ヒロイン(=俺)、王子との初夜を全力で回避します!

青杜六九

文字の大きさ
上 下
2 / 10
プロローグ

願いが届いて

しおりを挟む
 イオリが思った以上に機織りという仕事に造詣があると知ったグラバーは熱心に工場見学をさせてくれた。

 初期の機織り機が見たい。

 イオリの願いを叶える為に機織り達の小屋を出て、敷地の奥に向かう事になった。

 案内された広場では年老いたエルフの男女が若い職人に手解きをしているところだった。

「カロス、ダイダ、お邪魔しますよ。」

 気兼ねなく入っていくグラバーに2人の老エルフは何事かと顔を上げた。

「こちらのイオリ様は、ハニエル様とフェンバイン様もお認めになられた、大切なお客様です。
 是非、イオリ様に初期の織り機を見せて頂きたいのです。」

 2人は人族のイオリの周りにエルフのナギと獣人のラックとコーラルが纏わりついているのを見て、微笑んだ。

 「イオリ様、こちらは長年、職人を勤め上げられた御2人です。
 今は、若い職人を育てる事に尽力してくださっているんですよ。」

 突然やってきた人族の若者にも2人は挨拶をすると手招きしてくれた。

「皆が騒いでた人族だね。
 若い人。
 機織りに興味があるのかい?」

 グラバーを引き連れて近くの小屋に入っていったダイダを見送るとカロスは嬉しそうにイオリに椅子をすすめた。

「子供の頃、祖母が使っていました。」

「おや、それじゃ祖師様と故郷が同じなのかい?」

「祖師様?」

 カロスは楽しそうに頷いた。

「機織り機をルーシュピケにもたらした、かつての恩人の事さ。」

「もしかして、その方は十蔵という名ではないですか?」

「ふむ・・・。
 確かに、そんな名の響きだった気がするが・・・よく考えれば、ずっと祖師様としか呼んだ事がなかったな。
 そうだ、獣人のとこに医者がいるんだが、その夫が詳しいぞ。」

「キキ医師の旦那さんのグリーズさん?」

 確かに、歴史学者とキキ医師が言っていたのをイオリは思い出した。

「そう、その男だ。
 学者というらしい。
 もし、直接の話を聞きたければハニエルの爺様だな。
 あの人はワシらよりも500年は年寄りだからね。
 歴史の生き字引だよ。」

 国の成り立ちから知っているハニエル老が十蔵を直接知っている可能性があると聞いて、イオリは胸を高鳴らせた。

「お前さんも祖師様の事を知っていなさるのか?」

 カロスの問いかけにイオリは、どう答えればいいのか迷った。

「俺、アースガイルから来たんですよ。
 十蔵さんはアースガイルを建国した初代アースガイル王であるマテオ様の親友なんです。
 それで、折に触れて聞く名前なんですよ。」

「ほう、なんと なんとな。
 それは初めて聞いたな。
 学者の男が喜びそうな話だ。」

 「カカカっ」と笑うカロスの後ろからダイダが戻ってきた。

「人の子。
 これが、初期の織り機だよ。
 祖師様が己の手で作られた希少な物だから、大切に扱っておくれ。」

 ダイダが差し出すソレは、イオリが知っている機織り機よりも小さく抱えられる程しかない。
 しかし、それ以上に重く感じるのは時を重ねてきた先人の置き土産だったからかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ
恋愛
伯爵令嬢リコリスは嫌われていると知りながら婚約者であるルシウスに常日頃からしつこく付き纏っていた。 ある日我慢の限界が来たルシウスに突き飛ばされリコリスは後頭部を強打する。 その結果自分の前世が20代後半喪女の乙女ゲーマーだったことと、 この世界が女性向け恋愛ゲーム『花ざかりスクールライフ』に酷似していることに気づく。 顔がほぼ見えない長い髪、血走った赤い目と青紫の唇で婚約者に執着する黒衣の悪役令嬢。 前世の記憶が戻ったことで自らのストーカー行為を反省した彼女は婚約解消と不気味過ぎる外見のイメージチェンジを決心するが……?

乙ゲーの主人公になって喜んでたら、ヤンデレ、メンヘラ、サイコパスに囲まれた病みゲーでバッドエンディングの予感しかしませんっっ!!

奏音 美都
恋愛
交通事故に遭って転生した先が乙女ゲーム、しかも自分がその主人公だと知って喜んでたわけだけど……なにやらおかしいことに気付いてしまった。 ヤンデレの弟、メンヘラな幼馴染、サイコパスな転入生……攻略キャラが病みすぎる。 こんな乙ゲー、ハピエンになるはずがねー!

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

処理中です...