つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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「早く到着したため、式典が始まるまでかなり時間ができました、敷地内でしたら会場以外なら自由行動の許可が下りました、開始時間30分前にはこの場所に必ずお戻りください」

 オーレリーがそう述べると、その場を後にした。
 今日は前聖女の2周忌だ。
 その式典に参列するため聖女候補生が国王の弟の城のような屋敷に招待されていた。
 とういうのも国王の弟レフリードの嫁が前聖女だったためだ。
 
「まさかあの若さで亡くなるとは思いもしませんでしたわ」
「でもお陰で聖女試験が行われて…」
「そんな事言っちゃだめよ、不謹慎ですわ」

 前聖女は里帰りの途中、急な嵐に見舞われ、運悪くそこに力の強い魔物が現れ、護衛諸共その魔物に殺されてしまったのだ。余りの悲劇に故郷では弔いの意味も込めて前聖女の像が建てられている。
 本来なら、聖女の体調を見計らい、適度な所で聖女試験を行い後継者を決める。
 だが、今回は思ってもみない聖女の死に皆が焦った。
 魔物が増える中、聖女の死にすぐ聖女試験を行うわけにもいかず、前聖女の1周忌を待ち急いで聖女候補生を集め、聖女試験の開始を行った。
 聖女候補生達にとっては18~28歳と言う年齢制限が設けられているため諦めていた候補生もいたわけで、聖女交代はまだまだ先と思っていたのが試験が出来ることとなった。棚から牡丹餅な気分だった。

「フェリシー、ごめんなさい…つい思ってしまって…」
 
(そう思うのも無理はないわね…)

 聖女交代時期でない場合、大概、交代時期を狙って子供がいるように結婚させられ女の子を何人も産まされる。徴のある者の子に徴が現れる率が高いためだ。
 養子に貰った子であれば、下手すれば養子の主、要は義父親と無理やり性交渉を強いられることもある。
 それほどに「聖女」や「聖女候補生」というのは、とても美味しい条件なのだ。

「いかがなさいますか?」

 イザークがリディアの顔を伺う様に見る。

「そうね…、暇だし、少しぶらつこうかしら」
「畏まりました」

 イザークに連れられ部屋の外に出る。

「外から見ても思ったけど、凄い豪華ね…」
「レフリード様は国王の弟と言うだけでなく、聖女を嫁にしたということで支給額も相当出たと聞きます」
「なるほどね、…権力争いにはならなかったのかしら?」
「兄弟仲が良かったと聞きます、また元王妃であらせられるジークヴァルト様の母もまた聖女候補生であり、元聖女様とも大変仲が良かったそうです」
「へぇ~…、ああ、だから沢山支給もしたのかもしれないわね」
「ああ、兄弟が仲いいアピールにもなるしな」
「ジーク!?」
「ジーク派の強みにもなりますからね」
「サディアス?!」

 ひょこっと二人がリディアの隣に現れる。

「黒もまた艶やかでいいな」
「白い肌によく映える」
「厭らしい眼で見るのはおやめ下さい」

 喪服姿のリディアを怪しい眼差しで見下ろす二人から隠すようにイザークが前に出る。

「どうしてここに?」
「前聖女の式典だ、国王代理が出席するのは当然だろう」
「そういえばそうね」

「ジークヴァルト様、お久しゅうございます!」

 廊下の先でジークを見つけた貴族達がわらわらと集まってくる。

「式典に遅れるなよ?」

 ポンっとリディアの肩を叩くと、颯爽と貴族達に向かい歩き出した。
 するとすぐに貴族達に囲まれ姿が見えなくなる。

「流石、次期国王様ね」
「リディア様、あちらに庭園がございます」
「そうね、ここに突っ立ってるわけにもいかないし」

 ジーク達の集団が通路を塞いでいる。
 別に行く当てもないリディアはイザークの提案に乗る。

「凄い…綺麗…」
「これは見事ですね」

 庭園に出て驚く。
 見事に咲き誇る一面のバラ。

「そう言えば、元聖女はバラが大変お好きで、一年中咲くように魔法を掛けられているとか」
「言われてみれば季節はずれよね、でも、これだけ咲かす魔法って‥」
「レフリード様は魔力量が自慢だそうです、奥様を喜ばせるために惜しみなく使っていたとか…」
「愛されていたのね」
「そうですね、死んで尚、こうして魔力を注ぐのですから…」

 バラの一つを手にし眺めるリディアの横顔を見つめる。

「…リディア様の好きな花は何ですか?」
「え?」
「そ、その‥、一番好きな花は何か聞いたことがなかったと思いまして」
「花ね…」
「花でなくともいいです、一番の好きなモノはございますか?」
「うーん…」

 リディアの脳裏に浮かんだのはただ一つ。

(乙女ゲームとは言えないわよね)

 どこまでも外道なリディアだった。

「花…花…、好きな花はいっぱいあるんだけど…」

 一番と言われると悩むなと首を捻る。

「一つに絞れない…あ」
「?」
「万葉の花が好きだわ」
「まんよう?」

(そう言えば万葉集とか知らないわよね)

「古い…最古の詩を綴った本があってね、それが万葉集と言うの」
「まんようしゅう…」
「ええ、そこには4,500余首も詩があってね、その1/3に植物が含まれているの、その数150種類以上」
「そんなに」

 こくんと頷く。

「それぞれに想いを乗せて詩っているのよ、バラはなかったけどね」

(流石に万葉の世にバラはないものね~)

「想いを馳せ感じると、何気ない花も素敵に感じるじゃない、…そか」
「何か?」
「想いを乗せた花が好きってことね」
「想いを乗せた‥‥」
「だからこのバラも好きだわ」

 自分の妻に想いを乗せたバラ。

「確かに‥、素敵ですね」

 イザークも一輪のバラを指先で触れる。

(私の想いを乗せた花でもリディア様は好きと言って下さるのだろうか?)

「なら、これを」
「リオ?!」

 突然現れたリオが花の冠をリディアの上に乗せる。

「ついてきたの!?」
「しっかり僕の想いを乗せているよ、だからこの――――」

 ボカッ

「ってぇっっ」
「お前は場外の警備だろう」
「ゲラルト」
「リディア様すみません、連れて行きます」
「離せっっ」
「ダメだ―――っこら」

 ゲラルトの手を離れ、ふわっとリディアを抱きしめる。

「僕を見て…姉さま」

 切ない声を上げるリオに驚く。

「早く命令してよ…、でないと」



―――― 連れ去っちゃうよ?



「!」

 リオの首根っこを摑まえるゲラルト。

「行くぞ」
「またね、姉さま」

 そのままゲラルトに連れ去られていく。
 一方リディアは、今までのリオとは違う大人びた声色に呆然と立ち竦む。

「リディア様?」
「そう言えばリオって…二つ下だから18?もう19になるのかしら…?」
「そうですね、先月誕生日を迎えられたと思いますので19歳になります」
「そう…」

 いつも甘えに来るリオはリディアにとってずっと出会った頃そのままで子供のままだった。

「いつの間にやら成長していたのね」
「リディア様はリオ様にあまり関心を示しませんでしたからね」
「ぅ‥‥」

 リセットを繰り返し見て見ぬふりをしてきた。
 それも随分影響しているのだろう。

「リオまで来ているとはね」
「リオ様の実力でしたら、この国の宝である聖女候補生の護衛任務を任されて当然でしょう」
「なるほど」
「それでリディア様は連れ去られるのですか?」
「え?!」

 驚きイザークを見る。

「これでもローズ家の執事です、口の動きで何と言ったかぐらいは解ります」
「すごい…」
「リディア様…、ここに残るという選択肢はないのですか?」
「!」
「そうすれば私は…」



――― まだあなたの傍に居られる



「ごめん、それはないわ」

(聖女だなんて面倒な事やってられないわ、夢のぐうたら生活まっしぐらよ)

「‥‥そうですか」

 イザークが落ち込むように俯く。

「その様子だと、まだ返事は先延ばしの様ね」
「すみません」
「理由も教えてもらえないのね」
「すみません」

(これは…、最悪イザークを置いていくことも思慮しないといけないかもしれないわね…)

 自分の着ている喪服を見る。

(これもくれるのかしら?)

 衣装を全部売れば結構お金になるかもしれない。
 そうすればいい場所の家を買えるかもしれない。
 とはいえ、イザークと過ごす快適さも捨てがたい。

(この決断は一番最後にしましょう…)

 切ない表情を浮かべるイザークの前で下衆思考を巡らすリディア。
 相変わらず最低だ。綺麗に咲き乱れるバラ園の中でシュールな構図が生まれていた。

「ここに居らっしゃいましたか」
「!」

 不意に見慣れないメイドが現れる。

「何か?」
「オーレリー様が執事の方々を呼んでいらっしゃいます」
「すぐに行きます」
「では、こちらに」
「リディア様、少しの時間、こちらでお待ちください」
「解ったわ」

 そのままリディアを残してイザークが去る。

「やれやれ、気まずい時にいいタイミングね」

 ぽきぽきと首を鳴らすリディアの足元に黒い影が落ちた。


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