Tantum Quintus

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1.Farewell to the Beginning

21:不穏な足音

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 ペイディのカミングアウトから一週間が経っていた。

彼が訓練に参加した以外は、至って変わらぬ毎日だった。
俺だけに聞こえていた雑音も、最近では鳴りを潜めている。
まだ目があえば視線を泳がせることもあったが、
赤くなるようなことはなくなった。
まだ数日だと言うのに、目に見えて改善されている。
どこぞの誰かさんより優秀だ。

コンソールルームの盗聴器に関しては、いまだ放置していた。
2日程前に、姉さんに頼んだUMCが手元に届いたが、
まだ皆には渡してない。
ペイディの警告ももちろん頭にはあったが、
全くコンソールルームに寄らなくなるとなれば、
盗聴器の持ち主が何かしら、アクションを取る可能性が有った。
面倒事は極力増やしたくないし、アクションの内容にによっては、
血生臭い事にもなりかねない。
ここ数日姉さんと 個別通信チャネルが通じないのも大きな要因だ。
最後に会話したのはペイディのカミングアウト後、すぐだった。




あの日、ペイディが自室に帰った後、俺はすぐに姉さんに報告を入れた。


《わかったわ。一応マリ・ソフォスについては調べさせて貰うわね。
 何も出ないと思うけど、何もないって情報も大事だから。
  擬人装甲マプスとペイディちゃんについてはノータッチで》

会ったことも無いのにペイディちゃんて・・・。

《オーケー。俺からペイディに伝えとく。にしても・・・驚かないんだね》

《人間じゃないって?そりゃまああたしも結構この界隈長いし?
 驚いてないわけじゃないんだけど。兄さんはどうか知らないけど、
 あたしはこういうこともそのうちあるかな~って》

なるほど。ペイディが話しても良いと言っていたのは、こういうことか。
この分だと親父もこのことを知ったところで、
あまり興味を示さないだろうな。
二人ともペイディのような存在が出現することを、予想していたんだ。
だから実在するかどうかは、別にどっちでもよかったのだ。
いざ話を聞いてもこの反応は、そう言うことなんだろう。




「―――い」

「―ルト?」

「おーい、ムルトー。聞いてるー?」

「あ、ごめん。もう終わったの?」

「うん。やっぱりレオとペイディで訓練は早すぎたんだよ。
 レオ、ボコボコだよ?」

いかんいかん。
回想に耽っていたせいで、ジェナスの声に反応できなかった。
見ると壁に横たわったレオの ferocesフェローチェス   leoレオは。
真っ白に燃え尽きた。真っ白な灰に。力尽きたのは一目瞭然。
死闘とはかけ離れたペイディの一方的な虐殺によってだが。
 擬人装甲マプスの見た目からは想像しにくい負けっぷりだ。
対するペイディの 擬人装甲マプス

『 Αμέτρητοςアメトリトス  όπλοオーピオ

と言うらしい。白銀の麗人は今日も変わらず美しかった。
先日とは打って変わってハンドガンではなく、
銃身の長いライフルを装備している。
ここ何日かの模擬戦でいくつか 具現化ヴィデート出来る武器を見せてもらったが、
全て銃の類だった。
近接戦はからっきしで、
自分の身を守るのも一苦労と言ったところだ。
流石に近接もイケる口ですとなれば、先輩としても立つ瀬がない。

「レオは俺見とくからやってていいよ」

そう言って 擬人化ニウマプスした俺に、

「悪いね、ムルト。今晩おごるから」

とジェナスが言ってきた。
学園外の食べ放題でもおごってもらうか。

ジェナスはレオと違って3日前くらいから、ペイディの射撃に順応していた。
流石と言うべきか。
俺もまだまだ避けるので手一杯だったので、少し悔しかった。

早速轟音と共に模擬戦に火花を散らす二人。
一方のレオは 擬人装甲マプスが穴だらけだった。
そこらじゅうで地肌が見えている。

「う、ん。あれ、ムルトぉ。俺やられたあ?」

「そうだよ、呆けてないでジェナスの戦い方でも見とけよ」

そう言うとレオは正座で、二人の模擬戦を観戦し始める。
訓練に対する姿勢は褒められるんだが、
如何せん成長速度が俺やジェナスにやや劣る。
今度フロスに観戦させるか。多少の起爆剤にはなるやも。

3人を見ながらペイディの秘密について思い出す。
もちろん他言してはいない。
だが、ジェナスとレオが俺を売る可能性。
そんなもの頭の片隅にも過らなかった。

「やりますね!ジェナス先輩!」

楽し気なペイディ。そのライフルから放たれる高速の弾丸を、
ものともせず距離を詰める戦車が一台。
圧巻の一言だ。

「まだまだいけるよー!」

ジェナスも最近は俺やレオとの模擬戦にマンネリを感じていたのか、
テンションが高い。動きにキレを感じる。
率先してペイディとの模擬戦に奮っていた。
さっきもレオが気絶しなければ、俺とペイディの番だったのだが。


《ムルトちゃ~ん♪聞こえる?》

うお!

《ね、姉さん。もう16歳の青年にちゃん付けはやめてもらえるかな。
 っていうか、久しぶりじゃん。》

唐突過ぎて心臓が一瞬止まる。
あれから連絡一つ取れなかった姉さんの声であれば、なおさらだ。

《ごめんね~、ちょっと立て込んじゃってて。今大丈夫?》

《ああ、大丈夫。何か進展でもあった?》

と聞いといてなんだが、進展がないことは分かっていた。

後からペイディに聞かされたが、
学園のネットワーク内に侵入して、書類を偽装して入学したらしい。
どうやったかは知らないが、
そこそこ強固なここのセキュリティを掻い潜っているのだ。
生半可な技術や知識量ではないことは、偽装できたことが証明している。
なんでもペイディママ、マリ・ソフォスがやったらしいが。
なんなら国が管理している個人情報すら改竄してるのでは。

《やっぱりだめねえ。二人とも個人情報は残ってるんだけど、
 改竄の後とか皆無だわ。》
 
ですよねー。
っていうかペイディについては、ノータッチって言ってなかったっけ。
ちゃっかりしてる。

《しょうがないよ。相手が相手だし》

人間を一人、創造するような人だ。
神を相手にするようなものかもしれない。
いくら姉さんが凄腕だろうと、雲泥の差がある。

《で。別件なんだけど。聞きたい?》

《内容によるかな。別に話したくなければ話さなくていいよ》

《連れないわねえ。仕事中の兄さんの事なんだけど、
 そろそろ家に帰れそうだって。
 と言っても個別通信チャネルで会話はしてるから関係ないか》

《いや、親父とは 個別通信チャネルしてないよ。
 これだけ長い期間居なかったの初めてだし、邪魔しちゃ悪いからさ》

そっか。親父の仕事。終わったんだな。
無事でいてくれたことが何よりだ。

《それともう一つ。反AIの動きが読めないわ。
 下っ端が捕まってるのはいつもの事なんだけど》

《何かでかい事を起こそうとしてるって事?》

《あくまで可能性よ。用心するに越したことはないけど。
 個別通信チャネルがここ数日使えなかったのも干渉波ノイズを出されてたせいね》

それで応答なかったのか。
 干渉波ノイズはたしか 現実リアルでも使える 電磁妨害ジャミングって位置づけだったか。
 電磁妨害ジャミングが 仮想バーチャルでの 個別通信チャネル、 地図マップ、 接続解除ディスコネクトの妨害。
 あとはネットの接続もか。
対して 干渉波ノイズは 現実リアルでも使えるチップ機能。
性能は 電磁妨害ジャミングの劣化版で 個別通信チャネルとネットへの妨害のみ。
かなり特殊な機能で、 解除アンロックした人間も数えるほどしかいない。
去年授業で習った内容はこんなところだった気がする。

親父の仕事が終わるタイミングでってことは、反AIの動きを牽制していた?
あとで聞いてみるか。答えてくれるかは別として。

お、ジェナスのカウンターが入った。って全力じゃん。容赦ないな。
ペイディも上手く衝撃を吸収して、最小限のダメージに留めている。


《最後に一つ》

まだあるのか。次から次へと。


《ペイディちゃんに手出しちゃだめよ?》


俺は無言で 個別通信チャネルを切って、
レオと仲良く観戦した。
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