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さぁ、はじめようか
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しおりを挟む―――― まさかこんな所で…これからという時に‥‥‥
何もない無の空間に声が響き渡る。
―――― またしても失敗か
『今回はいけると思ったけれど、残念ですね~』
『魂は確保できたけどさ~ ここ外したらどうにもならんのじゃないか?』
『それより次の場所だろ、問題は』
”解ってるだろうが、魂を肉体のない同じラインに戻すのは無理だぞ“
『過去に戻しても今のままでは同じ結果になるだろう』
―――― 解っている、よし決めた次は―――
『あ~ちょっとお待ちください』
――― カミル?何だ、言ってみなさい
『彼女ここまで休憩なしじゃないですか~休養も大事です』
『それもそうだね~、光がすり減っては闇に飲まれてしまう』
『ここまでがんばったんだし、ご褒美に休憩を与えてあげては如何でしょう?』
―――― 確かに、だがふむ困ったのぉ~ 休憩も何も新しいラインに入れば記憶も飛ぶ
『それでは休んだ気になりませんね~』
『しかしこのラインの過去に戻しても休息にはならん』
『新しいラインに飛ばしても~移った先で今回と同じような境遇であれば休みとは言えないよね~』
『とはいっても、一旦、違うラインに飛ばさないといけないのだろう?クロメンテ』
”ああ、ただ方法はなくはない“
―――― それは一体どんな方法です?
”この時点の先に仮初に魂を留まらすことならば“
『ほぉ、そんな技があったのか』
”肉体もまだある、ほんのひと時ですが精霊の命の灯を借りればこのラインに留まらせることは可能“
『精霊!その手がありましたね~!』
『休息ならそれで十分では?』
―――― そうですね、そうしましょう
――― ‥‥ィア ‥‥リディア
自分の名を呼ぶ声にゆっくりと瞼をあける。
「ここは‥‥?」
何もない無の世界にきょろきょろと辺りを見渡す。
「っ!!」
そして自分の足元に地面も何もない事に焦る。
「あ~大丈夫だよ~、ここは物質世界じゃぁない、落ちるとかそういった現象はここには存在しない」
「へ??」
何を言っているのかと振り返ったそこには暢気に笑うカミルが居た。
「カミル!?」
「お久しぶり~」
「お久しぶり…、てか、私、殺されたのではないの?」
フェリシーに心臓をナイフで刺されたはずと胸に手を当てるも傷一つない。
「ここでは傷とかも存在しないよ、物質世界じゃぁないからね~」
「? その物質世界でないって言うけど私は存在するわ、カミルあなたも」
「それはあなたが作り上げた現象」
「え…?」
「あなたがそう見たいから現象として見えているだけ、今のあなたは肉体を持っていない、ただの素粒子の塊」
「素粒子の塊?」
「あなたが見なければそこに何も存在しない」
「ああ、あれね、量子力学ってやつ」
ニッコリと笑い頷くカミル。
「てことはやはり私は亡くなったのね、だから魂だけとなって今ここに居る」
「亡くなった、か…、正しくはあるが…」
「?」
「そうだね、あなたは『死んだ』、だけど頑張ったあなたに休憩を与えられることになった、あなたの望む世界を与えよう」
「え‥?」
「ほら心に描いてみてごらん」
その言葉に思わず世界を思ってしまった。
すると途端に世界が現れた。
「こ、これは‥‥」
「これがあなたが望んだ世界か~、よいよい」
自然豊かで静かな場所にこじんまりとしているがとてもファンタスティックで素敵な木の家が目の前に現れた。
「中はどんなかな~」
「あっ、待って」
カミルが家の中に入っていく。
「これは素敵だね~」
「!」
温かく穏やかで自分好みの心躍る内装に目を輝かせる。
「そうだ!ずっと約束していたお茶をしよう♪」
そう言うとポンポンポンと精霊たちが現れる。
「な…」
すると精霊たちが飛び回るとあっという間にお茶が出来上がり運ばれ机に置かれた。
「ああ、そうだ」
カミルが机に手を翳すとお菓子が現れる。
「このお菓子、お友達からもらったんだけど、一緒に食べよう♪」
ぽかーんとしていたリディアが我に返る。
「す、すごい!ファンタジー世界そのものだわ!本物の精霊がこんなに?!かわいいーっっ!」
「おや?精霊が初めて?あなたなら呼べばすぐに現れるはずだけど…」
「へ?」
「光を宿すことが出来る子は高次の存在を見ることが出来る、それに精霊たちはあなたのその光が大好物、今もほら、あなたに呼ばれることをうずうずしながら待っているよ~」
「え…」
周りの精霊たちを見ると遠巻きにうずうずと体を動かしチラチラとリディアを見ながら飛び回っていた。
(かーわーいーいーっっ!!)
「試しにこのコップに水の精霊から水をもらったら?精霊の水は凄く美味しいよ~♪」
「!…どうやって?」
「ただ頼めばいい」
「頼めば…」
近くの精霊たちを見る。
「あ、あの、このコップに水をくれる…かな?」
すると一匹の精霊がピクッと反応し嬉しそうに目の前に飛んでくると、舞う様にくるりと回った。
「わ…」
コップに綺麗な水が注ぎこまれていく。
「凄い…」
リディアの顔を覗き込むように水の精霊が顔を傾げる。
「ありがとう」
「!」
精霊が嬉しそうに飛び回る。
すると他の精霊たちもリディアに群がる。
「え?な、何?!」
「自分達も何か頼みごとをして欲しいようだ、ふふふ、大人気だね~」
その言葉にまたキョトンとして周りの精霊を見た。
「ね…、てことは私、魔法使えなくても精霊に頼めば火も水も普通に使えてたって事?」
にーっこり笑い頷くカミル。
「さ、先に言ってよ―――――!!」
リディアは心の叫びをそのまま口で叫んだ。
「まぁまぁ、そんなことよりお茶にしよう♪」
「ああ、うん、叫んだら喉渇いたわ」
相変わらず開き直りと切り替えだけは早いリディアは、カミルの前の椅子に座るとお茶を口にした。
「ん~このお菓子美味しいな、また友達に貰おう、その時はまたお茶をしよう♪」
「それはいいのだけど」
リディアもお菓子をかじりながら目の前のカミルを見る。
「聞きたいことがあるんだけど」
「何でも聞いていいよ~」
「あれからどうなったの?皆は無事?」
その質問にカミルの手がピタッと止まる。
「これは意外」
「?」
(あなたなら最初の質問は『ここはどこ?』など、そういった質問かと思ったけれど…)
「大丈夫、皆君のお陰で無事に生きてるよ~、世界から魔物は消え今は平穏な状態にあるしね~」
「よかった…、これで大団円成立ね」
ホッと胸を撫で下ろすリディア。
(大団円?もしかして‥‥)
「リディア、あなたは――――ぐはっ」
何か言いかけたカミルに何かがぶち当たる。
「ってぇ~…、ん?この使い魔は…しまった!」
ぶち当たった小さな生き物を見て椅子を転がし立ち上がる。
「今日はお友達と飲みの約束をしていたのをついうっかり忘れてた!!」
そう叫ぶとリディアに振り返った。
「お茶の途中でごめん~、行かなくては」
「待って!まだ聞きたいことがっ」
「大丈夫、ここはあなたが望んだ通り誰も来ない、静かな時間が過ごせる場所」
「! 知って…」
「あの空間では考えた事も心の中もスッケスケ~だからね~」
「!!」
カーッと顔が真っ赤になる。
「火も水も精霊たちに頼めばいい、食べ物も頼めば運んでくれる、あーあと本も、ほら」
ポンと精霊が前に現れる。
「本の精霊に頼めば好きな本を幾らでも出して読めるよ」
そう言うと精霊がポンと本を出す。
「!これ…私が読みたかった本!」
「ゆっくりとここでお休み、じゃまたね~」
「あ‥‥」
カミルが姿を消す。
一人残されたリディアは暫しポカンと佇む。
そしてハッと我に返ると辺りを見渡した。
シーンと静まり返った部屋。
いつの間にか精霊たちも居ない。
「あれ?精霊は?おーい」
呼んでも部屋はシーンとして何も変化が起きない。
「おかしいな…あ」
リディアの手に本が触れる。
「‥‥ 本の精霊さん、居る?」
するとポンと先ほどの本の精霊が現れた。
「おおっっ」
思わず感嘆する。
「ちゃんと呼べば現れるのね」
精霊がうんうんと頭を頷かせる。
「本、ありがとう」
礼を言うと本の精霊が照れたようにもじもじと体を捩らせた。
「はぁ~可愛い~」
その様を眺め、そしてもう一度部屋を見渡す。
「これが私の家…、そう言えば外は?」
さっきは外の様子も全く見る余裕がなかった。
リディアは入ってきたドアから外に出る。
「! …素敵」
自分の理想とする自然がそこに広がっていた。
「!!」
そして徐に振り返ったそこに木のブランコの椅子が揺ら揺らと揺れていた。
その椅子には心地よさそうなクッションも備わっていて、思わずそのブランコ椅子に座りクッションにもたれかかる。
「最高!気持ちいい!!」
しばらくゆらゆら揺られ心地よい風と青空を見上げる。
「そうだわ!本をここで」
そう思ったらさっきの本の精霊が現れた。
「精霊さん?」
精霊がそわそわする。
「そうだわ、本、先ほどの本を出して、それとも持ってきてもらえないかしら?」
すると精霊が喜ぶようにくるりと回ると本を手にしリディアに差し出した。
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべ礼を言うと精霊は喜んで飛び跳ねた。
「ふふふっ、本当に夢の世界が実現したんだ!!すごい!これなら誰の手も借りず一人の世界を!ぐーたら生活を満喫できる!」
リディアは両手を広げ喜ぶ。
「ああ、最っ高!!!」
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