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学院編 8 期末試験を乗り越えろ

227 悪役令嬢は浮気現場に遭遇する

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昼休みの終わりに、普通科一年一組の教室に飛び込んできたオレンジ色の影があった。
「ア、アリッサ様ぁー!」
髪を振り乱したフローラである。廊下を大股で走ってきたため、長いスカートの端が捲れあがっているが本人は気にしていないようだ。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもありませんわよ!食堂でっ」
「食堂?」
「アリッサ様、どうして食堂にいらっしゃらなかったんですの!?」
「今日はエミリーちゃんがリリーお手製のサンドイッチを持たされて、食べきれないからって私達に持ってきたの」
「私も一つもらったわ」
マリナが会話に入ってきた。フローラは、マリナの二の腕をがしっと握った。
「えっ」
「マリナ様も、よくお聞きになって」
「私?」
頷いたフローラの緑の瞳は真剣だった。口元はきりりと結んでいる。

「わたくし、見たんですのよ。今日のお昼、食堂の一番いい席に」
「セドリック様がいたのね?」
「王太子殿下、レイモンド様、アレックス、キースの四人が、あの女と一緒に昼食を取っていたんです!」
「あの女……って、アイリーン?」
「ええ。ピンク髪の魔女ですわよ。どうせ無理を言って割り込んだに決まっておりますわ。誰かの弱みを握って脅すくらい朝飯前でしょう?残念ながら、耳を壁に当てても会話は聞き取れませんでしたけれど、傍目には仲良く談笑しているようにも見えましたわ」
――壁に耳……。
マリナは苦笑いをした。フローラのこういう猪突猛進なところはジュリアとよく似ている。
「お二人は何もお聞きになっていらっしゃいませんのね?」
「うん。レイ様、今朝は何も」
「私も聞いていないわ。……アイリーンに魔法をかけられたばかりで、こちらから危険に近づくような真似を、臆病なセドリック様がなさると思えないのよ」
「そうね。王太子様、本当にアイリーンを嫌っていたものね」
「おかしいですわね。となると、いよいよあの女のゴリ押し説が有力ですわ。昼休み以外にもつきまとっているようですし、マリナ様とアリッサ様がアイリーンから王太子殿下とレイモンド様を守ってさしあげなくてはいけませんわね。生徒会活動もお休みなのですって?お会いできる機会が減って何も手を打たなかったら、それこそあの女の思うつぼ、試験が終わる頃には奪われてしまって……」
「分かったわ、フローラちゃん。……ね、マリナちゃん。私、帰りに一緒に帰りましょうって、レイ様をお誘いしたいの。三年生の教室まで付き合ってくれる?マリナちゃんも王太子様を誘って、四人で一緒に帰りましょう?」
「ええ。昼休みのことも、直接お聞きしたいわね」
「それがよろしいですわ。婚約したからといって目を離してはいけないと、私の姉達も申しておりました。『僕が好きなのは君だけだ』などと口ではうまいことを言っても、結局、浮気の機会があれば浮気をするのだと」
フローラが姉仕込みの知識を披露する。恋愛ハウツー本のようだ。
「ありがとう、フローラちゃん」
アリッサは礼を言って、マリナを連れて三年の教室へ向かった。

   ◆◆◆

「レイモンドはまだ戻っていませんよ」
三年一組の教室の前で、ハロルドは義妹達に優しく微笑んだ。
「まだ……?」
「伝言があるなら、私が彼に伝えましょうか」
「いいえ。お返事をもらわないと……私、レイ様と一緒に帰ろうと思ったんです」
「そうでしたか。……マリナは私と勉強会ですから、アリッサは誰か、一緒に帰る方を見つけなければいけませんね」
「え……?」
――話の流れから、勉強会は消えたと思ったのに!
「フローラちゃん、一緒に帰ってくれないかなあ……」
呟いたアリッサの耳元に、マリナの焦った囁き声がする。
「アリッサ、見捨てないでよ」
「ん?」
「四人で帰るって言わなかった?」
「でも……」
二人でこそこそ話していると、ハロルドの青緑の瞳が妖しく輝いた。
「マリナ、四人、とは誰のことです?」
「四人、ほら、私達四人……」
「四姉妹ではありませんよね?先ほど、レイモンドを誘うと聞きましたよ?」
「それは……」
「あなたが今日はまっすぐ寮に帰るのなら、私もご一緒します。よろしいですね?」
疑問形だが有無を言わさぬ雰囲気だった。ハロルドの押しが強くなってきているとマリナは感じていた。
「マリナちゃん、どうするの?」
「お昼のことを確認して、帰りはまた考えるわ。アリッサは帰りにまた三年一組に来るでしょう?」
「次はレイ様いらっしゃるかも……あれ?」
何気なく廊下の向こうを見渡したアリッサは、生徒達の群れの中に水色の髪の婚約者の姿を見た。
「あ、レイ様!……っ!」
手を振るために伸ばしかけた腕が止まる。
レイモンドが優しい瞳を向ける先には、ピンク色のふわふわした髪の少女が腕に絡まるようにして彼を見上げていた。
「嘘……」
アリッサは彼らを見つめたまま、瞬き一つできなかった。
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