Tantum Quintus

Meaningless Name

文字の大きさ
上 下
26 / 35
1.Farewell to the Beginning

25:そして全ては策略のままに

しおりを挟む
新延暦 520年 12月 7日


■セーシン学園内■

 空が白い。
舞う粉は音もなく俺の頬に触れ、
音もなく溶けていく。

「へっきし!」

・・・芸人かお前は。

レオのくしゃみがツッコミを誘発させる。
俺の脊髄反射と言う名の琴線に、ダイレクトアタックだ。

「雪が降ると一段と寒いねえ」

そういうジェナスは上はTシャツ、下はハーフパンツだった。

「その格好で言われてもなあ」

俺の呆れたツッコミにジェナスは少し小さくなった。
もちろん寒さの影響ではない。

そろそろ学期末。
そして年末を迎えるころ。
午後の授業が無いのをいいことに、俺達は3人は珍しく、
コンソールルームへ足を運んでいた。
屋外に出る渡り廊下は、容赦なく北風が吹きつけてくる。
さっさと風から逃げようと足早に部屋に入ると、珍しく先客がいた。

「どうした?フロス」

「あれ、ペイディ君は今日は一緒じゃないのね?」

レオが約束でもすっぽかしたのかと思ったが、違うらしい。
彼氏の問いかけに意外な答えが返ってきて、
俺とジェナスは何事かわからず顔を見合わせた。

「ペイディならまだ授業中じゃないか?2,3年は午後の授業ないけど」

「そうだったのね」

ペイディに用があるなんて珍しいな。
普段会話してるところなんて見ないし、まして学年も違うから余計だ。

「なんかあった?何なら一声かけておくけど」

「いいえ、急用ではないから大丈夫よ」

それではごゆっくり~と、言いそうな表情を残して、
フロスは部屋を後にした。

何の用事だったんだ?
珍しいこともあってか、少し気になった。
まあでも、急ぎならリングで呼んでるはずか。

「時間あるんだったら見学してもらえばよかったじゃんか」

「勘弁してくれよ、彼女の前でボコボコにするとか、ただの嫉妬じゃねーか」

ジェナスの提案はあっさり却下されてしまった。
俺としてもフロスが見に来てくれると助かるのだが。

と言うのも、以前に計画したフロスの模擬戦見学会。
2学期に入ってから実行に移したが、確実に成果を出していた。
最近ではジェナスとそこそこ渡り合えるくらいにはなっている。
まだ遠距離相手には手こずってはいるが、
ペイディともそのうち互角にやりあえるだろう。
レオにしてみれば罰ゲームをやらされてる感覚かもしれないが、
結果強くなるなら、使わない手はない。

その相乗効果なのか、
全員が確実に強くなっていくのが、日に日に実感できた。

レオは 肉体強化ビルドアップが以前に比べ強力になり、
模擬戦での 具現化ヴィデートの使用頻度の多さが起因してか、
生成までの速度が段違いだ。
相変わらず棒術自体は、ぼちぼちと言ったところだが。

ジェナスは最近になって 結界アミナを 解除アンロックしたらしく、
ただでさえ堅い防御をさらに強固に変えていった。
正直俺じゃ崩すことは不可能に近かった。
一時期 具現化ヴィデートの 解除アンロックにも試みたみたいだが、
本人も乗り気でなかったせいか、失敗に終わった。

最後にペイディ。彼に関してはあまり言う事が無い。
遠距離に関して俺が口を出せるような、低いレベルでもないし。
なんというか、戦闘におけるセンスが俺達とは段違いだった。
近接戦は完全に捨てたペイディは、
依然と比べ遠距離戦での手数が1.2倍程に増えた。
さらに 肉体強化ビルドアップも距離を取る為の手段として、
手を抜かずに鍛錬していた。

そんな3人を羨望の眼差しで見続けている俺は、
未だに 解除アンロックできないでいた。
まだレオに負けるほどではなかったが、
ジェナスの防御を突破する手段が無く、
ペイディには距離を詰め切れず。
最近はもっぱらレオの相手ばかりだった。

もちろん嫌々ではない。
日々強くなっていくレオを見るのは楽しかった。
同時にジェナスとペイディにおいていかれ、
そのうちレオにも、と考えると泣きたくなった。

現状で4人の戦闘力の序列は、

ジェナス≧ペイディ>>俺>レオ

こんな感じだろうか。
いつになったら 第5世代フィフスは、
永い眠りから覚めてくれるんだろうか。

「サクッとご飯食べて 接続コネクトしようよ」

「そうだな。そろそろムルトと互角にやれそうだし、今日こそは勝つぜ!」

去年の夏だったら、10年はえーんだよ!って言えたんだが。
肩身が狭い思いは、この先更に加速しそうだ。

ジェナスに催促され、
簡易テーブルを用意して、大量のパンを3人で口に押し込む。

それにしても、ここに来るのは久しぶりだ。
前回来たのは1ヶ月程前。
UMCが手に入ってからというもの、
徐々にこの部屋に来る回数も、少なくなって久しい。
ペイディに教えてもらった盗聴器の件もあるので、
時折訓練のついでで、覗きに来るようにはしていが。
もちろん4人でだ。
夏にペンションに泊まった際に、ペイディにもUMCを渡しておいた。

今日も午後の授業が1、2限残ってるだろうし、
1時間くらい一緒にできればいいほうかな。

パンを頬張り終えた俺たちは、
口を動かしながら、1カ月振りのメダーラケーブルで、
 接続コネクトを始める。

そして 仮想バーチャルに意識を持っていかれる寸前、
俺はあることに気づく。













盗聴器が無い。









■セーシン学園内  出発地点デパーチャー


「ジェナス!、レオ! 接続解除ディスコネクトだ!」

「え?」

「なんでだよ、今来たとこだぜ?しょんべんか?」

んなわけあるか!さっき連れションに誘ったの、お前だぞ?!

心のツッコミを口に出す暇はなかった。
 出発地点デパーチャーに下り立つなり声を張る俺を、
不思議そうに見る二人。
当然だ、盗聴器の件に関して、二人に話していない。
そして説明してる暇はない。

「わりい、説明する時間も惜しいんだ!
 今すぐ 接続解除ディスコネクトしてくれ!」

「ムルト、駄目だ」

食い気味に否定したジェナスの顔は、
初めて見る顔をしていた。
極度の緊張と恐怖から、血の気が引いているのがわかる。
ジェナスはこの後の展開が、予測できているようだ。

「 電磁妨害ジャミングが・・・貼られてる」

ちくしょう、遅かったか。
周りを見渡しても、いつもの 出発地点デパーチャーだ。
油断はできないが、すぐに生死を彷徨う状況ではない。

「 電磁妨害ジャミングって。
 それじゃ 接続解除ディスコネクトできねーじゃん!」

レオに言われるまでもなく、そんなことわかってる。
 接続解除ディスコネクトは諦めて、
上位権限も確認したが、リミッターが外されている。
既学園内のセキュリティは突破されて、丸々掌握されているんだろう。
 電磁妨害ジャミングのせいで、 個別通信チャネルも使えない。



最悪の展開だ。


何の為に部屋に顔を出していたんだ俺は。
盗聴器の有無が本命だろうに。
最近コンソールルームに行く機会も減っていたとはいえ。
事もあろうかそれを失念し、 接続コネクト直前に気づくとか。

だが余韻に浸っている暇はない。
もうすぐ戦場になるであろう、ここに留まるべきか。
別の 箱庭クラスに移動するべきか。

その前にやるべきことがあったのを思い出す。

一つ深呼吸して心拍数を下げ、
二人に現在俺たちの置かれている状況と、
盗聴器の件をかいつまんで説明した。

「なんでそんなもんが学園の中にあんだよ」

「俺が聞きてーよ」

わりい、レオ。 第5世代フィフスの事は流石に話せねえ。
巻き込んじまったら申し訳ないしな。
いや、既に遅いか。

「で、この後どうする?ムルト。
 このままここに残るか。
 それとも別の 箱庭クラスに移動するか」

学園TOP3の秀才はよくわかってらっしゃる。
1から10まで全部ひとりで解説するのは、流石に骨が折れる。

「よし。試しに隣の 箱庭クラスに移動しt」

言い切る前に怒号と爆風で俺の言葉がかき消される。

轟音と共に、
 箱庭クラスや 出発地点デパーチャーを繋ぐドアの一部が、吹き飛んだ。

二人か?

逆行から2つのシルエットが、こちらに歩いてくる。

「二人とも、 擬人化ニウマプスしろ。
 先手を取られたみたいだ」

俺の声に無言で頷く二人。
緊張で少し体は強張っていたみたいだが、
ジェナスもレオも、そして俺も。
戦闘への備えは出来ていた。

「さて、誰が 第5世代フィフス持ちか、答えてくれるかな?」

サングラスの下に痩せた頬を覗かせた男の第一声。
トレンチコート、皮手袋に革靴。
全身を漆黒を纏った男は、手に細い長剣を右手に握っている。
ご丁寧に刃まで真っ黒のレイピアだ。

もう一つのシルエットは既に 擬人装甲マプスを身に纏っていた。
全身が黄色く、黒いラインがいくつか入っており、
蜂を連想させる女性のフォルム。
右手に長剣。剣先がカーブを描いており、タルワール。
いや、あの剣幅だ。シャムシールのほうが近いか。
そして左手には丸型の小盾。バックラーの類だ。

二人とも強いのは肌で 犇々ひしひしと感じ取れる。
特にグラサン野郎は、
ヤバいの一言で片づけられるような、ヤバさではない。
俺は限られた脳細胞をフル回転させる。

「ジェナス、レオ。二人で男のほうを頼む。
 俺は女の方を」

「なんだよムルト、ビビっちまったのか?
 何なら変わってやってもいいんだぜ?」

この期に及んで軽口を。
お前だって膝が笑ってるじゃねえかよ、レオ。

「僕はムルトの方針に賛成だよ。多分黒服のほうが強いけど、
 レオと僕じゃ」

ジェナスは一瞬言葉を詰まらせる。

「彼女を殺す覚悟が無い」

「流石学園TOP3様。わかってるね」

そうだ、俺もあまり人の事は言えないが、
あの女性型の 擬人装甲マプスの相手は、二人にはできない。
優しい二人に女性へ攻撃するなんて出来ないもんな。
敵だとわかっていても、必ず心のどこかで無意識に手加減する。
そこに付け入れられて殺されるんじゃ、たまったもんじゃない。
斯く言う俺は姉さんを、本気で殴れるくらいには男女平等だ。
相手を殺す覚悟も、二人よりはあるはずだ。
今でも十分危険に晒してしまっているが、
ジェナスとレオに危害が及ぶなら。

全力で殺しにかかる。

二人に任せる黒服の戦闘力は、
間違いなく女型の 擬人装甲マプスより強い。
だが、日々培ってきたコンビネーションがある。
後は出たとこ勝負、運否天賦に任せるしかない。

「ふむ、話もできんか。仕方あるまい」

男の一言が運命のゴング、殺し合いの合図となった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...