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1.Farewell to the Beginning
27:真意
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ミツコ視点
ムルト達が 接続してすぐ。
学園をすっぽり覆うほどの、
広大な 干渉波が一帯に掛けられた。
この時ミツコは、反AIについてのレポートと格闘していて、
異変には全く気付いていなかった。
ミツコはムルトが学園に入学してからは、
オーサ市内のマンションの一室に住んでいる。
兄であるセイジの過保護で、ムルトの周辺警護を言い渡されたからだ。
自分もその過保護な保護者の一員だったのもあって、快く受諾した。
もちろん本人には内緒である。
入学当初は良く学校の内外で会うこともあったが、
最近は何かと煙たがられ、よく視線が刺さるのも感じていた。
多感な時期と言うのもあるだろう。
あまり干渉しすぎるのも良くないかと考え、
夏のペンションを最後に顔を合わせていない。
時折 個別通信でやり取りするぐらいだ。
しかしこの対応。今にしてみれば、ただの怠慢だった。
この日も部下からの定時連絡を待ちながら、
作業と軽食を平行して消化していた。
1人、2人、3人。
順次連絡のあった部下をチェックしていく。
しかし10分待てど、最後の一人から 個別通信がこない。
こちらからの呼びかけにも応答がない。
流石におかしいと感じ、残っていた昼食を掻き込む。
ハムスタ―のように頬を膨らませるミツコに、それはきた。
《アネさん!遅くなってすんません!》
《いいわよ、落ち着いて。何があったの?》
《学園を囲うように、 干渉波が確認しました!!》
その瞬間口の中身を流し込もうと、水を口に含んでいたミツコは、
盛大に全てを噴き出した。
それはもう淑女らしからぬ声を上げて。
テーブル、ソファ、カーペット。
そこらじゅうに肉片が転がっている。
甘辛いソースの匂いが唯一の救いだろうか。
惨状を引き起こした本人は、
噎せ返りながらも、お構いなしに指示を出す。
《 干渉波ですって?あなたは発信源を追って。
後の3人にも 干渉波範囲外ギリギリで警戒するように伝えて。
私は内部で異常が無いか確認するわ。
あーあとUMC。念の為持っておいて》
こんなことなら今日も学園内に居るんだった。
後悔は一瞬。
今すべきことは一刻も早く学園に行き、彼の安否を確かめる事。
キョーコ姉さんの半身である彼を、殺させるわけにはいかない。
ミツコは視界に広がる光景に辟易しつつも、
足早に学園に向った。
◆
■セーシン学園内 コンソールルーム■
ミツコは到着するやいなや、すぐに園内を見て回った。
だが何の異変も無かった。
確かに 干渉波を一般市民が感知することは、ほどんどない。
個別通信を使わないからリングが通信不可でも、
ちょっとした電波障害、くらいにしか思わないだろう。
そもそも 干渉波と言うチップ機能を、
いったいどれだけの一般市民が、認識しているのだろうか。
そして起きるであろう事を想像すれば、いつも通りでは静かすぎるのだ。
一旦 干渉波の範囲外にでて部下と連絡も取ったが、
あやしい人、物。そういったものは感知できない。
部下をそのまま警戒に着かせ、ミツコはコンソールルームに入っていった。
OGであり、高い知名度と才色兼備なミツコが、
学園内に入ることを不思議がる者はいなかった。
時折女生徒の黄色い声が上がるくらいだ。
開錠し、手前のコンソールを覗き込むと静かに眠る3人を確認した。
ムルト、レオ、ジェナス。
全員息があることに、一先ず安堵する。
コンソールには 接続中の文字が点灯している。
恐らくいつものように 仮想で、模擬戦をやるつもりだったのだ。
しかし室内にあったはずの盗聴器は、全て取り外されている。
彼は盗聴器の有無には気付かなかったのだろうか?
ムルトから1カ月程前に、盗聴器についての報告は受けている。
今ここにきてるのもそれが目的のはずだ。
どちらにしろ、既に反AIの術中に嵌っている今、
それは大した問題じゃなくなっている。
今問題なのは、 仮想で 電磁妨害が敷かれていることだ。
この広範囲に 現実で展開されている 干渉波。
事を起こそうとしているのなら、 仮想にも 干渉波、
ないしは 電磁妨害が敷かれているはず。
仮想に潜ってからそこまで時間は経過していないはず。
干渉波であれば 個別通信ができなくとも、
接続解除は出来る。
仮想に潜ったままと言うことは 電磁妨害で、
まず間違いない。
電磁妨害の効果時間は長くて1時間。
多少前後するが長く見たほうがいいだろう。
一応解除できないこともない。
現実から上位権限を使って、
対 電磁妨害用の装置というものが存在するが、
高価すぎて一握りの人間しか持っていない。
ただ 仮想内からの解除は出来ない。
ミツコも、その辺の説明は兄のセイジから聞かされたことはあるが、
専門的過ぎて理解できなかった。
もちろんこの状況で、 現実肉体を狙われたら即終了。
おのずとミツコが部屋を離れることは許されなくなった。
マンションを出る前に兄のセイジに連絡はしたが、それがいつになるのか。
あまりもたもたしていると、先に反AIの一味が、
コンソール―ムに襲撃を仕掛ける可能性だって高まる。
流石に相手の規模もわからず、
守り切れるなんて言い切る程、ミツコは自信家ではなかった。
今はここの安全を維持することが優先ね。
コンソールを覗けばムルトが静かに息をしている。
「死ぬんじゃないわよ、ムルト」
誰に聞こえるかもわからない声で呟いた。
反応するはずもないムルトの頬には、一筋の光が零れ落ちた。
◆
■セーシン学園内 出発地点■
無意識のうちに、自分が涙を流していることに気づいた。
それは、
有り得ない光景を目にしたからなのか。
自分と向き合っている人物が、敵対している組織の人間だったからなのか。
「フロ・・・ス?」
相対している黒い 擬人装甲の存在を忘れたように、
フロスを見て放心している。
そんなレオをジェナスがカバーリングしていたが、
黒い 擬人装甲も手が止まっていた。
「あ~あ~。困りましたねえ。顔が割れちゃこの先仕事にならないでしょう」
「目撃者がいなければ問題ないでしょう?
私に構ってる暇があったら早く片付けて、手伝ってくれないかしら?」
片づける?
何言ってんだフロス。
「アハハハ。何言ってるんですか?
同じ組織に籍を置いているだけの関係でしょう?
馴れ馴れしくしないでいただきたいですね。
大した力もない小娘の分際で!!」
だめだ、思考が止まる。
なにから聞けばいいかわからない。
「フロス、お前 擬人装甲持ってないって。
それになんでそいつと一緒に居るんだよ。
なあ・・・・なんでだよぉ。こたえてくれよおおおお!!」
代わりに疑問をぶつけてくれたレオ。
だが彼の声から、涙は隠せていなかった。
そして涙を流すレオは、返ってくる答えもわかっていたんだと思う。
だから泣いたんだ。
「聞かなくてもわかってるんでしょ。ご想像の通り、私は反AIのスパイよ。
擬人装甲は最初から持ってたし、
コンソールルームに盗聴器を仕掛けたのも私。
全部 第5世代を手に入れる為よ」
聞きなれない単語に、ジェナスとレオは固まっていた。
何となく次世代のチップなのはわかってはいるはずだ。
だがここ数十年、一向に音沙汰の無い新型チップであろうその名称を、
聞いたところでだ。
それが何を意味するのか、理解はできないだろう。
そして二人のリアクションは同時に、
ターゲットが俺に絞られたことを意味する。
瓦礫をどけながらフロスが立ち上がる。
彼女の綺麗な銀髪は、半分を薄紅色に染めていた。
俺は攻撃に対処するべく、構えるはずだった。
だが大手を振って阻害してくる思考が、俺の体を動かすことはなかった。
対峙した時の『殺してでも・・・』という決意は簡単に砕け散り、
大切な友人の彼女であるフロスにどう対処すべきか。
考えるだけ無駄だった。
フロスは殺せない。
今にも攻撃を仕掛けてきそうなフロスに対して、床に視線を送る。
どうすればいい。
答えの見つからない俺を叩き起こすように、
その声は俺を呼んだ。
「ムルトオオ!!」
装甲を貫く不快な音が 劈いた。
何か、
何かが 擬人装甲を引き裂いた。
幸いなことに痛みはなかった。
重みのある音がして、視界に何かが入ってきた。
見覚えのある赤い紋様を刻んだそれは、
レオの左腕だった。
「なに、ぼさっと、してやがる」
「レオ、お、お前。なにやって―――」
レオの左腕を刈り取り、そのまま左胸に突き刺さったシャムシール。
それは剣身を赤く染め上げ、ゆっくりと引き抜かれていく。
その動きに合わせて吐血したレオは、
擬人装甲の傷口や顔の辺りから血を流している。
傷口の中央からは、白い硬質の物体を覗かせていた。
現実と遜色ないであろう光景は、
容赦無く俺に事実だけを叩きつける。
多分レオが居なければ、俺の首が代わりに転がっていたのだろう。
元々が赤に近いレオの 擬人装甲は、
更に濃く、深紅に上書きされていく。
「レオオオオオ!!」
ジェナスの咆哮虚しく、レオは力なく俺に倒れ掛かった。
俺に抱き抱えられたレオの 擬人装甲が床に溶けていく。
「馬鹿野郎!なにやってんだよぉ」
「なにって、助け、るために、決まって、んじゃ、ん」
途切れ途切れのその言葉になんと返せばいいのか。
ただただ涙があふれた。
吐血を繰り返し、傷口から流れる血の量が、レオの寿命をカウントしていた。
自分の不甲斐なさ。
あんなに一途なレオをあっさりと手に掛けたフロス。
そしてあんなに仲の良いカップルだった二人の幕引きに、
例えようのない負の感情が俺を包んでいく。
「フハハハ。婚約者をその手に掛けるなんて。やるじゃないですかフロス。
ではこちらも再開と行きましょうかねえ?」
「くっ、ムルト!しっかりしてよ!」
黒い 擬人装甲は素顔が見えなくとも、満面の笑みを浮かべている。
愉悦が声から駄々洩れていた。
そして焦るジェナスの声は俺に届いていなかった。
「ムル、ト。俺の事は、気に、するな。フロスとは、後で仲、直り。
するから、さ」
フロスはレオを抱く俺をただ見つめているようだった。
「負けんじゃ、ねえ、ぞ。不敗の、 鍵付き」
彼の全身は力なく、俺の手から零れ落ちていった。
ムルト達が 接続してすぐ。
学園をすっぽり覆うほどの、
広大な 干渉波が一帯に掛けられた。
この時ミツコは、反AIについてのレポートと格闘していて、
異変には全く気付いていなかった。
ミツコはムルトが学園に入学してからは、
オーサ市内のマンションの一室に住んでいる。
兄であるセイジの過保護で、ムルトの周辺警護を言い渡されたからだ。
自分もその過保護な保護者の一員だったのもあって、快く受諾した。
もちろん本人には内緒である。
入学当初は良く学校の内外で会うこともあったが、
最近は何かと煙たがられ、よく視線が刺さるのも感じていた。
多感な時期と言うのもあるだろう。
あまり干渉しすぎるのも良くないかと考え、
夏のペンションを最後に顔を合わせていない。
時折 個別通信でやり取りするぐらいだ。
しかしこの対応。今にしてみれば、ただの怠慢だった。
この日も部下からの定時連絡を待ちながら、
作業と軽食を平行して消化していた。
1人、2人、3人。
順次連絡のあった部下をチェックしていく。
しかし10分待てど、最後の一人から 個別通信がこない。
こちらからの呼びかけにも応答がない。
流石におかしいと感じ、残っていた昼食を掻き込む。
ハムスタ―のように頬を膨らませるミツコに、それはきた。
《アネさん!遅くなってすんません!》
《いいわよ、落ち着いて。何があったの?》
《学園を囲うように、 干渉波が確認しました!!》
その瞬間口の中身を流し込もうと、水を口に含んでいたミツコは、
盛大に全てを噴き出した。
それはもう淑女らしからぬ声を上げて。
テーブル、ソファ、カーペット。
そこらじゅうに肉片が転がっている。
甘辛いソースの匂いが唯一の救いだろうか。
惨状を引き起こした本人は、
噎せ返りながらも、お構いなしに指示を出す。
《 干渉波ですって?あなたは発信源を追って。
後の3人にも 干渉波範囲外ギリギリで警戒するように伝えて。
私は内部で異常が無いか確認するわ。
あーあとUMC。念の為持っておいて》
こんなことなら今日も学園内に居るんだった。
後悔は一瞬。
今すべきことは一刻も早く学園に行き、彼の安否を確かめる事。
キョーコ姉さんの半身である彼を、殺させるわけにはいかない。
ミツコは視界に広がる光景に辟易しつつも、
足早に学園に向った。
◆
■セーシン学園内 コンソールルーム■
ミツコは到着するやいなや、すぐに園内を見て回った。
だが何の異変も無かった。
確かに 干渉波を一般市民が感知することは、ほどんどない。
個別通信を使わないからリングが通信不可でも、
ちょっとした電波障害、くらいにしか思わないだろう。
そもそも 干渉波と言うチップ機能を、
いったいどれだけの一般市民が、認識しているのだろうか。
そして起きるであろう事を想像すれば、いつも通りでは静かすぎるのだ。
一旦 干渉波の範囲外にでて部下と連絡も取ったが、
あやしい人、物。そういったものは感知できない。
部下をそのまま警戒に着かせ、ミツコはコンソールルームに入っていった。
OGであり、高い知名度と才色兼備なミツコが、
学園内に入ることを不思議がる者はいなかった。
時折女生徒の黄色い声が上がるくらいだ。
開錠し、手前のコンソールを覗き込むと静かに眠る3人を確認した。
ムルト、レオ、ジェナス。
全員息があることに、一先ず安堵する。
コンソールには 接続中の文字が点灯している。
恐らくいつものように 仮想で、模擬戦をやるつもりだったのだ。
しかし室内にあったはずの盗聴器は、全て取り外されている。
彼は盗聴器の有無には気付かなかったのだろうか?
ムルトから1カ月程前に、盗聴器についての報告は受けている。
今ここにきてるのもそれが目的のはずだ。
どちらにしろ、既に反AIの術中に嵌っている今、
それは大した問題じゃなくなっている。
今問題なのは、 仮想で 電磁妨害が敷かれていることだ。
この広範囲に 現実で展開されている 干渉波。
事を起こそうとしているのなら、 仮想にも 干渉波、
ないしは 電磁妨害が敷かれているはず。
仮想に潜ってからそこまで時間は経過していないはず。
干渉波であれば 個別通信ができなくとも、
接続解除は出来る。
仮想に潜ったままと言うことは 電磁妨害で、
まず間違いない。
電磁妨害の効果時間は長くて1時間。
多少前後するが長く見たほうがいいだろう。
一応解除できないこともない。
現実から上位権限を使って、
対 電磁妨害用の装置というものが存在するが、
高価すぎて一握りの人間しか持っていない。
ただ 仮想内からの解除は出来ない。
ミツコも、その辺の説明は兄のセイジから聞かされたことはあるが、
専門的過ぎて理解できなかった。
もちろんこの状況で、 現実肉体を狙われたら即終了。
おのずとミツコが部屋を離れることは許されなくなった。
マンションを出る前に兄のセイジに連絡はしたが、それがいつになるのか。
あまりもたもたしていると、先に反AIの一味が、
コンソール―ムに襲撃を仕掛ける可能性だって高まる。
流石に相手の規模もわからず、
守り切れるなんて言い切る程、ミツコは自信家ではなかった。
今はここの安全を維持することが優先ね。
コンソールを覗けばムルトが静かに息をしている。
「死ぬんじゃないわよ、ムルト」
誰に聞こえるかもわからない声で呟いた。
反応するはずもないムルトの頬には、一筋の光が零れ落ちた。
◆
■セーシン学園内 出発地点■
無意識のうちに、自分が涙を流していることに気づいた。
それは、
有り得ない光景を目にしたからなのか。
自分と向き合っている人物が、敵対している組織の人間だったからなのか。
「フロ・・・ス?」
相対している黒い 擬人装甲の存在を忘れたように、
フロスを見て放心している。
そんなレオをジェナスがカバーリングしていたが、
黒い 擬人装甲も手が止まっていた。
「あ~あ~。困りましたねえ。顔が割れちゃこの先仕事にならないでしょう」
「目撃者がいなければ問題ないでしょう?
私に構ってる暇があったら早く片付けて、手伝ってくれないかしら?」
片づける?
何言ってんだフロス。
「アハハハ。何言ってるんですか?
同じ組織に籍を置いているだけの関係でしょう?
馴れ馴れしくしないでいただきたいですね。
大した力もない小娘の分際で!!」
だめだ、思考が止まる。
なにから聞けばいいかわからない。
「フロス、お前 擬人装甲持ってないって。
それになんでそいつと一緒に居るんだよ。
なあ・・・・なんでだよぉ。こたえてくれよおおおお!!」
代わりに疑問をぶつけてくれたレオ。
だが彼の声から、涙は隠せていなかった。
そして涙を流すレオは、返ってくる答えもわかっていたんだと思う。
だから泣いたんだ。
「聞かなくてもわかってるんでしょ。ご想像の通り、私は反AIのスパイよ。
擬人装甲は最初から持ってたし、
コンソールルームに盗聴器を仕掛けたのも私。
全部 第5世代を手に入れる為よ」
聞きなれない単語に、ジェナスとレオは固まっていた。
何となく次世代のチップなのはわかってはいるはずだ。
だがここ数十年、一向に音沙汰の無い新型チップであろうその名称を、
聞いたところでだ。
それが何を意味するのか、理解はできないだろう。
そして二人のリアクションは同時に、
ターゲットが俺に絞られたことを意味する。
瓦礫をどけながらフロスが立ち上がる。
彼女の綺麗な銀髪は、半分を薄紅色に染めていた。
俺は攻撃に対処するべく、構えるはずだった。
だが大手を振って阻害してくる思考が、俺の体を動かすことはなかった。
対峙した時の『殺してでも・・・』という決意は簡単に砕け散り、
大切な友人の彼女であるフロスにどう対処すべきか。
考えるだけ無駄だった。
フロスは殺せない。
今にも攻撃を仕掛けてきそうなフロスに対して、床に視線を送る。
どうすればいい。
答えの見つからない俺を叩き起こすように、
その声は俺を呼んだ。
「ムルトオオ!!」
装甲を貫く不快な音が 劈いた。
何か、
何かが 擬人装甲を引き裂いた。
幸いなことに痛みはなかった。
重みのある音がして、視界に何かが入ってきた。
見覚えのある赤い紋様を刻んだそれは、
レオの左腕だった。
「なに、ぼさっと、してやがる」
「レオ、お、お前。なにやって―――」
レオの左腕を刈り取り、そのまま左胸に突き刺さったシャムシール。
それは剣身を赤く染め上げ、ゆっくりと引き抜かれていく。
その動きに合わせて吐血したレオは、
擬人装甲の傷口や顔の辺りから血を流している。
傷口の中央からは、白い硬質の物体を覗かせていた。
現実と遜色ないであろう光景は、
容赦無く俺に事実だけを叩きつける。
多分レオが居なければ、俺の首が代わりに転がっていたのだろう。
元々が赤に近いレオの 擬人装甲は、
更に濃く、深紅に上書きされていく。
「レオオオオオ!!」
ジェナスの咆哮虚しく、レオは力なく俺に倒れ掛かった。
俺に抱き抱えられたレオの 擬人装甲が床に溶けていく。
「馬鹿野郎!なにやってんだよぉ」
「なにって、助け、るために、決まって、んじゃ、ん」
途切れ途切れのその言葉になんと返せばいいのか。
ただただ涙があふれた。
吐血を繰り返し、傷口から流れる血の量が、レオの寿命をカウントしていた。
自分の不甲斐なさ。
あんなに一途なレオをあっさりと手に掛けたフロス。
そしてあんなに仲の良いカップルだった二人の幕引きに、
例えようのない負の感情が俺を包んでいく。
「フハハハ。婚約者をその手に掛けるなんて。やるじゃないですかフロス。
ではこちらも再開と行きましょうかねえ?」
「くっ、ムルト!しっかりしてよ!」
黒い 擬人装甲は素顔が見えなくとも、満面の笑みを浮かべている。
愉悦が声から駄々洩れていた。
そして焦るジェナスの声は俺に届いていなかった。
「ムル、ト。俺の事は、気に、するな。フロスとは、後で仲、直り。
するから、さ」
フロスはレオを抱く俺をただ見つめているようだった。
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