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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
27 悪役令嬢はテラス席からの眺めを堪能する
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「どうしたんですか、エミリーさん。さっきから上の空じゃないですか」
大好きな魔法実技の全体練習の時間なのに、覇気がないエミリーを心配して、キースが声をかけた。
「……うん」
「僕で力になれそうなことなら、いくらでも……」
呼ばれた順番に魔法を出して見せる小テストをしている最中で、生徒達は床に座り込んでいる。エミリーは短いスカートの中が見えないよう、今日も黒いローブで脚を覆っていた。すぐ隣に座ったキースは、先にテストを終えており、後は他の生徒の様子を見ているだけだ。
「あのさ」
「はい!」
キースは頼られる予感に心が躍ったらしい。耳とぶんぶん振られる尻尾が見えそうな気がする。
「魅了の魔法って、知ってる?」
魔導士団長の家なら、普通の魔導士では知らない魔法でも習得しているかもしれない。僅かな期待を胸にエミリーは友を見つめた。
「み、魅了ですか?」
「知らない?なら、別にいい」
「いえ!知っています。知っているのですが……その……」
門外不出だとでも言うのだろうか。マシューが言うように精神干渉系の魔法は危険が多い。使用に制約があっても不思議はない。
「エミリーさんは、いつ、気づいたのですか」
「気づく?」
何のことかよく分からない。エミリーは首を傾げた。
「僕が魅了の魔法をかけていると気づくとは、流石あなたですね。実家から本を取り寄せた甲斐がありました」
――キースが魅了の魔法を使っている?誰に?
「王妃様のお茶会で初めてあなたに会って、今まではライバルで友達でしたね」
「そうね」
出会いは最悪だけど。
「王立学院へ入学した時、僕は決心したのです!」
「声、大きい……」
「あなたとの関係を、友達から恋人にしてみせると!」
瞳を輝かせて宣言したキースは、勢いのままに立ち上がり、顔を赤らめてこちらを見ていた。
――目立つのは勘弁してよ!
「僕があなたを魅了したなんて、まだ信じられませんが……」
「何言ってるの、キース!」
――勘違いも甚だしい!
第一、私がキースに惚れてるなんて、人前で言う?これだから魔導士は空気が読めないって言われるのよ!
「照れなくても分かっています。……はあ、嬉しすぎて倒れそうです。これが夢だったら……」
――夢、ね。
エミリーはこめかみをピクピクさせながら、右手に紫色の球体を浮かび上がらせた。
「……ねえ、キース」
「はっ、エミリーさん、それは一体……」
「夢かどうか、確かめさせてあげるわ!」
バシュッ!ドムッ。
「うっ……」
闇魔法の衝撃波を受け、キースはその場に倒れた。
◆◆◆
――昼休みになったら食堂に来い。
レイモンドと約束した通り、アリッサはマリナを伴い、四時間目が終わるとすぐに食堂へ向かった。
「ごめんね、マリナちゃん。つきあわせちゃって……」
「いいのよ」
方向音痴のアリッサが食堂に来るには、どのみち誰かが付き添ってやらなければいけない。レイモンドが一年の教室に迎えに来るか、マリナと一緒に行くかの二択である。食堂へは一階で繋がっている廊下で別棟へ行かなければならないので、上階の教室のレイモンドが一年の教室に寄ってくれてもよさそうなものだ。
「殿下と一緒なの、嫌?」
小さい声でアリッサが訊ねた。心配そうに眉を八の字にしている。
「ううん。嫌ってわけではないの。ただ、昨日のことがね……」
愛情表現が過剰なセドリックに、正直どう返していったらいいか分からない。付き合いも長くなって、悪い人ではないのは重々承知している。彼に恋しているかとなると別問題だ。
「お昼ごはんの間に、何かするとは思えないわ。大丈夫よ、マリナちゃん」
「根拠のない憶測ね……」
マリナは溜息をついた。
「根拠ならあるわ。レイ様も私もいるもの、ちゃんと止めてあげる!」
アリッサが自分の胸を叩いた後、マリナの腕を掴みうんうんと頷いた。
「頼んだわよ」
食堂に入ると、入口近くにレイモンドが立って待っていた。
「遅くなってごめんなさい、レイ様」
「学院長の歴史の時間が長引いて」
「ああ。乗ってくると長くなるからな。……席はあっちに取ってある。行くぞ」
レイモンドはアリッサの肩を抱き寄せた。マリナは後ろからとぼとぼとついていく。
「テラス席ですか?」
「今日は天気がいい。セドリックも庭を眺めて食事がしたいと言うのでな」
テラスへの出入口から足を踏み出した時、マリナは回れ右をして帰りたい衝動に駆られた。
「待っていたよ、マリナ」
輝く王子スマイルで優しく微笑む王太子セドリックと、
「たまには、昼食をご一緒させていただこうかと思いまして」
青緑色の瞳に影を宿し、妖艶に微笑む義兄ハロルドが同じテーブルについて待っていた。
――何でこのメンバーなのよ!さてはレイモンドが……。
キッ、と視線を送ると、レイモンドはマリナなど気にしていない様子で、自分の隣の席にアリッサを腰かけさせている。食堂専属の給仕により円卓に用意された椅子の数は五つ。セドリックの隣にレイモンド、レイモンドの隣にアリッサ。アリッサの隣は先にハロルドが座っていたため、空席は一つだけだ。
「マリナは僕の隣だね。ふふ、嬉しいな」
椅子の背に手をかけてセドリックは言う。
――私は嬉しくない!帰りたい!
「そう言えば、隣同士で食事をするのは初めてですね、マリナ。家ではいつも斜め向かいでしたから」
「……ええ」
言葉が出てこない。給仕が椅子を引き、顔面蒼白のマリナが席に着くと、アリッサがおろおろしてこちらを見ているのに気づいた。
「マリナちゃん……私、席を」
代わろうか?と言い終わらないうちに、セドリックとレイモンドが「ダメだ」「ダメだよ」と口々に言った。
「……はい」
肩を落とししょんぼりして引き下がる。
この後の食事が喉を通らない予感を誤魔化すように、マリナは遠くの景色に目をやった。
大好きな魔法実技の全体練習の時間なのに、覇気がないエミリーを心配して、キースが声をかけた。
「……うん」
「僕で力になれそうなことなら、いくらでも……」
呼ばれた順番に魔法を出して見せる小テストをしている最中で、生徒達は床に座り込んでいる。エミリーは短いスカートの中が見えないよう、今日も黒いローブで脚を覆っていた。すぐ隣に座ったキースは、先にテストを終えており、後は他の生徒の様子を見ているだけだ。
「あのさ」
「はい!」
キースは頼られる予感に心が躍ったらしい。耳とぶんぶん振られる尻尾が見えそうな気がする。
「魅了の魔法って、知ってる?」
魔導士団長の家なら、普通の魔導士では知らない魔法でも習得しているかもしれない。僅かな期待を胸にエミリーは友を見つめた。
「み、魅了ですか?」
「知らない?なら、別にいい」
「いえ!知っています。知っているのですが……その……」
門外不出だとでも言うのだろうか。マシューが言うように精神干渉系の魔法は危険が多い。使用に制約があっても不思議はない。
「エミリーさんは、いつ、気づいたのですか」
「気づく?」
何のことかよく分からない。エミリーは首を傾げた。
「僕が魅了の魔法をかけていると気づくとは、流石あなたですね。実家から本を取り寄せた甲斐がありました」
――キースが魅了の魔法を使っている?誰に?
「王妃様のお茶会で初めてあなたに会って、今まではライバルで友達でしたね」
「そうね」
出会いは最悪だけど。
「王立学院へ入学した時、僕は決心したのです!」
「声、大きい……」
「あなたとの関係を、友達から恋人にしてみせると!」
瞳を輝かせて宣言したキースは、勢いのままに立ち上がり、顔を赤らめてこちらを見ていた。
――目立つのは勘弁してよ!
「僕があなたを魅了したなんて、まだ信じられませんが……」
「何言ってるの、キース!」
――勘違いも甚だしい!
第一、私がキースに惚れてるなんて、人前で言う?これだから魔導士は空気が読めないって言われるのよ!
「照れなくても分かっています。……はあ、嬉しすぎて倒れそうです。これが夢だったら……」
――夢、ね。
エミリーはこめかみをピクピクさせながら、右手に紫色の球体を浮かび上がらせた。
「……ねえ、キース」
「はっ、エミリーさん、それは一体……」
「夢かどうか、確かめさせてあげるわ!」
バシュッ!ドムッ。
「うっ……」
闇魔法の衝撃波を受け、キースはその場に倒れた。
◆◆◆
――昼休みになったら食堂に来い。
レイモンドと約束した通り、アリッサはマリナを伴い、四時間目が終わるとすぐに食堂へ向かった。
「ごめんね、マリナちゃん。つきあわせちゃって……」
「いいのよ」
方向音痴のアリッサが食堂に来るには、どのみち誰かが付き添ってやらなければいけない。レイモンドが一年の教室に迎えに来るか、マリナと一緒に行くかの二択である。食堂へは一階で繋がっている廊下で別棟へ行かなければならないので、上階の教室のレイモンドが一年の教室に寄ってくれてもよさそうなものだ。
「殿下と一緒なの、嫌?」
小さい声でアリッサが訊ねた。心配そうに眉を八の字にしている。
「ううん。嫌ってわけではないの。ただ、昨日のことがね……」
愛情表現が過剰なセドリックに、正直どう返していったらいいか分からない。付き合いも長くなって、悪い人ではないのは重々承知している。彼に恋しているかとなると別問題だ。
「お昼ごはんの間に、何かするとは思えないわ。大丈夫よ、マリナちゃん」
「根拠のない憶測ね……」
マリナは溜息をついた。
「根拠ならあるわ。レイ様も私もいるもの、ちゃんと止めてあげる!」
アリッサが自分の胸を叩いた後、マリナの腕を掴みうんうんと頷いた。
「頼んだわよ」
食堂に入ると、入口近くにレイモンドが立って待っていた。
「遅くなってごめんなさい、レイ様」
「学院長の歴史の時間が長引いて」
「ああ。乗ってくると長くなるからな。……席はあっちに取ってある。行くぞ」
レイモンドはアリッサの肩を抱き寄せた。マリナは後ろからとぼとぼとついていく。
「テラス席ですか?」
「今日は天気がいい。セドリックも庭を眺めて食事がしたいと言うのでな」
テラスへの出入口から足を踏み出した時、マリナは回れ右をして帰りたい衝動に駆られた。
「待っていたよ、マリナ」
輝く王子スマイルで優しく微笑む王太子セドリックと、
「たまには、昼食をご一緒させていただこうかと思いまして」
青緑色の瞳に影を宿し、妖艶に微笑む義兄ハロルドが同じテーブルについて待っていた。
――何でこのメンバーなのよ!さてはレイモンドが……。
キッ、と視線を送ると、レイモンドはマリナなど気にしていない様子で、自分の隣の席にアリッサを腰かけさせている。食堂専属の給仕により円卓に用意された椅子の数は五つ。セドリックの隣にレイモンド、レイモンドの隣にアリッサ。アリッサの隣は先にハロルドが座っていたため、空席は一つだけだ。
「マリナは僕の隣だね。ふふ、嬉しいな」
椅子の背に手をかけてセドリックは言う。
――私は嬉しくない!帰りたい!
「そう言えば、隣同士で食事をするのは初めてですね、マリナ。家ではいつも斜め向かいでしたから」
「……ええ」
言葉が出てこない。給仕が椅子を引き、顔面蒼白のマリナが席に着くと、アリッサがおろおろしてこちらを見ているのに気づいた。
「マリナちゃん……私、席を」
代わろうか?と言い終わらないうちに、セドリックとレイモンドが「ダメだ」「ダメだよ」と口々に言った。
「……はい」
肩を落とししょんぼりして引き下がる。
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