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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!

56 悪役令嬢は生徒指導室に囚われる

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「おい、ジュリア。何かあいつら、目がおかしいぞ」
演台から後ろを振り向き、アレックスがジュリアに囁いた。
「うん。同じことしか言わないし……」
立ち上がった生徒達が、舞台に向かってゆっくりと歩き出した。皆同じ速さで歩きながら、
「ハーリオンに一票を!」
と繰り返している。
座ったままの生徒達が異様な雰囲気にざわめき、講堂は騒然となった。

「マリナちゃん、あれ、怖い……」
舞台の下で見ていた生徒会役員達が事態の収拾に努める。
「皆、席についてくれ!」
壇上に駆け上がったセドリックが、アレックスから演台を奪って呼びかけた。
「ちっ……聞こえていないようだな」
怯えるアリッサの隣でレイモンドが顔を顰める。すぐに講堂内を見回して、黒いローブの男を見つけて駆け出した。
「レイ様?」
「任せろ!」

「ハーリオンに一票を!」
「ハーリオンに一票を!」
口々に叫ぶ生徒を、マシューは苦虫を噛み潰したような表情で見つめる。
「コーノック先生!」
横から呼ばれて振り向くと、レイモンドが珍しく焦りの色を浮かべている。
「生徒達の様子がおかしいな。操られているようだ」
「魔法でしょうか。何とかなりませんか」
「……」
無言で深呼吸をしたマシューは、目を閉じて講堂の天井を見上げた。右手に発生させた紫色の魔法球を両手で増幅させ、中空に向かって放り投げた。天井に届く手前で一気に大きく膨らんだ球体が弾け、紫色の霧が辺りを包んで消えた。

   ◆◆◆

「選挙の中止が決まったよ」
生徒会室に戻ってきたセドリックは、マリナ達にそう告げた後、額にかかった髪を掻き上げて椅子に身を投げ出した。
「書記に立候補したキースの信任投票は認められることになった。会計の投票は行われなかった。今回の混乱を受けて、今期はもう選挙を行わないそうだ」
セドリックに続いて入ってきたレイモンドが続けた。
「会計は私一人になっちゃうんですね」
「そうだな。アリッサには負担がかかると思うが」
「大丈夫です。私、頑張ります!」
宣言したアリッサの頭を撫で、レイモンドは頷いている。
「ジュリアとエミリーは、それぞれ別室で先生方に話を聞かれているよ。アレックスとキースは早々に解放されたみたいだね。じきにこちらに来るんじゃないかな」
「濡れ衣だろうな」
「ええ。舞台の下に集まった生徒達には、何らかの魔法がかかっていたと思いますわ。コーノック先生の魔法で我に返ったところを見ても」
「そう言えば、コーノック先生は大丈夫なのかな。立ちくらみを起こしていたように見えたけど」
セドリックがいた壇上からは、レイモンドに何か言われて魔法を発動させたマシューが、ふらふらして蹲ったのが見えた。講堂にいた全員に魔法をかけたためだろう。
「剣技科の先生に肩を貸されて医務室へ行った。魔力が少し回復すれば問題ない。できれば、魔法について先生に尋ねたいところだ。……マックス、医務室へ行ってコーノック先生の様子を見てきてくれないか。目覚め次第こちらへお運びいただくように」
書類を束ねていたマクシミリアンは、レイモンドを横目で見てから向き直り、
「分かりました。先生がお目覚めになったらお連れすればよろしいのですね」
とにっこり笑った。瞳は全く笑っていない。
「ああ。頼む」

マクシミリアンが生徒会室を出た後、マリナ・アリッサ・セドリック・レイモンドの四人は、混乱の原因について頭を悩ませた。
「話を聞かれても困るでしょうね」
「ジュリアちゃんもエミリーちゃんも、何にも知らないのに……」
舞台の前に集まり始めていた生徒達が、皆ハーリオンに一票をと叫んでいたため、立候補していたジュリアと、ハーリオン家で魔法を得意とするエミリーが半ば連行される形で会議室と生徒指導室に入った。かれこれ二時間になろうとしている。
「ジュリアは魔法が使えないんだよ。先生方も知っているのに、僕がいくら説明しても聞いてもらえなかったんだ」
「選挙に当選するために、ジュリアがエミリーに依頼して、生徒達に暗示をかけたと疑われているんだろう。……エミリーは本当にやっていないのか?」
「当たり前です。……ここだけの話ですが、コーノック先生は魅了の魔法をかけられた男子生徒がいると言っていたそうです」
「魅了の魔法?」
「光魔法の一つで、術者に心酔する効果があるものです。エミリーは光魔法が使えませんから、魅了の魔法をかけられません。先生方が疑っているとすると、混乱の原因が魅了の魔法だと気づいていらっしゃらないのかもしれません」
「同じセリフを言っていたのは何故だ?」
「それは……」
マリナには魔法を詳しく説明できなかった。アリッサも考え込んでしまう。
「エミリーちゃんを助けるには、無実を証明するしかないよね」

   ◆◆◆

エミリーが夢の中から現に戻ると、手には魔力抑制の腕輪がはめられていた。
――何、これ……。
実技の時間に魔力を無駄遣いしたせいで、演説が終わってすぐに寝てしまったのは分かる。
だが、腕輪はどうしたことか。
「気が付いたか、ハーリオン」
ぼんやり開いた瞳には、顔を覗きこむ痩せた男が映る。魔法科の中堅教師ドウェイン先生だ。雪のように真っ白な髪に薄緑色の瞳をした、普段は存在感を見せない男だった。
「……え、私、眠って……」
「舞台袖で寝ていたところをこの部屋まで転移させた」
エミリーが周りを見回すと、本棚にぎっしりと厚みのある本が入っている。入ったことがない部屋だった。
「生徒指導室だ。一年生は滅多に入らない部屋だからな」
向かいの椅子に腰を下ろし、先生はエミリーに視線を向けた。先生が肘掛椅子に座っているのに、椅子の方が立派すぎてどこか浮いている。
「それじゃ、話してもらおうか。どこで隷属の魔法を覚えた?」
「隷属……?」
初めて聞く魔法の名前に動揺したエミリーを見て、ドウェイン先生はくっくっと笑った。
「六属性野郎にでも教わったか?使用が禁止されている禁忌魔法を教えたら、今度こそ牢屋から戻って来られないよな」
細められた瞳に悪意が渦巻くのを感じ、エミリーは胸を押さえて俯いた。
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