122 / 794
ゲーム開始前 6 王妃の茶会
86-2 悪役令嬢は略奪愛を打ち明けられる(裏)
しおりを挟む
「真面目にやってよ、アレックス!」
ジュリアンに叱られた俺は、力なく振った剣を持つ手を掴まれ、はっと我に返った。
「う、……ん、真面目にやる」
真面目にやっているつもりだったけど、ジュリアンから見たらやる気がなく思えたのだろう。
「さっきから何回同じこと言わせんの?練習にならないんだったら、帰る!」
光を弾く美しい銀髪を解き、ジュリアンは帰ろうとした。
「ま、待てよ、ジュリアン!」
この間、ジュリアンに告白されて、俺からも告白した日。
エミリーから風魔法で伝言が届いた。ジュリアンは告白したことを覚えていないらしい。
「ああ、適当な令嬢と結婚するんだろう?」
などと平気で言ってのける。自分で言っておきながら、面白くない顔をしている。
――嫉妬、してくれたのか?
「伯爵令嬢とも、誰とも結婚するつもりはない。俺は生涯独身を貫く。俺の好きな人は……」
――お前だよ、ジュリアン。
そう言いたかったけれど、言えない。
あの時は簡単に言葉にできた。どうかしていたんだ。
「……好きな人とは結婚できないんだ」
どうしても小さい声になってしまう。本当は声を大にして言いたいのに。
――お前が好きなんだ、ジュリアン!
振り向いたジュリアンは、怪訝そうに俺を見た。
「どういうこと?お前、人妻にでも恋してるのか?」
――は?
「そんな相手はやめておけ。他にも出会いはあるからさ」
何を言っているんだ、こいつは!
俺は年上は好みじゃないんだっての。年下も好みじゃなくて、同じ歳で、ちょっとだけ誕生日が後の……。ってか、他の誰かと出会えだと?
「嫌だ。俺はその人が手に入らないなら……」
いつか必ず、魔法薬なんてなくても、お前に告白するんだからな。
「ちょ、ちょっと待て。手に入らないから略奪するとかダメだからな!」
「略奪?……そうか、彼もいずれは結婚して……」
――ジュリアンが、結婚する?
そうだよな。侯爵家の息子が独身だなんて、いくら弟がいるとはいえあり得ないな。
ましてやこの美男子ぶりだ。令嬢が放っておかないだろう。
「うん、ま、他人の恋人をとるのはよくないよ。後味が悪いだろう?」
お前が恋人を作る前ならいいじゃないか。
「分かった。……結婚する前が勝負ってことだな」
父上も、母上が他の男と結婚しそうになって、慌てて周りを固めて、結婚式の準備をして告白したって言っていたな。俺達は結婚式は難しいだろうから……どうしたらいいもんか。
――とりあえず、練習でもするか。
「よし、練習を続けるぞ、ジュリアン!」
「何だよ、いきなりやる気になって」
「無性に練習したい気分なんだ。付き合えよ」
「しょうがないなあ。今度こそ真面目にやれよ?」
呆れ顔のジュリアンに肩を小突かれ、俺は幸せな時間を満喫した。
◆◆◆
「王妃様の、お茶会ですか?」
「そうだ。お前が王太子殿下の側近として、正式に認められる機会だぞ」
父上は腕組みをしてうんうんと頷いた。太い腕を腕組みすると威圧感がすごい。
「殿下がもうすぐ十五歳になられるでしょう?お誕生日にはパーティーが開かれるのよ。その前段としてね」
母上は招待状に目を通しながら、新しい服を作らなければと言っている。
そんなものがあったとは盲点だった。俺は公式な集まりは苦手だ。作法がどうのと言われてもピンとこない。
「今頃他の家にも招待状が届いている頃だろう。王立学院に入学したオードファン公爵家のレイモンドも特別に外出を許され、殿下のお傍につくと聞いた」
「学院を出られるほどの一大事ってことなのよ。男の子達は、殿下の側近に選ばれるかハラハラドキドキでしょうし、女の子は……」
「王太子妃になりたいだろうな」
「お妃選びの場でもあるの」
両親に説明されて、俺は事の重要性を……っていうか、令嬢達がいっぱい来るってことだろう?ジュリアンがそいつらの餌食になってしまう!
「セドリック殿下には、ジュリアンの姉のマリナがいるではないですか。わざわざ令嬢達に集まってもらわなくてもいいのでは?」
「あら、王家は妾がいてもいいのよ?」
「王妃に子ができないこともある。側妃としてでも王宮に上がりたいと思う娘は多い。……マリナは、まあ、弟妹が四人もいるのだから、心配はないと思うが」
「あなた!」
母上が父上の腕をぺしっと叩いた。
「王太子殿下がマリナちゃんを好きでもね、他の女の子を選んでおかなければならないのよ。これは大人の事情なの」
「大人の事情……」
「アレックスは同じ歳くらいの令嬢と会ったことがないからな。緊張しているのか?」
はっはっは、と父上が豪快に笑う。
「ハーリオン家の姉妹しか知らないものねえ。騎士になりたいんだったら、エスコートのしかたでも覚えておかなきゃダメよ?父上みたいに、結婚披露宴でエスコートを失敗するような男にはなってはダメよ」
「父上は失敗したんですね?」
「……うん。しかし、披露宴の失敗は初夜で取り返……いででででで」
母上は父上の腕の毛をむしり取り、にっこりと俺に微笑んだ。
「明日から礼儀作法の先生をお願いして、あなたにレッスンをしてもらうわね。しばらく剣の練習は午後だけになさい。ね?」
有無を言わせぬ迫力に俺は何度も頷き、母上は忙しそうに部屋を出て行った。
ジュリアンに叱られた俺は、力なく振った剣を持つ手を掴まれ、はっと我に返った。
「う、……ん、真面目にやる」
真面目にやっているつもりだったけど、ジュリアンから見たらやる気がなく思えたのだろう。
「さっきから何回同じこと言わせんの?練習にならないんだったら、帰る!」
光を弾く美しい銀髪を解き、ジュリアンは帰ろうとした。
「ま、待てよ、ジュリアン!」
この間、ジュリアンに告白されて、俺からも告白した日。
エミリーから風魔法で伝言が届いた。ジュリアンは告白したことを覚えていないらしい。
「ああ、適当な令嬢と結婚するんだろう?」
などと平気で言ってのける。自分で言っておきながら、面白くない顔をしている。
――嫉妬、してくれたのか?
「伯爵令嬢とも、誰とも結婚するつもりはない。俺は生涯独身を貫く。俺の好きな人は……」
――お前だよ、ジュリアン。
そう言いたかったけれど、言えない。
あの時は簡単に言葉にできた。どうかしていたんだ。
「……好きな人とは結婚できないんだ」
どうしても小さい声になってしまう。本当は声を大にして言いたいのに。
――お前が好きなんだ、ジュリアン!
振り向いたジュリアンは、怪訝そうに俺を見た。
「どういうこと?お前、人妻にでも恋してるのか?」
――は?
「そんな相手はやめておけ。他にも出会いはあるからさ」
何を言っているんだ、こいつは!
俺は年上は好みじゃないんだっての。年下も好みじゃなくて、同じ歳で、ちょっとだけ誕生日が後の……。ってか、他の誰かと出会えだと?
「嫌だ。俺はその人が手に入らないなら……」
いつか必ず、魔法薬なんてなくても、お前に告白するんだからな。
「ちょ、ちょっと待て。手に入らないから略奪するとかダメだからな!」
「略奪?……そうか、彼もいずれは結婚して……」
――ジュリアンが、結婚する?
そうだよな。侯爵家の息子が独身だなんて、いくら弟がいるとはいえあり得ないな。
ましてやこの美男子ぶりだ。令嬢が放っておかないだろう。
「うん、ま、他人の恋人をとるのはよくないよ。後味が悪いだろう?」
お前が恋人を作る前ならいいじゃないか。
「分かった。……結婚する前が勝負ってことだな」
父上も、母上が他の男と結婚しそうになって、慌てて周りを固めて、結婚式の準備をして告白したって言っていたな。俺達は結婚式は難しいだろうから……どうしたらいいもんか。
――とりあえず、練習でもするか。
「よし、練習を続けるぞ、ジュリアン!」
「何だよ、いきなりやる気になって」
「無性に練習したい気分なんだ。付き合えよ」
「しょうがないなあ。今度こそ真面目にやれよ?」
呆れ顔のジュリアンに肩を小突かれ、俺は幸せな時間を満喫した。
◆◆◆
「王妃様の、お茶会ですか?」
「そうだ。お前が王太子殿下の側近として、正式に認められる機会だぞ」
父上は腕組みをしてうんうんと頷いた。太い腕を腕組みすると威圧感がすごい。
「殿下がもうすぐ十五歳になられるでしょう?お誕生日にはパーティーが開かれるのよ。その前段としてね」
母上は招待状に目を通しながら、新しい服を作らなければと言っている。
そんなものがあったとは盲点だった。俺は公式な集まりは苦手だ。作法がどうのと言われてもピンとこない。
「今頃他の家にも招待状が届いている頃だろう。王立学院に入学したオードファン公爵家のレイモンドも特別に外出を許され、殿下のお傍につくと聞いた」
「学院を出られるほどの一大事ってことなのよ。男の子達は、殿下の側近に選ばれるかハラハラドキドキでしょうし、女の子は……」
「王太子妃になりたいだろうな」
「お妃選びの場でもあるの」
両親に説明されて、俺は事の重要性を……っていうか、令嬢達がいっぱい来るってことだろう?ジュリアンがそいつらの餌食になってしまう!
「セドリック殿下には、ジュリアンの姉のマリナがいるではないですか。わざわざ令嬢達に集まってもらわなくてもいいのでは?」
「あら、王家は妾がいてもいいのよ?」
「王妃に子ができないこともある。側妃としてでも王宮に上がりたいと思う娘は多い。……マリナは、まあ、弟妹が四人もいるのだから、心配はないと思うが」
「あなた!」
母上が父上の腕をぺしっと叩いた。
「王太子殿下がマリナちゃんを好きでもね、他の女の子を選んでおかなければならないのよ。これは大人の事情なの」
「大人の事情……」
「アレックスは同じ歳くらいの令嬢と会ったことがないからな。緊張しているのか?」
はっはっは、と父上が豪快に笑う。
「ハーリオン家の姉妹しか知らないものねえ。騎士になりたいんだったら、エスコートのしかたでも覚えておかなきゃダメよ?父上みたいに、結婚披露宴でエスコートを失敗するような男にはなってはダメよ」
「父上は失敗したんですね?」
「……うん。しかし、披露宴の失敗は初夜で取り返……いででででで」
母上は父上の腕の毛をむしり取り、にっこりと俺に微笑んだ。
「明日から礼儀作法の先生をお願いして、あなたにレッスンをしてもらうわね。しばらく剣の練習は午後だけになさい。ね?」
有無を言わせぬ迫力に俺は何度も頷き、母上は忙しそうに部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
751
あなたにおすすめの小説
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる