嘘つきな私のニューゲーム~自分を偽ってきた彼と、親友を欺いた彼女の物語~

木立 花音

文字の大きさ
上 下
23 / 36
第三章「嘘つきな私のニューゲーム」

【上辺だけのお付き合い】

しおりを挟む
 休み時間。「ねー。放課後、いつもの場所に寄っていくけど七瀬も来るっしょ」とえっちゃんに声をかけられ、これから先のことで一杯だった頭を上げた。

「うん。まあ、暇だし」

 何の気なしに答えてからちょっぴり後悔。自分から暇だとアピールしたら、もう逃げられないじゃないか!
 いつもの場所とは、学校から徒歩十分ほどの場所にあるアミューズメント施設のこと。えっちゃんと美登里の買い物に少々付き合わされたあと、ボーリング辺りが定番のコース。というか、そっちがメイン。ボーリング上手くないんだけど、ここで前言撤回したらあとで怖い。

「よーし、七瀬はオッケーと。これで三人かー。あと何人か欲しいなあ」

 ダーツ、カラオケ、ボーリング。様々な遊びの企画を出し合うなかで、えっちゃんと美登里の二人はこうしていつも参加人数を競い合う。相手より多く集めることで、自分のほうが人望があると誇示したいのだ。
 他人の評価とか世間体ばかりを気にする様は、どこか自分と重なっていて居心地がよくない。

夏美なつみは?」

 スケジュール帳をぱらぱらと捲るえっちゃんの脇から美登里が会話に割り込んだ。短いスカートから太ももを晒して足を組んでいる。

「今日は塾に行く日なんだってよ」とえっちゃんが仏頂面になった。
「マジか。使えねーな。お前の頭じゃ、いくら勉強しても無駄だよって誰か教えてやれよ」
「ギャハハ、ほんとな」

 夏美は三年生になってから、定期テストで学年上位の常連になることを私は知っている。むしろ、夏美の爪の垢を煎じて飲んだほうが、と言いそうになり口を塞いだ。
 美登里は、はっきり言って言葉づかいがよろしくない。よくないのは口だけではなく性格も。不良生徒というわけでもないが、取り立てて良くもないというそんな感じ。
 えっちゃんは自由奔放。明るくて人当たりがよいが、その実かなり裏表がある。
 そんなわけで、私はこの二人がちょっと苦手だ。
 夏美との相性はまずまずだが、彼女は二人と親交の長いイエスマンなので、あまり本音で語り合った記憶がない。 いかにも女の子のグループらしいというか、上辺だけで繋がっているコミュニティである。悪い意味で、人間社会の縮図のよう。
 もっとも、私に彼女らを非難する資格はない。波風が立つのを恐れ、極力美登里らに意見しなかったし、久々に顔を合わせたクラスメイトたちも、半分以上は顔と名前が一致しない。私も大概に、上辺だけの付き合いをしていたという証明に他ならないのだから。
 上手くいっているように見えるこのグループも、当然のごとく内部は軋みだらけだ。えっちゃんは、美登里に対して愛想よく振る舞ってみせるが、本音では毛嫌いしているフシがある。またそれは美登里にしても同様で、えっちゃんがいなくなったらなったで陰口を言う。
 それでもクラスのカーストトップを堅持するため、二人はこうして同調して見せる。いやー、人間って恐ろしい。

「誰かアテないの? 七瀬。アンタも人集め手伝ってよ」
「えっ、私?」

 えっちゃんに話題を振られて視線が泳ぐ。

「たまには男連れてこいよ。他校の男子でもいいし。読モとか金持ちの御曹司とか、そういう知り合いいないの?」
「……いくらなんでもハードル高すぎない?」

 そんなことを言われても、と困り果てるしかない。他校も男女も無関係に、私は友だちが少ないのだ。この時代に来たばかりで、クラスメイトの名前ですらうろ覚えだし。
 中身が二十一歳だと勘づかれては困るので、考えているフリだけはしておくが。
 その時、美登里が親指の先をとある方角に向けた。

「無理無理。七瀬は男っ気ゼロだから、そんな知り合いいるわけないっしょ。……ああいうのと違って」

 美登里が流し目した先を目で追うと、そこにいたのは菫だった。彼女はこの場所から少し遠い廊下側の席で、男子数名に囲まれていた。
 容姿のいい彼女は、わりと男子に人気があった。「森川さん、昨日のテレビ観た?」なんて会話が断片的に聞こえてくる。困惑顔の菫を他所に、そこそこ盛り上がっているようだ。「うーん、どうだったかなー」と菫がやわらかな声で答えると、美登里がいよいよ顔を曇らせた。

「だめだ菫。見ているだけでムカつく、というかイラっとくる」
「だよねえ? 男に色目使ってる女とか、ほんっと私も無理。ア・リ・エ・ナ・イ」
 
 美登里が拒絶反応を示すと、即座にえっちゃんが同調してみせる。
 前述したとおり、二人はさして仲が良くない。それなのに、誰かの悪口を述べるときだけは妙に馬が合うなんて、と渋面になりかけてなんとか抑えた。
 ゆるふわで可愛らしい雰囲気の菫が、自分らよりモテるという事実が、とかく二人は気に入らないのだ。それに、あれが菫の素であって、別に色目は使ってないぞ。つまらんプライドを拗らせているからモテないんだろう、なんて、口が裂けても言えないが。

「っていうかさー。あと一人美登里がなんとかしてよ」
「なんで私が? めんどくせーな。えーと」

 ふふん、と鼻を鳴らしたえっちゃんを横目に、立案したのが自分であれば、人集めは誰でもいいのか、と思う。それでも、話の矛先が逸れたのをこれ幸いと安堵から胸を撫でおろすと教室の扉が開いた。
「日直、いるかー?」という声が響く。顔を出したのは担任の教師だ。

「あ、はい。日直なら私です」

 この時代に戻ってきた初日に日直だなんて、本当にツイてない。

「すまん霧島。今日の帰りに配布したいプリントがあるんで、これから職員室まで取りに来てくれるか?」

 今ついでに持ってきてくれたら良かったんじゃ、という言葉をすんでのところで飲み干して答える。

「わかりました」

 先生が、職員室から来たとも限らないしね。
 手伝って欲しいなあ、という意思をこめて美登里とえっちゃんをチラり見たが、「いってらっしゃーい」と手のひらを振ってジェスチャーされた。だよねえ。期待した私がバカでした。
 教室を出ながらぼんやりと思い出す。
 この状況下では本当に信じ難いことなのだが、菫は一ヶ月ほど前まで、このグループに所属していた。
 本当に、信じられないこと、なのだが。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕たちの中から一人『消えた』、あの夏の日

木立 花音
青春
【第2回Solispia文学賞で佳作を受賞しました。ありがとうございました!】  病気で父親を亡くした少年、高橋都(たかはしいち)は、四年ぶりに故郷である神無し島に戻ってきた。  島根県の沖にあるこの島は、守り神がいるという言い伝えがある反面、神の姿を見た者は誰もいない。そんな状況を揶揄してついた名が、「神無し島」なのであった。  花咲神社の巫女である、花咲夏南(はなさきかな)と向かった川で、仲良しグループの面々と川遊びをしていた都。そんなおり、人数が一人増えているのに気が付いた。  しかし、全員が知っている顔で?  誰が、何の目的で紛れ込んだのか、まったくわからないのだった。  ――増えたのは誰か?  真相を知りたければ、御神木がある時超山(ときごえやま)に向かうといいよ、と夏南に聞かされた鮫島真人(さめじままさと)は、新條光莉(しんじょうひかり)、南涼子(みなみりょうこ)、に都を加えた四人で山の中腹を目指すことに。  その道中。『同じ道筋を誰かがたどっていた』痕跡をいくつか見つけていくことで、増えた人物の『正体』が、段々と浮き彫りになっていくのであった。  増えたのは誰だ?  増えた者はいずれ消えるのか?  恋愛×青春ミステリー、ここに開幕。  ※この作品は、小説家になろう、カクヨム、ノベルアッププラス、Solispiaでも連載しています。  ※表紙画像は、SKIMAを通じて知様に描いて頂きました。  ※【これは、僕が贈る無償の愛だ】に、幽八花あかね様から頂いたFAを。【十年後。舞台は再び神無し島】に、知様から頂いたFAを追加しました。  ありがとうございました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少女と三人の男の子

浅野浩二
現代文学
一人の少女が三人の男の子にいじめられる小説です。

処理中です...