Tantum Quintus

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1.Farewell to the Beginning

26:愛する者は

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■セーシン学園内  出発地点デパーチャー


「がはあっ!」

吹っ飛んだレオをジェナスが受け止める。

「大丈夫?レオ」

「あっぶねー。咄嗟に後ろに飛んでこれかよ。サンキューな!」

蹴られた二の腕を摩りながらレオは、次の攻撃に備える。
とりあえず死なないでくれればいい。
俺が目の前の 擬人装甲マプスを戦闘不能にすれば3対1。
多少なりとも勝機が見えてくるはずだ。

最も目の前の女が、そう簡単にやられる玉じゃない。
初見の相手の出方を見る俺の悪い癖も手伝って、
さっきから防戦一方。
手数が多すぎる。
そして俺の動きが、読まれてる気がする。

「くっ」

斬撃、刺突、シールドでの打撃。
その合間を縫って繰り出す俺のカウンターは、
虚しく空を切る。
思考を読んでるのかと疑いたくなるくらいだ。


っ、やべえ!


俺の左アッパーカウンターへの、更なるカウンター。
シールドバッシュで体制を崩されたところに、
胴への強烈な突き。
皮一枚、マプスの装甲に浅い傷が入ったが、上半身を後方へ逸らし、
そのままの勢いで、バック転で距離を取る。

「ふう」

何故かわからないが、
模擬戦で使っていたパターンのうち、8割は読まれている。
残り2割はバックラーが邪魔で、このままだと打つ手がない。
となると、全てアドリブでコンビネーションを考えないとダメか。

相手の攻撃を躱すことは出来ているが、
援護も増援も期待できないこの状況。
打開策は自分で見つけねばならない。
全く骨の折れる相手だ。

視界の端ではジェナスとレオが、
真っ黒な 擬人装甲マプスを相手に苦戦している。
私服も 擬人装甲マプスも黒一色。
13、4歳の時に患う病を引きずっているのだろうか。

しかし見立て通り。
あの男は俺が相手している女より、ワンランク上のようだ。
レオの攻撃を難なく受け流し、カウンターを倍の手数で入れてくる。
ジェナスのサポートが無ければ、と考えるとゾッとする。
下手すればレオは今頃、その辺に転がっているかもしれない。
かといって、ジェナスの火力で押し切れるほど、甘くはない。
レオのサポートからの強烈なカウンターを、事も無げに対処している。

わかってはいたが、このままでは非常に不味い。
ほぼクリティカルな攻撃しかしてこない相手に、
神経をすり減らしながらギリギリのところで対応し、踏ん張っている。
ただ、踏ん張っている。
それだけだ。
決め手に欠ける俺達がこのまま時間を掛ければ、
勝機が完全に消え失せるのは、誰が見ても明らかだ。

賭けに出るしかないか。

俺の攻撃は何故か、ほとんど読まれている。
だが同時に、この戦闘中に女の攻撃パターンが読めてきた。
女はシャムシールとバックラー、それ以外の攻撃をしてこない。
武器を持っていようが、蹴りは繰り出せるし、
何なら頭突きでも出来ようものだ。
確かに両手の攻撃は手数が多く、隙はない。
ただよく動くのは、上半身だけ。
戦い方がお上品なのだ。
お留守になっている下半身、そこを突く。

真っ黒な 擬人装甲マプスを気にしていた女型の 擬人装甲マプスだったが、、
俺の接近に気づくと先手を打ってくる。
鋭い顔面への刺突は、皮一枚かすめる。
 擬人装甲マプスと剣の摩擦が、
 俺の頬骨の辺りで火花を散らす。
お構いなしに放つ俺の顔面目掛けた右ストレートは、
もちろんバックラーによって防がせる。
しかし俺の狙いは顔じゃない。

「!!」

バックラーで顔を防がせることにある。
お留守になった左足を掴みに行く、俺の右手。
刺突から戻り切らない右手。
ストレートを防ぐために、顔付近にまで上げた盾。
咄嗟に出たのだろう。

そのバックステップは予想の範囲内だ。

先程まではバックラーで受け止めて、
カウンターを入れていたのだ。
知らないパターンであれば、その行動も頷ける。
だが距離を取って体勢を立て直す?

残念。

バックステップに合わせて前方へのダッシュ。
女とのレンジは変わらない。
変えさせない。

「ガハァッ!」

ダッシュのスピードを上乗せした俺の左足は、
女の急所にクリーンヒットした。
頭部や胸の急所は、バックラーが近すぎる。
頭上へ向かって振りぬいた蹴りは、
天井を仰ぐ前に女の股間にめり込む。
性別が違えど急所の場所は変わらない。

蹴りがヒットした周辺の装甲は、プレス機で潰されるように、
メリメリと音を立てるかの如く、俺の脚をめり込ませていく。
悶絶する女の体がくの字に折れる。

「最高のポジションだぜ?そこ」

俺の一言に反射的に顔を上げてしまう女型。
鳩尾の高さまで下がってきた頭部に、
渾身の正拳突きが突き刺さる。
粉々に砕け散る顔面の装甲から、銀色に光るものが垣間見え、
女は 出発地点デパーチャーの壁に激突した。




「・・・冗談だろ」



一瞬見間違いだと思った。



「・・・なんで」



床にうずくまる女の顔は、じわじわと鮮血で染められていく。



女はうずくまったまま、顔をこちらに向ける。



「なにやって、――――」



早くとどめを刺せよ、俺。
まだ黒服が残ってる。
2人に加勢してなんとか 現実リアルに戻らないと。











「―――っにやってんだよおおおお!!!」



俺の悲痛な叫びは横で戦っていた3人の動きも止めた。












「痛いじゃない」









―――、フロスだった。
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