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乙女ゲーム以前
贈り物 ―side C―
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「……物語の世界……」
前世の世界で、僕達が出てくる物語があると、エレナが話してくれた。
預言書のようなものかと聞いたら、そうではないらしい。
物語には数多くの分岐があり、選択によって全く別の結末を迎えるものだという。物語の主人公はある伯爵令嬢で、彼女と恋人を取り合う令嬢には皆、悲惨な未来が待っている。
「私の頭がおかしいと思うなら、信じなくてもいいわ」
「いや、信じる!信じるよ!」
エレナの話は俄かには信じがたく、僕は自分の中でうまく消化しきれなかった。
「僕には、運命の相手がいるのか……」
「そうよ。誰と婚約していようが、あなたもセレドニオ王太子殿下も、その他三名も、間違いなくある女子生徒に恋をするの。……彼女が入学するのは、あなたが三年生の時ね」
僕の恋の相手は、ピンクゴールドの髪の伯爵令嬢で、伯爵の愛人の子らしい。市井で育ち、高等部へ入学する前に伯爵家に引き取られるとか。名前ははっきりしない。
「間違いなくって、人の気持ちは簡単に動くものではないよ。……僕は、君が好きだ」
「だから、それはまやかし。一時の気の迷いなの」
「まやかし……いや、違うよ」
「違わないの。あなたはその伯爵令嬢に恋をするのよ。婚約者がいても関係なく、ね」
僕がその令嬢に恋をしたら、婚約者のエレナはどうなるのだろう。
「君は……どうなるの?」
「話には出て来なかったわ。多分、婚約破棄されたのだと思うわ。王太子殿下が彼女を選ぶとき、婚約者のビビアナ様は婚約破棄されて断罪されるもの」
「断罪って……?」
恐ろしい。ビビアナは悪いことなんかしていないのに。
「伯爵令嬢がいじめを受けるのよ。その首謀者としてビビアナ様が吊し上げられる。物語では公爵様の悪事も明らかになって……」
「父上は清廉潔白な方だ!」
「いきなり声を大きくしないで。うるさいわ」
「……ごめん」
何をしているんだろう、僕は。
「本人の知らないところで、取り巻きが何かやらかす可能性もあるの。ヒロイン……伯爵令嬢があなたを選んだら、公爵家は安泰、ビビアナ様が断罪されることもないわ」
父上の取り巻きの顔を思い浮かべる。王家に次ぐ権力を持つだけに、有象無象が父上に取り入ろうとしている。父上はまるで相手にしていなくても、関係があると言われてしまえばそれまでだ。いや、それより、僕を選ぶって何だろう?その令嬢が完璧なセレドニオ王太子殿下より僕を選ぶ?あり得ない。
「王太子殿下がライバルじゃ、勝ち目がないよ」
王太子殿下が選ばれれば、ビビアナや父上母上が酷い目に遭う。僕が犠牲になって、家族を救えるならそれもいいのか?でも、僕は……。
「家のため、妹のためといっても、好きでもない令嬢に言い寄るなんてできない。どうしたら……ああ、そうか」
エレナが言う物語が、最初から起こらないようにすればいいんだ。
提案がある、と言った彼女は、緊張で心なしか青ざめていた。
僕もつられて身体が震える。心の準備ができていない。何を言われるんだろう。
「あなたが言った通り、あなたは外国に行って、婚約を自然消滅に持ち込むようにしてほしいの。誰から見ても『仕方がない』と思われるような方法で。格下の我が家からは断れないし、公爵家から婚約解消されたとなれば、私に問題があるように思われるでしょう?」
エレナには何も問題はない。問題があるのは僕だ。でも、伯爵家から婚約解消に持ち込むのは難しい。僕の問題が、女性関係が奔放だとか、金銭トラブルを抱えているだとか、暴力的で手に負えないとか、傍目に分かるものでなければ。
「……う、うん……」
「高等部三年の時には、どこか他の国にいてほしいのよ。あなたがヒロイ……物語の主人公になる令嬢に会ったら、必ず恋に落ちてしまうから」
「必ずだなんて……」
どうして言い切れるのだろう?
人の気持ちなんて、明日はどうなるかわからないじゃないか。
「必ず、よ。令嬢があなたを好きじゃなくても、あなたは彼女を好きになるの」
君が、彼女を好きになれと命じても、僕には……。
「……っ、僕が好きなのは、君だよ!エレナ」
好きだと何度言っても、エレナには届かないのかもしれない。
僕達の間には、深い深い溝があるに違いない。どんなに頑張っても埋められない溝が。
「気の迷いだって言っているでしょう?あなたは彼女を好きになるのよ。私のことなんか思い出しもしなくなるの!」
スカートがばさりと音を立て、カップの中の紅茶が微かに揺れた。
立ち上がって僕を見るエレナは、顔を紅潮させて怒っているようだった。
「約束して頂戴。本当に私を好きだとか言うなら、外国に行って戻って来ないで。とーくーに、高等部三年の時はイノセンシアにいないでよ!いい?分かった?」
これ以上嫌われたくない。
従うしかない。
僕に残された道は、贖罪のために彼女の言いつけを守ることだ。
◆◆◆
それからしばらく。
シルヴェーヌ王女殿下に気に入られたエレナは、殿下の友人として王宮に出入りしていたが、一か月と経たないうちにイノセンシアに戻った。
僕は彼女と約束した通り、なるべく留学期間を延ばそうと画策したが、エヴラールが騎士団へ正式入隊するために一年以内には国へ帰ると言い出した。
「事情があるなら、帰ればいいだろう?」
腕組みをしたまま聞いていたフィリベールは、あっけらかんと言い放った。エヴラールと僕は、公爵家を訪ねて彼と三人で話をするのが日常になっていた。話をしたり、エヴラールがフィリベールと剣の手合せをしたり、ボードゲームをしたりする。剣ではエヴラールの連戦連勝だけれど、ボードゲームはその逆だ。
「フィリベール、君は寂しいと思わないの?」
「多少寂しくはあるかな。でも、自分に与えられた役割を果たさない人間を、僕は友人として認めたくないからね」
言い方は回りくどいが、彼なりに送り出してやる気持ちはあるようだ。
「昨日の夜もさ、こいつが俺を寝かせてくれなくて」
「……何をしているんだ、君達は。夜更かしは美容と健康によくないと言わなかったか?」
そういうフィリベールはどこから見ても完璧な美しさだ。王女殿下が自分を卑下するのも分かる気がする。
「エヴラールが帰ったら、僕は寂しくてたまらないよ。話し相手がいないと……」
「僕では不満なのか。そうか、分かった」
「フィリベール!違う、あの……」
「こちらの礼儀作法を身につけてもどうにもならないエヴラールはともかく、君は多少見込みがあると思っていたのだけれど」
「へ?」
「彼を追って出国するというのなら、僕は止めないでおこう。中途半端な君のセンスを磨き、美の探究者となるべく育てるつもりだった。実に残念だよ」
「そうかそうか。よくわかんねーけど残念だってよ、クラウディオ」
エヴラールが頷いて僕の頭を撫でた。
「撫でるなって」
「いいじゃねえか。お前は残ってフィリベールにいろいろ教えてもらえよ。俺の国とは隣同士だし、会おうと思えば会えるだろ?カッコよくなって、次に会った時にエレナちゃんをびっくりさせてやれ。な?」
エレナの名前を聞く度、胸が痛くなるのを覚えた。次に会うことなんてあるのだろうか。もしかしたら、あの日が本当に最後かもしれないのに。
◆◆◆
エヴラールが出発して間もなく、僕はメイエ公爵家にお世話になることになった。
当主が国の宰相を務めるという点でも我が家と同じだ。フィリベールは僕と同じ公爵の息子だし、仲良くしておいたほうがいいという父の判断もあった。
僕なんかが王女殿下の眼中に入るわけがないと理解したのか、王女殿下の再三のお誘いもあり、フィリベールは王宮へ僕を連れて行ってくれた。
「久しぶりね、クラウディオ」
「御無沙汰しております。シルヴェーヌ王女殿下」
「お友達が帰ってしまって寂しくしていると聞きましたわ」
「はい。ですが、フィリベールが仲良くしてくれて、感謝しています」
ちらりと彼を見る。当然だというように鼻高々だ。
「フィリベールは友達思いですからね。ふふ」
褒められて嬉しそうだな、フィリベール。いいな、羨ましい。
「今日はあなたに贈り物があってお呼びしたのよ」
「殿下から、僕に!?」
贈り物、という単語に反応したフィリベールに鋭い視線で射抜かれた。怖い。
侍従に目くばせをすると、彼らは一枚の絵を持ってきた。上にかけてある布を外すと、堂々とした黒髪の少年が……僕?
「そう。あなたの絵を描いたの」
「殿下!私以外の絵は描かないと仰ったではありませんか」
フィリベールが目の色を変えた。
「あら、そんな約束をしたかしら?あなた以外はモデルにしないとは言ったけれど」
「同じです!」
「モデルにはしていないわ。見ないで描いたもの」
「余計悪い……」
王女殿下は扇子で口元を隠し、いじけるフィリベールの耳元に何か囁いた。彼の顔色が変わり、赤くなったところを見ると、頬にキスでもしたのかもしれない。
「これはクラウディオへの感謝の気持ちなの。あなたがいなかったら、私はこうしてフィリベールと一緒にいることはできなかったわ。ありがとう、クラウディオ。……それと」
再び目くばせをすると、侍従はもう一枚の絵を運んできた。同じように布を外すと、夕焼け色の髪の可愛らしい少女が座っている。
「こちらは絵のモデルを頼んだの。……あなたからエレナに渡して頂戴ね」
殿下の言わんとすることは分かった。僕にも幸せが訪れると信じてくださっているのだ。
「はい。……必ず」
約束はできません。
ごめんなさい、王女殿下。
目を伏せて礼をすると、僕は心の中で謝った。
前世の世界で、僕達が出てくる物語があると、エレナが話してくれた。
預言書のようなものかと聞いたら、そうではないらしい。
物語には数多くの分岐があり、選択によって全く別の結末を迎えるものだという。物語の主人公はある伯爵令嬢で、彼女と恋人を取り合う令嬢には皆、悲惨な未来が待っている。
「私の頭がおかしいと思うなら、信じなくてもいいわ」
「いや、信じる!信じるよ!」
エレナの話は俄かには信じがたく、僕は自分の中でうまく消化しきれなかった。
「僕には、運命の相手がいるのか……」
「そうよ。誰と婚約していようが、あなたもセレドニオ王太子殿下も、その他三名も、間違いなくある女子生徒に恋をするの。……彼女が入学するのは、あなたが三年生の時ね」
僕の恋の相手は、ピンクゴールドの髪の伯爵令嬢で、伯爵の愛人の子らしい。市井で育ち、高等部へ入学する前に伯爵家に引き取られるとか。名前ははっきりしない。
「間違いなくって、人の気持ちは簡単に動くものではないよ。……僕は、君が好きだ」
「だから、それはまやかし。一時の気の迷いなの」
「まやかし……いや、違うよ」
「違わないの。あなたはその伯爵令嬢に恋をするのよ。婚約者がいても関係なく、ね」
僕がその令嬢に恋をしたら、婚約者のエレナはどうなるのだろう。
「君は……どうなるの?」
「話には出て来なかったわ。多分、婚約破棄されたのだと思うわ。王太子殿下が彼女を選ぶとき、婚約者のビビアナ様は婚約破棄されて断罪されるもの」
「断罪って……?」
恐ろしい。ビビアナは悪いことなんかしていないのに。
「伯爵令嬢がいじめを受けるのよ。その首謀者としてビビアナ様が吊し上げられる。物語では公爵様の悪事も明らかになって……」
「父上は清廉潔白な方だ!」
「いきなり声を大きくしないで。うるさいわ」
「……ごめん」
何をしているんだろう、僕は。
「本人の知らないところで、取り巻きが何かやらかす可能性もあるの。ヒロイン……伯爵令嬢があなたを選んだら、公爵家は安泰、ビビアナ様が断罪されることもないわ」
父上の取り巻きの顔を思い浮かべる。王家に次ぐ権力を持つだけに、有象無象が父上に取り入ろうとしている。父上はまるで相手にしていなくても、関係があると言われてしまえばそれまでだ。いや、それより、僕を選ぶって何だろう?その令嬢が完璧なセレドニオ王太子殿下より僕を選ぶ?あり得ない。
「王太子殿下がライバルじゃ、勝ち目がないよ」
王太子殿下が選ばれれば、ビビアナや父上母上が酷い目に遭う。僕が犠牲になって、家族を救えるならそれもいいのか?でも、僕は……。
「家のため、妹のためといっても、好きでもない令嬢に言い寄るなんてできない。どうしたら……ああ、そうか」
エレナが言う物語が、最初から起こらないようにすればいいんだ。
提案がある、と言った彼女は、緊張で心なしか青ざめていた。
僕もつられて身体が震える。心の準備ができていない。何を言われるんだろう。
「あなたが言った通り、あなたは外国に行って、婚約を自然消滅に持ち込むようにしてほしいの。誰から見ても『仕方がない』と思われるような方法で。格下の我が家からは断れないし、公爵家から婚約解消されたとなれば、私に問題があるように思われるでしょう?」
エレナには何も問題はない。問題があるのは僕だ。でも、伯爵家から婚約解消に持ち込むのは難しい。僕の問題が、女性関係が奔放だとか、金銭トラブルを抱えているだとか、暴力的で手に負えないとか、傍目に分かるものでなければ。
「……う、うん……」
「高等部三年の時には、どこか他の国にいてほしいのよ。あなたがヒロイ……物語の主人公になる令嬢に会ったら、必ず恋に落ちてしまうから」
「必ずだなんて……」
どうして言い切れるのだろう?
人の気持ちなんて、明日はどうなるかわからないじゃないか。
「必ず、よ。令嬢があなたを好きじゃなくても、あなたは彼女を好きになるの」
君が、彼女を好きになれと命じても、僕には……。
「……っ、僕が好きなのは、君だよ!エレナ」
好きだと何度言っても、エレナには届かないのかもしれない。
僕達の間には、深い深い溝があるに違いない。どんなに頑張っても埋められない溝が。
「気の迷いだって言っているでしょう?あなたは彼女を好きになるのよ。私のことなんか思い出しもしなくなるの!」
スカートがばさりと音を立て、カップの中の紅茶が微かに揺れた。
立ち上がって僕を見るエレナは、顔を紅潮させて怒っているようだった。
「約束して頂戴。本当に私を好きだとか言うなら、外国に行って戻って来ないで。とーくーに、高等部三年の時はイノセンシアにいないでよ!いい?分かった?」
これ以上嫌われたくない。
従うしかない。
僕に残された道は、贖罪のために彼女の言いつけを守ることだ。
◆◆◆
それからしばらく。
シルヴェーヌ王女殿下に気に入られたエレナは、殿下の友人として王宮に出入りしていたが、一か月と経たないうちにイノセンシアに戻った。
僕は彼女と約束した通り、なるべく留学期間を延ばそうと画策したが、エヴラールが騎士団へ正式入隊するために一年以内には国へ帰ると言い出した。
「事情があるなら、帰ればいいだろう?」
腕組みをしたまま聞いていたフィリベールは、あっけらかんと言い放った。エヴラールと僕は、公爵家を訪ねて彼と三人で話をするのが日常になっていた。話をしたり、エヴラールがフィリベールと剣の手合せをしたり、ボードゲームをしたりする。剣ではエヴラールの連戦連勝だけれど、ボードゲームはその逆だ。
「フィリベール、君は寂しいと思わないの?」
「多少寂しくはあるかな。でも、自分に与えられた役割を果たさない人間を、僕は友人として認めたくないからね」
言い方は回りくどいが、彼なりに送り出してやる気持ちはあるようだ。
「昨日の夜もさ、こいつが俺を寝かせてくれなくて」
「……何をしているんだ、君達は。夜更かしは美容と健康によくないと言わなかったか?」
そういうフィリベールはどこから見ても完璧な美しさだ。王女殿下が自分を卑下するのも分かる気がする。
「エヴラールが帰ったら、僕は寂しくてたまらないよ。話し相手がいないと……」
「僕では不満なのか。そうか、分かった」
「フィリベール!違う、あの……」
「こちらの礼儀作法を身につけてもどうにもならないエヴラールはともかく、君は多少見込みがあると思っていたのだけれど」
「へ?」
「彼を追って出国するというのなら、僕は止めないでおこう。中途半端な君のセンスを磨き、美の探究者となるべく育てるつもりだった。実に残念だよ」
「そうかそうか。よくわかんねーけど残念だってよ、クラウディオ」
エヴラールが頷いて僕の頭を撫でた。
「撫でるなって」
「いいじゃねえか。お前は残ってフィリベールにいろいろ教えてもらえよ。俺の国とは隣同士だし、会おうと思えば会えるだろ?カッコよくなって、次に会った時にエレナちゃんをびっくりさせてやれ。な?」
エレナの名前を聞く度、胸が痛くなるのを覚えた。次に会うことなんてあるのだろうか。もしかしたら、あの日が本当に最後かもしれないのに。
◆◆◆
エヴラールが出発して間もなく、僕はメイエ公爵家にお世話になることになった。
当主が国の宰相を務めるという点でも我が家と同じだ。フィリベールは僕と同じ公爵の息子だし、仲良くしておいたほうがいいという父の判断もあった。
僕なんかが王女殿下の眼中に入るわけがないと理解したのか、王女殿下の再三のお誘いもあり、フィリベールは王宮へ僕を連れて行ってくれた。
「久しぶりね、クラウディオ」
「御無沙汰しております。シルヴェーヌ王女殿下」
「お友達が帰ってしまって寂しくしていると聞きましたわ」
「はい。ですが、フィリベールが仲良くしてくれて、感謝しています」
ちらりと彼を見る。当然だというように鼻高々だ。
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褒められて嬉しそうだな、フィリベール。いいな、羨ましい。
「今日はあなたに贈り物があってお呼びしたのよ」
「殿下から、僕に!?」
贈り物、という単語に反応したフィリベールに鋭い視線で射抜かれた。怖い。
侍従に目くばせをすると、彼らは一枚の絵を持ってきた。上にかけてある布を外すと、堂々とした黒髪の少年が……僕?
「そう。あなたの絵を描いたの」
「殿下!私以外の絵は描かないと仰ったではありませんか」
フィリベールが目の色を変えた。
「あら、そんな約束をしたかしら?あなた以外はモデルにしないとは言ったけれど」
「同じです!」
「モデルにはしていないわ。見ないで描いたもの」
「余計悪い……」
王女殿下は扇子で口元を隠し、いじけるフィリベールの耳元に何か囁いた。彼の顔色が変わり、赤くなったところを見ると、頬にキスでもしたのかもしれない。
「これはクラウディオへの感謝の気持ちなの。あなたがいなかったら、私はこうしてフィリベールと一緒にいることはできなかったわ。ありがとう、クラウディオ。……それと」
再び目くばせをすると、侍従はもう一枚の絵を運んできた。同じように布を外すと、夕焼け色の髪の可愛らしい少女が座っている。
「こちらは絵のモデルを頼んだの。……あなたからエレナに渡して頂戴ね」
殿下の言わんとすることは分かった。僕にも幸せが訪れると信じてくださっているのだ。
「はい。……必ず」
約束はできません。
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