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さぁ、はじめようか
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最初の聖女試験と言われる課外授業の日がやって来た。
イザークに連れられ試験会場へと向かう。
それぞれ取りに行く品物が違い、隠された場所も違う。
そのため、それぞれ所定された場所からのスタートとなる。
「お久しぶりね、リディア」
「?!」
リディアに示された所定の場所へと歩いていると、目の前にフェリシーが立ちはだかる。
あれから今まで姿を現さなかったのに急にどうしてと訝し気にフェリシーを見る。
「何も言わないで!」
「へ?」
「あなたの境遇も知らず縋ったりしてごめんなさい」
「は?」
うるうると瞳を潤ませる。
「あの時、あなたが真相を語ったらどうなったかを考えずに突っ走って…私は貴方に酷い事をしてしまったわ…本当にごめんなさい…」
「いや…」
「何も言わないで!」
「‥‥」
「知らなかったの…男爵家でしかも貰われの子だなんて…、だから言えなかったのよね…、本当は言いたかったのに言えば路頭に迷ってしまうもの…」
「そうでは…」
「大丈夫よ!私は怒っていないわ、あなたを許します!」
「はい?」
「私は貴方の味方だから!あんな事があったとしても、私は貴方を信じているわ!」
「違って…」
「本当に優しいわね…あなたは…」
「は?」
「自分が悪役になろうとしたのでしょう?」
「いや、本当に…」
「いいのよ、もう、無理しなくて」
「いや、あの…」
「心配はいらなくてよ、友情の証として用意しましたの!」
フェリシーがそう言うとズラッと背後に人が並ぶ。
「皆、私の友達ですの、この中から好きな人を選んで、私の話を聞いて皆協力したいと申し出てくれたのよ」
「はぁ????」
可哀そうな子に慈愛の笑みを浮かべるようにフェリシーとその仲間たちがリディアに微笑みかける。
そこでハッと思い出す。
(あー、あの話を聞いていたのはフェリシーだったのね…)
イザークに詰め寄ったあの日、草むらに居た不審人物はフェリシーだったのだと気づく。
そしてあらぬ方向にまたお人好し思考を発揮したのだと理解した。
「その、もう決まってますので大丈夫ですわ」
「遠慮はいりませんわ、弟の…リオ君だったかしら?その弟しかいないのでしょう?ここに居るのは全ての属性が揃っていますわ、誰を選んでもいいわよ」
「本当にお心遣いだけ有難く頂きますわ」
「リディアは本当に慎み深いわね…、それなのに私ったら勘違いして…」
「フェリシー、大丈夫、君は知らなかったのだから」
「傷つき、尚も友人を思いやる、あなたこそ本当にお優しい姫です」
およよと涙するフェリシーにその友達とやらが優しい声を掛ける。
「リディア殿、フェリシーのご友人のあなたに私は力を捧ぐと誓います」
「フェリシーの事を思うならばどうぞ、私達から好きな者をお選びください」
「あーそのー結構です」
「リディア殿!大丈夫、私達はそれなりにちゃんと力がございます、ちゃんとご期待に添えますので」
「フェリシー様が平等にと言って下さっています、なのでリディア嬢に力添えをしようと手抜きなど致しません」
「フェリシーの友人ならば幾らでも手を――――」
ズサッ
押し寄せる友達とリディアの間に鋭いナイフが飛び近くの柱に刺さる。
「!」
「曲者?!」
「リディアを守って!」
「フェリシー様もです!」
二人を守ろうとする男達をリディアが制する。
そんな事させたら殺しかねない。
「リディア?」
「紹介が遅れました…リオ」
「!!」
気配もなく不意に現れた男に皆が驚く。
「こいつら何?役立たずのくせして姉さまに言い寄るなんて」
リディアに抱き着くリオにはぁっとため息をつく。
「肌が茶色い…」
「愚民が弟?」
「やめなさい!」
「っ、ごめん、フェリシー」
フェリシーが優しい笑みでリオを見る。
「ごめんなさい、友達が酷い事を言って‥私はリディアの友達の―――」
「邪魔」
「え‥?」
何を言われたのか一瞬解らないというように瞬きするフェリシー。
そんなフェリシーを他所にギューッと抱き着くリオに頭を抱える。
「そのー、この通り物凄―――く弟は人見知りなの、だから必要ないわ」
「姉さま!やっぱり僕を思ってくれているんだね!嬉しいっっ」
ギュッギューと更に抱き着くリオにおえっとなりながらフェリシーを見る。
するとフェリシーがまたうるうる瞳を潤わせていた。
(ゲッ…これはまた…)
「痩せ細った奴隷のような姿になるほどに…義理の弟と共に乗り越えてきたのよね…大丈夫よ、あなたの姉さまを取ったりしないわ!」
(あー、またあらぬ方向にいっているわ…)
「私…決めたわ」
「へ?」
「あなたが聖女になれなくても、私が聖女になってあなた達を救ってあげる!!」
「‥‥」
「二人が幸せに暮らせるように、私が世界を平和にして見せるわ!!」
「フェリシー!」
「ほんと、お前は良い女だな」
「素敵だよ、フェリシー」
(どうしよう、鳥肌が止まんない)
呆気に取られながらフェリシーとその仲間たちを見る。
「余計なお世話だったようね、ごめんなさい」
「いえ…」
「怪我をしないように頑張ってね…、それでももし必要であれば、いつでも私の友達を貸すわ」
「あ、ありがと…?」
「気にしないで!私達は友達だもの!」
「‥‥」
「じゃ、今日は頑張りましょう!」
(恐ろしや…お花畑主人公気質…)
そう言って去っていくフェリシーを力なく手を振る。
そんなリディアとは正反対に顔を輝かせルンルンと笑顔を見せるリオが居た。
「ああ、姉さまが僕を呼んでくれるなんて嬉しい…姉さま、今日は僕がんばるからね、姉さまのために一番で帰ってくるから!」
「はぁ~~~~~」
リオの笑顔とフェリシーの後ろ姿に深いため息をつくリディアだった。
一難去ってまた一難。
「今度はあんた達か―――」
イザークに連れられて来たスタート地点には、ジークヴァルトとサディアスが悠々と日傘の元に茶を嗜んでいた。
「国王代理とこの国切っての軍師に向かってあんたとは何です?」
「相変わらず姉さまべったりだな」
リディアとリディアに抱き着く弟に向かってジークヴァルトとサディアスが開口一番に口にする。
「ほぉ、あれがリオってやつか」
更にはその後ろでキャサドラが興味津々にリオを眺め見る。
「レティシアは気合を入れて凄い面子を揃えていたぞ?」
「人望がないと大変ですね、弟のリオおひとりとは」
「ほとんどの候補者は大金を掛けて面子を集めていたぞ?気合半端ないな」
好き勝手に喋るそんな三人にまた、はぁ~~~と長い溜息をつく。
「リディア様、そろそろ時間です、ご準備を」
イザークが耳元で囁く。
「おや、オーレリーの鳥が飛んできましたね」
「たく、ぼやぼやしているから話す間もなくスタートだぞ」
スタートの合図を告げるオーレリーの術で作られた式神の鳥が真上に飛んでくる。
「こちらにお立ち下さい」
試験官の一人がリディアを即す。
リオと二人でそこに並ぶ。
ジークヴァルトもいるせいで沢山の兵に囲まれながら、スタートの合図の鳥の鳴き声を待つ。
「この試験は重要度が高いので心してお励み下さい、一番になったモノには最高得点が付きます、一番にならずとも試験に用意された品を持ち帰れば得点を得られます、持ち帰ることが出来なければ落第点とはなります、ですが一番にならずともまだこれからの試験に励んでいただければ挽回も可能です、ただ…落第点となるとかなり厳しくなるかもしれません、今回は重要度が高い試験であるので…ですので最後まで諦めず頑張ってください」
試験官が説明を終えると腕を上げる。
これが合図なのであろう。
鳥がスタートの鳴き声を上げる。
「スタートです!」
刹那、リオの姿が消える。
「流石、早いな」
「目で追えないとは…すごいな」
「あのスピードであの女が眼を回さないのが不思議で‥‥」
サディアスが言いかけた言葉が止まる。
皆が目を点にしてスタート地点を見る。
「リ…リディア様?」
イザークがおろおろとリディアの名を口にする。
「おい、お前、何をしている?」
「一緒に行ったのではなかったのですか?全く、これほどまで愚かとは思いませんでした」
「イザーク」
「はい」
そんな嫌味を言う二人を他所にイザークを呼ぶ。
「さて、帰るわよ」
「え…?」
「お前何を言っている?」
「試験の最中ですよ?どこに行こうというのです!」
「ふぁあぁぁ~~~」
焦る二人の前で大きな欠伸をするリディア。
「これでは本を読む前に眠ってしまいそうね、少しベットで寝るわ」
「あの…リディア様」
「おい!どういう事だ?」
「試験中という事をお忘れですか!」
サディアスが堪らずリディアの前に立つ。
「試験の最中に試験をほったらかしてどこに行くというのです?」
「ほったらかしていませんわ、リオが行ったではありませんか」
「これは貴方の試験ですよ?」
「私の試験でも、私がとって帰ってくるという条件ではないでしょう?」
「それは…」
試験の内容は”品を持ち帰る“となっている、”誰が“とは書かれていない事を思い出す。
「ですが、リオ様一人だけでは流石に…」
「問題ないわ」
「中々に聖女とは思えぬ非道っぷり…、なぜあなたに徴とやらが現れたのやら…」
「スタートに立ったことで私は参加したことになったわよね、てことで、帰ります」
嫌味もスルーして帰ろうとしたリディアの前にサディアスが立ちふさがる。
「待ちなさい!私が許しません、今すぐに参加しないと聖女試験を任されている私があなたに罰を与えますよ」
「!」
生意気な態度に怒りに震えながら低い声で言うサディアスに、またはぁ~~っとため息をつく。
(仕方ないわね‥さっさととんずらする予定だったけど、この二人が居たんじゃね~…)
どう切り抜けようかと思案する。
(この際、ぶっちゃけた方が早いか…)
イザークに聞かれた理由、その答えには2つあった。
1つはイザークに話した聖女になりたくない理由だ。それとは別にもう一つ、落第点になってもいい上、リオ一択にした理由がこれだ。
「では、私がこの試験に参加して、もし重症を負ったとしてもいいのですか?」
「!‥‥それは…」
サディアスの脳裏にこの前の魔法石が爆発した事件が蘇る。
「まるで…何か起こるのを知っているかのようですね」
そう、知っている。
「そうね、セド河の橋に罠が仕掛けられている事は知っているかしら」
「「「!」」」
これも金太郎飴イベントの一つで覚えていた。
どのコースでもリディアは重傷を負うのだ。
そんなものに参加する気はこれっぽっちもない。
(流石に金太郎イベは覚えてるわ…)
重傷を負うリディアにそれぞれのコースで攻略男子が後悔するというシーン。
どういった理由でどういう経緯で何てのは全く覚えてない。
ただ一つだけ、イベントスチルが尽く全員苦悩な表情だったのだけは覚えている。
(そんな危険イベに誰か参加するもんですか)
第一聖女になる気がないのに大怪我でつらい思いするなんてごめんだと、チート身体能力の弟リオなら何とかやり過ごすだろうと考えて全て丸投げした相変わらず下衆思考全開のリディアだった。
イザークに連れられ試験会場へと向かう。
それぞれ取りに行く品物が違い、隠された場所も違う。
そのため、それぞれ所定された場所からのスタートとなる。
「お久しぶりね、リディア」
「?!」
リディアに示された所定の場所へと歩いていると、目の前にフェリシーが立ちはだかる。
あれから今まで姿を現さなかったのに急にどうしてと訝し気にフェリシーを見る。
「何も言わないで!」
「へ?」
「あなたの境遇も知らず縋ったりしてごめんなさい」
「は?」
うるうると瞳を潤ませる。
「あの時、あなたが真相を語ったらどうなったかを考えずに突っ走って…私は貴方に酷い事をしてしまったわ…本当にごめんなさい…」
「いや…」
「何も言わないで!」
「‥‥」
「知らなかったの…男爵家でしかも貰われの子だなんて…、だから言えなかったのよね…、本当は言いたかったのに言えば路頭に迷ってしまうもの…」
「そうでは…」
「大丈夫よ!私は怒っていないわ、あなたを許します!」
「はい?」
「私は貴方の味方だから!あんな事があったとしても、私は貴方を信じているわ!」
「違って…」
「本当に優しいわね…あなたは…」
「は?」
「自分が悪役になろうとしたのでしょう?」
「いや、本当に…」
「いいのよ、もう、無理しなくて」
「いや、あの…」
「心配はいらなくてよ、友情の証として用意しましたの!」
フェリシーがそう言うとズラッと背後に人が並ぶ。
「皆、私の友達ですの、この中から好きな人を選んで、私の話を聞いて皆協力したいと申し出てくれたのよ」
「はぁ????」
可哀そうな子に慈愛の笑みを浮かべるようにフェリシーとその仲間たちがリディアに微笑みかける。
そこでハッと思い出す。
(あー、あの話を聞いていたのはフェリシーだったのね…)
イザークに詰め寄ったあの日、草むらに居た不審人物はフェリシーだったのだと気づく。
そしてあらぬ方向にまたお人好し思考を発揮したのだと理解した。
「その、もう決まってますので大丈夫ですわ」
「遠慮はいりませんわ、弟の…リオ君だったかしら?その弟しかいないのでしょう?ここに居るのは全ての属性が揃っていますわ、誰を選んでもいいわよ」
「本当にお心遣いだけ有難く頂きますわ」
「リディアは本当に慎み深いわね…、それなのに私ったら勘違いして…」
「フェリシー、大丈夫、君は知らなかったのだから」
「傷つき、尚も友人を思いやる、あなたこそ本当にお優しい姫です」
およよと涙するフェリシーにその友達とやらが優しい声を掛ける。
「リディア殿、フェリシーのご友人のあなたに私は力を捧ぐと誓います」
「フェリシーの事を思うならばどうぞ、私達から好きな者をお選びください」
「あーそのー結構です」
「リディア殿!大丈夫、私達はそれなりにちゃんと力がございます、ちゃんとご期待に添えますので」
「フェリシー様が平等にと言って下さっています、なのでリディア嬢に力添えをしようと手抜きなど致しません」
「フェリシーの友人ならば幾らでも手を――――」
ズサッ
押し寄せる友達とリディアの間に鋭いナイフが飛び近くの柱に刺さる。
「!」
「曲者?!」
「リディアを守って!」
「フェリシー様もです!」
二人を守ろうとする男達をリディアが制する。
そんな事させたら殺しかねない。
「リディア?」
「紹介が遅れました…リオ」
「!!」
気配もなく不意に現れた男に皆が驚く。
「こいつら何?役立たずのくせして姉さまに言い寄るなんて」
リディアに抱き着くリオにはぁっとため息をつく。
「肌が茶色い…」
「愚民が弟?」
「やめなさい!」
「っ、ごめん、フェリシー」
フェリシーが優しい笑みでリオを見る。
「ごめんなさい、友達が酷い事を言って‥私はリディアの友達の―――」
「邪魔」
「え‥?」
何を言われたのか一瞬解らないというように瞬きするフェリシー。
そんなフェリシーを他所にギューッと抱き着くリオに頭を抱える。
「そのー、この通り物凄―――く弟は人見知りなの、だから必要ないわ」
「姉さま!やっぱり僕を思ってくれているんだね!嬉しいっっ」
ギュッギューと更に抱き着くリオにおえっとなりながらフェリシーを見る。
するとフェリシーがまたうるうる瞳を潤わせていた。
(ゲッ…これはまた…)
「痩せ細った奴隷のような姿になるほどに…義理の弟と共に乗り越えてきたのよね…大丈夫よ、あなたの姉さまを取ったりしないわ!」
(あー、またあらぬ方向にいっているわ…)
「私…決めたわ」
「へ?」
「あなたが聖女になれなくても、私が聖女になってあなた達を救ってあげる!!」
「‥‥」
「二人が幸せに暮らせるように、私が世界を平和にして見せるわ!!」
「フェリシー!」
「ほんと、お前は良い女だな」
「素敵だよ、フェリシー」
(どうしよう、鳥肌が止まんない)
呆気に取られながらフェリシーとその仲間たちを見る。
「余計なお世話だったようね、ごめんなさい」
「いえ…」
「怪我をしないように頑張ってね…、それでももし必要であれば、いつでも私の友達を貸すわ」
「あ、ありがと…?」
「気にしないで!私達は友達だもの!」
「‥‥」
「じゃ、今日は頑張りましょう!」
(恐ろしや…お花畑主人公気質…)
そう言って去っていくフェリシーを力なく手を振る。
そんなリディアとは正反対に顔を輝かせルンルンと笑顔を見せるリオが居た。
「ああ、姉さまが僕を呼んでくれるなんて嬉しい…姉さま、今日は僕がんばるからね、姉さまのために一番で帰ってくるから!」
「はぁ~~~~~」
リオの笑顔とフェリシーの後ろ姿に深いため息をつくリディアだった。
一難去ってまた一難。
「今度はあんた達か―――」
イザークに連れられて来たスタート地点には、ジークヴァルトとサディアスが悠々と日傘の元に茶を嗜んでいた。
「国王代理とこの国切っての軍師に向かってあんたとは何です?」
「相変わらず姉さまべったりだな」
リディアとリディアに抱き着く弟に向かってジークヴァルトとサディアスが開口一番に口にする。
「ほぉ、あれがリオってやつか」
更にはその後ろでキャサドラが興味津々にリオを眺め見る。
「レティシアは気合を入れて凄い面子を揃えていたぞ?」
「人望がないと大変ですね、弟のリオおひとりとは」
「ほとんどの候補者は大金を掛けて面子を集めていたぞ?気合半端ないな」
好き勝手に喋るそんな三人にまた、はぁ~~~と長い溜息をつく。
「リディア様、そろそろ時間です、ご準備を」
イザークが耳元で囁く。
「おや、オーレリーの鳥が飛んできましたね」
「たく、ぼやぼやしているから話す間もなくスタートだぞ」
スタートの合図を告げるオーレリーの術で作られた式神の鳥が真上に飛んでくる。
「こちらにお立ち下さい」
試験官の一人がリディアを即す。
リオと二人でそこに並ぶ。
ジークヴァルトもいるせいで沢山の兵に囲まれながら、スタートの合図の鳥の鳴き声を待つ。
「この試験は重要度が高いので心してお励み下さい、一番になったモノには最高得点が付きます、一番にならずとも試験に用意された品を持ち帰れば得点を得られます、持ち帰ることが出来なければ落第点とはなります、ですが一番にならずともまだこれからの試験に励んでいただければ挽回も可能です、ただ…落第点となるとかなり厳しくなるかもしれません、今回は重要度が高い試験であるので…ですので最後まで諦めず頑張ってください」
試験官が説明を終えると腕を上げる。
これが合図なのであろう。
鳥がスタートの鳴き声を上げる。
「スタートです!」
刹那、リオの姿が消える。
「流石、早いな」
「目で追えないとは…すごいな」
「あのスピードであの女が眼を回さないのが不思議で‥‥」
サディアスが言いかけた言葉が止まる。
皆が目を点にしてスタート地点を見る。
「リ…リディア様?」
イザークがおろおろとリディアの名を口にする。
「おい、お前、何をしている?」
「一緒に行ったのではなかったのですか?全く、これほどまで愚かとは思いませんでした」
「イザーク」
「はい」
そんな嫌味を言う二人を他所にイザークを呼ぶ。
「さて、帰るわよ」
「え…?」
「お前何を言っている?」
「試験の最中ですよ?どこに行こうというのです!」
「ふぁあぁぁ~~~」
焦る二人の前で大きな欠伸をするリディア。
「これでは本を読む前に眠ってしまいそうね、少しベットで寝るわ」
「あの…リディア様」
「おい!どういう事だ?」
「試験中という事をお忘れですか!」
サディアスが堪らずリディアの前に立つ。
「試験の最中に試験をほったらかしてどこに行くというのです?」
「ほったらかしていませんわ、リオが行ったではありませんか」
「これは貴方の試験ですよ?」
「私の試験でも、私がとって帰ってくるという条件ではないでしょう?」
「それは…」
試験の内容は”品を持ち帰る“となっている、”誰が“とは書かれていない事を思い出す。
「ですが、リオ様一人だけでは流石に…」
「問題ないわ」
「中々に聖女とは思えぬ非道っぷり…、なぜあなたに徴とやらが現れたのやら…」
「スタートに立ったことで私は参加したことになったわよね、てことで、帰ります」
嫌味もスルーして帰ろうとしたリディアの前にサディアスが立ちふさがる。
「待ちなさい!私が許しません、今すぐに参加しないと聖女試験を任されている私があなたに罰を与えますよ」
「!」
生意気な態度に怒りに震えながら低い声で言うサディアスに、またはぁ~~っとため息をつく。
(仕方ないわね‥さっさととんずらする予定だったけど、この二人が居たんじゃね~…)
どう切り抜けようかと思案する。
(この際、ぶっちゃけた方が早いか…)
イザークに聞かれた理由、その答えには2つあった。
1つはイザークに話した聖女になりたくない理由だ。それとは別にもう一つ、落第点になってもいい上、リオ一択にした理由がこれだ。
「では、私がこの試験に参加して、もし重症を負ったとしてもいいのですか?」
「!‥‥それは…」
サディアスの脳裏にこの前の魔法石が爆発した事件が蘇る。
「まるで…何か起こるのを知っているかのようですね」
そう、知っている。
「そうね、セド河の橋に罠が仕掛けられている事は知っているかしら」
「「「!」」」
これも金太郎飴イベントの一つで覚えていた。
どのコースでもリディアは重傷を負うのだ。
そんなものに参加する気はこれっぽっちもない。
(流石に金太郎イベは覚えてるわ…)
重傷を負うリディアにそれぞれのコースで攻略男子が後悔するというシーン。
どういった理由でどういう経緯で何てのは全く覚えてない。
ただ一つだけ、イベントスチルが尽く全員苦悩な表情だったのだけは覚えている。
(そんな危険イベに誰か参加するもんですか)
第一聖女になる気がないのに大怪我でつらい思いするなんてごめんだと、チート身体能力の弟リオなら何とかやり過ごすだろうと考えて全て丸投げした相変わらず下衆思考全開のリディアだった。
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