【R18】研究室

前編

「今日はお天道様が輝いているね」

二之宮先生が呟いた。
いつものように甚兵衛を着て、なんとも今の日本にはふさわしくないほど古風な先生だ。

「そうですね」
「…天国の妻も、きっとこの景色を見たら喜んだだろうな」

先生の奥さんは去年、急性心筋梗塞で亡くなった。大学に泊まっていた先生は、翌日に自宅で倒れている奥さんを見つけたらしい。

「きっと奥さんも喜んだでしょうね…」

ふたりで大学の並木道を歩いていると、
ふと、枯れ木の上で鳴いている鳥が見えた。

「あれは、モズですね」
「モズ？ですか？」
「ええ、ああやって高い声で縄張りを確保しているんですよ」
「鳥の世界もそういうのがあるんですね…」
「ええ、自然界というのは少なからずそのような面がありますから」
「なんか。わたしはそういう争いとか苦手です」
「ハハ…君はすぐに、『にえ』にされてしまいそうですね」

先生は朗らかに笑う。

「『にえ』とはなんでしょうか？」
「それは、生贄のことですよ。モズにはエサを木の棒などで串刺しにして食べる習性があるのです」
「ああ、それなら聞いたことがあります。たしか『モズのはやにえ』と言うんですよね」
「そのとおり。かわいい顔をしてるけど、彼らは結構残酷なんですよ」
「…人間にうまれてよかったです」
「ハハ、それはよかった…」

ふたりで話していると、
先生の研究室にたどり着いた。

「注射器を取っていただけますか？」
「はい！」

注射器を渡すと、
先生はそれに合成毒を入れ、
実験用のネズミに注射した。

「それは、昨日調合したものですか？」
「ええ、ほとんどそうですが、少しだけ興奮剤を投与しています」
「興奮剤…」

モルモットは10分と絶たずに
動きを止めてしまった。

「神経毒の作用が上がりましたね」
「ええ…」
「記録だけ取っておいてください」
「わかりました」

わたしはカバンにしまったノートを取り出そうとした。
すると、急に目の前が暗転する。

……

「起きましたか？」
「っ…！なんのつもりですか？」
「うさぎ君…私の『にえ』になってください」

わたしは研究室の柱に縛られているようだった。

「ぐっ…！」

先生に興奮剤を投与された。

からだが徐々に熱くなって
頭がボーっとしてくる…。

「何するんですか…先生…？」
「実験ですよ」
「わたしにですか…？」
「もちろん」

…怖い。
動かない体に反して、
わたしの肌は感度があがっていく。

「以前は妻にやっていたのですが…」
「……」
「ご存知のとおり亡くなってしまったのでね」
「…天国の奥さんが悲しみますよ」

わたしの言葉に先生はニッと笑う。

「妻なら地獄に落ちたでしょうね…」

朦朧とする意識の中、
わたしは先生のにおいを感じてた。