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序章

【僕の話】

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 朝、目が覚めるたび、同じ事を考える。僕が生まれてきたことに、意味なんてあるんだろうかと。
 もし僕が、望まれて生を受けた子どもじゃなかったとしたら、この先、なにを目標に生きていけばよいのか。
 僕の成長を、母親はどんな気持ちで見守っているんだろうか、とさえ。
 くだらない妄想。
 もしくは被害妄想。 
 そんなことは分かりきっているのに、不器用な僕は、上手く自分の気持ちを消化できない。
 一日の輪郭線ははっきりとしないまま、こうして今日も、代わり映えのない毎日が過ぎ去っていく。非生産的な日々は『過去』と名称を変え、記憶の片隅に積み重なっていく。
 いつからこんな風に考えるようになったのか。
 きっかけは、僕が小学校四年生のとき、母親から見せられたスクラップ帳の中身にある。
 それは、十一年前に起きた事件の詳細と、犯人らの写真と名前が載せられた、手のひらに収まるほどの記事だった。



 宮崎県みやざきけん日南市にちなんしに住む当時二十四歳の女性を、二十代後半の見知らぬ男らが代わる代わる乱暴したという痛ましい事件。殴るなどして被害者を脅し、暴行を加えた後に車で連れまわし、金品まで奪った上で路上に放置したというおぞましい内容がそこには綴られていた。



「ほら、しょう。今日から学校でしょ? 早く支度しないと遅刻するわよ」

 ベッドから這い出してぼんやりとしていると、部屋の外から母さんの声が響いてきた。怒ったような口調だけど、声のトーンは穏やかだ。「はあい」と返事をしながら、今日も母さんが元気そうで良かったと思う。

 この事件の被害者が、僕の母親。そして、事件が原因で妊娠し、生まれたのが僕なんだ。
 事件のことを知った日から、僕はとある病を発症した。なにかがおかしい、と感じ始めると、症状は強くなる一方となりいまに至る。
 犯人たちの罪は確定した。
 法の裁きも受けた。
 だが、僕の病の遠因を作り、母さんの心に一生消えない傷を残した奴らは、今もまだのうのうと生きながらえているんだ。
 だから僕は忘れない。
 痛ましい事件の詳細も、犯人の名前も。
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