Tantum Quintus

Meaningless Name

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1.Farewell to the Beginning

11:暗躍する影

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 真っ黒な猫が鳴き声一つ上げずに、冷蔵庫を漁っていた。
器用な猫である。飲み物の入った容器とにらめっこしている。

「ねぇ~、ビールない?」

ねーよ。

未成年の学生、それも今日引っ越してきたんだぞ。
隠れてこそこそ飲むやんちゃボーイに見えますかね?

「んで。なんか用があったから来たんでしょ」

姉さんはぶっきらぼうな問いに構わず、ベッドにダイブする。
今日はここで寝る!とか言い出さないか心配だ。

「ムルト~、ヒューマジェスト。わかるよね?」

唐突だな。
反AI主義、ヒューマジェスト。
巷では『反AI』とか『ヒューマ』とか略されている。
なんせ両親の仇だ。忘れるほうが難しい。

親父たちが裏で探りを入れてるのは知っていたが、
俺自身は一般人と変わらない。
時折報道されるニュースを耳にする、くらいの情報量だった。
親父と姉さんに聞いても、まっとうな答えは返ってこなかった。
あまり不安にさせたくなかったのだと思う。
しかし、それと俺が入学したことに何の関係が?

「多分いるわ。連中。正確な規模は分らないけど・・・」

学園の中、と言うよりオーサ市内に、ということか。
12年前に、同時多発テロを起こした連中だ。
その時点である程度の規模になっていることは、間違いない。
反AIが俺の 第5世代フィフスを狙ってここに来た。
という前提で行動したほうがよさそうだ。
人数や相手の力量がわからない現状。
そいつらの情報は欲しいが、迂闊に動くのはまずい。

俺自身、ここ数年で近接戦闘はかなりの腕になっている。
親父と姉さんのお墨付きだ。
だが実戦経験はゼロ。まだ人を殺めたこともないひよっこだ。
いざ追っ手と対峙した時、冷静に対処できる自信はなかった。
それにもし俺の存在がばれてしまえば、学園生活どころの話ではなくなる。
学園にも被害が及ぶかもしれない。
レオはどうでもいいが、ジェナスは巻き込みたくないな。

「そゆことだから、くれぐれも気を付けてね?
 先走っちゃだめよ~?」

わかっている。
記憶の件もあるし、無様に死ぬような行動をとる気もない。
その為に小さいころから親父たちに訓練してもらった。
相手を殺すよりも拘束するほうが、はるかに難しいのは理解している。
だから、ある程度の覚悟を決めた。
いざとなれば殺してでも生きる覚悟を。


俺のベッドで黒猫が毛布でじゃれている。
姉さん、シリアスなシーンなんだ。
ベッドでゴロゴロするのはやめてくれ。
ため息交じりに一つ、疑問を投げかける。

「っていうか、警告だけなら 個別通信チャネルでよかったんじゃない?
 態々ベランダから入ってこなくても。ここ10Fだし」

そうだよ、10Fだよ。
セキュリティも悪くないこの学園内だが、
流石に盗みたくなるようなお宝は無いと思うのだが。
それに頻繁に顔を出されると、オチオチ自家発電も出来ない。

「ちょっと驚かせようかなって♪それに兄さんにお使いも頼まれちゃったし」

お使い?
そういって胸元から見慣れたものを取り出した。
人の反応を見たいがために、わざと胸元にしまったな。
この妖艶ババアめ!そんなものには屈しないぞ!
屈指はしなかったが、別の意味で俺は目を見開いた。

渡されたのは一本の小太刀、俺の愛刀だった。

 『龍天之司』リュウテンノツカサ
 
小太刀と言ったが約35cm、どちらかと言うと短刀寄りのサイズである。
こいつとは彼是5年程の付き合いだ。
俺の10歳の誕生日が初めての出会いだった。
洗練された刀身は、自ら光を放っているかのようで、
一目で恋に落ちた。それ以降『ツカサ』は俺の良き相棒だ。

「それじゃまたね♪夜更かししちゃだめよ?」

俺がツカサの輝きにウットリしているのを余所に、
神出鬼没なババア、もとい姉さんはベランダから消えた後だった。


姉さんが帰った後、愛刀のツカサとイチャイチャしながら、
今後の事について思慮を巡らせる。

そもそも俺を、というか 第5世代フィフスを手に入れられなかったのが12年も前。
その間反AIは何をしていたのだろう。
確かに規模はでかそうだ。同時多発テロは12か所で起こしている。
少数精鋭だったとしても、それなりの人数が居なければ難しい。
テロを起こした後も、今日まで目立った活動はしていないように見える。
犯行声明を出したにもかかわらず、だ。
時折アジトを殲滅したとか報道されているが、どうせ下っ端だろう。
大したダメージにはなっていないように思う。
少なくとも世間に出ている情報ではそうだ。

各国が鎮圧に動いているのは当然として、
その対応でテルミットに、手が回らなかったのだろうか。
それで今になって 第5世代フィフス、俺の存在を確認し、
最近この周辺に探りを入れている。
これが妥当な線、と考えるべきか。
もしくはオーサに来ること自体が目的であって、
たまたま俺が居合わせただけ。
どちらも少し安直な考えかもしれない。

うーむ。何はともあれ情報が少なすぎる。
今後は姉さんや親父にそれとなく聞いておくか。
現にターゲットになっているのは俺だろうし、その辺は融通してくれるだろう。
親父は少し前から 海外出張長期任務に入っていたのか、年明けから会っていない。
聞くなら姉さんか。仕事中に 個別通信チャネルで邪魔しちゃ悪いしな。
そんなことでヘマする親父、ではないのもわかってはいるが。

考えは纏まらなかったが、体は睡眠を求めていたようだ。
ベッドに入ると姉さんの甘い匂いと共に、深い闇に沈んでいった。
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