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学院編 8 期末試験を乗り越えろ
230 悪役令嬢と渡された課題
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ハロルドが使用申請した自習室は、レイモンドがセドリック達と勉強している自習室の隣だった。学院には自習室と呼ばれる部屋が四つあり、少人数の打ち合わせにも使われていた。結局、四姉妹と義兄のハーリオン家五兄妹で勉強会をすることになった。
「よく考えると、この五人で勉強するのって初めてだよね?」
ジュリアが感慨深げに呟いた。
「そうね。家にいた時もジュリアは勉強しないでいなくなってたし、エミリーは起きて来なかったものね」
「それを言わないでよ」
「お兄様に教えてもらうの、新鮮ね。マリナちゃんは慣れてるだろうけど」
こそこそと話す姉妹の隣では、ハロルドがエミリーに数学を教えていた。
「ですから、ここに代入して……」
「意味分かんない……」
「機械的に解けるはずですよ。先ほどの問題を解けたのですから」
「うー」
頭を抱えて銀髪をくしゃくしゃに掻いている。
「エミリーは数学が苦手なの?」
「拒否反応が出る。……『昔』から」
ここで言う『昔』は前世のことかと三人は思った。
「マリナ、アリッサ、今日の宿題は終わったのですか?」
「はい。試験範囲を復習しているところです……ね、アリッサ?」
ノートにペンを走らせるアリッサの手が止まっている。すぐにアメジストの瞳からぽたりと涙が落ちた。
「……まだ泣いてるの?」
ジュリアが呆れたように言う。自身もまだ怒り冷めやらぬという表情だ。
「ジュリアちゃんだって、まだ怒ってるくせに」
拗ねた口調で返すと、アリッサは再びノートに数式を書き始めた。
◆◆◆
女子寮に戻った四人は、それぞれ物思いに耽りながら居間で寛いでいた。
「……これ」
エミリーがローブの内ポケットから腕輪を二つ取り出し、マリナの目の前に突き出した。
「腕輪?」
「そう。マシューに作らせた魔導具。アイリーンの魔法を効かなくするの」
マリナの瞳が輝いた。
「魔法除けなのね!」
「……うん。一つつけてあげる」
腕輪にマリナの手首を通し、無詠唱で指先を触れさせる。
「消えた!?」
「私の魔法が鍵になるの。普段は見えないから、アイリーンにも気づかれないと思う」
「すごいわね!……もう一つは誰の?あ、アリッサかしら?」
「これはマリナに預ける。王太子にはめさせて」
弾んだ声を出していたマリナの表情が固まる。
「……セドリック様に?」
「マリナが何か魔法をかけて、『鍵』にすればいい」
二人の会話を見守っていたジュリアとアリッサが、エミリーの手に四つ腕輪が握られているのを見て黙り込んだ。
「……ジュリアに二つ、アリッサに二つ渡しておく。アレックスとレイモンドに渡して」
「無理」
即座に言い切ったジュリアを、エミリーが苦い顔で見る。
「あいつと話す気ないからね」
「……そう。別にいいけど?アレックスがアイリーンに攻略されてもいいなら勝手にすれば?」
「どーぉしてそういうこというかなあ?」
「ヒロインがアレックスルートに入って、ジュリアが犠牲になれば、皆助かる」
「分かった!渡すからね。……あ、でも私、『鍵』になる魔法なんて使えないよ?」
「お父様の灰皿の煙草の火を消す、あれでもいいの」
◆◆◆
入浴を済ませてネグリジェとパジャマを着ると、四人はアリッサのベッドに集合した。
「それにしても、妙ねえ……」
マリナが腕組みをして目を眇める。
「レイ様、なんでアイリーンと……」
「ほら、アリッサ、泣かない泣かない!」
バシッ。ジュリアがアリッサの背中を叩く。
ずずっ。
鼻をすする音がひっきりなしに聞こえる。
「アレックスはレイモンドに誘われたら断れない。キースもね。殿下までなんで……」
これが、後夜祭の日にハロルドが言っていた、アイリーンの策略に乗る、ということなのか。だとしても不快すぎる。いきなり逆ハーレム状態で勉強会とは。
「四人が一緒に勉強会をするのは不自然ではないでしょう?朝も連れ立って登校しているくらいなんですもの。そこにアイリーンが加わっているのが不思議なのよ」
姉三人の会話を聞きながら、エミリーは黙って魔法書のページをめくっていた。レイモンドはアリッサには話すなと言っていたが、真相を知らないままではまた姉は涙にくれるだろう。どうしたものか。
「……事情があると思う。騒ぐのは事態を悪化させるだけ。様子を見て……」
「アリッサは、腕輪を渡せるの?」
「頑張ってみる……」
毛布を握りしめる手が震えている。
「……私が渡そうか?『鍵』もかけるし」
「ううん。大丈夫。レイ様ときちんとお話したいもん」
「そう……うまくいくといいね」
三人の姉がそれぞれ、王太子とアレックスとレイモンドに腕輪を渡せば、アイリーンの『魅了』魔法にかけられることもない。
――渡せるといいけど。期待できないか。
目を細めて廊下に出る。エミリーは風魔法を発動させる。
二言三言呟くと、伝令魔法が風に乗り、女子寮の窓から外へ出ていった。
「よく考えると、この五人で勉強するのって初めてだよね?」
ジュリアが感慨深げに呟いた。
「そうね。家にいた時もジュリアは勉強しないでいなくなってたし、エミリーは起きて来なかったものね」
「それを言わないでよ」
「お兄様に教えてもらうの、新鮮ね。マリナちゃんは慣れてるだろうけど」
こそこそと話す姉妹の隣では、ハロルドがエミリーに数学を教えていた。
「ですから、ここに代入して……」
「意味分かんない……」
「機械的に解けるはずですよ。先ほどの問題を解けたのですから」
「うー」
頭を抱えて銀髪をくしゃくしゃに掻いている。
「エミリーは数学が苦手なの?」
「拒否反応が出る。……『昔』から」
ここで言う『昔』は前世のことかと三人は思った。
「マリナ、アリッサ、今日の宿題は終わったのですか?」
「はい。試験範囲を復習しているところです……ね、アリッサ?」
ノートにペンを走らせるアリッサの手が止まっている。すぐにアメジストの瞳からぽたりと涙が落ちた。
「……まだ泣いてるの?」
ジュリアが呆れたように言う。自身もまだ怒り冷めやらぬという表情だ。
「ジュリアちゃんだって、まだ怒ってるくせに」
拗ねた口調で返すと、アリッサは再びノートに数式を書き始めた。
◆◆◆
女子寮に戻った四人は、それぞれ物思いに耽りながら居間で寛いでいた。
「……これ」
エミリーがローブの内ポケットから腕輪を二つ取り出し、マリナの目の前に突き出した。
「腕輪?」
「そう。マシューに作らせた魔導具。アイリーンの魔法を効かなくするの」
マリナの瞳が輝いた。
「魔法除けなのね!」
「……うん。一つつけてあげる」
腕輪にマリナの手首を通し、無詠唱で指先を触れさせる。
「消えた!?」
「私の魔法が鍵になるの。普段は見えないから、アイリーンにも気づかれないと思う」
「すごいわね!……もう一つは誰の?あ、アリッサかしら?」
「これはマリナに預ける。王太子にはめさせて」
弾んだ声を出していたマリナの表情が固まる。
「……セドリック様に?」
「マリナが何か魔法をかけて、『鍵』にすればいい」
二人の会話を見守っていたジュリアとアリッサが、エミリーの手に四つ腕輪が握られているのを見て黙り込んだ。
「……ジュリアに二つ、アリッサに二つ渡しておく。アレックスとレイモンドに渡して」
「無理」
即座に言い切ったジュリアを、エミリーが苦い顔で見る。
「あいつと話す気ないからね」
「……そう。別にいいけど?アレックスがアイリーンに攻略されてもいいなら勝手にすれば?」
「どーぉしてそういうこというかなあ?」
「ヒロインがアレックスルートに入って、ジュリアが犠牲になれば、皆助かる」
「分かった!渡すからね。……あ、でも私、『鍵』になる魔法なんて使えないよ?」
「お父様の灰皿の煙草の火を消す、あれでもいいの」
◆◆◆
入浴を済ませてネグリジェとパジャマを着ると、四人はアリッサのベッドに集合した。
「それにしても、妙ねえ……」
マリナが腕組みをして目を眇める。
「レイ様、なんでアイリーンと……」
「ほら、アリッサ、泣かない泣かない!」
バシッ。ジュリアがアリッサの背中を叩く。
ずずっ。
鼻をすする音がひっきりなしに聞こえる。
「アレックスはレイモンドに誘われたら断れない。キースもね。殿下までなんで……」
これが、後夜祭の日にハロルドが言っていた、アイリーンの策略に乗る、ということなのか。だとしても不快すぎる。いきなり逆ハーレム状態で勉強会とは。
「四人が一緒に勉強会をするのは不自然ではないでしょう?朝も連れ立って登校しているくらいなんですもの。そこにアイリーンが加わっているのが不思議なのよ」
姉三人の会話を聞きながら、エミリーは黙って魔法書のページをめくっていた。レイモンドはアリッサには話すなと言っていたが、真相を知らないままではまた姉は涙にくれるだろう。どうしたものか。
「……事情があると思う。騒ぐのは事態を悪化させるだけ。様子を見て……」
「アリッサは、腕輪を渡せるの?」
「頑張ってみる……」
毛布を握りしめる手が震えている。
「……私が渡そうか?『鍵』もかけるし」
「ううん。大丈夫。レイ様ときちんとお話したいもん」
「そう……うまくいくといいね」
三人の姉がそれぞれ、王太子とアレックスとレイモンドに腕輪を渡せば、アイリーンの『魅了』魔法にかけられることもない。
――渡せるといいけど。期待できないか。
目を細めて廊下に出る。エミリーは風魔法を発動させる。
二言三言呟くと、伝令魔法が風に乗り、女子寮の窓から外へ出ていった。
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