探偵三兄弟の帝都事件簿

第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件

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　中嶋は微笑を崩さなかった。

「証拠が無いでしょう？」

「お前が自白すれば良いだけさ」

　言ってみたものの、頼り甲斐の無い綱だった。

　中嶋は苦笑して、わざわざ話題を変えてくれた。

「あなたは、あっしを捕まえると言いましたが、逮捕権があるのは警官だけですよ」

「そこなんだよね。正直困ってる」

「もう少し早く来れば良かったですね。さっき人を一人殺したばかりだから、現行犯逮捕出来たのに」

　中嶋の目がギロリと光った。

　今、何と言った……？

　その「一人」とは、まさか沖塩伊太夫の事か？

「彼はこちらの指示通りに動く良い駒でした」

　中嶋が呑気な口調で話す。

「あっしの提案にすぐ乗りましたよ。通諜だという正体がバレそうになって、焦っていたのでしょうね。まぁ、ひとつ手違いがあったのですが……沖塩さんは食事処の少女、いや少年に本気で惚れていました。想いを中々断ち切れないようで、余計な事をしないか心配でした。沖塩さんが凌雲閣へ行く時、あっしは清掃してるフリをしていつも監視してたのです」

「だから、小波津のハンカチが沖塩氏の物だと知れたのか」

　そして、利用する事にしたのだ。

　僕にはもう、鵶の当日の動きが目に浮かぶようになっていた。