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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件
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しおりを挟む僕は別の角度から攻めてみた。
「六階の商品棚の裏に、血でナカジマと書いたのはあなたですよね」
大串は胸を押さえるどころか、胸元をギュッと掴んだ。
即座に僕は言葉を続ける。
「血文字は言葉通り血で描かれているのだから、血文字が描かれた時間は浅草十二階に死体が置かれた時間です。あなたより先に帰った人物が置いたのなら、あなたが見回りの時に気付くはず」
「わ、わた、私が帰った後に、死体が置かれたのでは?」
それは無い。何故なら、
「浅草十二階の鍵は支配人を除くと、あなたしか持っていません。支配人は昨日、第三者達と谷根千にいた。浅草十二階に死体を置くには、あなたが戸締りをする前に中へ入らなければいけません。小波津が犯人なら、中嶋が気付くはず。中嶋が犯人なら、血文字でナカジマと描いたりしない」
二人に気付かれずに死体を凌雲閣に置けるのは、大串がいた時間帯しかないのだ。
「あなたは沖塩氏を殺した犯人の共犯者ですね。そして罪を擦り付けるために、最後から二番目に帰った者の名前を商品棚に描いた。だけど、知っているのは彼の姓だけ。漢字は分からない。あなたは聴取の時、中嶋の名を知らないとは言ったが、姓を知らないとは言ってません。だからカタカナで、ナカジマとだけ残した。あなたしかいないのです、この行動に矛盾が無いのは」
「な、何の事です? 意味が分かりません。い、言いがかりです! どうして、わ、私が、犯罪に加担しなければいけないのですか。お、沖塩なんて人、知りません。私は無関係です!」
「脅されてやったとか、金で頼まれた可能性があります」
その時、誰かが咳払いをした。左右を見ると、どうやら長兄のようだ。
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