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学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
86 悪役令嬢の波乱に満ちた朝のひととき
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四姉妹が綿密な作戦会議をした翌日も、王太子御一行は女子寮の前に現れた。マリナ達が寮の扉から出ると、見物人の人垣が左右に割れ、恒例のリアルモーセ状態になる。
昨日の晩餐会の疲れが全く見えない王太子セドリックは、今朝も満面の笑みで婚約者を出迎えた。イケメンオーラが眩しい。
「おはよう、マリナ。今朝も素敵だね」
「素敵だね」が「美しいね」だったり「可愛いよ」だったりと、毎朝微妙に変わっているのだが、マリナが恥ずかしくなるのは共通だった。
「おはようございます。セドリック様」
一か月も同じことを繰り返していれば、羞恥心も多少の耐性はつくものだ。歯の浮くようなセリフにいちいち恥ずかしがらないで、落ち着いて挨拶を返せるくらいに、マリナは度胸がついた。
「昨日は……大変だったね。君を巻き込んでばかりで、僕はダメな男だ。ごめんね」
元気そうに見えて、セドリックは少しだけ顔色が悪い。それでもマリナを心配し、セドリックは青い目を細めて覗き込んできた。帰りの馬車の中でも、終始マリナを気遣っていた。
――国賓への対応でご自分も忙しいのに。私を気遣ってくださるのだわ。
「いいえ。セドリック様は昨夜、私を守ってくださいましたもの。……侯爵の件も、感謝しております」
「君に手出しはさせないから……晩餐会も辛かったら無理はしないでね。それと、これ」
セドリックは膨らんだ制服のポケットから小箱を取り出した。材質から明らかに宝石が入っていると分かる。
「もらってほしい」
「そんな……昨日も髪飾りをいただいたばかりですのに」
押しつけられるように渡された箱は、新品にしては色がくすんでいる。蓋を開けて、マリナは息を呑んだ。
――これ、王妃様の!
「……見たことがあるみたいだね。母上に頼んで譲っていただいたんだ」
大粒のサファイアのイヤリングは、縁にダイヤモンドが取り巻いている豪奢なものだった。セドリックの十五歳の誕生祝いの席で、王妃が身に付けていた品である。
「私は、まだ……」
「正式に妃ではないから受け取れない?」
「ええ、その……」
これみよがしに王妃のイヤリングをつけて、アイリーンにどんな嫌がらせを受けるか分かったものではない。
「君がそのつもりなら、僕にも考えがあるよ」
不意に耳元で囁かれた。甘い声に身体が震えた。
「考え……」
とは何ですか、と聞いてはいけない気がする。マリナは危機感を覚えて口をつぐんだ。
「明日はマリナが司会をするだろうってレイが言っていたから、ちょうどいいよね?生徒は制服でも、司会者は着飾らないと」
司会者、と聞いてマリナはイヤリングを返したくなった。受け取ったからには身に付けなければいけないだろうが、剣技科三年のグロリアに断られたら、一緒に司会を務めるのはヤンデレ義兄ハロルドなのだ。彼がセドリックの妃候補だと示すイヤリングを見たら、また暴走しかねない。
――受け取っても受け取らなくても、ピンチだわ。
引きつった笑いを浮かべ、マリナは余裕たっぷりに笑っているセドリックを見た。
マリナとセドリックが二人の世界を作っている(ように見える)隣では、不機嫌なレイモンドが、子ウサギのようにびくびくしているアリッサを見つめていた。
「おはよう、アリッサ」
いつも通りの落ち着いた声色に、少しだけ怒気が混じる。
――ひっ。レイ様、怒ってる……。
蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。蛙は気持ち悪いから他の動物にしてほしいわ、などと平常心に戻りたい一心で雑念が頭をよぎる。アリッサは身を竦めた。小動物のように細かく震えている。
「お、おはようございます、レイ様」
「震えているな、どうした?」
――どうしたって、レ、レイ様が……。
何も言えず、ただ唾を飲みこむ。レイモンドの瞳が鈍く輝く。
「覚えがあるのか。……俺が、怒っている理由に」
マリナは王太子といい雰囲気で話をしている最中だ。ジュリアはアレックスと小突き合っている。イチャイチャしているようにしか見えない。エミリーは眠そうでキースが必死に歩かせている。誰も助けてくれない。
「中庭で、マクシミリアンと手を繋いでいたそうだな」
――やっぱり、皆に見られたんだ。
昨夜すれ違った生徒が、レイモンドに話をしたに違いない。
アリッサは下を向いてガタガタと震えた。レイモンドの顔が見られない。
「そんなに、身分違いの男と恋愛がしたいのか」
――え?
「君が好きな恋物語のようだな。親が準男爵でも……あいつは平民だぞ」
二人は図書館で恋愛ものの本を題材に、何度も語り合ったものだった。アリッサが薦めた身分違いの、それもヒロインの方が身分が高い物語は、レイモンドに酷評された。
――何年も前の話をまだ言うの?
アリッサは決心して顔を上げた。
「私が方向音痴だから送っていただいただけです。それに、レイ様が私を送っていくようマクシミリアン先輩に頼んで行かれたのではないのですか」
豹変したマクシミリアンは怖かった。彼の言ったことのどれが真実なのかよく分からないが、自分を寮まで送り届けるようレイモンドに頼まれたと言っていた。レイモンドの刺すような視線が痛い。大きな声は出せなかったが、彼に届くようにはっきりと訊ねた。
「……俺が、あいつに?」
唸るように呟き、レイモンドは黙り込んだ。
「ふっ……そうか。分かった」
アリッサの問いには答えず、肩に流れる銀髪を撫でる。
「イヤリングはどうした?気に入らなかったか」
「いいえ。……大切すぎて、失くしてしまわないか……不安なので、置いてきちゃいました」
マクシミリアンに華美だと言われ、またつけていけば何をされるかわからない。本当の理由はレイモンドには告げられない。アリッサは尤もな理由を述べた。
「失くしたら、また作ってやる。あれは……いや、何でもない。行くぞ」
「寝ないでください、エミリーさん!歩いて、ほら!」
「うーん……」
制服とローブを身に纏ってはいるものの、エミリーの目は半分閉じていた。
「眠い……」
「また魔法書でも読んで、夜更かししたんですか?だから根を詰めるなと……」
「違う。明るくて眠れなかった……」
いつも自分のベッドの周りだけ、闇魔法で真っ暗にして寝ているため、魔法が使えなくなった昨夜は酷かった。カーテンを閉めて外の月明かりは入らなくなったが、アリッサが寝る前に読書をするために魔法灯をつけ、しかも途中で寝てしまい、一晩中つけっぱなしだったのだ。おかげでエミリーは熟睡できず、朝食の時間もぼんやりして食器を落としてしまった。
「何子供みたいなことを言ってるんですか。行きますよ、……あ」
エミリーの手を引いて、重苦しい黒いローブの袖から見えた腕輪に、キースは言葉を失った。
「……これ……」
銀色の飾り気がない腕輪は、六属性の魔力を帯びて虹色のオーラを放っていた。
「……そうよ。これがあるから魔法が使えなくて、寝不足なの」
「腕輪をどなたからいただいたか、聞いてもいいですか」
相手に敬語を使っている以上、キースは送り主を特定しているようだ。気づいているなら言わなくてもいいのではないかとエミリーは思った。
「訊かなくてもいいと思う」
「確かめさせてください」
いやに真剣な瞳がこちらを見ている。
「マ……コーノック先生よ」
つい、マシューが、と言ってしまいそうになった。慌てて名字で言い直したが、キースは耳ざとく聞いてしまった。
「そうですか……。先生と名前で呼び合うほど、親密なのですね」
「親密?いや、うん……」
キスもしてしまったし、親密でないと言えば嘘になる。エミリーはバツが悪そうな顔をして目を逸らした。
「見損ないました。エミリーさん。僕はあなたをライバルだと思っていたのに」
キースは怒りに震えていた。明るい声が刺々しく、少し上ずっているように思えた。
「は?」
「あなたは教師に媚を売るような人ではないと思っていたのに……」
「媚なんか打ってない!」
「特別扱いをされている時点で疑われても仕方がないんですよ?コーノック先生と特別な関係になって、魔法実技の評価を上げてもらおうとしていると」
「評価なんて……」
キースの表情が、エミリーを見下すものに変わる。
「滅多にいない五属性持ちだから、自分は頑張らなくても、コーノック先生に媚びなくても、絶対にいい評価がもらえるとでも?」
実技の時間以外は、魔法理論の時間でさえ爆睡している睡眠学習派のエミリーである。評価は最低だろうと自分では思っている。頑張らなくていいとは思わないが、頑張る気が起きないだけだ。
「思ってない。そんなこと」
少しの間が合って、キースが人差し指をエミリーに向けた。
――人を指さしちゃダメでしょうが!
「決めました!次の試験で僕はあなたを完膚なきまでに叩き潰します!」
声がうるさい。気合が入りすぎていて疲れる。
「潰さなくても……」
「ですから、エミリーさんは先生に媚びを売って評価を上げようとせず、正々堂々と僕に挑んできてください!」
「媚なんか売ってな……」
「僕はあなたをまっとうな生徒に戻したいのです」
「……」
エミリーは言葉が出なかった。どこの熱血青春ドラマなのだろうか。鳥肌が立ってしまう。
「ひょっとして、戦う前に勝負から逃げ出そうとしていますか?」
ギクリ。何故分かったのだろうか。
「あなたの三人のお姉さんは、皆婚約されていますよね」
「そう、だけど……」
「エミリーさんは婚約していないのは何故だと思いますか。五属性持ちのあなたに引け目を感じ、婚約の打診がないと聞きましたが」
自分が暗いから、単に人気がないだけだと思っていたが、実際は違うらしい。家族以外に言われると説得力があると漠然と思った。
「……だから、何?」
「ハーリオン侯爵家には敵いませんが、僕の家も一応伯爵家です。あなたがコーノック先生に取り入ることに夢中になり、僕との勝負を投げ出したら……」
キースの紫色の髪がさらりと風に流れた。
「僕はあなたとの婚約を正式に申し込みます」
驚いたエミリーから少しだけ魔力が放たれたことに反応して、手首の腕輪が煌めき、シャンと魔力が弾ける音がした。
昨日の晩餐会の疲れが全く見えない王太子セドリックは、今朝も満面の笑みで婚約者を出迎えた。イケメンオーラが眩しい。
「おはよう、マリナ。今朝も素敵だね」
「素敵だね」が「美しいね」だったり「可愛いよ」だったりと、毎朝微妙に変わっているのだが、マリナが恥ずかしくなるのは共通だった。
「おはようございます。セドリック様」
一か月も同じことを繰り返していれば、羞恥心も多少の耐性はつくものだ。歯の浮くようなセリフにいちいち恥ずかしがらないで、落ち着いて挨拶を返せるくらいに、マリナは度胸がついた。
「昨日は……大変だったね。君を巻き込んでばかりで、僕はダメな男だ。ごめんね」
元気そうに見えて、セドリックは少しだけ顔色が悪い。それでもマリナを心配し、セドリックは青い目を細めて覗き込んできた。帰りの馬車の中でも、終始マリナを気遣っていた。
――国賓への対応でご自分も忙しいのに。私を気遣ってくださるのだわ。
「いいえ。セドリック様は昨夜、私を守ってくださいましたもの。……侯爵の件も、感謝しております」
「君に手出しはさせないから……晩餐会も辛かったら無理はしないでね。それと、これ」
セドリックは膨らんだ制服のポケットから小箱を取り出した。材質から明らかに宝石が入っていると分かる。
「もらってほしい」
「そんな……昨日も髪飾りをいただいたばかりですのに」
押しつけられるように渡された箱は、新品にしては色がくすんでいる。蓋を開けて、マリナは息を呑んだ。
――これ、王妃様の!
「……見たことがあるみたいだね。母上に頼んで譲っていただいたんだ」
大粒のサファイアのイヤリングは、縁にダイヤモンドが取り巻いている豪奢なものだった。セドリックの十五歳の誕生祝いの席で、王妃が身に付けていた品である。
「私は、まだ……」
「正式に妃ではないから受け取れない?」
「ええ、その……」
これみよがしに王妃のイヤリングをつけて、アイリーンにどんな嫌がらせを受けるか分かったものではない。
「君がそのつもりなら、僕にも考えがあるよ」
不意に耳元で囁かれた。甘い声に身体が震えた。
「考え……」
とは何ですか、と聞いてはいけない気がする。マリナは危機感を覚えて口をつぐんだ。
「明日はマリナが司会をするだろうってレイが言っていたから、ちょうどいいよね?生徒は制服でも、司会者は着飾らないと」
司会者、と聞いてマリナはイヤリングを返したくなった。受け取ったからには身に付けなければいけないだろうが、剣技科三年のグロリアに断られたら、一緒に司会を務めるのはヤンデレ義兄ハロルドなのだ。彼がセドリックの妃候補だと示すイヤリングを見たら、また暴走しかねない。
――受け取っても受け取らなくても、ピンチだわ。
引きつった笑いを浮かべ、マリナは余裕たっぷりに笑っているセドリックを見た。
マリナとセドリックが二人の世界を作っている(ように見える)隣では、不機嫌なレイモンドが、子ウサギのようにびくびくしているアリッサを見つめていた。
「おはよう、アリッサ」
いつも通りの落ち着いた声色に、少しだけ怒気が混じる。
――ひっ。レイ様、怒ってる……。
蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。蛙は気持ち悪いから他の動物にしてほしいわ、などと平常心に戻りたい一心で雑念が頭をよぎる。アリッサは身を竦めた。小動物のように細かく震えている。
「お、おはようございます、レイ様」
「震えているな、どうした?」
――どうしたって、レ、レイ様が……。
何も言えず、ただ唾を飲みこむ。レイモンドの瞳が鈍く輝く。
「覚えがあるのか。……俺が、怒っている理由に」
マリナは王太子といい雰囲気で話をしている最中だ。ジュリアはアレックスと小突き合っている。イチャイチャしているようにしか見えない。エミリーは眠そうでキースが必死に歩かせている。誰も助けてくれない。
「中庭で、マクシミリアンと手を繋いでいたそうだな」
――やっぱり、皆に見られたんだ。
昨夜すれ違った生徒が、レイモンドに話をしたに違いない。
アリッサは下を向いてガタガタと震えた。レイモンドの顔が見られない。
「そんなに、身分違いの男と恋愛がしたいのか」
――え?
「君が好きな恋物語のようだな。親が準男爵でも……あいつは平民だぞ」
二人は図書館で恋愛ものの本を題材に、何度も語り合ったものだった。アリッサが薦めた身分違いの、それもヒロインの方が身分が高い物語は、レイモンドに酷評された。
――何年も前の話をまだ言うの?
アリッサは決心して顔を上げた。
「私が方向音痴だから送っていただいただけです。それに、レイ様が私を送っていくようマクシミリアン先輩に頼んで行かれたのではないのですか」
豹変したマクシミリアンは怖かった。彼の言ったことのどれが真実なのかよく分からないが、自分を寮まで送り届けるようレイモンドに頼まれたと言っていた。レイモンドの刺すような視線が痛い。大きな声は出せなかったが、彼に届くようにはっきりと訊ねた。
「……俺が、あいつに?」
唸るように呟き、レイモンドは黙り込んだ。
「ふっ……そうか。分かった」
アリッサの問いには答えず、肩に流れる銀髪を撫でる。
「イヤリングはどうした?気に入らなかったか」
「いいえ。……大切すぎて、失くしてしまわないか……不安なので、置いてきちゃいました」
マクシミリアンに華美だと言われ、またつけていけば何をされるかわからない。本当の理由はレイモンドには告げられない。アリッサは尤もな理由を述べた。
「失くしたら、また作ってやる。あれは……いや、何でもない。行くぞ」
「寝ないでください、エミリーさん!歩いて、ほら!」
「うーん……」
制服とローブを身に纏ってはいるものの、エミリーの目は半分閉じていた。
「眠い……」
「また魔法書でも読んで、夜更かししたんですか?だから根を詰めるなと……」
「違う。明るくて眠れなかった……」
いつも自分のベッドの周りだけ、闇魔法で真っ暗にして寝ているため、魔法が使えなくなった昨夜は酷かった。カーテンを閉めて外の月明かりは入らなくなったが、アリッサが寝る前に読書をするために魔法灯をつけ、しかも途中で寝てしまい、一晩中つけっぱなしだったのだ。おかげでエミリーは熟睡できず、朝食の時間もぼんやりして食器を落としてしまった。
「何子供みたいなことを言ってるんですか。行きますよ、……あ」
エミリーの手を引いて、重苦しい黒いローブの袖から見えた腕輪に、キースは言葉を失った。
「……これ……」
銀色の飾り気がない腕輪は、六属性の魔力を帯びて虹色のオーラを放っていた。
「……そうよ。これがあるから魔法が使えなくて、寝不足なの」
「腕輪をどなたからいただいたか、聞いてもいいですか」
相手に敬語を使っている以上、キースは送り主を特定しているようだ。気づいているなら言わなくてもいいのではないかとエミリーは思った。
「訊かなくてもいいと思う」
「確かめさせてください」
いやに真剣な瞳がこちらを見ている。
「マ……コーノック先生よ」
つい、マシューが、と言ってしまいそうになった。慌てて名字で言い直したが、キースは耳ざとく聞いてしまった。
「そうですか……。先生と名前で呼び合うほど、親密なのですね」
「親密?いや、うん……」
キスもしてしまったし、親密でないと言えば嘘になる。エミリーはバツが悪そうな顔をして目を逸らした。
「見損ないました。エミリーさん。僕はあなたをライバルだと思っていたのに」
キースは怒りに震えていた。明るい声が刺々しく、少し上ずっているように思えた。
「は?」
「あなたは教師に媚を売るような人ではないと思っていたのに……」
「媚なんか打ってない!」
「特別扱いをされている時点で疑われても仕方がないんですよ?コーノック先生と特別な関係になって、魔法実技の評価を上げてもらおうとしていると」
「評価なんて……」
キースの表情が、エミリーを見下すものに変わる。
「滅多にいない五属性持ちだから、自分は頑張らなくても、コーノック先生に媚びなくても、絶対にいい評価がもらえるとでも?」
実技の時間以外は、魔法理論の時間でさえ爆睡している睡眠学習派のエミリーである。評価は最低だろうと自分では思っている。頑張らなくていいとは思わないが、頑張る気が起きないだけだ。
「思ってない。そんなこと」
少しの間が合って、キースが人差し指をエミリーに向けた。
――人を指さしちゃダメでしょうが!
「決めました!次の試験で僕はあなたを完膚なきまでに叩き潰します!」
声がうるさい。気合が入りすぎていて疲れる。
「潰さなくても……」
「ですから、エミリーさんは先生に媚びを売って評価を上げようとせず、正々堂々と僕に挑んできてください!」
「媚なんか売ってな……」
「僕はあなたをまっとうな生徒に戻したいのです」
「……」
エミリーは言葉が出なかった。どこの熱血青春ドラマなのだろうか。鳥肌が立ってしまう。
「ひょっとして、戦う前に勝負から逃げ出そうとしていますか?」
ギクリ。何故分かったのだろうか。
「あなたの三人のお姉さんは、皆婚約されていますよね」
「そう、だけど……」
「エミリーさんは婚約していないのは何故だと思いますか。五属性持ちのあなたに引け目を感じ、婚約の打診がないと聞きましたが」
自分が暗いから、単に人気がないだけだと思っていたが、実際は違うらしい。家族以外に言われると説得力があると漠然と思った。
「……だから、何?」
「ハーリオン侯爵家には敵いませんが、僕の家も一応伯爵家です。あなたがコーノック先生に取り入ることに夢中になり、僕との勝負を投げ出したら……」
キースの紫色の髪がさらりと風に流れた。
「僕はあなたとの婚約を正式に申し込みます」
驚いたエミリーから少しだけ魔力が放たれたことに反応して、手首の腕輪が煌めき、シャンと魔力が弾ける音がした。
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