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さぁ、はじめようか
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一通り片づけを終えたイザークは、やれやれと息を一つ吐き出す。
先に寝かしたリディアの様子を見に部屋へと入ると、小さな寝息が聞こえた。
ベットに近づくとスヤスヤと心地よく眠る美しい女性を見下ろす。
その視線は昼間自分に口付けた唇へと移る。
「この呪われた紅い眼を…」
本当に驚いた。
心臓が飛び出すかと思うほどに。
「本当に聖女のような方だ…」
(私は本当にこのような方の傍にお仕えしていいのだろうか?)
イザークの眼が苦悩の色を浮かべる。
この世に生を受けた時からずっと呪われし子、魔物の子と言われ育ってきた。
この紅い眼と黒魔法を持って生まれたために。
それが殺されずに生きていられているのは、殺すことで王に代々仕える伝統ある執事の家系であるローズ家や王家に呪いが掛かるかもしれないと恐れたからだ。
(あのまま死が訪れるまで出ない方がよかったのだろうか…)
従弟デルフィーノが言った通り、ローズ家からは一歩でも外に出ることを禁じられてきた。
魔物の子として扱われるも執事教育をされてきたのは、当主であるイザークの祖父ゴッドフリードが、執事の教育を受けさせる方針を決めたからだ。
その秘めた意味は人を襲わぬようにのしつけでもあった。
人に近づくことを禁じられたイザークは、兄弟や従弟たちがメイド相手に練習するのを横目で見ながらマネキン相手にお茶を出し、喋らぬ相手に声を掛ける。失敗すれば鞭で打たれる。まるで獰猛な猛獣のしつけのような形で教育された。
だけど、幼き頃はまだ意味が解らず、一度だけ自分でも自信作なお茶が入れられた事に、どうしても母に飲んでほしくて母に近づいたことがあった。
母は驚きイザークの手にしたお茶を叩き落とした。
恐怖の眼が向けられる。
その後、沢山の鞭で長い時間叩かれた。
そこからは部屋にいる時は鍵を閉められ、外では鎖が繋がれた。
一生現れるはずのない主のために、執事教育を受ける日々。
イザークと共に執事の教育を受けていた者たちは次々と巣立っていく。
デルフィーノもその一人だ。
「お前が魔物でなければ…惜しいものだ」
祖父ゴッドフリードが一度だけ漏らしたことがある。
その意味が何なのかイザークは理解していた。
このローズ家で一番器用で魔術にも長け執事としての腕前は自分が一番だと自負していた。
だが幾ら腕前が凄くても魔物のイザークに主を宛がうことは一生あり得ない。
―― ああ、自分に主が出来たなら‥‥
それでも夢を見た。
自分に主が出来た時の夢を。
そんな叶う筈のない儚い夢だけを見て―――
ただ自分の命が尽きるまで、一生現れるはずのない主のための教育を受け続けるしかない。
そう思っていたある日、突然赤い髪の金色の鋭い眼差しをした男、そう、ジークヴァルト殿下が目の前に現れたのだ。
あの日、屋敷が突然騒がしくなった。
「殿下がお越しになられた、ここで大人しくしているように」
と、中庭に鎖でつながれたイザークを置いて足早に叔父が去っていく。
「殿下、お待ちください」
「聖女試験にもう一人執事が要る、誰か良さそうなのは残ってないか?」
「既に大役を務められる執事は全て主が決まっております、聖女候補様に担えられるような執事はもう我が家にはおりません、後はまだ訓練が必要なものばかりで…ローズ家より執事育成学校へ行かれた方が―」
「もう行ってきた、だが、良さそうなものが見つからなかったからここに来た」
「殿下っお待ちください、そっちはっっ」
そうしてジークヴァルト殿下が赤い髪を靡かせ中庭に現れたかと思うと、あの金色の鋭い瞳で庭の端に居るイザークに振り返った。
「アレは…」
ずかずかとイザークの方へと歩き出す。
「殿下っ近寄ってはなりません、呪われるやもしれません」
叔父が必死に殿下を止める中、イザークは執事らしく恭しく首を垂れる。
「ほぅ、コレが噂の魔物の子か、顔を上げろ」
殿下の命令通り顔を上げると、殿下が目の前に立っていて少し驚き見開く。
「なるほど、見事に血の様に真っ赤だな」
自分の紅い瞳をまじまじ見て呟くと、ニヤーッと口元を引いた。
「こいつにする、何だ?鎖でつながれているのか」
瞬間 ――――
ズシャッ
音を聞いたと思ったら、鎖がはらりと落ちていく。
殿下はゆっくりと剣を終うとイザークに振り向いた。
「お前を、聖女試験の執事に任命する」
そうして連れてこられたのがこの施設だった。
イザークの胸は諦めていた主が自分にもできるという嬉しさと、自分を見て母のように嫌がられるかもしれない不安と入れ混じった気持ちで一人控室で開会式を待った。
この姿だからなのだろう、他の執事やメイドとは別室で待たされた。
声も全て筒抜けの薄い壁の向こう側で開会式が進行していく。
その開会式の会場が女性の声でざわついた。
「ここに居ない後一人の聖女候補生は徴が皆と違うと聞きましたわ、本当に聖女候補生なのかしら?」
この一言で動揺が起こったのが薄い壁の向こうから伝わってくる。
その声の主が王妃のご息女レティシアである事はローズ家の執事教育を受けてきたイザークには直ぐに解った。
「徴は徴です、徴の形に決まりはありません、徴が出たのであれば聖女候補生と認められます」
男の声がぴしゃりと言い放つ。
ざわついた声が止まる。
この声はイザークの管理を任されているサディアスのモノだともすぐに理解した。
「では、続いて、それぞれの執事とメイドを決めたいと思います」
そこで、イザークも会場へ呼ばれ席を立つ。
入った瞬間、女性の悲鳴やざわめきが会場を埋め尽くした。
聖女たちが恐怖に怯え震えあがる。あの恐怖で彩られた母の目と同じ目で会場中が自分を見る。
やはり母と同じく受け入れられないのだと知り絶望に項垂れる。
せっかく表に出られたといっても、すぐに追い返されてしまうだろう。
会場を見渡せば、それは一目瞭然だった。
(やはり私には主を持つ資格はないのか…)
諦め、儚い夢を捨て去ろうとした時だった。
王妃のご息女レティシアが声を上げた。
「これは何の冗談ですの?聖女試験に魔物を入れるなぞもっての外、王は何をお考えですか!」
そうだそうだという声が上がる。
居た堪れない気持ちでイザークはその場に突っ立つ。
こんな辱めを受けるために自分は呼ばれたのだろうかと悔しさにギュッと拳を握る。
「そういえば今王代理は、ジークヴァルト、あなただったわね」
レティシアがジークヴァルトを見る。
会場の皆も現王代理を注目する。
「そう言えばお耳にしましたわ、もう一人の聖女候補生はあなたが連れて来たとか」
また会場がざわめく。
「聖女は王同等の意見を述べることが出来ますのよねぇ」
その言葉に会場が更にどよめき疑いの眼差しがジークヴァルトに集中する。
「もしや、この魔物もその聖女も全ての実権を手に入れたいがための画策ではありませんの?ああ、国王がお倒れになったのもそのため…」
「まさか、殿下が国王を…」
「魔物を執事にするなど正気の沙汰ではない」
「本当に殿下が…」
口元を隠していた扇子をパチンと閉じると、レティシアは声を張り上げる。
「この聖女試験に代理である王の意見は無効であることを要求します!現国王の意見で進行すべきです、そうですわよね」
ちらりと会場の皆を見たレティシアに賛同する声が会場を埋め尽くす。
「静まりなさい!」
進行していた男が声を張り上げる。
だが不満でいっぱいのこの状況に会場のざわめきが止まらない。
その時だった。
ガンッッ
剣で地面を叩きつける音が会場中に響き渡った。
王者の覇気が会場にいる皆を一瞬で黙らせる。
「いかにも、俺が二人を連れて来た」
またざわめき掛けたがジークヴァルトの鋭い眼差しに押し黙る。
「だが実権を握りたいがためではない」
「そんなこと口では幾らでも言えますわ!」
「信じようが信じまいがどうでもいいことよ」
「なっ…」
レティシアの言葉を簡単に切り捨てる。
そんなレティシアの前に一枚の紙を手に取り開き見せる。
「国王代理になる時、現国王に全ての権限を俺に委ねると確約してもらったからな」
「!」
皆が目を見張りその紙を見る。
そこには現国王の署名と印がしっかりと押されていた。
これでジークヴァルトが国王代理となっているが、実質的に完全に今の国王であるという事になる。
病に伏せっている現国王に取り下げてもらおうとも、実権がジークヴァルトにある以上、取り下げる事ができない、いや出来たとしても容易な事ではない。
「そんな…、卑怯ですわ!」
「何と言われようと権限は俺にある、サディ、早く進行を進めろ」
「ま、待ちなさい!」
「何だ?まだあるのか?」
ジークヴァルトがレティシアに振り返る。
そんなジークヴァルトをキッと睨みつけると
「あなたが連れて来た二人が試験を受ける事は、王の署名がある以上認めて差しあげますわ」
苛立たし気にそう言うと続けて声を張り上げた。
「ですが、偽物かもわからぬ聖女と魔物の執事と同等に扱われるのは納得がいきません、あなたが連れて来た聖女の執事はこの魔物に、そして平民用宿舎で住まわすこと、ああ、それとメイドも偽物には必要ないですわね、貴族も偽りかもしれませんもの、この要件は認めていただきますわよ」
ジロリとジークヴァルトを睨みつけるレティシア。
魔物と同居なんて、いつ呪われるか襲われるか解らない恐怖に男でも逃げ出すだろう。
更にメイドが居なければ、聖女候補生の世話は全て執事がすることになる。
この魔物に触られたくなければ、自分で家事や支度をしなければならない。
位の低い男爵とはいえ貴族にとってはとても屈辱的な扱いだ。
「あなたが選んだ聖女候補と魔物ですもの、一緒に住んでも問題はございませんでしょう?」
静まり返る会場。
会場にいる皆がこんな魔物と一緒に居たくないとレティシアの意見に頷きジークヴァルトの判断を固唾を飲み待つ。
「わかった」
その一言に皆安堵の息を吐く。
「では、聖女候補生リディア・ぺルグランの執事はイザーク・ローズ、そして住まいは平民用の宿舎とします」
こうしてイザークはリディアの執事となった。
先に寝かしたリディアの様子を見に部屋へと入ると、小さな寝息が聞こえた。
ベットに近づくとスヤスヤと心地よく眠る美しい女性を見下ろす。
その視線は昼間自分に口付けた唇へと移る。
「この呪われた紅い眼を…」
本当に驚いた。
心臓が飛び出すかと思うほどに。
「本当に聖女のような方だ…」
(私は本当にこのような方の傍にお仕えしていいのだろうか?)
イザークの眼が苦悩の色を浮かべる。
この世に生を受けた時からずっと呪われし子、魔物の子と言われ育ってきた。
この紅い眼と黒魔法を持って生まれたために。
それが殺されずに生きていられているのは、殺すことで王に代々仕える伝統ある執事の家系であるローズ家や王家に呪いが掛かるかもしれないと恐れたからだ。
(あのまま死が訪れるまで出ない方がよかったのだろうか…)
従弟デルフィーノが言った通り、ローズ家からは一歩でも外に出ることを禁じられてきた。
魔物の子として扱われるも執事教育をされてきたのは、当主であるイザークの祖父ゴッドフリードが、執事の教育を受けさせる方針を決めたからだ。
その秘めた意味は人を襲わぬようにのしつけでもあった。
人に近づくことを禁じられたイザークは、兄弟や従弟たちがメイド相手に練習するのを横目で見ながらマネキン相手にお茶を出し、喋らぬ相手に声を掛ける。失敗すれば鞭で打たれる。まるで獰猛な猛獣のしつけのような形で教育された。
だけど、幼き頃はまだ意味が解らず、一度だけ自分でも自信作なお茶が入れられた事に、どうしても母に飲んでほしくて母に近づいたことがあった。
母は驚きイザークの手にしたお茶を叩き落とした。
恐怖の眼が向けられる。
その後、沢山の鞭で長い時間叩かれた。
そこからは部屋にいる時は鍵を閉められ、外では鎖が繋がれた。
一生現れるはずのない主のために、執事教育を受ける日々。
イザークと共に執事の教育を受けていた者たちは次々と巣立っていく。
デルフィーノもその一人だ。
「お前が魔物でなければ…惜しいものだ」
祖父ゴッドフリードが一度だけ漏らしたことがある。
その意味が何なのかイザークは理解していた。
このローズ家で一番器用で魔術にも長け執事としての腕前は自分が一番だと自負していた。
だが幾ら腕前が凄くても魔物のイザークに主を宛がうことは一生あり得ない。
―― ああ、自分に主が出来たなら‥‥
それでも夢を見た。
自分に主が出来た時の夢を。
そんな叶う筈のない儚い夢だけを見て―――
ただ自分の命が尽きるまで、一生現れるはずのない主のための教育を受け続けるしかない。
そう思っていたある日、突然赤い髪の金色の鋭い眼差しをした男、そう、ジークヴァルト殿下が目の前に現れたのだ。
あの日、屋敷が突然騒がしくなった。
「殿下がお越しになられた、ここで大人しくしているように」
と、中庭に鎖でつながれたイザークを置いて足早に叔父が去っていく。
「殿下、お待ちください」
「聖女試験にもう一人執事が要る、誰か良さそうなのは残ってないか?」
「既に大役を務められる執事は全て主が決まっております、聖女候補様に担えられるような執事はもう我が家にはおりません、後はまだ訓練が必要なものばかりで…ローズ家より執事育成学校へ行かれた方が―」
「もう行ってきた、だが、良さそうなものが見つからなかったからここに来た」
「殿下っお待ちください、そっちはっっ」
そうしてジークヴァルト殿下が赤い髪を靡かせ中庭に現れたかと思うと、あの金色の鋭い瞳で庭の端に居るイザークに振り返った。
「アレは…」
ずかずかとイザークの方へと歩き出す。
「殿下っ近寄ってはなりません、呪われるやもしれません」
叔父が必死に殿下を止める中、イザークは執事らしく恭しく首を垂れる。
「ほぅ、コレが噂の魔物の子か、顔を上げろ」
殿下の命令通り顔を上げると、殿下が目の前に立っていて少し驚き見開く。
「なるほど、見事に血の様に真っ赤だな」
自分の紅い瞳をまじまじ見て呟くと、ニヤーッと口元を引いた。
「こいつにする、何だ?鎖でつながれているのか」
瞬間 ――――
ズシャッ
音を聞いたと思ったら、鎖がはらりと落ちていく。
殿下はゆっくりと剣を終うとイザークに振り向いた。
「お前を、聖女試験の執事に任命する」
そうして連れてこられたのがこの施設だった。
イザークの胸は諦めていた主が自分にもできるという嬉しさと、自分を見て母のように嫌がられるかもしれない不安と入れ混じった気持ちで一人控室で開会式を待った。
この姿だからなのだろう、他の執事やメイドとは別室で待たされた。
声も全て筒抜けの薄い壁の向こう側で開会式が進行していく。
その開会式の会場が女性の声でざわついた。
「ここに居ない後一人の聖女候補生は徴が皆と違うと聞きましたわ、本当に聖女候補生なのかしら?」
この一言で動揺が起こったのが薄い壁の向こうから伝わってくる。
その声の主が王妃のご息女レティシアである事はローズ家の執事教育を受けてきたイザークには直ぐに解った。
「徴は徴です、徴の形に決まりはありません、徴が出たのであれば聖女候補生と認められます」
男の声がぴしゃりと言い放つ。
ざわついた声が止まる。
この声はイザークの管理を任されているサディアスのモノだともすぐに理解した。
「では、続いて、それぞれの執事とメイドを決めたいと思います」
そこで、イザークも会場へ呼ばれ席を立つ。
入った瞬間、女性の悲鳴やざわめきが会場を埋め尽くした。
聖女たちが恐怖に怯え震えあがる。あの恐怖で彩られた母の目と同じ目で会場中が自分を見る。
やはり母と同じく受け入れられないのだと知り絶望に項垂れる。
せっかく表に出られたといっても、すぐに追い返されてしまうだろう。
会場を見渡せば、それは一目瞭然だった。
(やはり私には主を持つ資格はないのか…)
諦め、儚い夢を捨て去ろうとした時だった。
王妃のご息女レティシアが声を上げた。
「これは何の冗談ですの?聖女試験に魔物を入れるなぞもっての外、王は何をお考えですか!」
そうだそうだという声が上がる。
居た堪れない気持ちでイザークはその場に突っ立つ。
こんな辱めを受けるために自分は呼ばれたのだろうかと悔しさにギュッと拳を握る。
「そういえば今王代理は、ジークヴァルト、あなただったわね」
レティシアがジークヴァルトを見る。
会場の皆も現王代理を注目する。
「そう言えばお耳にしましたわ、もう一人の聖女候補生はあなたが連れて来たとか」
また会場がざわめく。
「聖女は王同等の意見を述べることが出来ますのよねぇ」
その言葉に会場が更にどよめき疑いの眼差しがジークヴァルトに集中する。
「もしや、この魔物もその聖女も全ての実権を手に入れたいがための画策ではありませんの?ああ、国王がお倒れになったのもそのため…」
「まさか、殿下が国王を…」
「魔物を執事にするなど正気の沙汰ではない」
「本当に殿下が…」
口元を隠していた扇子をパチンと閉じると、レティシアは声を張り上げる。
「この聖女試験に代理である王の意見は無効であることを要求します!現国王の意見で進行すべきです、そうですわよね」
ちらりと会場の皆を見たレティシアに賛同する声が会場を埋め尽くす。
「静まりなさい!」
進行していた男が声を張り上げる。
だが不満でいっぱいのこの状況に会場のざわめきが止まらない。
その時だった。
ガンッッ
剣で地面を叩きつける音が会場中に響き渡った。
王者の覇気が会場にいる皆を一瞬で黙らせる。
「いかにも、俺が二人を連れて来た」
またざわめき掛けたがジークヴァルトの鋭い眼差しに押し黙る。
「だが実権を握りたいがためではない」
「そんなこと口では幾らでも言えますわ!」
「信じようが信じまいがどうでもいいことよ」
「なっ…」
レティシアの言葉を簡単に切り捨てる。
そんなレティシアの前に一枚の紙を手に取り開き見せる。
「国王代理になる時、現国王に全ての権限を俺に委ねると確約してもらったからな」
「!」
皆が目を見張りその紙を見る。
そこには現国王の署名と印がしっかりと押されていた。
これでジークヴァルトが国王代理となっているが、実質的に完全に今の国王であるという事になる。
病に伏せっている現国王に取り下げてもらおうとも、実権がジークヴァルトにある以上、取り下げる事ができない、いや出来たとしても容易な事ではない。
「そんな…、卑怯ですわ!」
「何と言われようと権限は俺にある、サディ、早く進行を進めろ」
「ま、待ちなさい!」
「何だ?まだあるのか?」
ジークヴァルトがレティシアに振り返る。
そんなジークヴァルトをキッと睨みつけると
「あなたが連れて来た二人が試験を受ける事は、王の署名がある以上認めて差しあげますわ」
苛立たし気にそう言うと続けて声を張り上げた。
「ですが、偽物かもわからぬ聖女と魔物の執事と同等に扱われるのは納得がいきません、あなたが連れて来た聖女の執事はこの魔物に、そして平民用宿舎で住まわすこと、ああ、それとメイドも偽物には必要ないですわね、貴族も偽りかもしれませんもの、この要件は認めていただきますわよ」
ジロリとジークヴァルトを睨みつけるレティシア。
魔物と同居なんて、いつ呪われるか襲われるか解らない恐怖に男でも逃げ出すだろう。
更にメイドが居なければ、聖女候補生の世話は全て執事がすることになる。
この魔物に触られたくなければ、自分で家事や支度をしなければならない。
位の低い男爵とはいえ貴族にとってはとても屈辱的な扱いだ。
「あなたが選んだ聖女候補と魔物ですもの、一緒に住んでも問題はございませんでしょう?」
静まり返る会場。
会場にいる皆がこんな魔物と一緒に居たくないとレティシアの意見に頷きジークヴァルトの判断を固唾を飲み待つ。
「わかった」
その一言に皆安堵の息を吐く。
「では、聖女候補生リディア・ぺルグランの執事はイザーク・ローズ、そして住まいは平民用の宿舎とします」
こうしてイザークはリディアの執事となった。
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