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140文字掌編その②

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 階段を一つ登る。
 心と体がちぐはぐな自分をそっと意識する。
 階段を一つ登る。
 地面まで何メートル?
 階段を一息に駆け上がる。
 開けた視界。見下ろす地面は遥か彼方。
 サヨウナラ、と呟いたその時スマホが短く震えた。
「早まるな。今すぐそこに行くから」
 私の居場所。まだ一つだけあった。



『みんな、痛みを抱えて生きている。お前も、そして私も。だから頑張って、学校、行こう』
 そう言って、僕の頭を撫でてくれた姉はもういない。
 姉の瞳が潤んでいた理由に、それが慰めであると同時に、最後のSOSだとあの日気付けていたら。
 遺影の中で、夏空をバックに高三の姉が笑ってた。



 雨の中、足が縺れて転ぶ。
 悪態をつき、服についた泥を払った。
「どうしたの。雨の中そんなに急いで。スコップなんて持って」
 傘を差した女がいる。
「いやこれは」
 どうする? と策を練る俺。
 だが言えるはずもない。
 初恋のあの娘の手紙が読みたくて、タイムカプセルを掘っていたなんて。



 会社をサボり、一人寂しく昼食を食べる俺。
 公園のベンチに座り、滑り台で遊ぶ女児を眺めてた。
 滑ってきた一人目はショートカット。見るからに快活そう。二人目は、小柄でとても可愛らしい。三人目は二つ結い。そこで俺は息を呑んだ。
 来月で八歳になる娘と瓜二つ。まあ、娘が生きていればの話だが。



 交際を始めてから一週間。いまだ手を繋いでくれない彼を、勇気をだして部屋に誘ってみた。
 女の子の部屋の匂いがする、なんて、緊張した面持ちで言うものだから、なんだかこっちまで緊張してしまう。
 どうしよう、と固まっていると、急に肩を抱き寄せられる。
 なあ。
 うん。
 俺、弟の方なんだけど。



 海が見えると同時に彼女は駆け出した。
 二人乗りだった自転車から飛び降り、僕を置き去りにしたまま。
 ここまで漕いだのは僕。
 海に行こうと言い出したのも僕。
 これじゃ文句も言えないか、と遠ざかる背中を見つめ思う。
 君は知っているだろうか? この海でする告白は、必ず叶うんだという言い伝えを。



 これ何? と僕が人形を指さすと、幼馴染のあの娘は笑っていった。
 プレセントだよ、と。
 で、これは宇宙人?
 失礼だなあ、どう見てもクマさんでしょう。
 手作り?
 勿論、だって、今日は君の誕生日でしょ?
 よく覚えてたねと笑うと、昨日思い出したと目を逸らす。
 不器用なのは、手先だけじゃないようだ。



 山茶花さざんかの花言葉知ってる?と、見舞いの花を花瓶に生けながら幼馴染みの彼が言う。 
「さあ?」
 「困難に打ち克つ」
 「成る程、じゃあ私も、早く退院しなくちゃな」
「だな、明日また来る」
 ――でも本当に困難なのは、あんたの彼女が私の親友だってこと。 最後の言葉は、言わずに飲み干した。 

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