Tantum Quintus

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1.Farewell to the Beginning

19:計画的犯行

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  仮想バーチャルから戻ると、心配そうな顔でフロスが待っていた。

「大丈夫?」

「ああ、平気平気」

返事代わりに腕をグルグル回したレオは、頑丈さをアピールしている。
近い近い、寄り添うフロスにレオの吐息が交じりそうだ。
全くもってお熱いことで。

「それじゃペイディ君、またね!」

「はイ!こちらこそよろしくお願イします」

ジェナスに声を掛けられ、
元気よく返事をしたペイディはまるで、小学生だ。
いや、身体的には小学生と言われたほうが、納得してしまう。
元々の身長差が2倍近いジェナスが傍にいると、余計だ。
同じ高校生と言われて、即座に納得できる人間が何人いようか。

「俺らも帰るわ」

「お先に失礼するわね」

おう、君らはさっさと帰ってくれ。
二人を見てると、自分の心が荒んでいくのがわかる。
別に彼女が欲しいわけじゃなかったが、
目の前でベタベタされるのは釈然としなかった。

三人が順に部屋から出ていくのを見送ると、
計らずともペイディと二人きりになった。
色々と聞きたいことは山積みだが、答えてくれるんだろうか。

「ペイディ君、色々と聞きたいことがあるんだけど、まだ時間ある?」

「はイ、あ、私の事はペイディと呼び捨てで結構です」

俺の声に反応したペイディは、目が合うと頷きながら視線を泳がせる。
毎回この反応をされるとモヤッとする。
この際だ。全部聞いてしまえ。


Q:なんで俺と目が合うと恥ずかしそうにするの?
A:すみません、無意識です。


Q:本当に15歳?
A:・・・はイ。


Q:君が喋ると雑音みたいなものが混じるのはなぜ?
 ジェナスとレオには聞こえてないようだけどその理由は?
A:発声器官がまだウまく動かせなイからです。
 ジェナス先輩とレオ先輩が聞こエなった理由は分かリかねます。


Q:どこで戦闘訓練を受けたんだ?
A:ママに教エてもらイました。


Q:ママの名前は?お父さんも軍人や 傭兵マーセナリーの仕事をしているのかな?
A:マリ・・・です。パパはイません。
 仕事は・・・わかリません。


Q:君は男だけど、
  擬人装甲マプスは明らかに女性のフォルムだよね?
A:・・・私にもわかリません。


Q:ジェナスの頭上に投げたアレは?
A:アれはフラッシュボムと言われるECBの一種です。
 ECBとはElectronic Counter Bombの略称で、
 広義には 仮想バーチャル内での空中炸裂手榴弾を指しますが、
 私の使用したフラッシュボムは分類上ECBに入ります。
 しかし 電磁妨害ジャミング波を発生することが無く、
 閃光に特化したもので一般的にECBと言われるものとは違イます。
 名前の通リ 現実リアルでの閃光手榴弾を模してアリますが、
 ママに改良された特別製で、
 使用者の制御下にある限リ自由にコントロールできます。
 この場合のコントロールとは先程私が使用した時のよウに、
 空中での停止と起爆のタイミング、この二つの事を指します。
 ご覧頂イた通り殺傷能力は低めですが、
 近距離であればそれなリの威力を発揮します。
 またデメリットとしてチップの処理能力をかなリ割きますので、
 同時に使用できる機能は限れらます。


・・・・・・。
御教示ありがとう。
最後の質問への答えだけやたら早口で、イキイキとしゃべっていたが。
これがミリオタというやつなのだろうか。圧倒されてしまった。

とりあえず与えられた情報を元に、出来うる対応を考えるか。
答えが全て真かはわからないが、端から全て疑っていても進展はない。

まず最初にお願いから始めた。
目が合うたびに頬を赤らめるのを、やめて欲しいと。
正直毎度この反応をされても、どう対応したらいいか困る。
と言ってもすぐになんとかできるとは思っていない。
時間はかかるが、俺の顔に慣れてもらうしかなかった。

次に年齢。どう見ても15歳には見えないが、人の成長なんてそれぞれだ。
これはフロスに経歴を調べてもらう手筈だし、ついでにわかってくることだ。
フロスを信用してないこともない。
が、念の為姉さんにもお願いしておくことにする。

声については、雑音が混じっていること自体は否定しなかった。
俺にしか聞こえてないというのは、何とも反応に困る。
イシダ流を学んでいることが要因なのか。
今だ眠り姫の 第5世代フィフスが関わっているのか。
そして”まだ”うまく動かせないというのは、
事故、ないしは病気で喉を患ったということか?
”うまく動かせない”と言う言い回しも引っかかる。
意識して声帯を動かさないと、発声できない人間に心当たりはないし、
聞いたこともない。
何かイレギュラーな要因でもない限り、無意識に発声するのが一般的だ。
出来るなら取り除いて欲しい雑音だが、すぐには解決できないようだし、
俺が我慢するしかないか。

ペイディの師匠は母親のマリ・ソフォス。
偽名の線があるから、類似した名前も姉さんに洗ってもらうか。
彼の 具現化ヴィデートをここまで扱えるよう訓練した人物。
世の中にそうそう居ないだろう。偽名でないならすぐに割れる筈。

 擬人装甲マプスについても姉さんに聞いてみよう。
本人もわからないと言っているが、前例があるんだろうか。
ペイディは自分が男だと否定しなかった。
いやまあ返事の仕方からして、肯定もしていないが。
実は性同一性障害で、心が女性。
それに引っ張られて 擬人装甲マプスも女性のフォルムをしていた。
ん~。可能性はあると思うんだけどな。
しかし今でも思い出すな。あの黒い玉。
 擬人装甲マプスのインストーラー。
あのむにむにの感触は今でも忘れられない。最高だった。
出来る事ならまた揉みたい。

少し脱線したが、一先ずこんなものか。
まだまだ聞きたいこともあるが、日も暮れてくる時間だ。
まだ入学して間もない彼を、拘束し続けるのも可哀そうか。
信用しきったわけじゃないが、
このまま見張り続けるわけにもいかないし。
今日の所は解散するか。

「また明日、放課後にここで訓練するけど、これる?」

「は、はィ。大丈夫です」

また顔が赤くなってる。
う~ん。やりにくい。

「時間も時間だし今日は解散な。お疲れ」

・・・・・

あれ、聞こえなかったかな。
ペイディは俯いたまま動こうとしなかった。
何も変なことは言ってないと思うが。
まあ質問の内容はちょっと、いやかなり踏み込み過ぎた。
父親は居ないと言っていたし、申し訳ないことをした。
ただ、最悪俺自身の命を危険に晒している可能性が有るんだ。
そこは引くに引けない。

「オ、オ話があります」

なんだろう、改まって。
そんな上目遣いに見られても困るんだけど。

「俺は時間あるからいいけど。
 どちらにしろコンソールルームは閉めないといけないし。
 俺の部屋で話すか?」

「わかリました」

まだ信用しきれてないペイディを、
おいそれと自分の城へ招くのは危険な気もした。
でもそれ以上に不思議の塊である、彼への好奇心が勝った。
さっきまで質問攻めにあっていた彼が、
自分から話しをしてくれるとは。その内容に興味は湧く。

コンソールルームを後にした俺たちは、
寮に向かう道中、一言もしゃべらなかった。
ペイディが何を考えているのか、脳内で何かしていたのか。
わからなかったが、俺の一歩後ろを静かについてきた。
俺はというと寮の前に着くまでの間、
姉さんと 個別通信チャネルでやり取りをしていた。

《マリ・ソフォス・・・ねぇ。聞いたことないわね。
 凄腕の 具現化ヴィデート使用者。
 私の知ってる限りその名前で凄腕の人なんて。
 それも子持ちでしょ?》

子持ちかどうかは重要な情報になるんだろうか。
私情がかなり入ってる気がする。

《姉さんでも聞いたことないってことは、偽名の可能性もかなり高そうだね。
 とりあえずその二人を調べて欲しいんだ。
 ああ、さっき言った 擬人装甲マプス の件もね》

《オーケー。ただUMCと違って時間はかかると思うから。
 あとあんまり期待しないでね。
 これでも結構な情報通で通ってる、その私の耳に入らないってことは、
 つまりはそういうことよ》

自称イシダ流凄腕諜報員の姉さんでもわからないとなると、
望み薄かもしれない。

《なにか判明したら 個別通信チャネル で教えて》

そう言って通信を終えた所で、寮の前に到着した。
ふと疑問がまた増える。
もう15歳とはいえ、この身なりではあんまり帰りが遅いと、
お母様が心配するんじゃなかろうか。
そろそろ18時を回る。早ければ夕飯時の家庭もあるだろう。

「そういえばペイディは学園の近くに住んでるのか?
 家の人に連絡とかいれた?
 あんまり遅くなるようだと家の人が心配するんじゃないか?」

「ア、大丈夫です。1010号室ですので」

「ん?え?ここの?」

「セーシン男子寮C棟の1010号室です。キーはこちらに」

見せられた物は、俺の持ってるカードキーと瓜二つ。
しっかりと”1010”と刻印されている。
つまりは廊下を挟んで俺の城の目の前が、ペイディの城ということになる。
偶然が重なりすぎている。
そもそも男子寮が4棟。各棟400室で同じ棟になるのは1/4。
25%だ。大目に見てやる、ないこともないだろう。
更にそこから同じ階になるのが1/10。
廊下を挟んでいるとはいえお隣さんになるのが更に1/18。
絶対におかしい。
ペイディを睨みつけるが、泣きそうな顔で俯かれるとなす術がない。
自然と漏れた溜息を契機に気持ちを切り替えた。
そうさ、ポジティブに考えよう。
お隣さんということは、意識的に見張る必要は少なくなる。
なんならもう一つのお隣さん、聖人様が、
いざという時助っ人に来てくれるだろう。
来てください、お願いします。

なんやかんや考えているうちに部屋の前までついてしまった。
ええい、なるようになってしまえ!
考えるのをやめた俺は何も考えずに開城した。

「遠慮しないで上がっていいよ」

「は、はイ。お邪魔します」

部屋の隅にあった折りたたみ式の椅子を広げ、
その上にクッションを載せ、ペイディに促す。
俺はというと、いつものようベッドに腰を下ろした。
それを見たペイディは目も合わせてないのにまたトマトになった。
一々反応してたら終わらない。

「それじゃ、話聞こうかな」

一体何が出るのやら。
皆目見当もつかなかったが、彼の雑音交じりの声に耳を傾けた。
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