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さぁ、はじめようか
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次の日からは更に貴族のプレゼント攻撃が激しくなった。
城を守った事、しかもレティシアからオズワルドを借りた事で聖女の株が上がり、リディアにつくのが良策と考えた貴族が一気に増えたのだ。
「あーもー煩いわね」
部屋のノックが鳴りやまない。
耳を抑えるリディアの目にイザークの手から黒く蠢く影を見る。
「ダメよ、使っちゃ」
「ですがリディア様がこれでは療養できません」
「いいからおさめて、…はぁ~~」
やれやれとため息を零す。
「熱も下がったし傷口も塞がったから、もう大丈夫よ」
「だからと言って、無理は禁物です」
『リディア嬢いらっしゃいますか?サディアス軍師がお呼びです』
不意にドアの外から大きな声で伝言が伝えられる。
イザークと顔を見合わせる。
「解ったわ、すぐに行くと伝えて」
『畏まりました』
男の声が消えたと思うと、またノックの嵐となった。
「はぁ~~~」
「お疲れの様ですね」
サディアスが涼しそうな顔でジークヴァルトの隣に立つ。
部屋を出るのにイザークの風魔法に乗って一気に飛び出た。
そこから逃げて撒くのも中々に大変だった。
「何とかならないの?あれ」
「まぁもうしばらく待て」
「?」
そこでジークヴァルトが間に入る。
「聖女誕生祭が催された後、聖女用の部屋を準備している、そこに入ればそうそう近寄れまい」
(それだと遅いのよ)
それまでに逃亡予定のリディアは心の中で突っ込む。
(まぁでも、警備体制ばっちりの部屋に移されると逃亡には不利だけど…)
「今日は何?」
「あれから礼を言う暇がなかったからな」
ジークヴァルトが頭を下げる。
「助かった、このアグダスを城を守ってくれて礼を言う」
「ちょ、頭を上げて」
「私からも礼を言います、感謝致します、聖女リディア」
「サディアスまで?!ちょっと怖いから頭上げて?」
その言葉にジークヴァルトとサディアスが吹き出す。
「礼を言って怖がられるとは心外ですね」
「礼を言う人物が問題なの」
「ふっ、礼のしがいがないな」
「礼のしがいとか言っている時点で終わってるわよ」
「はははっ、だが、本当に助かった」
「ええ、まさか3国が協定を結んでいるとは、そこまでは読めませんでした」
「協定?」
「お前たちがヨルムを抑えた途端、あっさりとナハルもミクトランも戦闘を諦めた」
「そういえば私が戦ったのはヨルムか…、単独ではなく連携してたって事だものね」
「しかし、ウラヌを横切るとは思ってもない発想で驚いた」
「ええ、今至急南軍の余力ある兵を呼び寄せ、ウラヌの北側も警備に当たるよう指示を出しています、
これを理由に飛ばされたジーク派の者達を幾人か呼び戻せたのは幸いでした」
「そうなんだ」
そこでリディアの前にずいっとジークヴァルトの顔が寄る。
「それよりも、レティシアからオズワルドを借りるとはな、どうやった?」
「もしかして、それを聞きたくて呼び出したの?」
ニカーッとジークヴァルトが笑う。
その隣でサディアスも興味深そうにリディアを見る。
「そう言えばオズワルドの処遇は?」
「残念ながら、アナベルに阻止されました、あなたの功績を称えた授与式もね」
「私のはいらないけど、そう…」
「で、どうやってレティシアを言いくるめた?」
「ええ、是非今後の参考にお聞きしたいです」
興味津々に二人がリディアを見る。
ジークヴァルトに至ってはガキか?!と思うほどに目がワクワク生き生きしている。
(これ聞きたいがために病み上がりをあの人だかりに突っ込ませたの?まったく‥‥)
自分達も今忙しく会いに行くのは難しい、だからリディアがある程度良くなるのを待っていたのだろうと思うと呆れて、興味津々の男二人のその様に一つ息を吐く。
「そんな大したことないわよ?現実を教えただけ」
「現実を?」
「そんなもんでアレが動くか?」
「そうね、ちょっと具体的に話して、2、3発頬を叩いたくらいかしら」
「!」
二人がギョッとしてリディアを見る。
(あれはちょっとでしょうか…)
敢えて思った事を口にしないイザーク。
「叩いたのか?」
「ええ」
「レティシアを?」
「そうよ」
唖然とする二人にリディアは平然と口にする。
「理解が出来るだけレティシアは賢いわね」
「いやまぁ、そうですが…」
「ぶっ」
そこで堪らずジークヴァルトが吹き出す。
「笑い事ではないですよ、レティシアの反撃への対策しなければ‥‥何せあのレティシアを叩いたのですから」
「それは大丈夫だと思う」
「どうしてそう言える?」
「心はどうあれ、彼女は納得した、だから貸したんだから」
「なるほど、納得したものを否定するのは自分を否定するも同じですからね」
「相変わらず聡いな、お前は」
「聡いわけではないわ、感覚で何となく解るだけ」
「ほう‥‥」
(同じような経験した事があるという事か…)
その場に居た男達の目が細まる。
「用はそれだけ?」
「いや、まだある、今回の褒美についてだ」
「謹んで辞退致しますわ」
「まだ説明も言ってないが?」
「要りません」
(いらぬ関りを持つわけないでしょ、この男達は付け込むタイプだ…)
それに逃亡に邪魔なものだと困るしと、頑なに拒否る。
「やはり、あなたならそう言うと思いました」
「てことでだ」
ジークヴァルトが奥の部屋を指す。
「聖女の部屋の準備が整うまで、あの部屋を自由に使っていい」
「?」
「褒美代わりに、あの煩い利権屋達から隠れる場所の提供だ」
「! それはありがたいわ」
手を合わせ喜ぶリディアにジークヴァルトとサディアスは笑みを浮かべる。
(てっきりレティシアの件聞きたいだけだと思ってたけど、呼び寄せたのはこのためだったのね!)
さっき呆れた事を心の中だけで謝るリディア。
「こちらの警備兵には話は通してある、いつでも使っていいし、何なら泊っていってもいいが、ベットがないからソファで寝る事になるがな」
「問題ないわ!ありがとう」
ジークヴァルトが頷く。
「さて、我々はこれから会議だ」
「アナベル誕生祭の準備も大詰めですしね、あなたに構ってあげる時間はあまりありませんが‥」
「いいえ、この部屋を用意してくれただけで充分です」
「そうそう、あなたにこれを」
不意にサディアスから差し出された箱を見ると、パカっと口が開いた。
「!」
そこには清楚で美しいイヤリングがキラリと煌めいていた。
「アナベル誕生祭にと思って用意していました、聖女が侮られては困りますからね、聖女に相応しいモノを身に付けて頂かないと、さ、受け取ってください」
相変わらずねとそのイヤリングを持ち上げ煌めくイヤリングを眺め見る。
そんな隣で盛大なため息を聞く。
「はぁ~先越されたか…」
「?」
ジークヴァルトが額に手を当てもう一度大袈裟に溜息をつく。
だがすぐにその目がニヤリと笑う。
「だが、重複せずに済んでよかった」
「?」
「俺からはこれだ」
リディアの前にもう一つ箱が差し出されると、それをジークヴァルトの大きな手が開けた。
そこには豪華で繊細な美しいネックレスがキラキラと輝きを放っていた。
「アナベル誕生祭につけるといい」
その煌びやかなネックレスと自分の手にしているイヤリングを見、そっとその手のイヤリングを箱に戻す。
「はぁ~、この申し出ありがたいけど、私には似合わないわ」
「今回の活躍で注目度ナンバーワンの聖女であるあなたです、これぐらいのを身に付けて頂かないとこちらが困るのですよ」
サディアスの言葉に、もう一つため息をつく。
(国の政治的に必要な建前ね‥‥)
「解った、じゃ、遠慮なく頂くわ、ありがとう」
サディアスの言葉にリディアが頷く。
「それでは我々はこれで」
「早速この隠れ部屋使っても?」
「好きにしろ、ではな」
「ありがとう」
リディアを残して去っていく。
廊下を出た所でジークヴァルトがふっと笑う。
「『私には似合わない』か」
「あの容姿で言われると誰もが似合わない事になりそうですが」
「そういう意味ではないだろう」
「ええ、解っています」
「あの女の誕生祭に一つ楽しみが出来たな」
「そうですね…、楽しみが悲劇にならないようにしないと」
男達の目付きが変わる。
アナベルは確実にこの誕生祭で仕掛けてくるだろう。
それを何としてでも阻止しなければならない。
「はぁ~~、ノック音がしないだけで落ち着くわね~」
「全くです」
ソファに座ると目の前に大きな影ができたと思ったらギュっと抱きしめられた。
「痛っ」
「ね、姉さま怪我を?!」
リオが驚き離れる。
「どうしてケガをしたの?」
「刺客にやられたのよ、でも大したことないの、大丈夫」
リオの身体が猫の毛が逆立つようにブワッと怒りのオーラを纏う。
「やっぱり…残っておけばよかった」
ブツブツと口にするリオはバッとリディアの肩を掴む。
「姉さま、早くここから出よう!ここに居たら姉さまを守り切れない!今だってなかなか姉さまに近づけさせてくれないし」
「そうだったの?」
戦から戻ったらすぐにリディアに会いに来るだろうリオが今まで姿を現さなかった。
リオの邪魔をするとしたらゲラルトだろう。
(でもどうして?急にリオと接近をさせなくしたのかしら?)
ゲラルトが邪魔をするとしたらサディアスかジークヴァルトの命令かもしれないと頭を巡らす。
あの二人がどうして?と考える中ふとある考えが浮かぶ。
(逃亡を感づかれている?)
「何コレ?」
そこで机の上に置かれた装飾品に気づく。
「これはジークヴァルト殿下とサディアス軍師より贈呈された品です」
「! 何でこんなの受け取ったの?」
「ジーク派の聖女が見劣りしてはいけないと贈られただけよ」
「そんなはず‥‥」
「?」
リオの背が震える。
「リオ様、大した意味はございません」
「お前もそんな事ないって思ってるよね?」
「っ‥‥」
(これは嫉妬?!美味しいシーンだわ!)
そんな光景にリディアの下衆志向が全開する。
押し黙るイザークを睨みつけるとリディアに振り返った。
「姉さま手を出して」
「? こう?」
手を差し出す。
その手の中指にいつの間にかリオが手にしていた指輪が嵌められる。
「これは?」
「屋敷が焼け野原になった後見つけたんだ、見た瞬間、これは僕のだと解った」
「瞳の色と同じね」
リオの瞳を見ると瞳の中で何かが動く。
「?」
(気のせい?)
動きは一瞬で気のせいかと首を傾げる。
「姉さまにあげる、これを必ずつけて…ううん、ずっといつもつけていて」
真剣な眼差しのリオ。
(これ断ったら地雷踏む?)
ヤンデレ属性のリオだ。
ここで断ったら危険だと感じたリディアは頷く。
するとパーッとリオの顔が明らいだ。
「ありがとう、姉さま!」
そのままリディアに抱き着く。
「ね、もう十分でしょう?ここから出よう」
耳元でいつもと違う低い声で囁かれ背筋に戦慄が走る。
優しく抱きしめられているのに身動きが一つもとれない。
その事に言い知れぬ恐怖が走る。
(ヤンデレのバッドエンド死ってなかったはず…大丈夫…大丈夫よね?それに…)
「あ、あー、その安心して? この誕生祭が終われば逃げるわよ」
「! ほんと?」
確認するように顔を覗かれる。
「ディーノに逃亡用の品も頼んでいるわ、誕生祭にジーク母の証拠をオズワルドが持ってきたら、隙を突いてここを逃亡するわよ」
その言葉に本当に逃亡するのだと確信し、リオが嬉しそうに頷く。
「逃亡は南に向けてでよろしいでしょうか?」
「何?こいつも連れて行くの?」
「魔法を私達は使えないでしょう?」
「田舎なら薪もタダでいっぱい取れるし火魔法いらないじゃん」
「水が遠いかもしれないわ」
「なら森の中の川の近くにすればいい!森の中でも僕と居れば大丈夫だよ!」
「リオ、私は貴方と同じく、イザークも守りたい」
「チッ」
それだけでなく、快適さにすでに手放せなくなっているという事はあえて口に出さないでニッコリと笑う。
「当日は私に従って」
「僕はいつでも姉さまにしか従わないよ」
「そうだったわね、‥‥遅くなったけど」
「!」
自由になった手でリオを抱きしめる。
「無事に帰ってくれてありがとう」
(流れで仕方なかったとはいえ‥、戦まで、ここまで巻き込んでしまった…、これは私の罪ね…)
"それに便利だし"と心の中で付け足す。
いい事思っていても邪心はしっかり持っているリディアだった。
「姉さま… 僕の姉さま…」
嬉しそうにうっとりとしてリディアを抱きしめ返す。
そんなリオの背をポンポンと優しく安心させるように叩く。
「リディア様、リオ様、お茶が入りました」
「ありがとう」
「いらない、僕もう少しこうしてたい」
「リオ、一つ言っとくわ、ゲラルトに悟らせないように気を付けて」
「解ってる、全部僕に任せて?僕なら姉さまを安全に連れ去ってあげられるから」
「ええ、期待してる」
「!」
リオの目がキラリンと輝く。
「うん、絶対約束する!だから僕に任せて!」
期待された事が堪らないという様にニッコニコになり頷く。
「さ、冷めないうちに頂きましょう」
(やっとここまで来たわ、あともう少し…気を抜かずに頑張ろう…)
城を守った事、しかもレティシアからオズワルドを借りた事で聖女の株が上がり、リディアにつくのが良策と考えた貴族が一気に増えたのだ。
「あーもー煩いわね」
部屋のノックが鳴りやまない。
耳を抑えるリディアの目にイザークの手から黒く蠢く影を見る。
「ダメよ、使っちゃ」
「ですがリディア様がこれでは療養できません」
「いいからおさめて、…はぁ~~」
やれやれとため息を零す。
「熱も下がったし傷口も塞がったから、もう大丈夫よ」
「だからと言って、無理は禁物です」
『リディア嬢いらっしゃいますか?サディアス軍師がお呼びです』
不意にドアの外から大きな声で伝言が伝えられる。
イザークと顔を見合わせる。
「解ったわ、すぐに行くと伝えて」
『畏まりました』
男の声が消えたと思うと、またノックの嵐となった。
「はぁ~~~」
「お疲れの様ですね」
サディアスが涼しそうな顔でジークヴァルトの隣に立つ。
部屋を出るのにイザークの風魔法に乗って一気に飛び出た。
そこから逃げて撒くのも中々に大変だった。
「何とかならないの?あれ」
「まぁもうしばらく待て」
「?」
そこでジークヴァルトが間に入る。
「聖女誕生祭が催された後、聖女用の部屋を準備している、そこに入ればそうそう近寄れまい」
(それだと遅いのよ)
それまでに逃亡予定のリディアは心の中で突っ込む。
(まぁでも、警備体制ばっちりの部屋に移されると逃亡には不利だけど…)
「今日は何?」
「あれから礼を言う暇がなかったからな」
ジークヴァルトが頭を下げる。
「助かった、このアグダスを城を守ってくれて礼を言う」
「ちょ、頭を上げて」
「私からも礼を言います、感謝致します、聖女リディア」
「サディアスまで?!ちょっと怖いから頭上げて?」
その言葉にジークヴァルトとサディアスが吹き出す。
「礼を言って怖がられるとは心外ですね」
「礼を言う人物が問題なの」
「ふっ、礼のしがいがないな」
「礼のしがいとか言っている時点で終わってるわよ」
「はははっ、だが、本当に助かった」
「ええ、まさか3国が協定を結んでいるとは、そこまでは読めませんでした」
「協定?」
「お前たちがヨルムを抑えた途端、あっさりとナハルもミクトランも戦闘を諦めた」
「そういえば私が戦ったのはヨルムか…、単独ではなく連携してたって事だものね」
「しかし、ウラヌを横切るとは思ってもない発想で驚いた」
「ええ、今至急南軍の余力ある兵を呼び寄せ、ウラヌの北側も警備に当たるよう指示を出しています、
これを理由に飛ばされたジーク派の者達を幾人か呼び戻せたのは幸いでした」
「そうなんだ」
そこでリディアの前にずいっとジークヴァルトの顔が寄る。
「それよりも、レティシアからオズワルドを借りるとはな、どうやった?」
「もしかして、それを聞きたくて呼び出したの?」
ニカーッとジークヴァルトが笑う。
その隣でサディアスも興味深そうにリディアを見る。
「そう言えばオズワルドの処遇は?」
「残念ながら、アナベルに阻止されました、あなたの功績を称えた授与式もね」
「私のはいらないけど、そう…」
「で、どうやってレティシアを言いくるめた?」
「ええ、是非今後の参考にお聞きしたいです」
興味津々に二人がリディアを見る。
ジークヴァルトに至ってはガキか?!と思うほどに目がワクワク生き生きしている。
(これ聞きたいがために病み上がりをあの人だかりに突っ込ませたの?まったく‥‥)
自分達も今忙しく会いに行くのは難しい、だからリディアがある程度良くなるのを待っていたのだろうと思うと呆れて、興味津々の男二人のその様に一つ息を吐く。
「そんな大したことないわよ?現実を教えただけ」
「現実を?」
「そんなもんでアレが動くか?」
「そうね、ちょっと具体的に話して、2、3発頬を叩いたくらいかしら」
「!」
二人がギョッとしてリディアを見る。
(あれはちょっとでしょうか…)
敢えて思った事を口にしないイザーク。
「叩いたのか?」
「ええ」
「レティシアを?」
「そうよ」
唖然とする二人にリディアは平然と口にする。
「理解が出来るだけレティシアは賢いわね」
「いやまぁ、そうですが…」
「ぶっ」
そこで堪らずジークヴァルトが吹き出す。
「笑い事ではないですよ、レティシアの反撃への対策しなければ‥‥何せあのレティシアを叩いたのですから」
「それは大丈夫だと思う」
「どうしてそう言える?」
「心はどうあれ、彼女は納得した、だから貸したんだから」
「なるほど、納得したものを否定するのは自分を否定するも同じですからね」
「相変わらず聡いな、お前は」
「聡いわけではないわ、感覚で何となく解るだけ」
「ほう‥‥」
(同じような経験した事があるという事か…)
その場に居た男達の目が細まる。
「用はそれだけ?」
「いや、まだある、今回の褒美についてだ」
「謹んで辞退致しますわ」
「まだ説明も言ってないが?」
「要りません」
(いらぬ関りを持つわけないでしょ、この男達は付け込むタイプだ…)
それに逃亡に邪魔なものだと困るしと、頑なに拒否る。
「やはり、あなたならそう言うと思いました」
「てことでだ」
ジークヴァルトが奥の部屋を指す。
「聖女の部屋の準備が整うまで、あの部屋を自由に使っていい」
「?」
「褒美代わりに、あの煩い利権屋達から隠れる場所の提供だ」
「! それはありがたいわ」
手を合わせ喜ぶリディアにジークヴァルトとサディアスは笑みを浮かべる。
(てっきりレティシアの件聞きたいだけだと思ってたけど、呼び寄せたのはこのためだったのね!)
さっき呆れた事を心の中だけで謝るリディア。
「こちらの警備兵には話は通してある、いつでも使っていいし、何なら泊っていってもいいが、ベットがないからソファで寝る事になるがな」
「問題ないわ!ありがとう」
ジークヴァルトが頷く。
「さて、我々はこれから会議だ」
「アナベル誕生祭の準備も大詰めですしね、あなたに構ってあげる時間はあまりありませんが‥」
「いいえ、この部屋を用意してくれただけで充分です」
「そうそう、あなたにこれを」
不意にサディアスから差し出された箱を見ると、パカっと口が開いた。
「!」
そこには清楚で美しいイヤリングがキラリと煌めいていた。
「アナベル誕生祭にと思って用意していました、聖女が侮られては困りますからね、聖女に相応しいモノを身に付けて頂かないと、さ、受け取ってください」
相変わらずねとそのイヤリングを持ち上げ煌めくイヤリングを眺め見る。
そんな隣で盛大なため息を聞く。
「はぁ~先越されたか…」
「?」
ジークヴァルトが額に手を当てもう一度大袈裟に溜息をつく。
だがすぐにその目がニヤリと笑う。
「だが、重複せずに済んでよかった」
「?」
「俺からはこれだ」
リディアの前にもう一つ箱が差し出されると、それをジークヴァルトの大きな手が開けた。
そこには豪華で繊細な美しいネックレスがキラキラと輝きを放っていた。
「アナベル誕生祭につけるといい」
その煌びやかなネックレスと自分の手にしているイヤリングを見、そっとその手のイヤリングを箱に戻す。
「はぁ~、この申し出ありがたいけど、私には似合わないわ」
「今回の活躍で注目度ナンバーワンの聖女であるあなたです、これぐらいのを身に付けて頂かないとこちらが困るのですよ」
サディアスの言葉に、もう一つため息をつく。
(国の政治的に必要な建前ね‥‥)
「解った、じゃ、遠慮なく頂くわ、ありがとう」
サディアスの言葉にリディアが頷く。
「それでは我々はこれで」
「早速この隠れ部屋使っても?」
「好きにしろ、ではな」
「ありがとう」
リディアを残して去っていく。
廊下を出た所でジークヴァルトがふっと笑う。
「『私には似合わない』か」
「あの容姿で言われると誰もが似合わない事になりそうですが」
「そういう意味ではないだろう」
「ええ、解っています」
「あの女の誕生祭に一つ楽しみが出来たな」
「そうですね…、楽しみが悲劇にならないようにしないと」
男達の目付きが変わる。
アナベルは確実にこの誕生祭で仕掛けてくるだろう。
それを何としてでも阻止しなければならない。
「はぁ~~、ノック音がしないだけで落ち着くわね~」
「全くです」
ソファに座ると目の前に大きな影ができたと思ったらギュっと抱きしめられた。
「痛っ」
「ね、姉さま怪我を?!」
リオが驚き離れる。
「どうしてケガをしたの?」
「刺客にやられたのよ、でも大したことないの、大丈夫」
リオの身体が猫の毛が逆立つようにブワッと怒りのオーラを纏う。
「やっぱり…残っておけばよかった」
ブツブツと口にするリオはバッとリディアの肩を掴む。
「姉さま、早くここから出よう!ここに居たら姉さまを守り切れない!今だってなかなか姉さまに近づけさせてくれないし」
「そうだったの?」
戦から戻ったらすぐにリディアに会いに来るだろうリオが今まで姿を現さなかった。
リオの邪魔をするとしたらゲラルトだろう。
(でもどうして?急にリオと接近をさせなくしたのかしら?)
ゲラルトが邪魔をするとしたらサディアスかジークヴァルトの命令かもしれないと頭を巡らす。
あの二人がどうして?と考える中ふとある考えが浮かぶ。
(逃亡を感づかれている?)
「何コレ?」
そこで机の上に置かれた装飾品に気づく。
「これはジークヴァルト殿下とサディアス軍師より贈呈された品です」
「! 何でこんなの受け取ったの?」
「ジーク派の聖女が見劣りしてはいけないと贈られただけよ」
「そんなはず‥‥」
「?」
リオの背が震える。
「リオ様、大した意味はございません」
「お前もそんな事ないって思ってるよね?」
「っ‥‥」
(これは嫉妬?!美味しいシーンだわ!)
そんな光景にリディアの下衆志向が全開する。
押し黙るイザークを睨みつけるとリディアに振り返った。
「姉さま手を出して」
「? こう?」
手を差し出す。
その手の中指にいつの間にかリオが手にしていた指輪が嵌められる。
「これは?」
「屋敷が焼け野原になった後見つけたんだ、見た瞬間、これは僕のだと解った」
「瞳の色と同じね」
リオの瞳を見ると瞳の中で何かが動く。
「?」
(気のせい?)
動きは一瞬で気のせいかと首を傾げる。
「姉さまにあげる、これを必ずつけて…ううん、ずっといつもつけていて」
真剣な眼差しのリオ。
(これ断ったら地雷踏む?)
ヤンデレ属性のリオだ。
ここで断ったら危険だと感じたリディアは頷く。
するとパーッとリオの顔が明らいだ。
「ありがとう、姉さま!」
そのままリディアに抱き着く。
「ね、もう十分でしょう?ここから出よう」
耳元でいつもと違う低い声で囁かれ背筋に戦慄が走る。
優しく抱きしめられているのに身動きが一つもとれない。
その事に言い知れぬ恐怖が走る。
(ヤンデレのバッドエンド死ってなかったはず…大丈夫…大丈夫よね?それに…)
「あ、あー、その安心して? この誕生祭が終われば逃げるわよ」
「! ほんと?」
確認するように顔を覗かれる。
「ディーノに逃亡用の品も頼んでいるわ、誕生祭にジーク母の証拠をオズワルドが持ってきたら、隙を突いてここを逃亡するわよ」
その言葉に本当に逃亡するのだと確信し、リオが嬉しそうに頷く。
「逃亡は南に向けてでよろしいでしょうか?」
「何?こいつも連れて行くの?」
「魔法を私達は使えないでしょう?」
「田舎なら薪もタダでいっぱい取れるし火魔法いらないじゃん」
「水が遠いかもしれないわ」
「なら森の中の川の近くにすればいい!森の中でも僕と居れば大丈夫だよ!」
「リオ、私は貴方と同じく、イザークも守りたい」
「チッ」
それだけでなく、快適さにすでに手放せなくなっているという事はあえて口に出さないでニッコリと笑う。
「当日は私に従って」
「僕はいつでも姉さまにしか従わないよ」
「そうだったわね、‥‥遅くなったけど」
「!」
自由になった手でリオを抱きしめる。
「無事に帰ってくれてありがとう」
(流れで仕方なかったとはいえ‥、戦まで、ここまで巻き込んでしまった…、これは私の罪ね…)
"それに便利だし"と心の中で付け足す。
いい事思っていても邪心はしっかり持っているリディアだった。
「姉さま… 僕の姉さま…」
嬉しそうにうっとりとしてリディアを抱きしめ返す。
そんなリオの背をポンポンと優しく安心させるように叩く。
「リディア様、リオ様、お茶が入りました」
「ありがとう」
「いらない、僕もう少しこうしてたい」
「リオ、一つ言っとくわ、ゲラルトに悟らせないように気を付けて」
「解ってる、全部僕に任せて?僕なら姉さまを安全に連れ去ってあげられるから」
「ええ、期待してる」
「!」
リオの目がキラリンと輝く。
「うん、絶対約束する!だから僕に任せて!」
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