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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
22 悪役令嬢は王太子に釘を刺す
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王太子が入室してから、周囲の生徒達がしきりに彼を見ては何か話している。
「人気だなあ、セドリック様は」
アレックスが感心している。
「今日はやけに噂されてるよね。何だろう?」
「ちょっと聞いてくるよ」
レナードが立ち上がり、近くのテーブルにいた剣技科の生徒に声をかけた。ネクタイの色から二年生のようだ。普通科の生徒と一緒に昼食をとっている。やがて神妙な顔つきで戻ってきた。
「……えらいことになってる」
「殿下に何があった?」
「王太子殿下っていうか、ジュリアちゃんの姉さんだよ」
「マリナが?」
こくん、と頷き、声を潜めてレナードが続けた。
「休み時間に二年の教室を訪ねて、廊下で殿下にキスされたらしい。で、抱き上げられてどこかへ連れて行かれたとさ」
「な……」
アレックスが顔を真っ赤にしている。
――どうなってるの、マリナ!!
「全校、その噂でもちきりだよ」
「多分、殿下が暴走したんだね。マリナが自分から行くわけないし」
「生徒会の用事でもあったんだろうな。にしても、教室に行っただけで、キ、キス……するなんてな、は、はは……」
アレックスは言い淀みながらも不自然に笑っている。
「いくらなんでも滅茶苦茶だわ。ね、ひどいと思わない?」
「あ、うん。そうだな」
「他の人が見ている前で、アレックスだったら、キスする?」
「ぁあ?お、俺が?」
椅子ごと後ろにひっくり返りそうになり、レナードが押し戻す。
「可哀想だからその辺にしときなよ、ジュリアちゃん。見ている分には面白いけど、あんまりアレックスをいじめないでやってよ」
猫目を細めて楽しそうに笑い、何かアレックスの耳元で囁いた。
デザートに差し掛かった頃、ジュリアは「きゃ」という声を聞いた。
「うん?」
見ればピンク色の髪の少女が、テーブルから皿を落としたらしい。
「あーあ、やっちゃったね。割れてないけど、服にはついたかな」
――アイリーン、だよね?また悪目立ちしようとしてる?
入学式でセドリックを指さして叫んだ姿を思い出す。今回はドジっ子アピールなのか。
「そそっかしい奴もいるんだな」
「……ああ、あの子か」
レナードが目を細めた。
「ほら、さっきうちのクラスに来ていた、魔法科の子だよ」
「知り合いなのか?」
「ちょっとね。練習の帰りに声をかけられてさ。可愛い女の子に声をかけられて、俺が無視できると思う?」
ぶんぶん、と二人が首を振る。
「レナードがナンパしたのかと思った」
「剣技科の連中についてどう思うか聞かれたよ。……勿論、ジュリアちゃんやアレックスについてもね」
――げ。何をしゃべったんだろ。
「あんまり、べらべらしゃべんないでくれる?あの子、うちの妹に敵意丸出しだから」
「ごめんごめん。知らなくてさ。次から気をつけるよ」
◆◆◆
放課後の自主練習を終えたジュリアが、アレックスを伴って生徒会室に飛び込んできた。
「マリナ、いる?」
「いないよぉ」
アリッサが紅茶を飲みながら、レイモンドから仕事の説明を受けているところだった。彼の視線は机の上の書類ではなくアリッサに向けられている。口元が緩み、クールなツンデレ副会長はどこへ行ったのか、ツンがなくてデレっぱなしである。
「どこ行ったか知ってる?」
「寮に戻ったよ。殿下が送ってくって」
「分かった。ありがと」
すぐに踵を返す。取り残されたアレックスが後を追おうとしたが、レイモンドに襟首を掴まれた。
「お前は残れ」
「練習が……」
「終わったんだろ」
「うう……」
「色ボケのセドリックが役立たずになったんだぞ。代わりに仕事を片づけるのが臣下の役目だろうが」
「レイモンドさんがやればいいじゃないですか。副会長なんですから」
「ぁあ?」
「ヒッ……」
「俺はアリッサに仕事を教えるので精一杯だ」
説明は多少しているようだが、時間の半分はイチャついているようにしか、アレックスには見えなかった。
「……分かりました」
◆◆◆
ジュリアが寮の前に差し掛かると、向こうからセドリックが歩いてくるのが見えた。
「送っていくのって馬車じゃないんだ……」
学院内で王族のみ馬車の使用が許されている。てっきり馬車で行ったものと思っていたのに、マリナとの時間を満喫するため、ゆっくり歩いて行ったらしい。
――そういうところもなんだかなー。マリナは殿下に騙されてるんじゃない?
「ジュリアじゃないか。寮に戻るのかい?」
少し離れたところから声をかけられる。
「はい。生徒会室に行ったら、マリナが帰ったと聞いたので」
ジュリアは急ぎ距離を詰める。
「体調が悪いと言っていたよ。生徒会の仕事の説明は、あらかたレイモンドから聞いたようだし、寮に戻って休んだ方がいいと思ったんだ」
「はあ……」
体調が悪い?
それって、あの噂のせいじゃないの?
「あの……殿下?」
「ん?」
「昼前に何かあったのですか?剣技科でも噂になっていたのですが」
「キスのこと?」
――ハア!?何をさらっと言ってるんだよ!
ジュリアの顔が引きつった。
「本当に、人前でキスを?」
「……マリナが、二年の教室に来てくれたんだよ」
――何やってんの?マリナ!
丸腰で敵陣に乗り込むようなものじゃないか。確実に仕留められてしまう。
姉は少なくとも自分から王太子に構われようとはしないはずだ。何か理由があってのことだろうが、教室に行っただけでキスされてしまうとは、恐ろしい変態王子だ。
「それだけでキスをするのはどうかと思いますよ」
――レイモンドじゃあるまいし。
生徒会室でデレていた副会長を思い出す。アリッサは何とも思っていないようだったから、あれがいつもの彼なのだろう。
「うん。レイモンドにも言われたよ」
キス魔のレイモンドに注意する資格があるか微妙だけどね。
「マリナは完璧な令嬢になれるように、小さい時から努力してきました。なのに学院に入学して、王太子殿下を誑かす女だと揶揄されるのは可哀想です。殿下の軽率な行動一つで、マリナが今まで積み重ねてきた努力が無駄になるかもしれません。心から姉を想うなら、必要以上の接触は避けていただきたいと思います」
入学して三日、セドリックの構いすぎにはそろそろマリナも疲れてきている。
少しくらい釘を刺したところで効くような王太子ではないだろうが。
「必要以上の……接触……」
セドリックは何か考え込むように呟いた。
「周囲の目もあります」
「分かった。考えておこう」
――この期に及んで考えるだけかよ!
「お願いします、殿下。……マリナを悲しませるようなことはなさらいでください」
ジュリアは深々と頭を下げた。
「人気だなあ、セドリック様は」
アレックスが感心している。
「今日はやけに噂されてるよね。何だろう?」
「ちょっと聞いてくるよ」
レナードが立ち上がり、近くのテーブルにいた剣技科の生徒に声をかけた。ネクタイの色から二年生のようだ。普通科の生徒と一緒に昼食をとっている。やがて神妙な顔つきで戻ってきた。
「……えらいことになってる」
「殿下に何があった?」
「王太子殿下っていうか、ジュリアちゃんの姉さんだよ」
「マリナが?」
こくん、と頷き、声を潜めてレナードが続けた。
「休み時間に二年の教室を訪ねて、廊下で殿下にキスされたらしい。で、抱き上げられてどこかへ連れて行かれたとさ」
「な……」
アレックスが顔を真っ赤にしている。
――どうなってるの、マリナ!!
「全校、その噂でもちきりだよ」
「多分、殿下が暴走したんだね。マリナが自分から行くわけないし」
「生徒会の用事でもあったんだろうな。にしても、教室に行っただけで、キ、キス……するなんてな、は、はは……」
アレックスは言い淀みながらも不自然に笑っている。
「いくらなんでも滅茶苦茶だわ。ね、ひどいと思わない?」
「あ、うん。そうだな」
「他の人が見ている前で、アレックスだったら、キスする?」
「ぁあ?お、俺が?」
椅子ごと後ろにひっくり返りそうになり、レナードが押し戻す。
「可哀想だからその辺にしときなよ、ジュリアちゃん。見ている分には面白いけど、あんまりアレックスをいじめないでやってよ」
猫目を細めて楽しそうに笑い、何かアレックスの耳元で囁いた。
デザートに差し掛かった頃、ジュリアは「きゃ」という声を聞いた。
「うん?」
見ればピンク色の髪の少女が、テーブルから皿を落としたらしい。
「あーあ、やっちゃったね。割れてないけど、服にはついたかな」
――アイリーン、だよね?また悪目立ちしようとしてる?
入学式でセドリックを指さして叫んだ姿を思い出す。今回はドジっ子アピールなのか。
「そそっかしい奴もいるんだな」
「……ああ、あの子か」
レナードが目を細めた。
「ほら、さっきうちのクラスに来ていた、魔法科の子だよ」
「知り合いなのか?」
「ちょっとね。練習の帰りに声をかけられてさ。可愛い女の子に声をかけられて、俺が無視できると思う?」
ぶんぶん、と二人が首を振る。
「レナードがナンパしたのかと思った」
「剣技科の連中についてどう思うか聞かれたよ。……勿論、ジュリアちゃんやアレックスについてもね」
――げ。何をしゃべったんだろ。
「あんまり、べらべらしゃべんないでくれる?あの子、うちの妹に敵意丸出しだから」
「ごめんごめん。知らなくてさ。次から気をつけるよ」
◆◆◆
放課後の自主練習を終えたジュリアが、アレックスを伴って生徒会室に飛び込んできた。
「マリナ、いる?」
「いないよぉ」
アリッサが紅茶を飲みながら、レイモンドから仕事の説明を受けているところだった。彼の視線は机の上の書類ではなくアリッサに向けられている。口元が緩み、クールなツンデレ副会長はどこへ行ったのか、ツンがなくてデレっぱなしである。
「どこ行ったか知ってる?」
「寮に戻ったよ。殿下が送ってくって」
「分かった。ありがと」
すぐに踵を返す。取り残されたアレックスが後を追おうとしたが、レイモンドに襟首を掴まれた。
「お前は残れ」
「練習が……」
「終わったんだろ」
「うう……」
「色ボケのセドリックが役立たずになったんだぞ。代わりに仕事を片づけるのが臣下の役目だろうが」
「レイモンドさんがやればいいじゃないですか。副会長なんですから」
「ぁあ?」
「ヒッ……」
「俺はアリッサに仕事を教えるので精一杯だ」
説明は多少しているようだが、時間の半分はイチャついているようにしか、アレックスには見えなかった。
「……分かりました」
◆◆◆
ジュリアが寮の前に差し掛かると、向こうからセドリックが歩いてくるのが見えた。
「送っていくのって馬車じゃないんだ……」
学院内で王族のみ馬車の使用が許されている。てっきり馬車で行ったものと思っていたのに、マリナとの時間を満喫するため、ゆっくり歩いて行ったらしい。
――そういうところもなんだかなー。マリナは殿下に騙されてるんじゃない?
「ジュリアじゃないか。寮に戻るのかい?」
少し離れたところから声をかけられる。
「はい。生徒会室に行ったら、マリナが帰ったと聞いたので」
ジュリアは急ぎ距離を詰める。
「体調が悪いと言っていたよ。生徒会の仕事の説明は、あらかたレイモンドから聞いたようだし、寮に戻って休んだ方がいいと思ったんだ」
「はあ……」
体調が悪い?
それって、あの噂のせいじゃないの?
「あの……殿下?」
「ん?」
「昼前に何かあったのですか?剣技科でも噂になっていたのですが」
「キスのこと?」
――ハア!?何をさらっと言ってるんだよ!
ジュリアの顔が引きつった。
「本当に、人前でキスを?」
「……マリナが、二年の教室に来てくれたんだよ」
――何やってんの?マリナ!
丸腰で敵陣に乗り込むようなものじゃないか。確実に仕留められてしまう。
姉は少なくとも自分から王太子に構われようとはしないはずだ。何か理由があってのことだろうが、教室に行っただけでキスされてしまうとは、恐ろしい変態王子だ。
「それだけでキスをするのはどうかと思いますよ」
――レイモンドじゃあるまいし。
生徒会室でデレていた副会長を思い出す。アリッサは何とも思っていないようだったから、あれがいつもの彼なのだろう。
「うん。レイモンドにも言われたよ」
キス魔のレイモンドに注意する資格があるか微妙だけどね。
「マリナは完璧な令嬢になれるように、小さい時から努力してきました。なのに学院に入学して、王太子殿下を誑かす女だと揶揄されるのは可哀想です。殿下の軽率な行動一つで、マリナが今まで積み重ねてきた努力が無駄になるかもしれません。心から姉を想うなら、必要以上の接触は避けていただきたいと思います」
入学して三日、セドリックの構いすぎにはそろそろマリナも疲れてきている。
少しくらい釘を刺したところで効くような王太子ではないだろうが。
「必要以上の……接触……」
セドリックは何か考え込むように呟いた。
「周囲の目もあります」
「分かった。考えておこう」
――この期に及んで考えるだけかよ!
「お願いします、殿下。……マリナを悲しませるようなことはなさらいでください」
ジュリアは深々と頭を下げた。
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