あの日見た空の色も青かった

木立 花音

文字の大きさ
上 下
29 / 30
終章:あの日見た空の色も青かった

あの日見た空の色も青かった

しおりを挟む
現在僕は、ロイ兄さんたちが剣術の練習場を、お茶を啜り、ふかふかの椅子に腰掛けながら眺めている。
確かに遠くても良いと言ったが、流石に少し遠すぎるんじゃ無いだろうか。

「ねぇ、僕もう少し近くで見たいな、ここからじゃロイ兄さん、よく見えないよ……?」

そう言うと、隣に座っていたローレンツ兄さんが即座に眉をひそめた。

「……ダメだ。もしノエルの身に何かあったらどうするんだ?」

この距離を譲らないことは変わりないらしい。僕は口を尖らせたが、すぐに別の提案を思いつく。

「じゃあね、ロイ兄さんのかっこいいところ見せて!そしたらここでちゃんと座ってる!」

ローレンツ兄さんは少し呆れた顔をしたものの、僕の提案を飲む代わりに軽く頭を撫でた。

「それぐらい容易いよ。」

そう言うと、僕の額にキスを落とし、ぎゅっと抱きしめてから軽く回転しつつ立ち上がる。そして練習場へ向かって歩き出した。

「……おぇえ……マジでなんで俺はロイのこんな所見なきゃなんないの……甘すぎて砂糖吐けそう。」

ジラルデさんが腹を押さえながら大袈裟に身をよじると、ローレンツ兄さんがその後頭部を軽く小突いた。

「いって!なにすんだよ!」

「うるさい。さっさと練習に行け。」

「はいはい。」

そう返事をし、手をひらひらと振りながら、ジラルデとローレンツは練習場へと向かって行った。

そんなわけで、僕は椅子に深く座り直し、お茶を飲みながらロイ兄さんたちの練習を眺めている。さっきから何度もロイ兄さんと目が合っている気がするけど……気のせいだよね?だってこの距離だもん。

あ、ロイ兄さんが誰かに頭を叩かれた。

なんだか、いつもと違うロイ兄さんの姿が見られてちょっと嬉しくて、思わず笑ってしまった。

でも、剣を握ると急に真剣な顔になる。やっぱり兄さんたちはすごくかっこいい。僕もいつかはロイ兄さんみたいに筋肉をつけて、剣を扱えるようになるのかな?

そんなことを考えていると、不意に左から聞き慣れない声がした。

「見慣れないお客さんだね。良ければ名前を教えてくれるかな?」

振り向くと、そこには柔らかい笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。年はルー兄さんやロイ兄さんとそう変わらないか、少し下くらいだろうか?

「えっと、僕はノ……」

名乗ろうとした瞬間、練習場から大きな声が響いた。

「おいハンス!お前、何度言ったら遅刻せずに来れるんだよ。そろそろ本気で退学の相談に行くか?」

声の主はローレンツ兄さんだった。彼に怒鳴られると、ハンスと呼ばれた少年は、僕に向けていた視線を外し、苦笑いしながらそちらに向かって歩き始めた。

「ごめんなさーい。どうしても行かないでってアンネが……」

「アンネ?先週はロゼだかローズだか言ってなかったか、この野郎……」

「その子たちとはもう終わったよ。」

「……やってられない。」

ローレンツ兄さんは呆れたように額を押さえた。ローレンツ兄さんは僕に目を向けると、先程青年に向けたのとは打って変わって明るい声で言った。

「ノエル、向こうでこいつ以外と昼食を取ろう。今日はサンドイッチがあるよ。」

「サンドイッチ!僕、大好きだよ!」

「へぇ……ノエルって言うのか……」

ハンスさんがまた話しかけようとしたところで、ローレンツ兄さんが「黙れ。」と鋭く遮った。

僕はなんとなく「えっと……ハンスさん?一緒にお昼ご飯、食べないの?」とロイ兄さんに尋ねた。

「ノエルくん、誘ってくれるの?ありがとう。」

そう言って、ハンスさんがノエルの手の甲に軽くキスを落とした。その瞬間、ローレンツ兄さんの顔が一気に険しくなった。

「……お前、後で腕立て、腹筋、500回ずつ、ランニングな。」

「職権乱用ですよ!?マジ勘弁してください!」

ハンスさんは苦笑いしながら反論していたけど、ローレンツは取り合わない。その代わり、呆れ顔のまま僕を片腕でひょいと抱き上げると、昼食が用意された場所へ向かって歩き出した。
「あの…ロイ兄さん、ハンスさんはいいの……?」

「ノエルは優しいな。でも、あんなのは放っておいて問題ないよ。」

ローレンツ兄さんの声はいつも通り冷静だったけど、どこか釘を刺すような響きがあった。僕は項垂れるハンスさんのほうをロイ兄さんの肩越しに見つめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...