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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件
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乗客はまだ三人しかいないのに出発した。彼らも鈴木巡査の声を聞いて、何事だ、と僕らを興味津々に見ている。なるべく目を合わさないように僕は向かいの窓を見た。
窓の外には海が広がっている。暗い青。波が落ち着いたのか、船がいくつか浮かんでいる。
席は木で出来ていて、帝都の鉄道馬車より揺れるものだから、ツルツルした座席の上で乗客達は何度も滑りそうになった。かく言う僕も。
「うわっ。席から落ちるところでした」
「乗り慣れてない田舎者丸出しですね。でも、これはニスの塗りすぎだな」
鈴木巡査の呟きで、浅草十二階のニス臭さを思い出した。
「この馬車こんなにニスが塗られているのに、匂いがしませんね」
「当たり前でしょう。乾いたのだから。そんな事も知らないのですか?」
「……乾いてなければ匂いがするのですね。塗ったばかりなら」
ならば浅草十二階は、ニスが塗られたのは昨日ではないだろうか。
殺人事件の起きる当日にニスが塗られたのは偶然か?
何かが閃きそうだった。だけど輪郭がぼやけた曖昧なものが頭の中に広がるだけだった。
窓の外には海が広がっている。暗い青。波が落ち着いたのか、船がいくつか浮かんでいる。
席は木で出来ていて、帝都の鉄道馬車より揺れるものだから、ツルツルした座席の上で乗客達は何度も滑りそうになった。かく言う僕も。
「うわっ。席から落ちるところでした」
「乗り慣れてない田舎者丸出しですね。でも、これはニスの塗りすぎだな」
鈴木巡査の呟きで、浅草十二階のニス臭さを思い出した。
「この馬車こんなにニスが塗られているのに、匂いがしませんね」
「当たり前でしょう。乾いたのだから。そんな事も知らないのですか?」
「……乾いてなければ匂いがするのですね。塗ったばかりなら」
ならば浅草十二階は、ニスが塗られたのは昨日ではないだろうか。
殺人事件の起きる当日にニスが塗られたのは偶然か?
何かが閃きそうだった。だけど輪郭がぼやけた曖昧なものが頭の中に広がるだけだった。
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