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綾小路弥生の日常(恋愛・ラブコメ)
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ノベルアップ+様で開催された自主企画。第一回ゴリラ小説大賞参加作品です。
◇◇
わたくしの名前は綾小路弥生。
わたくし、実に大層な名前を授かっておりますが、別に何処かの令嬢、とかそんな感じではありませんの。ウホホ。
年齢は二十五歳。いわゆる結婚適齢期、という奴かしら?
見た目に関しましては、そうね、そこそこ自信はありましてよ? ウホホ。
体躯だってスレンダーなほうですし、プロポーションにだって自信がありましてよ?
嘘ではありませんわ。
身長は百五十センチメートル。体重は八十キロ。え、重い? 失礼しちゃいますわね。あなたはご存知ないでしょうけれども、雌としてはむしろ軽い方でございましてよ?
ああ、そうそう、申し遅れました。
わたくし、霊長目ヒト科ゴリラ属。いわゆる、ゴリラですの。
ウホホ。
わたくしが住んでいる場所は、東京都台東区にある動物園。
今日も沢山の人間たちが、わたくしの美貌を見にやってきているようですわね。プレミアムバナナでもかじりながら、手を上げてアピールでもして差し上げましょうかしらね。
あらあら、笑顔でわたくしを指さしたりして、可愛いお子様ですこと。
さて、この広い飼育スペースで生活しているのは、わたくしの他にもう一頭いますの。
その方の名前は薫。こんな名前ですけれど、二十七歳になる雄ゴリラですの。
忘れてましたわね。二十五とか二十八というのはあなた方人間の年齢に換算しているのであって、ゴリラ年齢ではマイナス十する感じですのであしからず。
最初に結婚適齢期と申し上げたとおり、わたくしと彼は仮初めの恋人。ようは、子孫を残すためにあてがわれた婚約者同士みたいなものね。
人間側の都合、といってしまえばその通りなのだけれど、長いものには巻かれろの精神で、わたくしだって頑張ってみましたわよ。アプローチしてみましたわよ。
それなのに──薫の奴ったら全然つれませんの。なんなの? ウホウホホ《失礼しちゃいますわ》。ウキーッ。
それでもわたくしは諦めませんの。今日も薫の奴にアタックしますわ。なんで雌のわたくしから──と腸が煮えくり返る思いですが、これもわたくしのプライドのため。
──絶対に、落とす。
「ウホ《ねえ》」
「ウホ?《なんだい?》」
「ウホウホホ?《いい加減に、観念したらどうかしら?》」
「ウホホ?《なにをだい?》」
「ウーホウホホ……《女のわたくしに言わせないでよ……》」
思わず、嘆息してしまいますわ。
「ウホウホホウホウホホ《だから、いい加減にわたくしたちも、その、子作りをしませんか? そういうことよ》」
「ウホ……《ああ……》」
なんなの、その残念そうなリアクション。最悪ですわ。
「ウホホ《ダメなんだ》」
「ウホホ?《どうして?》」
「ウホウホウホホ《僕には、心に決めた人がいるんだ》」
はあ?
「ウホホ?《誰なんですの?》」
「ウホホ《宮守さん》」
「ウホウホウホホ《あの方は人間でしょう? 本気ですの?》」
念押しで尋ねてみると、薫は頬を赤く染めて頷きました。
宮守さんというのはわたくしたちに餌を与えにくる飼育師のうちの一人で、若い女性の方ですの。年は二十歳かそこら、とか言ってましたかしら?
ポニーテールが快活な印象を与える、可愛らしい方ですわね。もっともゴリラ視点での話なので? 本当にその方が人間でいう美人なのかは分かりませんですけどね。
それにしても……本気なのですか?
あの方は人間ですのよ?
わたくしは人間の女に魅力で負けてるということですの? ムキー!
まあ、それでも、これでようやく腑に落ちましたわね。だから薫の奴は頑なになびかなかったのですか。
そう言えば、餌やり担当は鈴木とかいう名前のどうでもいい男が薫担当。件の宮守さんがわたくし担当で (なんとなく)固定されてたのですから。何故、そうなっているのかは定かじゃありませんが、兎に角、薫はその事が不満だったのでしょうね。
なるほど。しょうがないですわね。
ここはわたくしが一芝居うちますか。
翌日の昼、いつものように餌やりに来た宮守さんから、わたくしは必死に逃げ回りましたの。時々、威嚇する仕草を見せながら。
「どうしたの弥生ちゃん。今日は随分と機嫌が悪いのね?」
困惑した表情を浮かべ、腰に手を当てる宮守さん。
「ん~どうなってんの? 珍しいね」
同じように、困惑する鈴木さんの身体にどーんと抱きついた。勢いもそのままに押し倒してしまう。しまった体格差考えてなかったですわ。哀れ、わたくしの下敷きになってしまうモヤシ体型鈴木さん。
「うーん、よくわかんないけど。今日はしょうがないわね」
そう言って宮守さんは、薫の方に近づいて餌を与える。これを機会に、餌やりの担当が固定されなくなればいいのですけれどね。
喜色満面。嬉しそうに餌を頬張る薫の姿を横目で見ながら、そんなことをわたくしはふと思いましたの。
* * *
「ウホホ《これで満足?》」
「ウホウホホ《ありがとう。君のおかげだ》」
「ウホホ《それは良かった》」
なんだか、不満ですけどね。
「ウホホウホホ《なんか、お礼をしたいんだけど》」
「ウホ?《お礼?》」
「ウホ《うん》」
そこで薫は大きく息を吸い込んだ。
「ウホウホホ《セッ○スしようか?》」
「ウホウホホ《お断りですわ》」
~END~
◇◇
わたくしの名前は綾小路弥生。
わたくし、実に大層な名前を授かっておりますが、別に何処かの令嬢、とかそんな感じではありませんの。ウホホ。
年齢は二十五歳。いわゆる結婚適齢期、という奴かしら?
見た目に関しましては、そうね、そこそこ自信はありましてよ? ウホホ。
体躯だってスレンダーなほうですし、プロポーションにだって自信がありましてよ?
嘘ではありませんわ。
身長は百五十センチメートル。体重は八十キロ。え、重い? 失礼しちゃいますわね。あなたはご存知ないでしょうけれども、雌としてはむしろ軽い方でございましてよ?
ああ、そうそう、申し遅れました。
わたくし、霊長目ヒト科ゴリラ属。いわゆる、ゴリラですの。
ウホホ。
わたくしが住んでいる場所は、東京都台東区にある動物園。
今日も沢山の人間たちが、わたくしの美貌を見にやってきているようですわね。プレミアムバナナでもかじりながら、手を上げてアピールでもして差し上げましょうかしらね。
あらあら、笑顔でわたくしを指さしたりして、可愛いお子様ですこと。
さて、この広い飼育スペースで生活しているのは、わたくしの他にもう一頭いますの。
その方の名前は薫。こんな名前ですけれど、二十七歳になる雄ゴリラですの。
忘れてましたわね。二十五とか二十八というのはあなた方人間の年齢に換算しているのであって、ゴリラ年齢ではマイナス十する感じですのであしからず。
最初に結婚適齢期と申し上げたとおり、わたくしと彼は仮初めの恋人。ようは、子孫を残すためにあてがわれた婚約者同士みたいなものね。
人間側の都合、といってしまえばその通りなのだけれど、長いものには巻かれろの精神で、わたくしだって頑張ってみましたわよ。アプローチしてみましたわよ。
それなのに──薫の奴ったら全然つれませんの。なんなの? ウホウホホ《失礼しちゃいますわ》。ウキーッ。
それでもわたくしは諦めませんの。今日も薫の奴にアタックしますわ。なんで雌のわたくしから──と腸が煮えくり返る思いですが、これもわたくしのプライドのため。
──絶対に、落とす。
「ウホ《ねえ》」
「ウホ?《なんだい?》」
「ウホウホホ?《いい加減に、観念したらどうかしら?》」
「ウホホ?《なにをだい?》」
「ウーホウホホ……《女のわたくしに言わせないでよ……》」
思わず、嘆息してしまいますわ。
「ウホウホホウホウホホ《だから、いい加減にわたくしたちも、その、子作りをしませんか? そういうことよ》」
「ウホ……《ああ……》」
なんなの、その残念そうなリアクション。最悪ですわ。
「ウホホ《ダメなんだ》」
「ウホホ?《どうして?》」
「ウホウホウホホ《僕には、心に決めた人がいるんだ》」
はあ?
「ウホホ?《誰なんですの?》」
「ウホホ《宮守さん》」
「ウホウホウホホ《あの方は人間でしょう? 本気ですの?》」
念押しで尋ねてみると、薫は頬を赤く染めて頷きました。
宮守さんというのはわたくしたちに餌を与えにくる飼育師のうちの一人で、若い女性の方ですの。年は二十歳かそこら、とか言ってましたかしら?
ポニーテールが快活な印象を与える、可愛らしい方ですわね。もっともゴリラ視点での話なので? 本当にその方が人間でいう美人なのかは分かりませんですけどね。
それにしても……本気なのですか?
あの方は人間ですのよ?
わたくしは人間の女に魅力で負けてるということですの? ムキー!
まあ、それでも、これでようやく腑に落ちましたわね。だから薫の奴は頑なになびかなかったのですか。
そう言えば、餌やり担当は鈴木とかいう名前のどうでもいい男が薫担当。件の宮守さんがわたくし担当で (なんとなく)固定されてたのですから。何故、そうなっているのかは定かじゃありませんが、兎に角、薫はその事が不満だったのでしょうね。
なるほど。しょうがないですわね。
ここはわたくしが一芝居うちますか。
翌日の昼、いつものように餌やりに来た宮守さんから、わたくしは必死に逃げ回りましたの。時々、威嚇する仕草を見せながら。
「どうしたの弥生ちゃん。今日は随分と機嫌が悪いのね?」
困惑した表情を浮かべ、腰に手を当てる宮守さん。
「ん~どうなってんの? 珍しいね」
同じように、困惑する鈴木さんの身体にどーんと抱きついた。勢いもそのままに押し倒してしまう。しまった体格差考えてなかったですわ。哀れ、わたくしの下敷きになってしまうモヤシ体型鈴木さん。
「うーん、よくわかんないけど。今日はしょうがないわね」
そう言って宮守さんは、薫の方に近づいて餌を与える。これを機会に、餌やりの担当が固定されなくなればいいのですけれどね。
喜色満面。嬉しそうに餌を頬張る薫の姿を横目で見ながら、そんなことをわたくしはふと思いましたの。
* * *
「ウホホ《これで満足?》」
「ウホウホホ《ありがとう。君のおかげだ》」
「ウホホ《それは良かった》」
なんだか、不満ですけどね。
「ウホホウホホ《なんか、お礼をしたいんだけど》」
「ウホ?《お礼?》」
「ウホ《うん》」
そこで薫は大きく息を吸い込んだ。
「ウホウホホ《セッ○スしようか?》」
「ウホウホホ《お断りですわ》」
~END~
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