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ゲーム開始前 6 王妃の茶会

86-2 悪役令嬢は略奪愛を打ち明けられる(裏)

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「真面目にやってよ、アレックス!」
ジュリアンに叱られた俺は、力なく振った剣を持つ手を掴まれ、はっと我に返った。
「う、……ん、真面目にやる」
真面目にやっているつもりだったけど、ジュリアンから見たらやる気がなく思えたのだろう。
「さっきから何回同じこと言わせんの?練習にならないんだったら、帰る!」
光を弾く美しい銀髪を解き、ジュリアンは帰ろうとした。
「ま、待てよ、ジュリアン!」

この間、ジュリアンに告白されて、俺からも告白した日。
エミリーから風魔法で伝言が届いた。ジュリアンは告白したことを覚えていないらしい。
「ああ、適当な令嬢と結婚するんだろう?」
などと平気で言ってのける。自分で言っておきながら、面白くない顔をしている。
――嫉妬、してくれたのか?
「伯爵令嬢とも、誰とも結婚するつもりはない。俺は生涯独身を貫く。俺の好きな人は……」
――お前だよ、ジュリアン。
そう言いたかったけれど、言えない。
あの時は簡単に言葉にできた。どうかしていたんだ。
「……好きな人とは結婚できないんだ」
どうしても小さい声になってしまう。本当は声を大にして言いたいのに。
――お前が好きなんだ、ジュリアン!
振り向いたジュリアンは、怪訝そうに俺を見た。
「どういうこと?お前、人妻にでも恋してるのか?」
――は?
「そんな相手はやめておけ。他にも出会いはあるからさ」
何を言っているんだ、こいつは!
俺は年上は好みじゃないんだっての。年下も好みじゃなくて、同じ歳で、ちょっとだけ誕生日が後の……。ってか、他の誰かと出会えだと?
「嫌だ。俺はその人が手に入らないなら……」
いつか必ず、魔法薬なんてなくても、お前に告白するんだからな。
「ちょ、ちょっと待て。手に入らないから略奪するとかダメだからな!」
「略奪?……そうか、彼もいずれは結婚して……」
――ジュリアンが、結婚する?
そうだよな。侯爵家の息子が独身だなんて、いくら弟がいるとはいえあり得ないな。
ましてやこの美男子ぶりだ。令嬢が放っておかないだろう。
「うん、ま、他人の恋人をとるのはよくないよ。後味が悪いだろう?」
お前が恋人を作る前ならいいじゃないか。
「分かった。……結婚する前が勝負ってことだな」
父上も、母上が他の男と結婚しそうになって、慌てて周りを固めて、結婚式の準備をして告白したって言っていたな。俺達は結婚式は難しいだろうから……どうしたらいいもんか。
――とりあえず、練習でもするか。
「よし、練習を続けるぞ、ジュリアン!」
「何だよ、いきなりやる気になって」
「無性に練習したい気分なんだ。付き合えよ」
「しょうがないなあ。今度こそ真面目にやれよ?」
呆れ顔のジュリアンに肩を小突かれ、俺は幸せな時間を満喫した。

   ◆◆◆

「王妃様の、お茶会ですか?」
「そうだ。お前が王太子殿下の側近として、正式に認められる機会だぞ」
父上は腕組みをしてうんうんと頷いた。太い腕を腕組みすると威圧感がすごい。
「殿下がもうすぐ十五歳になられるでしょう?お誕生日にはパーティーが開かれるのよ。その前段としてね」
母上は招待状に目を通しながら、新しい服を作らなければと言っている。
そんなものがあったとは盲点だった。俺は公式な集まりは苦手だ。作法がどうのと言われてもピンとこない。
「今頃他の家にも招待状が届いている頃だろう。王立学院に入学したオードファン公爵家のレイモンドも特別に外出を許され、殿下のお傍につくと聞いた」
「学院を出られるほどの一大事ってことなのよ。男の子達は、殿下の側近に選ばれるかハラハラドキドキでしょうし、女の子は……」
「王太子妃になりたいだろうな」
「お妃選びの場でもあるの」
両親に説明されて、俺は事の重要性を……っていうか、令嬢達がいっぱい来るってことだろう?ジュリアンがそいつらの餌食になってしまう!
「セドリック殿下には、ジュリアンの姉のマリナがいるではないですか。わざわざ令嬢達に集まってもらわなくてもいいのでは?」
「あら、王家は妾がいてもいいのよ?」
「王妃に子ができないこともある。側妃としてでも王宮に上がりたいと思う娘は多い。……マリナは、まあ、弟妹が四人もいるのだから、心配はないと思うが」
「あなた!」
母上が父上の腕をぺしっと叩いた。
「王太子殿下がマリナちゃんを好きでもね、他の女の子を選んでおかなければならないのよ。これは大人の事情なの」
「大人の事情……」
「アレックスは同じ歳くらいの令嬢と会ったことがないからな。緊張しているのか?」
はっはっは、と父上が豪快に笑う。
「ハーリオン家の姉妹しか知らないものねえ。騎士になりたいんだったら、エスコートのしかたでも覚えておかなきゃダメよ?父上みたいに、結婚披露宴でエスコートを失敗するような男にはなってはダメよ」
「父上は失敗したんですね?」
「……うん。しかし、披露宴の失敗は初夜で取り返……いででででで」
母上は父上の腕の毛をむしり取り、にっこりと俺に微笑んだ。
「明日から礼儀作法の先生をお願いして、あなたにレッスンをしてもらうわね。しばらく剣の練習は午後だけになさい。ね?」
有無を言わせぬ迫力に俺は何度も頷き、母上は忙しそうに部屋を出て行った。
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