36 / 36
終章
【エピローグ】
しおりを挟む
私が不思議な体験をした昨年の秋から、早いものでもう一年だ。
私と景はというと、相も変わらず、といったところ。よく口論になるしたびたび酷い喧嘩もするが、不満を腹にため込まず吐き出すようになったのがむしろ良いのか、なんだかんだと仲良く暮らしている。
有り体にいって、順調である。
私生活も。仕事も。
景が受賞したあの小説は、先月ようやく出版までこぎつけた。爆発的なヒットを飛ばし、早々に重版が決定! なんてことは全然なかったが、それなりにまあ売れた。
自分の名前が入った本が書店に並ぶのは壮観なのだろう。景はここ最近すこぶる機嫌が良い。
もっとも売れ行きはそんな感じなので、次の仕事は当然決まっていない。また一からのスタートなのだが、一度結果をだしたことで自信がついたのだろう。書き始めた新作も順調な仕上がりなんだとか。私が読んだところで、これまでの作品と何が違うかサッパリなのだが。
執筆の傍ら、彼は近所の書店でアルバイトを始めた。真面目な勤務ぶりが評価されて (本人談。嘘か真かは景のみが知る)、近々正社員に登用されるかもとかなんとか。時間拘束が激しいし、執筆との両立は難しいんじゃ? と危惧したが、好きな物に触れられるからやりがいのある仕事なんだとか。
それはまあ、良くわかる。やると決めたら頑張る男なので、大丈夫だろう。私は信じて着いていくのみだ。
私たちの生活は慎ましやかながらも、確実に一歩前進していた。
季節は夏真っ盛り。炎天下特有の蒸し暑い熱気が、アスファルトから立ち昇る。
逃れるように国道沿いの喫茶店に入った私と景は、観葉植物が配置されたボックス席に並んで座った。道路がわの壁は全面ガラス張りで、真っ白な日差しが入りこんでいた。
「明るくていい店だね。あ、私アイスコーヒーで」
やってきた女性店員に注文を告げると、「俺も同じので」と景が窓の外に目を向けて答えた。
「なかなか雰囲気いいだろ。再会の場所には相応しい」
「だね」
日曜日なので、様々な客層で店内は混みあっていた。
スピーカーから、曲名のわからないクラシック音楽が流れている。穏やかな曲調は心を落ち着けてくれるのだろうが、今の私には効果がいまいちだ、などと考えている最中、喫茶店の扉にそえ付けたベルが鳴る。新たな客が入ってきたようだ。
「待たせたな」
「よお、久しぶり」
それは、景にしてはらしくない社交辞令な挨拶。私たちが座っているテーブルにまっすぐやって来たのは三嶋蓮だ。爽やかな白のジャケット。すらりとした黒のパンツ姿は蓮によく似合っていて、垢抜けた中にも知性を感じる。これが芸大生の実力か、と隣のラフな格好の景をちらりと見やる。
「なんだよ」
「いや、なんでも」
今日はいい天気だなあ。
そうだなあ。
最近どうよ。
ぼちぼちってところかな。
「なにその話題に困ったときのテンプレみたいな会話」と私が突っ込むと、私たちの間に横たわっていた緊張感が、ようやく少し薄らいだ気がした。
二人は同窓会のあとも顔を合わせていないので、実のところ会うのは久方ぶりだ。どれくらいぶりなのかは知らないが、話題に困るのももっともだ。
それ以前に、なんとなく本題を切り出しにくいというのもあるにはあるが。
「そういや佳作取ったんだってね。おめでとう」
場を和ませる目的で私が話の水を向けると、蓮の表情が柔らかくなった。
「ありがとう」
バス停で出会った女の子を描いた蓮の水彩画が、市のコンクールで入賞したのだ。市民コンクールだから大したことない、と彼は謙遜していたが、十分凄いと思うんだ。
「美術関係の仕事に進むの?」と訊ねたら彼は曖昧に笑って見せたが、表情は明るいので彼なりに何か目標ができたのだろう。
「同窓会のあとからさ、何度かアイツらと会って飲んでんのよ。お前も今度来る?」
景が選んだ話題はやっぱりどこか余所行きだ。
アイツらがどいつらを指すのか、私はあまりよく知らない。
「あー、俺はパスかな。最近、そういう集まりに行く気になれない、っていうか」
「意外だな。大学に通うようになってから、かなり派手な女遊びをしているって噂だったけど」
「心を入れ替えたんだよ、俺は」
ニヤニヤしている景を見やり、蓮が渋面になった。
「いや、ちょっと違うか。無理に自分を変えていたから、本来の姿に戻したというか」
「なるほどね」
「菫のため、なんだよね」と私が話の核心に触れると、「まあ、そうかもな」と蓮はあっさり同意した。それはここ最近見たことのない柔らかい表情で、まるで憑き物が落ちたようだなって思う。
「そいや、結婚するんだって」という蓮の返しに事もなげに答える。「うん。来年の夏頃の予定」
「おめでとう」
「ありがとう」
かつてあれほど恋焦がれた相手に、結婚を祝ってもらうのはなにやら複雑だ。それでも胸が痛まないのは、去年自分を見つめ直せたからだ。
私は彼女に感謝している。彼女にも、結婚を祝ってもらいたい。
「ところでさ――」と私が本題を切り出そうとしたタイミングで、蓮のスマホが鳴った。どうやら、『彼女』が到着したようだ。
「そうそう、そこから右に曲がって、その次を左」
子どもに道案内でもするような、たどたどしい蓮の説明が電話の相手になされる。「大丈夫っぽい」という安堵した蓮の声とともに、電話は切られた。
「さて。心の準備はいいか?」と蓮が言った。どこか含みのある言い方だった。「もちろん」と私は首肯する。そのつもりでここに来たのだ。今さら引き下がれない。
「わかった」
蓮の一言を最後に、沈黙が漂った。
自殺未遂をした高二の夏から、菫の昏睡状態は五年続いた。続いた、と過去形になっている通り、終わりがおとずれたのだ。植物状態でもないのになぜか目覚めないという不可思議な現象は、唐突に今年の春ごろ終わった。
しかし、五年も寝たきりだった体だ。日常生活に耐えうる機能を取り戻すまでには、それなりの時間を要した。約一か月半ほどのリハビリ期間を経て、彼女は六月から七月に暦が変わるあたりでようやく退院した。
この連絡を蓮から受けた時、私は飛び上がって喜んだ。
ついに待ち望んだ日が来たのだと。これでようやく、菫に謝れる。
ところが、電話口の彼の声は浮かなかった。『本当に会いたいか?』と重ねて確認をしてくる。
「どうして、そんなこと聞くの? そんなのもちろん、会いたいに決まってるじゃない」
『もしかしたら、会わないほうがいいかもしれない。……そうだな。これだけは約束してくれ。決して後悔はしないと』
受話器を握ったまま、神妙な顔をしている蓮を想像する。意味はよくわからなかったが、軽い胸騒ぎがした。
「絶対しないよ。どんなことがあろうとも」
それでも私は、胸中で育ち始めた不安の雲を散らして、そう答えた。待ちに待った菫の目覚めの瞬間なんだ。他に選択肢はない。
『そうか。わかった』と蓮が答えた。
そうして、現在に至る。
喫茶店の入口のベルが再び鳴って、一人の女性が母親らしき人物と一緒に入ってきた。
髪は肩口までのショートボブ。ブルーのデニムワンピースを着て肩からショルダーバッグをかけている。杖をつき、やや覚束ない足取りで私たちのいる場所までやって来た彼女は、間違いなく菫だった。多少痩せて見えるとはいえ、あの、精神世界で会った菫がそのまま成長したような姿に、心臓がどくんと跳ねた。
「菫!」と感極まって声を上げたが、彼女はこちらを一瞥しただけで、視線をすぐ向かいの蓮に移した。
「ごめんなさい。待たせてしまいましたか、三嶋さん」
『ミシマサン』という他所他所しい響きの声に、自分の顔が強張るのを感じた。隣の景が口をポカンと開いている。驚嘆とか戸惑いとか、色んな感情が浮かんで見えた。
「ところで、こちらの方々は?」
菫は、いや、菫だったはずの彼女は、表情を少しだけ柔らかくして私と目を合わせた。逸らすことは、できなかった。
「この二人はね、俺たちの同級生で、霧島さんと月輪君。森川さんもほら、挨拶して」
「初めまして、霧島さん。月輪さん。森川菫といいます」
差し出された細い右手を、恐る恐る握り返した。小刻みに震えている手は、私の手だった。
※
それは、蓮にとっても待ち焦がれていた瞬間だった。
意識が戻らなくなった人の平均余命は、三年前後と言われている。稀に五年、最長で十年ほど生存したケースもあるらしいが、意識不明の期間が長引くほど、目覚める可能性はどんどん低くなる。そんななか、四年もの期間を経て菫の意識が戻ったことは、それだけでも奇跡だった。
電話口で彼女の覚醒を知らされると、着の身着のまま蓮は病院に向かった。転げるように病室に駆け込んで、真実を知らされた。
『あなたは誰?』というのが、蓮が聞いた菫の第一声。
彼女は、記憶のすべてを失っていた。家族のことも、友人のことも、自分が誰なのかも、何ひとつ覚えていなかった。
十四歳の森川菫は、やはりあの日死んだのだ。そんなことを彼は悟ったのだという。
※
そんなわけで、菫のリハビリは、立ち上がる、歩く、と言った基本動作の他にも多岐に渡った。不幸中の幸いだったのは、介護疲れにより気力を失っていた母親が、気持ちを入れ替えて菫の面倒を見るようになったこと。また、エピソード記憶はすべて失われていたが、体が覚えているような記憶――手続き記憶というらしい――は問題なかったこと。
「中学生レベルの読み書きなら問題ないし、食事や睡眠といった、生理現象を解消する術も心得ている。ただ、性差とか、異性を愛することの意味は忘れちまったらしい。彼女の思春期は、きっとこれから来るんだろうさ」
少し寂しげに、しかし穏やかな顔で蓮が笑った。
「それでも俺は、嬉しいんだ。もう会えないと思っていた森川と、こうして話ができるだけで」
それは、決意のこもった瞳だった。
蓮は、愛を注ぐべき本当の相手を見つけたんだな。そう思う。
でも、私は――。
後悔しないか、と蓮は言った。彼には後悔はない。間違いなく。なら、私はどうか。
テーブルの下に忍ばせていた、『持って行き場を失った手紙』を両手でギュっと握りしめる。握りしめた力の強さに、解消できなかった私の『後悔』が現れていた。
あの日菫が一時間早く家を出たのは、私のせいだったのかそれとも否か。そんなことはどっちでもいい。嘘をついていたという事実を、私の言葉で謝らなければいけなかったのに。
渡す相手、いなくなったんだな、と認識すると、涙で視界が覆われた。テーブルの上に、雫がひとつ、またひとつと零れて落ちた。
菫、会えて嬉しかった。
私たち、じゃあ、そろそろ行くね。
ごめんなさい。
畳みかけるようにそう呟くと、言葉の意味を理解できていない三人の目が丸くなる。
「これ、タイムカプセルから出てきた菫の封筒。預かっていたから返しておくね」と蓮に封筒を渡して席を立つ。
この場から逃げ出そうとした刹那、呼び止めるように「でもね」と菫がポツリと漏らした。
「一人だけ、とても大切な友だちがいたことを覚えているの。中学生の時にね、私は水色の浴衣を着て、その子は、紺色の浴衣を着て、八月に行われる花火大会を一緒に見に行ったの。あれ、誰だったんだろう? もしかして、それって霧島さんですか?」
ははは、と困惑した顔で、蓮が襟足の辺りをかいた。
「コイツ、うわ言のようにこんなこと言ってるんだよ。中一の時、花火を見に行ってはいないらしいし、絶対ありえない話なんだけどな。大方、夢でも見ていたんだろうさ」
私たちの心、本当に繋がっていたの?
視界が、強く滲んだ。
『人生は選択の連続である』というのは、シェイクスピアの名言だ。
人は誰でも過ちを犯す。かつての私も多くの過ちを犯した。あの頃からやり直せたら――なんて、泣いて悩んで傷ついて。それでも私は必死だった。そんななか積み重ねてきた選択のすべてが、確かに、今の状況を形成しているんだ。
私が犯した罪は消えない。
菫に謝罪する機会も永遠に失われた。
それでも、菫の未来はきっと明るい。彼女の意識は戻ったのだから。辛い記憶を全部忘れて、彼女は幸せそうに笑っていたのだから。それで――いいじゃないか。
それでも。
私は自分の罪を忘れない。あの日ついた嘘を忘れない。過去は過去として、ちゃんと見つめて受け止めて、ここからまた一歩を踏み出していく。後悔を自分の糧として、これから先の選択で取り返していく。だって、先のことなんてどうせわかんないんだし、今を大切に生きていくしかないよね。大事なのは、過去じゃなくて未来。
そのことを、あの一ヶ月間で学んだ私は知っている。
『菫、ごめんなさい。今さら謝ったところで許して貰えるかわかりませんが、私、あなたに嘘をついていました』
そんな書き出しで始まる渡すアテのなくなったもう一通の手紙を、クシャクシャに丸めてポケットにつっこんだ。
「そうだね」と私は言った。
「そうだね」ともう一度。
あの当時、友だちになろうと最初に言ってくれたのは菫からだった。だから今度は、まっさらな気持ちで私から伝えようと思う。
「ねえ、菫。こんな私でも、もう一度友だちになってくれますか?」
ちょっと不思議そうな顔をしたあと、「はい」と菫が頷いた。その声はやっぱりどこか余所行きの響きだったけれど、笑顔はあの日のままだった。
そっと菫を抱きしめる。自分よりちょっとだけ小さなその体は、でも、世界で一番大きくて大切な『友』のものだった。
きっと俺たちは。
私たちは。
これからも何度か間違いながら、それでも支え合って歩んでいくんだ。
それぞれの、旅路を。
ここから始めるんだ。
嘘つきな私の、ニューゲームを。
「嘘つきな私のニューゲーム。~自分を偽ってきた彼と、親友を欺いた彼女の物語~」了。
私と景はというと、相も変わらず、といったところ。よく口論になるしたびたび酷い喧嘩もするが、不満を腹にため込まず吐き出すようになったのがむしろ良いのか、なんだかんだと仲良く暮らしている。
有り体にいって、順調である。
私生活も。仕事も。
景が受賞したあの小説は、先月ようやく出版までこぎつけた。爆発的なヒットを飛ばし、早々に重版が決定! なんてことは全然なかったが、それなりにまあ売れた。
自分の名前が入った本が書店に並ぶのは壮観なのだろう。景はここ最近すこぶる機嫌が良い。
もっとも売れ行きはそんな感じなので、次の仕事は当然決まっていない。また一からのスタートなのだが、一度結果をだしたことで自信がついたのだろう。書き始めた新作も順調な仕上がりなんだとか。私が読んだところで、これまでの作品と何が違うかサッパリなのだが。
執筆の傍ら、彼は近所の書店でアルバイトを始めた。真面目な勤務ぶりが評価されて (本人談。嘘か真かは景のみが知る)、近々正社員に登用されるかもとかなんとか。時間拘束が激しいし、執筆との両立は難しいんじゃ? と危惧したが、好きな物に触れられるからやりがいのある仕事なんだとか。
それはまあ、良くわかる。やると決めたら頑張る男なので、大丈夫だろう。私は信じて着いていくのみだ。
私たちの生活は慎ましやかながらも、確実に一歩前進していた。
季節は夏真っ盛り。炎天下特有の蒸し暑い熱気が、アスファルトから立ち昇る。
逃れるように国道沿いの喫茶店に入った私と景は、観葉植物が配置されたボックス席に並んで座った。道路がわの壁は全面ガラス張りで、真っ白な日差しが入りこんでいた。
「明るくていい店だね。あ、私アイスコーヒーで」
やってきた女性店員に注文を告げると、「俺も同じので」と景が窓の外に目を向けて答えた。
「なかなか雰囲気いいだろ。再会の場所には相応しい」
「だね」
日曜日なので、様々な客層で店内は混みあっていた。
スピーカーから、曲名のわからないクラシック音楽が流れている。穏やかな曲調は心を落ち着けてくれるのだろうが、今の私には効果がいまいちだ、などと考えている最中、喫茶店の扉にそえ付けたベルが鳴る。新たな客が入ってきたようだ。
「待たせたな」
「よお、久しぶり」
それは、景にしてはらしくない社交辞令な挨拶。私たちが座っているテーブルにまっすぐやって来たのは三嶋蓮だ。爽やかな白のジャケット。すらりとした黒のパンツ姿は蓮によく似合っていて、垢抜けた中にも知性を感じる。これが芸大生の実力か、と隣のラフな格好の景をちらりと見やる。
「なんだよ」
「いや、なんでも」
今日はいい天気だなあ。
そうだなあ。
最近どうよ。
ぼちぼちってところかな。
「なにその話題に困ったときのテンプレみたいな会話」と私が突っ込むと、私たちの間に横たわっていた緊張感が、ようやく少し薄らいだ気がした。
二人は同窓会のあとも顔を合わせていないので、実のところ会うのは久方ぶりだ。どれくらいぶりなのかは知らないが、話題に困るのももっともだ。
それ以前に、なんとなく本題を切り出しにくいというのもあるにはあるが。
「そういや佳作取ったんだってね。おめでとう」
場を和ませる目的で私が話の水を向けると、蓮の表情が柔らかくなった。
「ありがとう」
バス停で出会った女の子を描いた蓮の水彩画が、市のコンクールで入賞したのだ。市民コンクールだから大したことない、と彼は謙遜していたが、十分凄いと思うんだ。
「美術関係の仕事に進むの?」と訊ねたら彼は曖昧に笑って見せたが、表情は明るいので彼なりに何か目標ができたのだろう。
「同窓会のあとからさ、何度かアイツらと会って飲んでんのよ。お前も今度来る?」
景が選んだ話題はやっぱりどこか余所行きだ。
アイツらがどいつらを指すのか、私はあまりよく知らない。
「あー、俺はパスかな。最近、そういう集まりに行く気になれない、っていうか」
「意外だな。大学に通うようになってから、かなり派手な女遊びをしているって噂だったけど」
「心を入れ替えたんだよ、俺は」
ニヤニヤしている景を見やり、蓮が渋面になった。
「いや、ちょっと違うか。無理に自分を変えていたから、本来の姿に戻したというか」
「なるほどね」
「菫のため、なんだよね」と私が話の核心に触れると、「まあ、そうかもな」と蓮はあっさり同意した。それはここ最近見たことのない柔らかい表情で、まるで憑き物が落ちたようだなって思う。
「そいや、結婚するんだって」という蓮の返しに事もなげに答える。「うん。来年の夏頃の予定」
「おめでとう」
「ありがとう」
かつてあれほど恋焦がれた相手に、結婚を祝ってもらうのはなにやら複雑だ。それでも胸が痛まないのは、去年自分を見つめ直せたからだ。
私は彼女に感謝している。彼女にも、結婚を祝ってもらいたい。
「ところでさ――」と私が本題を切り出そうとしたタイミングで、蓮のスマホが鳴った。どうやら、『彼女』が到着したようだ。
「そうそう、そこから右に曲がって、その次を左」
子どもに道案内でもするような、たどたどしい蓮の説明が電話の相手になされる。「大丈夫っぽい」という安堵した蓮の声とともに、電話は切られた。
「さて。心の準備はいいか?」と蓮が言った。どこか含みのある言い方だった。「もちろん」と私は首肯する。そのつもりでここに来たのだ。今さら引き下がれない。
「わかった」
蓮の一言を最後に、沈黙が漂った。
自殺未遂をした高二の夏から、菫の昏睡状態は五年続いた。続いた、と過去形になっている通り、終わりがおとずれたのだ。植物状態でもないのになぜか目覚めないという不可思議な現象は、唐突に今年の春ごろ終わった。
しかし、五年も寝たきりだった体だ。日常生活に耐えうる機能を取り戻すまでには、それなりの時間を要した。約一か月半ほどのリハビリ期間を経て、彼女は六月から七月に暦が変わるあたりでようやく退院した。
この連絡を蓮から受けた時、私は飛び上がって喜んだ。
ついに待ち望んだ日が来たのだと。これでようやく、菫に謝れる。
ところが、電話口の彼の声は浮かなかった。『本当に会いたいか?』と重ねて確認をしてくる。
「どうして、そんなこと聞くの? そんなのもちろん、会いたいに決まってるじゃない」
『もしかしたら、会わないほうがいいかもしれない。……そうだな。これだけは約束してくれ。決して後悔はしないと』
受話器を握ったまま、神妙な顔をしている蓮を想像する。意味はよくわからなかったが、軽い胸騒ぎがした。
「絶対しないよ。どんなことがあろうとも」
それでも私は、胸中で育ち始めた不安の雲を散らして、そう答えた。待ちに待った菫の目覚めの瞬間なんだ。他に選択肢はない。
『そうか。わかった』と蓮が答えた。
そうして、現在に至る。
喫茶店の入口のベルが再び鳴って、一人の女性が母親らしき人物と一緒に入ってきた。
髪は肩口までのショートボブ。ブルーのデニムワンピースを着て肩からショルダーバッグをかけている。杖をつき、やや覚束ない足取りで私たちのいる場所までやって来た彼女は、間違いなく菫だった。多少痩せて見えるとはいえ、あの、精神世界で会った菫がそのまま成長したような姿に、心臓がどくんと跳ねた。
「菫!」と感極まって声を上げたが、彼女はこちらを一瞥しただけで、視線をすぐ向かいの蓮に移した。
「ごめんなさい。待たせてしまいましたか、三嶋さん」
『ミシマサン』という他所他所しい響きの声に、自分の顔が強張るのを感じた。隣の景が口をポカンと開いている。驚嘆とか戸惑いとか、色んな感情が浮かんで見えた。
「ところで、こちらの方々は?」
菫は、いや、菫だったはずの彼女は、表情を少しだけ柔らかくして私と目を合わせた。逸らすことは、できなかった。
「この二人はね、俺たちの同級生で、霧島さんと月輪君。森川さんもほら、挨拶して」
「初めまして、霧島さん。月輪さん。森川菫といいます」
差し出された細い右手を、恐る恐る握り返した。小刻みに震えている手は、私の手だった。
※
それは、蓮にとっても待ち焦がれていた瞬間だった。
意識が戻らなくなった人の平均余命は、三年前後と言われている。稀に五年、最長で十年ほど生存したケースもあるらしいが、意識不明の期間が長引くほど、目覚める可能性はどんどん低くなる。そんななか、四年もの期間を経て菫の意識が戻ったことは、それだけでも奇跡だった。
電話口で彼女の覚醒を知らされると、着の身着のまま蓮は病院に向かった。転げるように病室に駆け込んで、真実を知らされた。
『あなたは誰?』というのが、蓮が聞いた菫の第一声。
彼女は、記憶のすべてを失っていた。家族のことも、友人のことも、自分が誰なのかも、何ひとつ覚えていなかった。
十四歳の森川菫は、やはりあの日死んだのだ。そんなことを彼は悟ったのだという。
※
そんなわけで、菫のリハビリは、立ち上がる、歩く、と言った基本動作の他にも多岐に渡った。不幸中の幸いだったのは、介護疲れにより気力を失っていた母親が、気持ちを入れ替えて菫の面倒を見るようになったこと。また、エピソード記憶はすべて失われていたが、体が覚えているような記憶――手続き記憶というらしい――は問題なかったこと。
「中学生レベルの読み書きなら問題ないし、食事や睡眠といった、生理現象を解消する術も心得ている。ただ、性差とか、異性を愛することの意味は忘れちまったらしい。彼女の思春期は、きっとこれから来るんだろうさ」
少し寂しげに、しかし穏やかな顔で蓮が笑った。
「それでも俺は、嬉しいんだ。もう会えないと思っていた森川と、こうして話ができるだけで」
それは、決意のこもった瞳だった。
蓮は、愛を注ぐべき本当の相手を見つけたんだな。そう思う。
でも、私は――。
後悔しないか、と蓮は言った。彼には後悔はない。間違いなく。なら、私はどうか。
テーブルの下に忍ばせていた、『持って行き場を失った手紙』を両手でギュっと握りしめる。握りしめた力の強さに、解消できなかった私の『後悔』が現れていた。
あの日菫が一時間早く家を出たのは、私のせいだったのかそれとも否か。そんなことはどっちでもいい。嘘をついていたという事実を、私の言葉で謝らなければいけなかったのに。
渡す相手、いなくなったんだな、と認識すると、涙で視界が覆われた。テーブルの上に、雫がひとつ、またひとつと零れて落ちた。
菫、会えて嬉しかった。
私たち、じゃあ、そろそろ行くね。
ごめんなさい。
畳みかけるようにそう呟くと、言葉の意味を理解できていない三人の目が丸くなる。
「これ、タイムカプセルから出てきた菫の封筒。預かっていたから返しておくね」と蓮に封筒を渡して席を立つ。
この場から逃げ出そうとした刹那、呼び止めるように「でもね」と菫がポツリと漏らした。
「一人だけ、とても大切な友だちがいたことを覚えているの。中学生の時にね、私は水色の浴衣を着て、その子は、紺色の浴衣を着て、八月に行われる花火大会を一緒に見に行ったの。あれ、誰だったんだろう? もしかして、それって霧島さんですか?」
ははは、と困惑した顔で、蓮が襟足の辺りをかいた。
「コイツ、うわ言のようにこんなこと言ってるんだよ。中一の時、花火を見に行ってはいないらしいし、絶対ありえない話なんだけどな。大方、夢でも見ていたんだろうさ」
私たちの心、本当に繋がっていたの?
視界が、強く滲んだ。
『人生は選択の連続である』というのは、シェイクスピアの名言だ。
人は誰でも過ちを犯す。かつての私も多くの過ちを犯した。あの頃からやり直せたら――なんて、泣いて悩んで傷ついて。それでも私は必死だった。そんななか積み重ねてきた選択のすべてが、確かに、今の状況を形成しているんだ。
私が犯した罪は消えない。
菫に謝罪する機会も永遠に失われた。
それでも、菫の未来はきっと明るい。彼女の意識は戻ったのだから。辛い記憶を全部忘れて、彼女は幸せそうに笑っていたのだから。それで――いいじゃないか。
それでも。
私は自分の罪を忘れない。あの日ついた嘘を忘れない。過去は過去として、ちゃんと見つめて受け止めて、ここからまた一歩を踏み出していく。後悔を自分の糧として、これから先の選択で取り返していく。だって、先のことなんてどうせわかんないんだし、今を大切に生きていくしかないよね。大事なのは、過去じゃなくて未来。
そのことを、あの一ヶ月間で学んだ私は知っている。
『菫、ごめんなさい。今さら謝ったところで許して貰えるかわかりませんが、私、あなたに嘘をついていました』
そんな書き出しで始まる渡すアテのなくなったもう一通の手紙を、クシャクシャに丸めてポケットにつっこんだ。
「そうだね」と私は言った。
「そうだね」ともう一度。
あの当時、友だちになろうと最初に言ってくれたのは菫からだった。だから今度は、まっさらな気持ちで私から伝えようと思う。
「ねえ、菫。こんな私でも、もう一度友だちになってくれますか?」
ちょっと不思議そうな顔をしたあと、「はい」と菫が頷いた。その声はやっぱりどこか余所行きの響きだったけれど、笑顔はあの日のままだった。
そっと菫を抱きしめる。自分よりちょっとだけ小さなその体は、でも、世界で一番大きくて大切な『友』のものだった。
きっと俺たちは。
私たちは。
これからも何度か間違いながら、それでも支え合って歩んでいくんだ。
それぞれの、旅路を。
ここから始めるんだ。
嘘つきな私の、ニューゲームを。
「嘘つきな私のニューゲーム。~自分を偽ってきた彼と、親友を欺いた彼女の物語~」了。
0
お気に入りに追加
12
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
霧島七瀬というキャラクターを通じて描きたかったのは「持っている人間なりの苦悩」でした。
彼女は考えられうる最短のルートで教師になる夢を叶え、同棲相手もいて、容姿端麗で、教師なのでもちろん頭脳明晰です。
何ひとつ失うものはないのですが、実のところ、手に入ったものもそこまで多くない。
親との仲は壊れてしまったし、初恋の相手には気持ちを伝えられなかったし、同棲相手ともあまり上手くいってない。容姿端麗であることも、時としてマイナスに働いた。
それら全ては(ある意味)彼女の自業自得ともいえるし、それだけに強い苦悩を抱えています。
そういった彼女の苦悩を深めていた元凶が、悦子であり美登里であるわけですね。名わき役たちの存在意義を感じていただけて感謝です。
書きたい展開が多かったため思いのほか長くなったのと、最後もうちっと盛り上げたかったなーという後悔もあるのですが、花火のシーンは二回ともエモかったんじゃないかなと、花火展開マニアとしては思うのです。
結末の解釈は仰るとおり、読み手に全てまかせました。それでも言えるのは、記憶を失ったことは森川にとって完全に不幸ではないし、彼ら彼女らは、しっかり前を向けたはず、ということですかね。
そうなんじゃないかな? と思わせたり、いや、もしかして勘違いかな? と思わせたり。情報の出し入れに拘った章でした。
七瀬に比べると尺の短い章になりましたが、短いなかでもしっかり落ちはつけられたのかなと。
冒頭の蓮はわりとクズっぽい(苦笑)思考をしているので、元々あったはずの純粋さを取り戻していく様が、あまり不自然にならないようにと気遣いました。
背伸びをしていたこの思考こそが、彼にとっての『嘘』であったわけです。
こちらも拝読させて頂く決意がつきました。
タイムカプセルに入れられた十年後の自分たち。
未来への手紙に何が記されているのか?
楽しみにして読ませて頂きます。
一話目の気持ちをここに残しておきます。
アルファでは初感想。ありがとうございます!
事件の裏と表を、二人の主人公の視点から描いた作品です。
タイムカプセルから出てきた手紙の文面が、彼らの心にどんな影を落とすのか。過去を見つめ直したことで、どんな決断をくだすのか?あたりがテーマでしょうか。