つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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 バタバタとせわしく動くイザークをリディアが申し訳なさそうな眼差しで見る。
 途中、様子を見に図書室に向かったイザークはリディアがいない事に気づき、ジークヴァルトを探しに動いたリディアを探す羽目になったのだ。
 そのためディナーの準備が整っていなくて、必死に今準備をしてくれている真っ最中と言うわけだ。

「あー、その、簡単なものでいいわよ?」
「待たせてしまいすみません、もう少々お待ちください」

 こちらを振り返ることなくそう言いながら、見事なまでに繊細な魔法を駆使し料理が作られていく。

「ほんと凄いわ…器用ね~…」

 いつも図書室に居る間に全てが終わっているため見たことがなかったが、初めて見るイザークが魔法を使って準備しているのを見て感心する。
 幾つもの作業が同時進行で動いていく。

(王宮執事と言うか…、執事の名家、ローズ家の執事魔法パねぇ~わね)

 あちこち歩きまわりお腹はペコペコなのだが、この見事な魔法を見ていると一瞬忘れそうになるぐらいだ。

(しっかし、今日に限ってジークが出掛けてるとか‥‥)

 結局どこにも居なくて、やっとこさ情報得たと思ったら城を留守にしているという情報だった。
 お陰で探し損だ。

(ジークが帰った後、忍び込むしかないか…いや、サディアスと言う手もあるか…)

 そんな事を考えていると、最後の仕上げにグラスに飲み物を入れ差し出すイザークが隣に立っていた。

「お待たせしました、さぁ、どうぞお召し上がりください」

 見事に出来上がったディナーにお腹がグーっとなる。

「頂きます」

 相変わらず美味しいイザークの料理に舌鼓を打っていると、イザークが時間を気にするそぶりを見せた。

「どうしたの?」
「はい、今日は執事の集会がございます、リディア様の食事が終わりましたら少々席を外させて頂きます」
「集会?」
「リディア様を探しに行く前に伝達がありました」
「そう…」

(報告だけならなぁ…集会はダメよね~…)

 サディアスにイザークは毎日報告に行く。
 報告ついでにジークヴァルトの事も言っておけば何とかなるかもしれないという、あわよくばの考えも思いついていたが敢え無く撃沈する。
 国王代理の殺害計画という大事、あまり知れ渡るのはよろしくない。
 なので集会でその話をするのはよろしくないわけで。
 個別に後で話するとしても集会の後だ、今後を左右する試験も間近なこの時期なだけに誰が聞いているかも解らない。
 他にも手段としてイザークにもジークの所に忍び込む手伝いをしてもらおうと思っていたが、執事集会だと無理だ。大体にして帰ってくる時間が遅い。となると殺された後に忍び込んでも意味がない。

「如何なさいましたか?」
「ううん、何でもないわ」

(こうなったら自力で忍び込むしかないか…)

 リオも遠征で今日は留守だ。

(こんな時に限ってよね~マーフィーの法則ね…はぁ~)

 内心ため息をつく。








「さてと、そろそろかしら?」

 リディアは椅子から立ち上がる。
 ジークヴァルトが城に戻り、報告会議も終わった頃だろう時期を見計らい忍び込むため部屋を後にする。
 出来るだけ足を忍ばせ城内に入る。
 施設逃亡を企てていたリディアは城内の地図は頭に入れてある。

(確かジークヴァルトの部屋はこっち…)

 国の宝である聖女達がいる場所であるため聖女候補の施設はかなり城内部に近い。
 内部でなく外側ならば警備もかなり厳しいが、内部になると少しは緩みが出る。
 その隙を突きながら慎重にジークヴァルトの自室へと向かう。

(多分、あれね…)

 ジークヴァルトの自室であろうドアの前に立つ。
 そして一つ深呼吸すると、恐る恐るノックをする。

「?」

 返事がない。

(え?留守?…まだ自室に戻ってないのかしら?)

 どうしようと思案する。
 この廊下に突っ立っていて衛兵に見つかっても厄介だ。

(カギは…)

 ドアノブに手を掛けるとドアが開いた。

(開いてる!ラッキーだわ、中で待とう)

 中に入ると部屋は薄暗く、ランプの灯だけが炎を揺らしていた。

「誰だ?」
「!」

 部屋の左奥から風呂から上がって来たジークヴァルトが現れビクッと身体を震わせた。

(ああ、入浴中でノックの音が聞こえなかったのね…)

「!…お前、どうしてここに?」
「えーと…」

 『狙われている』という言葉を言いかけ止める。

(もう既にここに刺客が隠れているかもしれない…迂闊に言葉にしてはダメね‥)

 気づかれた瞬間、襲われるかもしれない。
 この隙だらけの状態で襲われたら、ジークヴァルトが危ない。
 弟のロレシオが仕掛けた罠だ。
 ロレシオはジークヴァルトの実力を十二分に知っている。
 そのジークヴァルトに仕掛けた刺客は相当な手練れのはず。

(何とかジーク自身で気づいてもらわないと…どうしよう…)

「どうした?」

 適当に取り繕う様に口にする。

「あ、あー、ちょっと会いたくなったというか…お話ししたいなぁ~って…」
「ほぉ、こんな夜遅くに?」

 肩に掛けていたタオルを椅子に掛けながらリディアに振り返る。

(何とか敵に気づかれずにジークに知らせる方法はないかしら?)

 そんなジークヴァルトを他所に部屋を見渡す。
 その目に剣が映る。
 自分の立つ隣に無造作にジークヴァルトの剣が立て掛けられていた。

(そうだわ!剣を渡せば何とかなるかも…こっちの意図に気づかなくても剣があれば未然に防げるかもしれないわ)

 壁に立て掛けられた剣に近づく。

「何だ?俺の剣が気になるのか?」
「ええ、持って見ても?」
「ああ、構わん」

 ジークヴァルトの許可を得、剣に手を伸ばす。

「! 重っっ」

 持ち上げようにもビクとも動かない剣に焦る。

「ああ、俺の剣は並みの男でも厳しい程重い、女のお前ではビクとも動かんだろう」

(よりによって何でそんな重いの使ってるの!これじゃ役にたたないじゃない!)

 剣は諦めるしかない。

(どうすれば…ジークに気づかせることが…)

 ジークヴァルトに振り返ると、風呂上がりで喉が渇いたのだろう。机の上に用意された水差しを手にしようとしていた。

(あれは!)

「待って!」

 机の横にベットがある。


”腕利きの殺し屋もベットのそばに配置するよう指示してあります“


(という事は、毒はあの水にあるのね、あれを飲む前に気づかせなければ‥‥)

 毒魔法の掛かった水を飲ませてベットに倒れ込んだところで襲い掛かる、そう言った段取りなのだろうと理解する。

「どうした?」
「えーと、私が淹れます、殿下にさせるわけには流石にいかないので」
「ほぉ、お前が?」
「はい」
「ふっ、いいだろう」

 つかつかとジークヴァルトに近づきながら必死に考えを巡らす。

(何か、何か気づいてもらう方法は…)

 考えているうちに机の前に来てしまう。

(ああ、どうすれば…)

「何を突っ立っている?」
「すみません…、ちょっと緊張して」
「お前が緊張とは珍しいな」

 コップを手に取る。
 そして水差しを持つ。

(この水に毒魔法が‥‥ん?)

 コポコポと音を鳴らしながら水を淹れた所で、ふと閃く。

(そうだ、魔法だ、だったら…光魔法効くんじゃ…)

 光魔法は浄化が得意な魔法ってのは結構鉄板な筈。
 だとしたら、毒魔法を光魔法で消せばいいだけの話だ。

(だけど、今光らせたら敵が襲い掛かってくるかもしれない…)

 変な行動を起こして、敵に先に動かれてはマズい。
 でも言葉で伝えられない今、気づかせるのは難しい。

(どうしよう、ジークにこれを飲ませるわけにはいかないわ…)

 ベットに倒れ込む前提だとすると、即効性のある毒魔法の筈。
 飲んだ途端倒れた所で襲われれば、無傷で済むはずがない。
 下手すれば死ぬ、ヤバい状況には変わりない。

(そんな刺客、私が止められるはずないし…大体小刀だけでどうしようもないわよね…)

 いつも持ち歩いている形見の小刀を素人が振り回した所でどうにもならない。
 手に持っているコップの中の透明な水を見る。

(これに毒が入っていることが解れば…あ…そうか!)

 ピンと閃く。

(私が飲めば…)

 飲んだ後、倒れかけた所で光魔法を自分に掛ければいいだけの話だ。
 後は武器に私の小刀をそっと渡せば、刺客がいる事が解るはず。
 先にジークが気づけば、後は敵をパパっとやっつけてくれるでしょう。

(ふっふっふ、これで大団円頂きね)

 勝利を確信し、心の中でガッツポーズを決める。
 楽勝だわと、コップを手にジークヴァルトへ振り返る。

(主人公補正でどうせ私死なないし!)



「‥‥お待たせしました」




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