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学院編 14

533 悪役令嬢は交代を申し出る

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アスタシフォン王国の評議会は荒れに荒れ、暫時休憩となってリオネルとエミリーは部屋に引き上げた。再開の予定は立っていない。
「信じられないよ。あのセヴランを推す奴がいるなんて!」
部屋に入るなり、リオネルはテーブルを叩いて怒りを露わにした。
「エミリーもそう思うよね?あんなヤク中、さっさと野垂れ死ねばいいのに!」
「リオネル。誰が聞いてるか分かんないから……」
言葉を慎めと言う代わりに、エミリーは部屋に防音の結界を張った。
「あ、ありがとう」
「これで思う存分毒が吐ける。……親しい人しか入れないようにしたから」
「すごーい。やっぱり、魔法って超便利だよね。ルーもそれくらい気を利かせてくれてもいいのに」
「……ところで、あの二人は?」
ルーファスと一緒に行動しているはずのマシューの姿が見えない。
「男同士仲良くしてるんじゃないの?二人とも魔導士だし、意気投合しちゃってさあ?」
「……だといいけど」

   ◆◆◆

「痛い痛い痛い痛い!ちょっと、いきなり引っ張るのやめてくださいよ!」
「……こっちだ」
「こっちって……何を追いかけてるんです?あなたは」
「気づいただろう?評議会で魔法が発動した」
「ああ、あれですか。嫌な感じがしましたね」
「闇魔法の『隷属』だ。人が集まる場所で、あんな危険な魔法を使うなど、術者の倫理観を疑う」
ルーファスを引きずるようにして、マシューは魔法の気配を追って廊下を進む。背が高いマシューの歩幅に合わせるだけでルーファスは精一杯だ。
「歩くの早いです」
「……じゃあ、走れ」
「鬼ですね。エミリー以外には」
「何か言ったか?」
「いいえ!行きましょう。行けばいいんでしょ!」

少し進んだところで、マシューははたと立ち止まった。
「どうかしました?」
「おかしい。……気配が分かれて……いや、元々二つ?」
「魔法を使った人物が脱皮でもしましたかね?」
自分で言っていて気持ち悪くなり、ルーファスは鳥肌が立った二の腕を擦った。
「人物の気配が二つになることはありえない。だとすれば……魔法は魔導具から発したものなのか?」
「確かに、物なら二つに割れることもありますね。でも、割れたら気配は弱まるはず。おかしくないですか?」
「ん……。その通りだ。魔法を察知する能力が高くても、辿れないこともある。魔導具は複数あるのかもしれない」
「俺が議場の傍で感じた限りでは、魔法の発動は一回だけです。使ったのは一つだと思います」
マシューは黙って頷いた。そして、瞳を閉じて集中を始めた。数秒後、眉間に皺を寄せて目を開けた。
「僅かだが、こちらの方が淀んだ気配が薄い。……行ってみるか」
「と、ちょ、いてててて!」
また自分を引きずるようにして、ずんずん歩き出したマシューに、手錠で繋がれたルーファスは成す術もなく従った。

   ◆◆◆

「……ねえ、リオネル」
「ん?」
「さっきの議場……魔法は使えない?嫌な気配がした瞬間に、『無効化』しようとしたんだけれど、詠唱すらできなくて」
「うん。魔法は消されるって聞いてる。やったことないけどね。詠唱を妨害する電波?みたいのが出てるんじゃない?はははは」
リオネルには詳しいメカニズムは分からないと見て、エミリーはそれ以上話を聞くのをやめた。
「嫌な気配って何?」
「隣のボックスの人……王子の母親から、魔法の気配がした」
「はあ?あの人、魔法なんて使えないよ?平民で、魔法の勉強もしてないし」
「確かにしたの。闇魔法の気配が」
「うーん……魔法は使えないはずだよ?」
丸い目を一層丸くしてリオネルが首を傾げる。王子と呼ぶには可愛らしすぎる動作である。
「だったら、何で私を連れて行ったの?用心棒にするには役に立たないわ」
「エミリーも当事者だからだよ!クレムの話も、エミリーのお父様がああなっちゃったのと関係あるし。ハーリオン侯爵夫妻は評議会の場に入れないけど、エミリーはグランディアで、何か要職についているわけでも爵位があるわけでもないじゃん。僕の友達ってだけで。ご両親の代わりに、クレムが断罪されるところを見せたかったの。……まあ、結果はシャンタルに脅されてたってことで、罪は不問になるっぽいね」
「……本当?罪には問われない?」
「判断を下すのは兄上だよ。僕が唯一兄と呼んでるオーリー王太子」
議場で見た王太子の顔を思い出す。大学で会った時とは大違いで、真面目な表情でそこにいた。
「酷い顔色だったわね」
「うん。すごく難しい決断が必要だもんね。第二王子デュドネを追放する……追放されて当然だけど。ソレンヌは兄上とデュドネからまとめて王位継承権を奪いたいみたいだ。自分の息子のセヴランを王にするために」
「だから魔法を使って、あの場にいた貴族を従わせた?」
「そう考えるのが自然だね。魔法を使ったことを問い詰めても、議場では魔法が使えないからやってないって言うだろうね。……困ったなあ」
明るい茶色の髪を掻きむしるようにして、リオネルは肘掛椅子に凭れた。
「あー、やだやだ。王子なんて面倒で仕方ないよ」
「……死亡フラグに一直線の悪役令嬢と代わってあげてもいいけど?」
「遠慮しとく。……ねえ、何か、外が騒がしくない?」
結界を解いて二人がドアから顔を出すと、廊下で黄緑色の上着を着て金色のズボンを穿いた全身宝石まみれの男が騒いでいた。
「……何?」
「旅芸人?」
聞き耳を立てると、『ソレンヌ様に』と言っているように聞こえる。
「ふうーん」
リオネルは廊下に颯爽と飛び出すと、派手な男を取り押さえている兵士ににっこり微笑んだ。
「ねえ、その人、僕がソレンヌ様のところに連れて行ってあげるよ」
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