘っているのかもしれなかった。
「あぁもう!!」
尻尾を股に挟んで押さえる。腹を殴る。頭を殴る。尻尾はむしろバタバタと抵抗し、挟んでいる足にはかなりの力が入っていた。
「ニクス、ニクス!」
「…何?」
ある日、やることがなく部屋で寝そべっているとノックもせずに父親が入ってきて、ドアに背中を向けながら険悪な声で返事をする。
「ニクス、お前に許嫁の申し入れだ!金持ちの家で、お前の身体のことも理解してくれた上でお前に嫁をくれるそうだ!」
数日後に家に現れたのは、絢爛な装束を身に纏った緑鱗の竜人の男だった。
つづく。
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