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140文字掌編その②
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階段を一つ登る。
心と体がちぐはぐな自分をそっと意識する。
階段を一つ登る。
地面まで何メートル?
階段を一息に駆け上がる。
開けた視界。見下ろす地面は遥か彼方。
サヨウナラ、と呟いたその時スマホが短く震えた。
「早まるな。今すぐそこに行くから」
私の居場所。まだ一つだけあった。
*
『みんな、痛みを抱えて生きている。お前も、そして私も。だから頑張って、学校、行こう』
そう言って、僕の頭を撫でてくれた姉はもういない。
姉の瞳が潤んでいた理由に、それが慰めであると同時に、最後のSOSだとあの日気付けていたら。
遺影の中で、夏空をバックに高三の姉が笑ってた。
*
雨の中、足が縺れて転ぶ。
悪態をつき、服についた泥を払った。
「どうしたの。雨の中そんなに急いで。スコップなんて持って」
傘を差した女がいる。
「いやこれは」
どうする? と策を練る俺。
だが言えるはずもない。
初恋のあの娘の手紙が読みたくて、タイムカプセルを掘っていたなんて。
*
会社をサボり、一人寂しく昼食を食べる俺。
公園のベンチに座り、滑り台で遊ぶ女児を眺めてた。
滑ってきた一人目はショートカット。見るからに快活そう。二人目は、小柄でとても可愛らしい。三人目は二つ結い。そこで俺は息を呑んだ。
来月で八歳になる娘と瓜二つ。まあ、娘が生きていればの話だが。
*
交際を始めてから一週間。いまだ手を繋いでくれない彼を、勇気をだして部屋に誘ってみた。
女の子の部屋の匂いがする、なんて、緊張した面持ちで言うものだから、なんだかこっちまで緊張してしまう。
どうしよう、と固まっていると、急に肩を抱き寄せられる。
なあ。
うん。
俺、弟の方なんだけど。
*
海が見えると同時に彼女は駆け出した。
二人乗りだった自転車から飛び降り、僕を置き去りにしたまま。
ここまで漕いだのは僕。
海に行こうと言い出したのも僕。
これじゃ文句も言えないか、と遠ざかる背中を見つめ思う。
君は知っているだろうか? この海でする告白は、必ず叶うんだという言い伝えを。
*
これ何? と僕が人形を指さすと、幼馴染のあの娘は笑っていった。
プレセントだよ、と。
で、これは宇宙人?
失礼だなあ、どう見てもクマさんでしょう。
手作り?
勿論、だって、今日は君の誕生日でしょ?
よく覚えてたねと笑うと、昨日思い出したと目を逸らす。
不器用なのは、手先だけじゃないようだ。
*
山茶花の花言葉知ってる?と、見舞いの花を花瓶に生けながら幼馴染みの彼が言う。
「さあ?」
「困難に打ち克つ」
「成る程、じゃあ私も、早く退院しなくちゃな」
「だな、明日また来る」
――でも本当に困難なのは、あんたの彼女が私の親友だってこと。 最後の言葉は、言わずに飲み干した。
*
心と体がちぐはぐな自分をそっと意識する。
階段を一つ登る。
地面まで何メートル?
階段を一息に駆け上がる。
開けた視界。見下ろす地面は遥か彼方。
サヨウナラ、と呟いたその時スマホが短く震えた。
「早まるな。今すぐそこに行くから」
私の居場所。まだ一つだけあった。
*
『みんな、痛みを抱えて生きている。お前も、そして私も。だから頑張って、学校、行こう』
そう言って、僕の頭を撫でてくれた姉はもういない。
姉の瞳が潤んでいた理由に、それが慰めであると同時に、最後のSOSだとあの日気付けていたら。
遺影の中で、夏空をバックに高三の姉が笑ってた。
*
雨の中、足が縺れて転ぶ。
悪態をつき、服についた泥を払った。
「どうしたの。雨の中そんなに急いで。スコップなんて持って」
傘を差した女がいる。
「いやこれは」
どうする? と策を練る俺。
だが言えるはずもない。
初恋のあの娘の手紙が読みたくて、タイムカプセルを掘っていたなんて。
*
会社をサボり、一人寂しく昼食を食べる俺。
公園のベンチに座り、滑り台で遊ぶ女児を眺めてた。
滑ってきた一人目はショートカット。見るからに快活そう。二人目は、小柄でとても可愛らしい。三人目は二つ結い。そこで俺は息を呑んだ。
来月で八歳になる娘と瓜二つ。まあ、娘が生きていればの話だが。
*
交際を始めてから一週間。いまだ手を繋いでくれない彼を、勇気をだして部屋に誘ってみた。
女の子の部屋の匂いがする、なんて、緊張した面持ちで言うものだから、なんだかこっちまで緊張してしまう。
どうしよう、と固まっていると、急に肩を抱き寄せられる。
なあ。
うん。
俺、弟の方なんだけど。
*
海が見えると同時に彼女は駆け出した。
二人乗りだった自転車から飛び降り、僕を置き去りにしたまま。
ここまで漕いだのは僕。
海に行こうと言い出したのも僕。
これじゃ文句も言えないか、と遠ざかる背中を見つめ思う。
君は知っているだろうか? この海でする告白は、必ず叶うんだという言い伝えを。
*
これ何? と僕が人形を指さすと、幼馴染のあの娘は笑っていった。
プレセントだよ、と。
で、これは宇宙人?
失礼だなあ、どう見てもクマさんでしょう。
手作り?
勿論、だって、今日は君の誕生日でしょ?
よく覚えてたねと笑うと、昨日思い出したと目を逸らす。
不器用なのは、手先だけじゃないようだ。
*
山茶花の花言葉知ってる?と、見舞いの花を花瓶に生けながら幼馴染みの彼が言う。
「さあ?」
「困難に打ち克つ」
「成る程、じゃあ私も、早く退院しなくちゃな」
「だな、明日また来る」
――でも本当に困難なのは、あんたの彼女が私の親友だってこと。 最後の言葉は、言わずに飲み干した。
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